負の感情。
恨み、怒り、妬み、
呪いより生まれし、呪霊の群れ…。
「やれやれ。」
12月24日。百鬼夜行当日。
その術師は黒い火花に愛されていた。
『え?僕より強い呪術師?』
『本気で言ってる?…でもそうだな…。彼だったらあり得るかも。』
彼の名は、陽府 識彦。
「いくぞ───。」
1日での連続黒閃経験数、3億1104万回
常にケツから黒い火花が迸る、異端の呪術師である。
正確には、ケツは二つある。二つの“それ”が接触した瞬間、世界の方が一拍遅れて軋む。黒閃の条件だの時間差だの、理屈は全部すっ飛ばして、常時発生している。本人の意思ではない。止めようとすると、むしろ周囲の空間が歪んで危ない。
「……歩く災害…ですね」
伊地知が青い顔で言った。
「褒め言葉として受け取る」
「褒めてません! 今日は新宿方面、補助監視です。五条さんは別件で動けません」
“別件”とは、わかっている。あの男は強すぎて、必ず誰かが足止め役を用意する。百鬼夜行は戦力の配置がすべてだ。新宿と京都、同時多発。敵の狙いは混乱の最大化。
陽府は目を細め、夜のビル群を見上げた。上空には呪力の濁りが雲のように溜まり、街の輪郭が重く見える。
「どこが“核”だ?」
「核?」
「今日の呪いは、群れ方が不自然だ。誰かがまとめてる」
答えを待たずに、路地の奥が割れた。呪霊が溢れる。形はバラバラでも、動きだけは妙に揃っている。誘導されている。陽府の方へ、あえて“寄せて”くる。
「俺に集めてるな」
次の瞬間、呪霊の群れの後ろから、人間の影が一つ現れた。呪詛師。顔は隠しているが、笑いだけが薄い。
『その火花……便利だ。結界の要にちょうどいい』
「結界?」
『今夜、新宿の呪いを“閉じる”。逃げ道を消して、呪霊を街に定着させる。その鍵が、お前だ』
陽府の背中に冷たいものが走る。結界は“枠”を作る。枠の要には、強い因果がいる。呪力の癖、現象の継続、異常な発生――それを縫い付ければ、街ごと縛れる。
「要するに、俺を杭にして街を留めるってことか」
『そうだ。動くなよ。動けば、お前の火花が結界を完成させる』
「……やれやれ。逆だ」
陽府は腰を落とした。二つのケツがわずかに噛み合い、黒い火花が“止まらない”まま濃度を増す。周囲の空間が薄く割れ、足元のアスファルトが粉を吹く。
「俺の火花は、留めるためにあるんじゃない。壊すためにある」
拳を引く。踏み込む。打撃の瞬間、世界が歪む。黒閃は常時でも、当てる瞬間の“乗り”は別だ。そこだけは、陽府にも選べる。
「黒閃」
呪詛師の足元が沈む。衝撃が遅れて追いつき、結界の“線”が描かれる前に千切れた。呪霊の群れが一斉に悲鳴を上げる。誘導の糸が切れたからだ。
『っ……!』
「まだやる?」
『やるに決まってるだろ。今夜は――』
言葉が最後まで届かない。陽府が二歩で距離を潰し、拳を添えるように突き出す。黒い火花が尾を引いて、空間の継ぎ目を殴った。
「黒閃」
呪詛師は吹き飛ばされ、影が路地の奥に消えた。残った呪霊は、指揮を失って散り散りになる。陽府は息を吐き、伊地知に背を向ける。
「伊地知、結界の痕跡を洗え。まだ別の要がある」
「は、はい……! でも陽府さん、その、火花……」
「言うな。俺も一番困ってる」
遠くで、巨大な呪力がぶつかる音がした。五条が動けない理由が、音だけでわかる。
百鬼夜行は終わっていない。けれど、新宿の“枠”は一つ砕けた。
陽府は闇の中へ歩き出す。二つのケツが触れ、黒い火花が止まらないまま、次の呪いを探すために。
「……今夜は長いな」
AIに作らせました