日常のホロライブSS(一話完結の短編集) 作:Sano / セイノ
気泡が弾けてジュワ―と音を立てる油、その中で片栗粉の衣をまとった鶏肉が浮かんでいる。唐揚げは、今か今かと揚げ上がりを待つばかりであった。
漂う香ばしいかおりに鼻腔を満たされ、白上フブキのお腹がキューッと可愛いらしい音を立てて空腹を訴える。狐の少女は恥ずかしそうにお腹を押さえて、〝……うぅ〟と小さく声を漏らした。
その腹の虫の音が、隣で菜箸を握る大神ミオの笑みを誘った。
「ふふふ。お腹減ったね。フブキ」
「うん」
頃合いを見計らって、ミオは手際よく油を切っていく。
そして網上に並べられたのは、衣を艶やかなきつね色に染めた唐揚げたち。
ごくりと喉を鳴らす狐の少女、その手は既に服の裾がぎゅっと握りしめる程。
好物の唐揚げに目を釘付けにしながらも、今すぐにでも食べたい! という誘惑にフブキは抗っていたのである。
ホロライブゲーマーズのイベントを先日終えた面々は、ミオの家で慰労を兼ねたご飯会を開催することにしたのである。
猫又おかゆ、戌神ころねの二人が未だ揃っていない中、フブキは腹ペコ虫を我慢して堪えていた。
「味見する?」
助け舟を出したのは、見かねたミオであった。
狼の少女の誘いにフブキは狐耳をピンと立たせて、目を輝かせる。
「いいの?」
「ちょっとならね」
「じゃあ3個までにする!」
うっすらと白い湯気を立ち上らせる唐揚げに、狐の少女はあっさり陥落したのである。
「ふふふ……可愛い」
本来味見であれば一つ食べれば十分なところ、それを三つとしてしまうあたり彼女の欲求への素直さが垣間見える。
そんなフブキの屈託のなさに狼の少女はぽつりと内心を零してしまうのであった。
フブキはふぅふぅと唐揚げを冷まし、一口大のそれを口に放り込んだ。
さっくりとした衣に歯を立てると、柔らかい鶏の身から脂が口の中に溢れ出す。
それは生姜と出汁のほのかな風味が引き立てる、鶏肉と醤油の旨味の奔流。フブキはその流れの中に、五感を総動員して浸ったのであった。
「ん~~!!」
大好物をもぐもぐと噛み締めながら、フブキは満面の笑みを浮かべて両手を頬に当てる。その身から漏れ出す幸福感が、空中に小花をぽんぽんと咲かせて周囲を彩るのであった。
× × ×
「うぅ~……食べちゃった」
約束の三つを食べ終えてしまい、狐の少女はあどけない笑みをしゅんとさせる。
力なく狐耳を垂らし肩を落としたフブキ、その無邪気な姿に、ミオの胸中を愛おしさが満たすのであった。
もう一個くらいは食べさせてやりたい、とミオは思う。
とはいえ、フブキは自らが定めた取り決めもきちんと守る生真面目な狐であった。
そこで狼の少女は一計を巡らせたのである。
「じゃあフブキ。おかゆんところねもきっともうすぐ来るから、いろいろテーブルに運んじゃおうか」
「うん」
頷いたフブキに、ミオは二人の食器を渡して並べさせたのであった。
「確認ね。大きい取り皿いくつあった?」
「二つだよ」
ミオの簡単な問をフブキが答えていく——
「小さい取りお皿は?」
「二つ」
「じゃあ、お箸は?」
「二つ」
「じゃあ、これで約束の三つ目だね。はい、あーんして」
そう言って、ミオは唐揚げを摘まんでとフブキの口元に差し出した。
それをフブキはぱくりと頬張り、幸せそうに目を細める。
「ん~うまい! ……ってあれ?」
はたと狐の少女は目をパチクリさせた。
「あっはっはっはっはっはっは」
小首を傾げるフブキの頭を、ミオは笑いながら撫でる。
かくしてミオの唐揚げ算術により、狐の少女は狐につままれたような顔をしながら、唐揚げをもう一つ堪能したのであった。
ちなみに、今度はフブキとミオ用の食器を並べさせ、ミオはまたも同じことを繰り返す。
これには〝謀ったな、ミオ―!〟と流石にツッコみを入れつつも、フブキもまたご満悦の様子でもぐもぐするのである。
そして、その微笑ましい光景は狼の少女をも喜ばせる。
唐揚げ算、それは唐揚げが繋ぐ幸せの掛け算。
了