緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第5話:世界再編魔法(ユニバースワン)

マグノリア上空から、緋色の影が去っていった。

残されたのは、半壊したギルドと、茫然自失とする魔導士たち。

 

「……ちくしょうッ!!」

ナツが地面を殴りつける。

「届かねえのかよ! あんな近くにいたのに! なんでだよ!」

 

涙を流して悔しがるナツの肩に、マカロフが手を置いた。

「……落ち着け、ナツ」

「じっちゃん! でもウェンディが……あいつ、自分からあっちに行っちまったんだぞ! 俺たちのこと、何も覚えてなかったぞ!」

「ああ。……ウェンディの心は今、深い闇の中じゃ」

マカロフは空を見上げ、険しい表情で呟いた。

「アイリーン・ベルセリオン……。アルバレス帝国の双璧。『緋色の絶望』と呼ばれる女。ウェンディを取り戻すには、あの女を倒し、その呪縛を解くしかないんじゃ」

 

ナツが顔を上げる。その瞳に、再び炎が宿る。

「……ああ。やってやる」

ナツは誓った。

「アイリーンだか何だか知らねえが、ウェンディをあんな風にした奴は絶対に許さねえ。……今度こそ連れ戻す。記憶がねえなら、何度だって教えてやる。俺たちが家族だってな!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の新たな戦いが始まろうとしていた。

しかし、敵は彼らに準備の時間を与えなかった。

フィオーレ王国北部、ジルコン山脈。

アイリーンが魔法陣を展開していた場所。

 

ウェンディは、アイリーンの背後に音もなく着地した。

「戻りました、マザー」

「お帰り、ウェンディ。……楽しかったかしら? 故郷の破壊は」

 

アイリーンは杖を掲げたまま、背中越しに問いかける。

ウェンディは無表情で答えた。

「不快でした。……弱者たちが群れて、家族ごっこをしている姿は」

「ふふっ。そうね。……では、終わらせましょうか」

 

アイリーンが杖を天に突き刺す。

上空に展開された巨大な「目」が、フィオーレ全土を見下ろす。

「この国の形そのものを変え、ゼレフ陛下を『妖精の心臓(フェアリーハート)』へ導く。……そして、煩わしいアクノロギアを遠くへ追いやる」

 

大気が悲鳴を上げる。

大地が震え、空の色が変わる。

 

「『世界再編魔法(ユニバースワン)』」

 

カッッッ!!!!!!

 

強烈な閃光が、フィオーレ王国全土を包み込んだ。

空間が歪み、距離が狂い、存在する全ての位置情報がランダムに書き換えられていく。

マグノリアの街が、ギルドが、山が、海が、パズルのピースのようにバラバラになり、再構築されていく。

 

「うわあああああああッ!?」

「何だこれはァァァッ!?」

「じっちゃん! ルーシィ!!」

ナツたちの悲鳴も、光の中に消えていった。

光が収まった時。

世界は一変していた。

 

「……ここ、どこだよ?」

 

ナツが目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中だった。

隣にはルーシィとハッピーがいるが、グレイやエルザ、マカロフの姿はない。

「ギルドが……ない!」

ルーシィが青ざめる。

マグノリアの街並みは消え、全く別の地形に放り出されていたのだ。

「バラバラにされたってことか……!」

ナツが鼻を鳴らす。

「ウェンディの匂いも……混ざっててわかんねえ! くそっ、どこに行けばいいんだ!」

 

一方。

王都クロッカスがあった場所は、巨大な「城」へと変貌していた。

アイリーンが魔法で再構築した、アルバレス帝国の新たな本拠地だ。

 

その城門の前。

一人の女魔導士が、剣を構えて立っていた。

エルザ・スカーレットだ。

 

「……ユニバースワン。世界を再構築する魔法か」

エルザは瞬時に状況を理解していた。

そして、目の前にそびえ立つ城から、強烈な二つの魔力を感じ取っていた。

一つは、アイリーン・ベルセリオン。

そしてもう一つは、彼女を守る「緋色の姫竜」。

「……通すわけにはいきません」

 

城門の影から、ウェンディが姿を現した。

右半身を黒い鱗に覆われ、竜の翼を広げた異形の姿。

その瞳は、エルザを「敵」として認識し、冷たく光っている。

「ウェンディ……」

エルザが剣を握りしめる。

「どいてくれ。私はお前と戦いたくない。……アイリーンに会わねばならないんだ」

「マザーの名を気安く呼ばないでください」

ウェンディが杖を構える。

周囲の空気が、重く、鋭く張り詰める。

「ここはマザーの城。……入る者は、死体だけと決まっています」

 

殺気。

ナツと戦った時以上の、純粋な殺意。

エルザは悟った。言葉は届かない。

この「緋色の姫竜」を倒さなければ、真実(アイリーン)にはたどり着けないのだと。

「……仕方あるまい」

エルザが換装する。

『天輪の鎧』。

 

「来るなら来なさい、エルザ・スカーレット。……あなたのその鎧ごと、砕いて差し上げます」

世界が再編された混沌の中で、因縁の戦いが幕を開ける。

妖精の女王(ティターニア)対、緋色の姫竜。(スカーレット・プリンセス)

その戦いの行く末を、城の最上階からアイリーンが愉悦の笑みで見下ろしていた。

 




次回、「第6話:女王と姫竜、緋色の真実」
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