サンマブ!   作:セパさん

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0本場:第二の人生

 タンタンタン、と(はい)(ホー)へ捨てられていく音が一定のリズムを奏でて空間を支配している。本来4人目のいる席には牌山押出機が置かれ、無機質に牌を動かした後、静寂を保っていた。場は南2局12巡目。

 

下家(しもちゃ)の打ち筋と河が不気味ね、第一打・第二打と赤⑤(ぴん)を2連打した後、⑦(ぴん)・3(そう)切り、そして5巡目には手牌から發が出てきて、次に①(ぴん)、以降ツモ切り……53000点持ちのトップ目から国士無双?4人麻雀で国士無双の成就率は0,03%、対して3人麻雀では0,24%と8倍近い開きがある。和了(あが)られる可能性は無視できない。そもそもラス目の上家(かみちゃ)でさえ持ち点は18000点、34000点持ち親番のわたしが跳満をツモ上がれば逆転する。3人麻雀では――特に⑤筒子(ぴんず)・5索子(そうず)が全て赤牌のこの店では――例え残り1000点だろうと親番があればいくらでもチャンスはあるし、逆を言えばどんな点差だろうと子に攻められる。)

 

 九九九 ①②②③③④ ⑤⑤ 667  ドラ:②(ぴん)

 

(表示牌のドラ2枚に赤5(ぴん)が2枚。ツモなら満貫。普通なら6(そう)切りで5・8(そう)待ちの聴牌(テンパイ)立直(リーチ)してツモれば最低でも跳満。赤5(そう)引き・一発・裏ドラ次第で倍満にもなる。でも、この店は国士無双の暗槓上がり※1を認めている。九萬を引いた時点で詰みね、なら7(そう)を切ってダマで手替わりを待つ。)

 

 ※1:国士無双(一九①⑨19東南西北白發中 + この13枚のどれかで成立)という役満に限り、聴牌(テンパイ)している際13枚のどれかを暗槓した相手からロン和了できるというルール、店によって異なる。

 

 そして次巡

 

(よし!)

 

 九九九 ①②②③③④⑤⑤ 66 ツモ牌:④(ぴん)

 

立直(リーチ)。」

 

 九九九 ②②③③④④⑤⑤ 66 ①(ぴん)切り立直(リーチ)

 

(待ちは②(ぴん)(そう)、⑤(ぴん)は場に2枚とも切れてるから無し……でももう一枚。)

 

 九九九 ②②③③④④⑤⑤ 66 ツモ牌:九萬

 

「ツモ。立直(リーチ)・一発・自摸(ツモ)・4枚使い七対子(チートイツ)(4翻)※2・ドラ4(②(ぴん)2枚・赤5(ぴん)2枚)……裏ドラはなし(計:11翻)。三倍満で18000オール。チップは3枚※3です。」

 

 ※2 4枚使い七対子(チートイツ):その名の通り最終系が九九 九九 ②②③③④④⑤⑤ 66 となるような七対子(チートイツ)。ネット麻雀の代表格MJや雀魂では採用されていないが、雀荘での採用率はかなり高い。

 

 ※3 チップ:雀荘で採用されている独自ルール、ご祝儀ともいう。赤牌・一発・裏ドラにつく場合が多い。この店では赤牌・一発・裏ドラの他に抜きドラである春夏秋冬の秋がチップの対象牌となっており、一枚300円相当。思わぬ副収入であり思わぬ出費。

 

「いやー!国士無双テンパイだったのに!」

 

「……僕は丁度0点なのでトビのチップを合わせて6枚ですね。※4」

 

 ※4 トビ:ハコワレともいう。自分の持ち点――この店では35000点スタート――0点を下回る事。0点丁度が続行かトビかは店のルールによる。トビになると追加のチップを支払う店が多い。

 

「2卓ゲーム終了です!トップは森井様です。おめでとうございます。」

 

「ラスハンコールをかけていなかったけれどこれで抜けていいかしら?ゲーム代はレジで払うわ。」

 

「畏まりました。おひとり様ご終了です!ただいま卓を繋げますので、少々お待ちください。」

 

(なんとか3万円ちょっとの勝ち、これで合計……先週2万円負けたのが痛いな~、バイト増やさないと携帯代が払えない。)

 

 わたしの思考は独り言となっていたようで、白い息となり消えていった。そして再度深くて大きな白い息が霧散する。どうしようもなくやり場のない胡乱(うろん)な溜息だ。大学時代に麻雀にハマり女流プロ雀士を目指し、いつか雑誌の表紙を飾るような、プロ来店イベントで大勢のファンが押し寄せるような一流の雀士を目指していた。

 

 しかし才能がなかったのか努力が足りなかったのか運が悪かったのか……3つ全てか。プロ団体に所属することは出来たものの下流プロ雀士の生活は悲惨なものだ。トッププロたちが賞金2000~5000万円のリーグ戦を戦う中、下流の名もなき所属プロの大半はアルバイトや雀荘の店員として働きながら、週2回は交通費も賞金も出ない所属しているプロリーグの麻雀を3~4時間打ち、日々精神と財布の中身を摩耗させている。

 

 麻雀はその性質上3割勝てれば上々というゲームだ。猿がタイプライターを打っているが如き素人相手でもない限り常勝など出来やしない。そして麻雀は4人でやるゲームだ、雀荘店員の仕事にはメンツが足りないとき客を相手に麻雀を打つことも含まれる。もちろん麻雀の負け額は給料から天引きされ、週に6日勤務、一日10時間も麻雀を打つ人間が常にベストコレクションでいられるはずもなく、たいていの店員は給料が基本給よりもマイナスで、ひどい人間だと店に借金した挙句ある日突然飛ぶバカだっている。

 

 しかしながら、4人でやる麻雀も人気に陰りが見えて久しい。麻雀人口の減少、そして東南戦の4人麻雀では1半荘最低でも3~40分はかかりゲーム代が600円だとしても客が二人ならば店の儲けは2000円にも満たない構造上の都合。そこで現在雨後の筍が如く台頭しているのが3人麻雀専門店だ。

 

 3人麻雀ならば回転率が高くゲームも早く終わり――トビありならば10~15分だろうか――、抱える店員も少なく済み、何より客が1人でも店員2名で始められる気楽さがある。

 

 そんな3人麻雀店舗乱立の煽りを受けてわたしの勤めていた雀荘は閑古鳥が鳴き閉店、路頭に迷う羽目となったわたしはトッププロの夢を諦め、雀荘店員という収入の不確実な稼業からも足を洗い、病院の清掃員をしながらたまに雀荘に足を運んで日銭を稼いでいる。

 

(とはいえ3人麻雀というのは本当に慣れないわね。跳満・倍満は平気で飛び交うし、客のマナーも悪いし、運の要素が大きすぎる。まぁ店にゲーム代払ってもトータルで勝ってるわたしが言うことでもないか。……わたし、どこで人生を間違えたのだろう。いや、最初から間違いだったのかな。)

 

 正直言えば女流雀士は男性に比べはるかに恵まれている。雀力が劣っていてもメディア出演やタレント活動といった機会が多い。しかしわたしはあくまでも〝雀士〟として名を挙げたかった。そんな頭の固さも失敗の理由かもしれない。

 

(それにしても寒いわね。まだビルの中だっていうのに……。こんなオンボロビルだと暖房も碌についてないのかしら。)

 

 わたしはエレベーターに乗り悪態をつく。扉が閉まったのを確認し1階のボタンを押すのだが……。

 

(え?なに?点灯しない。故障?)

 

 急に9階のボタンがチカチカと点灯し始めた。その様子にわたしは戦慄する。

 

(待って、このビルは8階建てじゃなかった?9階って何?)

 

 ふわり とエレベーターの上昇する独自の感覚に襲われる。エレベーターのランプは雀荘のあった5階から上昇していき、やがて存在しないはずの9階で動きを止める。その瞬間、わたしは眩い光に包まれた。

 

 

「あ、先生!今日は早いんですね。もうすぐ星菜(せいな)と長野先輩も来ます。……それにしてもどうしてそんな厚着なんですか?逆に風邪引きますよ?」

 

 全自動卓で麻雀牌を洗牌(シーパイ)していたのは幼さの抜けない童顔にショートヘアをした女子高生姿の少女だった。それにしても……暑い!まるで真夏じゃない!

 

「ええ、どうかしてたわ。瑠美……さん?」

 

 何故わたしはこの少女の名を知っている?大代瑠美(おおしろ るみ)、まるでその名前と顔を直接脳に装填されたかのような違和感を覚える。部屋はそれほど広くないが麻雀全自動卓が2台置かれていて、当たり前のように全自動牌山押出機が配置されていた。

 

「お!せんせーもう来てたんだ!今日は大会前だし遅くまで練習したいからカップ焼きそば買ってきましたよ!雀卓を囲みながら食べるカップ焼きそばって最高ですよね!」

 

(いや!そんな雀荘あるあるを女子高生が言うな!)

 

 そんなツッコミとは裏腹に、部室?へ入ってきた女子にも心当たりを覚え違和感が累積する。山田星菜(せいな)、金髪のロングに少し日に焼けた肌、豊満な胸が特徴的で活発な子だ。

 

「長野先輩は遅くなるって言ってましたし、3人で始めてますか!」

 

 星菜ちゃんはパイプ椅子にビニール袋を雑において卓に座った。わたしは蓄積しつづける違和感の中、ひとつだけ確かめたいことがあった。

 

「いいえ、折角ですし久々に4人で麻雀を打ちますか。」

 

 そうわたしが口にした瞬間、二人の顔が一瞬で疑問符を内包したものとなる。

 

「4人で麻雀?何言ってんスか、せんせー。」

 

「確か、発祥の地 中国の麻雀は4人でやるのが主流だと聞いたことがありますね。萬子(まんず)が一と九だけじゃなく、二から八まであって、役も日本と全然違ってドラも無いんだとか。」

 

「えー!めんど、東西南北の牌が北東・南東・南西・北西って増えるようなもんじゃん。和了るのにどれだけ時間がかかるんだよ。」

 

 間違いない、この世界には〝四人麻雀という概念〟が存在しない。

 

「先生、先ほどからどうしたのですか?様子がおかしいですよ?」

 

「てかせんせー暑くないの?真冬でもそんな恰好しないよ。」

 

 今更ながら真夏のような暑さに再度気が付いてジャケットとカーディガンを脱ぐ。それでもズボンは冬用なので汗が滴り落ちる。先ほど降りたはずのエスカレーターに振り向くとドアノブ付きの扉が開いており廊下が見えていた。

 

 わたしはどうやら……かなりおかしな世界に来てしまったらしい。 

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