わたしはスマホを見て愕然とした。連絡先には過去麻雀で知り合った人物の名は一人も無く、ブックマークを開けば四人麻雀のプロリーグや雀荘の経歴が痕跡すらなく全て消えていた。通話履歴を遡ってみれば長野というまだ見ぬ部員とは昨日SNSでやりとりをした仲らしい。
「せんせー。そんな隅っこでスマホ眺めてどうしたんスか?折角3人揃ったんだし早く打ちましょうよ。」
「なんだか今日の先生様子が変ですね。大会も目前ですし、疲れているのでしょうか?」
「ええ、疲れているのかもしれません。すみませんがこの学校では3人麻雀のルールはどうなっているのでしょう?」
わたしがそう言って振り返ると瑠美さんと星菜ちゃんが心底残念な人を見るような
「せんせー頭おかしくなった?言葉遣いも変だしさ。なんでうちらに敬語使ってんスか?」
「それは……大会前だからこそ初心に帰るべきという意味で仰っているのですか?」
「う、うん。そう、瑠美の言う通り。えっとそうね、新入生向けのルール説明書はあったかしら。」
「はい、そちらの棚にありますが……。」
わたしは急がないよう心掛けながら棚にあった【ルール説明書】を手に取る。4面子1雀頭だのポンの方法だの簡単な部分を飛ばし、ルールブックに目を落とす。要約するとこうだ。
・東南戦、親はテンパイ連荘、ツモはドラ表示牌の横まで全て取り切り。
・食いタン有り、後付け有り、平和ツモあり、ツモ損無し、符計算は40符固定で繰り上げ
・1本場1000点 ツモの場合は本来の得点に1000点づつが加点される
・途中流局なし
・Wロンあり リーチ棒は
・
・抜きドラ(春夏秋冬)有り:抜いても一発は消えない。また手牌で使うことは出来ない。
・35000点持ち、35000点以下で沈み馬有(2着±0or△20 3着△30)※1
・祝儀チップ有:鳴いても有効 赤ドラ・一発・裏ドラ各1枚、役満(役満はツモで6枚、ロン和了で8枚 数え役満はツモ3枚、ロン和了で4枚)、トビで2枚 チップ1枚3000点相当加点・減点
・
・オープンリーチ全晒しで有り(2000点供託)、フリテン
・局終了時0点丁度はトビ(残り点数1000点でリーチをかけた場合は続行、またオープン
・箱下計算は△10000点まで
・4枚使い
・小車輪(6翻) ※2 三風(2翻) ※3 三連刻(2翻) 四連刻は役満 ※4
・大車輪(清一色
・数え役満は14翻から・W役満は無し
※1:沈み馬 半荘終了時、35000点であれば±0だが、34000点であればスコアが△21000点の負け分となり、1位は素点の他に3着の△30000点と合わせて50000点が加算されるルール。オーラスに35000点以上持っていた人間が34000点以下に落ちることを「首を切られる」と表現することもある。
※2:小車輪 ①①③③④④東東西西白白中中 で出来る
※3:三風 ①②③ ⑤⑤ 東東東 西西西 北北北 など東西南北牌のうち3枚を使って出来る役、喰い下がり無し
※4:三連刻: ①①① ②②② ⑨⑨ 567 ポン:③③③ といったように 数字が連続した3つの刻子(かんつ:同じ牌3枚組)を揃えることで成立する役、喰い下がり無し 数字が連続した刻子が4つになると役満の四連刻。
※5:流し:流局時に、自分の捨て牌がすべて
(なるほど……かなり雀荘に似ている。関東のアリアリ三麻にローカルルールが足された形ね。)
「あ……先生……遅れました。皆さん待たせちゃいましたか?」
「あ~!長野っちやっと来たー!!」
「ち……近いです……山田さん。その……離して。」
扉に目を向けると碧い瞳をした銀髪ショートの華奢で小柄な少女が星菜ちゃんに抱き着かれていた。またわたしの脳内に電流のようなシナプスが走る。長野
「じゃあ4人揃ったことですし、始めましょうか。
瑠美さんがシャカシャカと慣れた手つきで東西南北牌を卓上でシャッフルする。
「いえ瑠美さん、星菜ちゃん、心花……君の3人で打ってもらっていいかしら?わたしは後ろで3人の打牌をみているわ。」
「そうですか、わかりました。わたしは……南ですね。」
「うちは東。」
「じゃあ僕が西ですね。」
(じゃあまず、星菜ちゃんのお手並み拝見といきますか。)
東一局
星菜 配牌:九②④⑤ ⑦255 678東 白中 抜きドラ:春
第一打:九
(抜きドラ込みですでにドラ3、4シャンテンだけれど有効牌がかなり多い。タンヤオも狙えるいい配牌だわ。)
9巡目 星菜:②④⑤⑥⑦ 22 556788 ツモ牌:8
打牌:赤5
(カン3
次巡 星菜 ツモ牌:⑧
(絶好のヒキね。)
「
最終形:④⑤⑥⑦⑧ 22 567888 待ち牌:③ ⑥ ⑨
(この親リーで二人は苦しいわね。他の二人の手牌は……。)
瑠美 手牌:壱壱 ②② ③③ ⑥⑥ 66 77 白 ツモ牌:③
(
瑠美 打牌:白(安牌) 待ち牌:③
(さて、心花君は……丁度ツモ番ね。)
心花 手牌:①② ④⑤⑥⑦⑦⑧⑧⑧ 999 抜きドラ:夏 冬 ツモ牌:③
(ツモったか。⑨
「その……通ればオープン
心花 最終形:①②③④⑤⑥⑦⑧⑧⑧ 999 打牌:⑦
「ブフゥ!」
「出た!長野っちのオープン
「わたしが一番苦しいなぁ……。黙ってればツモられるし、でも親に打つわけにはいかないし……。」
(東1局なんだし自摸・ドラ6の跳満で十分じゃない。何考えてるのこの子、目を赤らめて顔も紅潮させて……。雀士と言うよりもギャンブラーの思考ね。かなり危ういわ。)
そして3巡後
「……ツモです。」
心花:①②③④⑤⑥⑦⑧⑧⑧ 999 ツモ牌:⑨
「……オープン
「いやーーーー!⑨
「なんというか、流石ですね。」
「心花ちゃん……じゃない、心花君。どうして③
「……だって……先生、そのほうが……」
瑠美さんと星菜ちゃんは「また始まった。」と言わんばかりに苦笑いを浮かべている。二人にとってこの問答は初めてではないのだろう。
「絶対!面白いじゃないですか!」
「…………。」
小型の愛玩犬が大型犬に変わったくらいの咆哮だった。白磁のようだった綺麗な顔は紅潮し、その目は燦然と煌めいている。
「せんせー、もう諦めたほうがいいって。長野っちは危険牌を押すことに興奮するような変態さんなんだから。」
「星菜ちゃん言い方……。でも麻雀の楽しみ方はそれぞれですし、先輩はこの手法で勝ち越してますから。」
なんというか、この子が部長で大丈夫か?この部活。