日常のホロライブSS(一話完結の短編集) 作:Sano / セイノ
雷鳴轟く黒雲に秘された天空の城、そこが『暁』と呼ばれる表舞台からは退いたホロメン達からなる秘密結社の牙城である。
雲中に高く聳《そび》える居城の談話室で、火威青は難しい顔でカタログ雑誌と睨《に ら》めっこをしていた。
扉が開いた音に顔を上げた青は、入ってきた天音かなたの姿を認めて爽やかな笑みを浮かべる。
「今日も可愛いですね、かなた先輩。もうお体大丈夫ですか?」
「うん。散歩してきたんだけど、パワーも少しずつ戻ってる気がしていい感じ。ありがとね」
かなたはそう言って、決め顔で微笑む青に片腕で力こぶを作って応じるのである。
天使である彼女は地上で消えかかっており、それを桐生ココが無理やりここに連れ去ってきたのであった。それ以来、かなたはゆっくりと療養しながらこの城で過ごしているのである。
「やけに真剣そうだったけど、青君は何してたの?」
かなたが後ろから青のカタログを覗き込んでくる。
「一年間頑張っていたReGLOSSのみんなに、サンタになってクリスマスプレゼントでも贈ろうかと思いまして」
「いいじゃん!」
「でも実際、選ぶとなると結構難しいんですよ。あいつら変な奴らだからなぁ」
ReGLOSSのメンバーの顔を思い浮かべながら、腕組みして虚空に視線を彷徨わせる青。
そこにもう一人の影が近寄ってくる。
かなたの反対側から身を乗り出して青の手元を覗き込んだのは、ニヤニヤと小生意気な笑みを浮かべた魔女っ娘の紫咲シオンであった。
「えー、シオンが選んであげようか?」
「ほら、邪魔しちゃダメですよ。シオンさん」
魔法使いの少女に釘をさすのは眼鏡を光らせた友人Aである。
相も変わらず流れるような動作でテーブルに人数分の茶器を並べ、手で席を促す有能ぶりだ。
「えーちゃんもここにいるんだ!?」
かなたはどうやら『暁』の本拠地で、友人Aと邂逅かいこうしたのは初めてのようである。目を丸くした天使の少女に、友人Aは肩を竦すくめて応じて見せる。
「かなたさんも知っての通り、ホロメンのみなさんはちゃらんぽらんな人たちだらけなので、組織の運営なんかできません。誰が事務方を担当していると思ってるんですか」
「その通り! イケメンと絵がうまいことを除いたら僕はただの小学生男子さ」
決め顔で髪をかき上げながら宣言する青は、残念の極みであった。対してシオンの方は自信満々に胸を逸らす。
「シオンはできるもん」
「シオンさん、文書ちゃんと読まない人じゃないですか。以前、ぺこらさんへのプレゼント企画の時に自分へのプレゼントを勘違いして買ってましたよね」
友人Aに半眼で〝どの口が言ってるんですか〟と睨まれて、シオンは言葉を詰まらせた。
そんな訳でここの膨大な事務作業を一手に引き受けているのが、友人Aや春先のどかなのである。
「というわけで、シオンさんにプレゼントを選ばせてはいけません。そしてシオンさんはそもそもこっちです。昨日また変な魔道生物を召喚して、お城壊したでしょ。大人しく反省文を書いてください」
「げぇ」
顔を顰《しか》める魔女っ娘を友人Aは強引に座らせ、その前に原稿用紙の束を叩きつけたのだった。
二人のやり取りに思わずかなたは薄く微笑んでしまう、なぜならそれは在りし日のホロライブ事務所と同じ光景だったからだ。卒業生を寂しさと共に見送ってきた彼女は、卒業しても変わらないメンバーたちを見て心の中で安堵していたのである。
シオンがうんうんと唸りながら筆を進めている少し離れた横で、青とかなたはプレゼントの候補を吟味していた。
「一緒に選んでいただいて、かなた先輩ありがとうございます。何だか二人でこうやってると思いだしますね、あの時急に遊園地行った時のこと」
隣で悩んでくれている天使の少女に青が水を向けると、かなたは思わず噴き出した。
「あははははは、あったねぇ!」
それはかつて青がReGLOSSメンバーに久しぶりに会えると、ウキウキで事務所に行った時のことだ。
その実一人での収録のため他のメンバーは不在であり、おめかしを決め込んだ青の独り相撲だったのである。
落胆した青と急遽連れ合って遊園地で遊び倒したのがかなただった。青にとって、かなたあの時から思いやりの深い先輩なのである。
× × ×
足音の絶えた夜更けの街の灯の光が、一条莉々華の邸宅の壁に一つの影を結ぶ。
それは選んだプレゼントを詰めた布袋を提げた青。
今日ここでReGLOSSの面々はクリスマス会の配信をしており、全員が寝静まった頃合いを見計らって青は訪れたのであった。
今回の彼女にとって、同期の仲間たちに火威青だとバレずにプレゼントを置いてくることがミッションとなっていた。
なぜならそれが最高にカッコイイと青は考えたのである。
(――ふッ、スパイみたいな僕。今輝いている!)
爽やかな笑みでスケッチブックを取り出した青は、サンタのイラストをさらさらと描いた。
するサンタの着ぐるみが飛び出して、現実世界に顕現したのである。
限られた時間であるが描いたものを現界させるのが、彼女の異能なのであった。
サンタ着ぐるみを着込んだ青は、さらに家の側面に大きな窓を描いて出現させ、その窓から家中に侵入したのである。
莉々華の家の構造を青は把握していた。
明かりの落とされた通路を進み、寝室の前を通る。
きっとここで仲良く寝息を立てているんだろう、と思うと青の口元が綻《ほころ》んだ。
暗いリビングにはクリスマスツリーが飾られていた。
サンタは音もなくツリーに近寄って、プレゼントをその足元に並べたのだった。
(よしッ、ミッション完了。流石は僕。あとは帰るだけさ)
青が引き返そうと思ったその矢先、家中の電灯が突然明るく灯ったのであった。
(――な、なんだッ⁉)
きょろきょろと見回すサンタの退路を塞ぐように立つ四つの影。
ビシッとサンタに向けて指を突き付けた音乃瀬奏が、目を輝かせながら高らかに告げた。
「さあ、サンタさん。ここから無事に帰りたければ、奏たちと勝負だぁ!」
「久々の五人ね♪」
「滾《たぎ》るじぇ!」
拳を鳴らして不敵な笑みを浮かべるのは一条莉々華と轟はじめ。そして儒烏風亭らでんは勢いよく扇子を広げ掲げた。
「最初のゲームマスターは、烏風亭一門は前座見習いrrrrrrらでんが務めます!」
そして地獄のクリスマスワードウルフが始まったのであった。
(一体、何なんだコイツら!? どうしてサンタ相手にワードウルフを仕掛けるんだよッ!?)
× × ×
這《ほ》う這《ほ》うの体で何とか青が天空の城へ逃げ帰った時には、既に日が昇っていた。ばさりとサンタの緋色の着ぐるみを脱ぎ捨て、談話室のソファーに体を投げ出した青。
「あ、おはよう。それともお帰りかな? どうだった?」
それに声を掛けたのは、好物のうどんをつついているかなたであった。早速生活に順応し、なか卯の天界店で買ってきたようである。
「相変わらず、訳の分からない奴らでしたよ」
不平を垂れながらも、青の口元はにやけている。どうやら彼女の方も、突飛なクリスマスを楽しめたようであった。
空の袋を畳もうとして青は手を止めた、中に何か入っているようである。
取り出したそれはReGLOSSのメンバーたちから青へのプレゼントとメッセージであった。
『いつかまた、みんなで遊ぼうね!』
手紙の末尾はそんな言葉で締められている。
ReGLOSSの少女達は青がやって来ると予想した上で、贈り物を用意して待ち構えていたのである。
この一連のサプライズがきっと、四人から青へのクリスマスプレゼントなのだ。
結局は青と考えることは一緒だったのである。
自身が卒業しても失われない、その温かい紐帯に青は涙ぐみそうになってしまう。
それを天使の少女は、微笑みながら見守るのだった。
「同期の絆は特別なキセキが結んだものだから、卒業したからって無くならないんだよ」
了