「ツモ。
「いやぁぁぁぁあああ!またラスだあああああ!」
「……僕がリーチ棒を出してるから、1000点差で大代さんのトップかぁ。」
「もう21時、これで終わりにしましょう。みんな素晴らしい闘牌だったわ。星菜ちゃんは確かに大幅に負け越しているけれど、一打一打に意思が読める安定感のある牌譜だった。負けたのは、まぁ麻雀だから運が味方しなかったと割り切るしかないわね。」
「勝てなきゃ意味が無いんスよ!勝てなきゃ!」
「星菜ちゃんの買ってきたカップ焼きそばにお湯入れちゃいますね。長野先輩は加薬抜きですよね。」
「……うん、あとマヨネーズも無しで。」
(女子高生3人が雀卓を囲んでカップ焼きそば食べてる図ってシュールね……。って心花君はオトコノコだったか。)
「今日の総括はそうね、
「役が無くても和了れることッス!!」
「1翻増えるので打点が高くなる。また一発・裏ドラでチップがもらえることでしょうか。」
「……相手が警戒してオリか回し打ちになってくれること。」
「3人とも正解。じゃあデメリットは?」
「ツモ切りしかできないから防御力が落ちることッスかね。」
「有効牌を引いても手変わりができなくなることも考えられますね。」
「……オープン
「そうね。心花君の例は極端だとしても、防御力が落ちることと手変わりができないのはかなり大きいわ。一発・裏ドラが3000点相当のチップになるルールにおいて棒テン即リーは悪い戦法ではないけれど、心花君がメリットで話していた【相手が警戒する】ということはロン和了が出来難くなるというデメリットにもなるわ。手変わりが多いとき、微差でロン和了を期待したい場合はダマも視野にいれておくこと。大きくリードしているときに
「はい!うちはダマ大好きッスよ!暗殺者みたいでカッコイイじゃないッスか!」
「わかりました。次局から心がけます。」
「……出来るかな。つい麻雀になるといっちゃえーーってなって……。」
(ハンドルを握れば人格が変わる人間がいると聞いたことがあるけれど、星菜ちゃんと心花君は牌を握ると人格が変わるのね。)
その後しばし雑談し、本日の麻雀部はお開きになった。わたしは帰宅途中4人にサインを求められた。恥ずかしい話だが鳴かず飛ばずの底辺女流雀士にも関わらずサインの練習をしていてよかった。
足の赴くままに到着した自宅は以前のような安普請のボロアパートではなく、オートロック完備の一人暮らしには贅沢すぎる部屋だった。
(本当に人生が変わっているのね……。)
俗物だとは思ったが最初にしたことは通帳残高の確認だった。そこには宝くじを当てたのではないかという膨大な数字が並んでおり現実感の無さに眩暈が襲う。
(本も結構出しているのね。え!?グラビアまで?……結構キワドイわね。何考えていたのよわたし。)
何を勘違いしているのやら水着でノリノリのポージングを披露している記憶なき自分に羞恥の念が沸いてくる。
(それにしても……。四人麻雀の衰退した世界ではなく、三人麻雀しか存在しない世界か。)
先ほどまで時間を共にしていた3人の教え子を想起する。真面目な手作り・押し引き・牌効率、その技術に一番長けていたのは山田星菜という少女だ。きっと四人麻雀の世界であれば一角の雀士になれたに違いない。
しかし赤ドラ8枚に抜きドラ4枚・表示牌の4枚を含めドラが最初から16枚ある三人麻雀では役を丁寧につくらなくとも跳満・倍満が平気で飛び交う。運が無ければ勝てないというのは麻雀全般に言えることだが三人麻雀ではそれが如実なのだ。
長野心花のように狂気を込め、押して押して押しまくる……。そんな戦術にツキが乗れば大トップを叩き出すだろう。実際今日の闘牌では技巧よりも狂気に軍配があがった。しかし三人麻雀が完全に運に支配されたゲームかと問われれば
とはいえ最善の選択が正解とは限らない理不尽を何度も繰り返すのが麻雀だ。野球はメンタルのスポーツだ、ダーツはメンタルのゲームだ……様々言われることだが下らない。メンタルが重要でない勝負事などこの世のどこにあるというのだ。
(あの三人の闘牌傾向は解った。でもプレッシャーの中で〝我〟を通す能力はどれほどあるかしら。もし大会に出るというならば検証の余地があるわね。お金を賭けさせる……は高校生相手にマズいか。そうね……)
◆ ◆ ◆
「今日から三星高校麻雀部では配信を始めるわよ!」
「配信……スか?」
「始めるのは吝かではありませんが、随分と急ですね。」
「……僕は、ダイジョブです。多分。」
「目的の1つ目は常に〝打牌が誰かに見られている〟状況に慣れておくこと、2つ目はノイズを排除して自分の打牌を打ち通す練習、3つ目はアーカイブで牌譜を振り返ることね。」
「ノイズ……ですか?」
「そう。麻雀の打牌に絶対の正解はない。当然視聴者の中には〝名人様〟なんて揶揄される上から目線のコメントが幾つも来るわ。コメントの意見を取り入れるもよし、それでも自分の打牌は間違いではなかったと自信を持てる根拠を考えるもよし、悩むことだって成長につながるわ。」
「わかりました!恥ずかしい打牌をしないよう頑張ります!」
「じゃあ配信を始めるわね。最初だからそんなに来ないとは思うけれど……。」
≪待機……と思ったらもう始まってた。≫
≪キターー!≫
≪わくわく≫
≪推しは撮影係?≫
(え?もう同接100以上!?昨日SNSで軽く告知しただけなんだけれど……。)
「みんなどうも~~!三星高校1年麻雀部、山田星菜ッス!」
≪ペェデッカ!Gはある。≫
≪安定のオタクにやさしいギャル感。≫
≪高校1年でこれは逸材。何とは言わんが≫
「皆様初めまして、同じく三星高校1年麻雀部、大代瑠美です。」
≪清楚担当?≫
≪裏で遊んでそう≫
≪声が好み、ASMRまだー?≫
「……は、はじめまして。三星高校2年麻雀部 部長、長野心花です。その……よろしくお願いいたします。」
≪なんで男子の制服着てるの?≫
≪男の娘キターーーーーー!≫
≪正直ありだと思う。≫
(自分で企画してなんだけれど、無法地帯ね……。練習になるかしら。)
「じゃあこれから3人の闘牌をご鑑賞いただければと思います。よろしくお願いいたします。」
「「よろしくお願いいたします!」」
(まぁ賽は投げられた……か。)
「じゃあ卓に座って。まずは東引きからね。」
そうして初の試みが始まった。