『触覚:人をダメにするクッション』
子ウサギ公園。私はラビット小隊が普段使っているボロボロの座布団や段ボールをすべて撤去し、代わりに超特大サイズの「ヨギボー」を人数分設置した。
「あー……これ、ヤバいね。私、もう一生ここから動かないわ……」
モエは早々にヨギボーの魔力に屈し、だらしない顔で深々と沈み込んでいる。もはや起き上がる気力すら見せない。
「モエ! 気をしっかり持て! 私たちはSRT特殊学園の──あっ、ダメだ、体が……ッ!」
サキは必死に抗おうとヨギボーの上でジタバタしていたが、動けば動くほどビーズクッションが彼女の身体のラインにフィットしていく。
「くっそ……! 反発がない……底なし沼みたいに吸い込まれて……あぁ、でもすごく温かい……。先生、なんてものを持ち込んだんだ……すぅ……」
数分後、そこには完全にヨギボーと同化してスヤスヤ眠るウサギたちの姿があった。
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『視覚:ピッカピカのおでこ』
晴天の昼下がり。私はゲーム開発部から攫っ……借り受けてきたユズの「おでこ」をピッカピカに磨き上げ、太陽光を反射させてラビット小隊のテントの中へ照射した。
「きゃっ!? な、何ですかこの強烈な光は!?」
「うわっ、まぶしッ!? フラッシュバンか!?」
ミヤコとサキが目を覆いながらテントから飛び出してくる。その視線の先には、私に両肩を掴まれ、涙目でプルプルと震えながらおでこを光らせているユズの姿があった。
「先生! やめてください、目が眩みます!」
「っていうか先生! その子絶対関係ないだろ!? 泣いてる!」
「うぅ……帰りたい……おでこ熱い……」
蚊の鳴くような声で涙ぐむユズ。
そのあまりの不憫さに、ラビット小隊の一同は怒りよりも「早く解放してあげて!」という同情の声を上げるのだった。
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『聴覚:飯テロASMR』
各々が銃の手入れや作戦の立案、爆薬の調合など、自らのタスクに集中している夕暮れ時。
私は公園の四方に指向性スピーカーを設置し、『極上霜降り肉が鉄板で焼ける音』『サクサクのフライドチキンを噛み砕く音』のASMRを大音量で流し始めた。
『……ジュゥゥゥゥ……パチッ……サクッ、ジュワァァ……』
「……っ!」
4人のウサギの耳が、ビクッと同時に跳ねる。
最初は無視しようとしていた彼女たちだったが、空きっ腹に響く暴力的な咀嚼音に、次第に手元の作業が完全にストップしてしまった。
「……先生。いくらなんでも、趣味が悪すぎます」
ミヤコがスッと立ち上がり、銃のチャージングハンドルを引いた。サキも無言でヘルメットを被り直す。
「これ以上、私たちの胃袋と精神を弄ぶというなら……実力行使に出ます! 全隊、先生を捕縛します!」
「逃がさないよ先生……その音の元凶、全部爆破してやる……!」
本気で殺気立ったウサギたちに追い回され、私は全力で公園を逃げ回った。
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『嗅覚:どちゃくそバーベキュー』
すっかり日が落ちた公園の中央。私は巨大なグリルを持ち込み、A5ランクの和牛や厚切りのタン、海鮮などを豪快に焼き始めた。
炭火と脂が弾ける圧倒的な暴力の匂いが、公園全体を包み込む。
「じゅるり……」
もはや限界を迎えていたラビット小隊の面々が、グリルの周りにゾンビのように群がってきた。
「せ、先生……あの、私たちにも……その……」
「ひと言、ひと言でいいから『食べろ』って言ってくれ! そしたら私たちは、プライドを捨てて食いつく!!」
ミヤコとサキがよだれを拭いながら懇願し、モエはすでに皿を持ってスタンバイしている。
「あの……私、お肉から落ちた焦げカスでもいいので……少しだけ、分けてもらえませんか……?」
ミユに至ってはゴミ箱から這い出し、両手を合わせて拝み倒していた。
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『味覚:究極のスパイス』
「「「いただきます!!」」」
私の許可が出た瞬間、4人は猛獣のように肉に食らいついた。
しかし、そのお肉には私が事前に『味の素・粉唐辛子・粉わさび』を黄金比でブレンドした「究極のスパイス」がたっぷりとまぶしてあった。
「んんっ! 美味しい……!? ──ッ!?!?」
肉の旨味に感動したのも束の間。
「ブフゥッ!! ゲホッ! ゴホッ!!」
「カハッ……!? 辛っ……!? いや、鼻が、鼻が痛ぁぁぁッ!!」
唐辛子の灼熱と、わさびのツーンと突き抜ける刺激が同時に襲い掛かり、4人は一斉に盛大にむせ返った。
「ゴホッ、ゲホッ! 水! ミヤコ、水!!」
「先生! ゴホッ! わざとですね!? 化学調味料の暴力に、なぜこんな痛覚と刺激を混ぜたんですかぁぁッ!!」
涙と鼻水を垂らしながら地面を転げ回るウサギたち。
せっかくのバーベキューは、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌するのだった。
流石にかわいそうなので、ちゃんと美味しいお肉も分けてあげた。
「ところで先生、最近お金なくなったとか言ってなかったか……?」
「そういやそうじゃん、どっからこんないい食材手に入れたの?」
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終わり
「いやー、協力してくれて助かったよ。さすが美食研究会、給食部の襲撃は慣れてるね」
「構いません、これも先生が持つジョロキアとの交換条件です」
「そんなにこれ欲しかった?」
「なかなか手に入りませんから」
こちらの小説は、連載小説を書く合間に休憩で書いてます。
良ければ私の他作品もよろしくお願いします。
『先生とネトゲでマッチしたミサキが、他人として先生と仲良くなるお話。』
https://syosetu.org/novel/404064/
『仲正イチカは悪い大人についていく』
https://syosetu.org/novel/400538/
『その日、合歓垣フブキは警察に成った』
https://syosetu.org/novel/397980/