日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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博衣こよりが襲撃され、それをラプラスが助ける話。そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。
……ちなみに今回敵対したネクロマンサーの少女はオリキャラではありません。


博衣こよりの襲撃者対策

「それで、何か用かな。まさかこよのファンってことはないんでしょ?」

武装した襲撃者達に囲まれながら、holoXの頭脳である天才科学者博衣こよりは不敵な笑みを投げかける。

 

 

夜闇に閉ざされた倉庫街。

それは海浜に隣接する無味乾燥なプレハブ倉庫が連なる区画。夜ともなれば人通りは途絶え、まばらな街灯の光がアスファルトの路面を照らしているのみである。

 

 

自身が何者らかに尾行されているの気づいたこよりは、アジトへの帰還を見送ってあえてその者達を誘い出したのであった。

 

 

「holoXの『研究者』博衣こよりだな。ウチらの組に手を出したことを後悔するがいい」

男たちの口から告げられた組織の名、それは数日前にholoXが支部の一つを潰した秘密結社であったことをコヨーテの少女は思い出す。

 

 

世界征服を掲げる彼女達は、社会の裏に跋扈《ばっこ》する組織をいくつも相手取っている。ようは秘密結社同士の抗争、その闇討ちの矛先が今回holoXの『研究者』に向けられたわけである。

 

 

「ふ~ん、でも君たちでこよをやっつけられると思う?」

「はっ、お前は『用心棒』でもなければ『掃除屋』でもない。非戦闘員が虚勢を張っているだけだろう。大怪我を負って捕まるよりは、大人しく捕まった方が身のためだぞ」

短機関銃の凶悪な銃口を向けられてなお余裕を崩さないこよりを、男たちが鼻で笑う。

 

 

「なら君たちはこのまま帰った方がいいかもよ。大怪我を負って帰るよりは、大人しく帰った方がずっといいと思うな」

やれやれと肩を竦すくめたこよりは、腰のベルトに提げられた試験管を引き抜いた。

 

 

だがその不審な動きは、男たちにサブマシンガンの引き金を引かせてしまう。

 

 

—————ズダダダダダダダダダダッ!

夜の静寂《しじま》を銃声が裂いた。

 

 

「なッ!?」

驚愕に目を見開いたのは男たち。

足を穿たれた少女の血が路上を彩るはずであった。

だが、『研究者』はまるで銃撃など大したことではないかのように、のらりくらりとステップを踏んで避けるのである。

 

 

実際、こよりにとって銃は与しやすい相手でしかない。

銃口の向きと射角から弾丸の軌道は容易に読め、その予測に基づいて体を動かせば、迫る銃弾を確実に避け得る。

 

 

最小限の動きで銃撃を躱《かわ》しながら、コヨーテの少女はきゅぽんッと栓を抜いて、試験管のピンク色の液体を呷あおった。

そして無用となった試験管が彼女の手を離れる。

 

 

路面へと緩やかに回転しながら落ちていくガラスの管。

表面に映るのは戦慄の色に染まった男たちの表情であった。

 

 

————ガッチャンッ!!

アスファルトへ叩きつけられて割れた試験管、だがその大きな破壊音の出どころは違った。

 

 

瞬間移動と見紛うばかりの高速で、敵の一人に迫ったこより。

彼女の拳が短機関銃を粉砕したのである。

 

 

粉々になって宙を舞う鉄片の中、続いてコヨーテの少女の麗しい脚が唸りを上げる。

たおやかな脚線美が鋭く撓《しな》って、男を海へと大きく蹴り飛ばしたのである。

 

 

人外の膂力《りょりょく》に男たちは目を瞠《みは》る。

————そう、それはさきほどこよりが口にした薬品の持つ力。holoXが誇るマッドサイエンティスト製の強力なドーピング薬であった。

 

 

男たちは慌てたように、銃口を『研究者』に向け直そうとする。

だが、既にこよりは次なる緑色の試験管を彼らの足元に放り投げていた。

 

 

飛来したガラス管が割れるとともに瞬時に揮発した薬品は、男たちの意識に僅かな空白を生んだ。

それは今のコヨーテの少女にとっては十分な隙。

 

 

素早くに間合いを詰め、持ち前の頭脳《フィジカル》で一人また一人と海に叩き落としていくこより。

桃色の長髪を翻らせた残影が、戦場に結ばれては消えていく。

それはholoXの『用心棒』や『掃除屋』にも匹敵する速度であった。

 

 

彼女は敵対者たちをいとも簡単に全滅させ、パンパンと手をはたく。

「ふふん、まあこんなもんですか……じゃあ、そろそろ覗き見をしてないで、出てきたらどうですか!」

朧げな気配のみを漂わせる姿無き者に向かって、こよりは大きな声で夜空に呼びかけた。

 

 

果たして、燐光を帯びた緑蝶が無数に飛び交い、そして一所に集まり始める。

地上10メートル余りの高さに佇立する街灯の頂き、そこに蝶を束ねた緑色の輝きが腰かけた人の姿となって顕現する。

 

 

漆黒のローブを着込んだその人影は、鈴を転がしたような少女の声で笑いかけた。

「なあんだ、気づかれていたんだ」

 

 

軽やかに街灯から降り立ったのは小柄な少女ようだ。

だがその容貌は目深に被ったフードでようとして知れない。

愛らしい所作とは裏腹に少女から漏れる死臭、そのあまりの濃さにこよりは眉を顰《ひそ》める。

 

 

(———この人、かなりヤバいかも)

 

 

「ふふ、こよりちゃん。本当に攫《さら》っちゃおうかな」

そう言って少女は口元を綻ばせた途端、突如として路面を割り裂いて無数の骨の腕が伸びる。

 

 

(これは死霊術!?)

 

 

死霊術、それは死者の骸を自在に操る黒魔術。

大地から湧き上がるように眼前に現れたのは鎧姿の骸骨の軍勢。勇壮に飾り立てた骸の騎士たちはまさしくその冒涜の秘術に由来するものであろう。

剣を振り上げた死者の軍は、ハロウィンの仮装行列さながらにこよりへと悠然と歩みを進め始める。

 

 

刹那にしてこれほどの死霊術を操る少女は、かなり高位のネクロマンサーでしかありえない。

だとすると間違いなく難敵だ。

こよりはその動かしがたい事実に歯噛みしてしまう。

 

 

無限に破壊と再生を繰り返す死者の軍勢で、戦域を支配するのがネクロマンサーである。

持久戦こそが本領である相手に対して、先のドーピング薬の持続時間がこよりを焦らせていた。

———効果が切れたら、マズイ……

 

 

否応なく短期決戦を選んだこよりは、強化された身体能力で骸骨の兜を跳び渡りながらネクロマンサーの少女を目指す。

骸たちが閃かせる白刃も、今のこよりには追い付けない。

 

 

ローブ姿の少女の前に降り立ったこよりは、その勢いのまま振りかぶった拳をネクロマンサーに叩きつけた——

 

 

——かに思えた。

だが、コヨーテの少女の手は届かない。

彼女の攻撃は分厚い骨に阻まれていた。それは巨大な掌《てのひら》の中手骨、魔界に住まう巨人族の骸であった。

 

 

見上げんばかりの高さに聳《そび》える巨大な骸骨たちの威容。

それが剛腕を振るわんとしているのを認めて、こよりは素早くそして大きく飛び退った。

 

 

ドゴゴォォォォオォォン!!!

 

 

大気を震わせ耳をつんざいた轟音は、巨人たちの骸が為した大破壊。

行進していた死者の軍勢が骨片となり花吹雪のように空に舞い散る中、ひしゃげたプレハブ倉庫も無数の残骸へと砕けながら宙を飛ぶ。

 

 

巻き起こされた颶風《ぐふう》に、こよりもまた一片の木の葉さながらに弄ばれる。

体のあちこちに傷をつけながらも、コヨーテの少女はプレハブの破片を足場に跳んで倉庫跡へと着地した。

 

 

見れば、骸骨の軍勢は既に再生を始めている。

味方ごと破壊してそして何事も無いように再生させる物量戦、これが死霊術の本領である。

 

 

だが無くなった街灯の代わりに月光が照らし出したのは、こよりを十重二十重と取り巻く骸の軍勢。どうやら先の大破壊は、骸骨どもの再配置すらも計算に入れたネクロマンサーの一手であった。

 

 

(——このままだとホントにヤバい!)

そして奇しくも重く鈍くなり始めた自身の体、その首筋に冷汗が伝う。

 

 

こよりはドーピングの効果が失われはじめたことを自覚したのである。

どんな薬品にも存在する副作用、無理に体を動かしたその反動で、後は本来よりも動きが遅くなる一方なのであった。

 

 

眦《まなじり》を決したこよりは、骸の包囲からの脱出を図って青色と黄色の試験管二本を放る。混ぜ合わされた薬品が大きな爆炎を上げた。

 

 

こよりがベルトに掛けて常備する彩り豊かなの薬液たち、それらはただのお洒落アイテムではない。それぞれ用途が決まっているにも関わらず、混ぜ合わせることでまた異なる役割を生む。襲撃者対策として用意されたそれらはまさに変幻自在で、holoXの頭脳に相応しい得物であった。

 

 

包囲に穿たれた空隙へと身を躍らせるこよりを見て、微笑むネクロマンサーの少女。

果たしてholoXの科学者を待ち構えていたのは、巨人の腕《かいな》。敵はこよりの手の先を既に読んでいたのである。

 

 

顔を歪ませたこよりは、腿のフラスコに手を伸ばした。

フラスコから噴き出した鈍色の煙幕が一帯に広がり、こよりの姿を覆い隠す。

素早く瓦礫の影に潜んだコヨーテの少女はもう一つのフラスコの栓を抜いた。

 

 

 

 

————(ネクロマンサーの少女)—————

煙が晴れて、ネクロマンサーの少女が目にしたのは、戦場に浮かぶ無数の大きなシャボン玉のような泡沫。そのいずれの表面にも『研究者』の顔が映り、ニヤリと不遜な笑みを彼女に投げかけていた。

 

 

『研究者』の隠れる居場所は知れないが、このシャボン玉の表面反射を使えば、どうやら向こうからはこちらの動きを一方的に把握できるようである……とはいえもそれも一時の時間稼ぎにしかならない。ゆっくりと包囲を狭めていけば、かならず『研究者』は炙あぶり出せる。

 

 

だからこそ標的に向かって、ネクロマンサーは嘲笑を以て応じるのである。

「はは、なるほど。隠れんぼというわけね。でもただの時間稼ぎなんて無意味よ」

 

 

だが、彼女の余裕は高速で飛来した試験管によって奪われた。

浮かぶ無数の泡による反射を繰り返し、全く軌道が読めない試験管がネクロマンサーの少女に迫ったのである。

 

 

かろうじて巨人の手で自身を覆い守った死霊術師は、ジュ―ッという嫌な反応音に危機を感じたのであった。『研究者』が投擲した薬液の正体は超強酸、それが魔界の巨人の分厚い骨すらも立ちどころに溶かしていたのである。生身の状態で一滴でも浴びたら、無論ただでは済まないであろう。

 

 

(くそッ、何だこれ!!)

死霊術師の少女は悪態を思わず吐いてしまう。

 

 

慌てて走る彼女を狙いすましたように、反射を繰り返して試験管が次々に正確無比に飛来し続けるのである。その度に、自身を守らせるに足る鉄壁の威容を誇ったはずの巨大な障壁が脆くも崩れ去っていく。

 

 

『研究者』がいかなる計算のもと投擲をコントロールしているのか皆目見当がつかず、こちらは逃げ回ることしかできない。だからこそ少女は、骸たちにただ闇雲に急いで標的を見つけ出すよう号令したのであった。

 

 

ことはどちらが早く相手を捉えるか、という勝負になったのである。

————(ネクロマンサーの少女、ここまで)—————

 

 

 

 

手持ちの試験管と着実に輪を狭めてくる骸骨の戦士たちを見比べて、こよりは臍《ほぞ》を噛む。もう薬品の手持ちが尽きかけていた。

 

 

最後の試験管を投擲し、彼女は自身の敗北を覚悟した。

 

 

(——ああ、こんなこと前にもあったなぁ)

瓦礫に体を預け、思い起こされるのはかつての記憶、仲間たちに出会う前の追憶だ。

その時には自身を救った者がいたのである。気障きざったらしい笑みとともに差し出された小さな手、それを握った感触は今でも忘れない。

 

 

 

 

————(ネクロマンサーの少女)—————

(あはは、ついに薬が無くなったのかな)

油断なく骸を動かしていた死霊術師の少女、ついぞ訪れない試験管による攻撃に彼女は勝利を確信して笑みを深めた。

 

 

嗜虐心に舌なめずりをして少女は最後の号令を下そうとした、その時——

 

 

——突如、紫電が『研究者』の作った泡で乱反射を繰り返し、大気を鳴動させながら周囲に雷霆《らいてい》となって降り注いだのである。

 

 

白く爆ぜた視界の中で、再生不能なダメージに焼かれ、瞬時に灰へと変わる骸の騎士たち。それは死霊術をも上回る完全なる破壊の雷であった。

 

 

驚きに目を瞠ったネクロマンサーの少女。

彼女はすぐに雷の出どころ、宙に浮かぶ小さな影に睨みつけた。

————(ネクロマンサーの少女、ここまで)—————

 

 

 

 

月光を背に受けて気障ったらしく宙天で笑うのは、バチバチと頭上に頂いた双角に紫電を纏う小さな少女。

 

 

それは誰よりも力に優れ、誰よりも理に優れ、誰よりも知に優れ、そして誰よりも小さい秘密結社の統率者。holoXを率いる『総帥』、名をラプラス・ダークネスという。

 

 

「よくも博士に手を出したな。秘密結社を名乗って、世界征服を企んでよいのは吾輩らだけだぁぁぁぁあぁぁあ!!!!!」

怒号とともにラプラスが、光耀に目を眩ませる程の雷を放つ。

 

 

ダークエネルギーを変換した紫電。

それに撃たれれば巨人の骨すらも焼けて灰となり、落ちたアスファルトは融溶して赤く滾《た》ぎる。

 

 

 

 

————(ネクロマンサーの少女)—————

(いぃッ、何じゃあぁぁぁ、ありゃぁああぁぁああ!!!!)

 

 

死霊術師の少女は泡を食って慌ててふためいていた。

自慢の骸達の防御力と再生力を易々と凌駕する雷は、まさに具現化した破壊の奔流だ。

これほど死霊術の天敵になり得る技も珍しい。

 

 

骸の軍勢も灰燼かいじんと化し、もはやことここに至って『研究者』を捕らえるどころではない。自身の身の守ることすら覚束ないのである。

 

 

(よし……逃げよう!)

そう断じるが早いか、少女は再び体を無数の緑蝶へと変え、まだ残る骸たちの影に隠れて飛び立ったのである。

————(ネクロマンサーの少女、ここまで)—————

 

 

 

 

〝ふん、逃げたか〟と鼻を鳴らして、破壊の跡地へと降り立つラプラス。

瓦礫に蹲《うずくま》るこよりに小さな総帥が歩み寄っていく。

 

 

折しも夜明けの薄明が、西の空に夜の暗がり追いやっていく。

差し込んだ曙光を背に、ラプラスはこよりに手を差し伸べた。

「大丈夫か、こより」

 

 

「ありがとう、ラプちゃん」

その手の感触は、出会った頃の記憶とも重なった。

今も変わらないその手はこよりに安堵を覚えさせる。

 

 

「お、吾輩に惚れていいんだぞ」

そしてラプラスは決め顔で、こよりの心情を台無しにするのだった。

 

 

「……そういうこと言わなきゃカッコイイのに」

「え、ホントに惚れてる感じ? じゃあチューしよ、チュー! やっぱヒーローは最後ヒロインにキスされるものなんだからな」

「はぁ?」

唇を突き出して顔を寄せるラプラスに、こよりは冷ややかな視線を向ける。

 

 

「大丈夫、痛くしないからぁ。先っちょだけだから」

それをどこ吹く風で強引に迫るラプラス。こよりは腕に力を込めて小さな総帥を押し留めながら、襲撃者対策の最終手段を実行した。

 

 

「3……2……1」

「あ?」

瞳に数字を映しながらカウントダウンを始めるコヨーテの少女に、ラプラスは困惑気に首を傾げる。

 

 

ドッカァァァァァアアアアン!!

 

 

突如として起きた大爆発。

ラプラスは爆風に吹き飛ばされて、〝ぎゃああぁぁぁああぁぁぁ〟と汚い声で絶叫しながら朝日に輝く海へと落ちていく。

 

 

 

 

——まさか襲撃者対策を仲間に使う羽目になろうとは。まあ、ラプちゃんのあれも襲撃といえば襲撃か……

そう思いながら、その光景をアジトのモニターで見ていたのはholoxの頭脳こと博衣こより本人である。

 

 

彼女はティーカップを置いて溜息を吐いたのであった。

「AIこよりの調子はまずまず……そしてラプちゃんは相変わらずと」

 

 

 

 

 

 

 




(今回と関係する話)
天音かなたの消失 https://syosetu.org/novel/401404/14.html
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