緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第6話:女王と姫竜、緋色の真実

巨大な城塞へと変貌した帝都の門前。

妖精の女王(ティターニア)と緋色の姫竜が対峙していた。

 

「……どいてくれ、ウェンディ。私はお前と戦いたくない」

エルザが剣を構えながら、悲痛な声で呼びかける。

しかし、対峙するウェンディの反応は、氷のように冷徹だった。

「……理解不能です、エルザ・スカーレット」

 

ウェンディは無機質な瞳でエルザを見据えた。

かつてのように「エルザさん」とは呼ばない。

他人行儀なフルネーム。敵性個体識別名。

その呼び方の変化だけで、エルザの胸が締め付けられるように痛んだ。

「貴女は侵入者であり、マザーの敵。……それ以上の認識はありません」

「ウェンディ……!」

「排除します」

 

ドォォォォンッ!!

ウェンディが地面を蹴る。

速い。エルザの動体視力ですら捉えきれない速度。

 

「換装! 『天輪の鎧』!」

エルザは瞬時に鎧を変え、無数の剣を展開する。「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!」

数百の剣がウェンディを襲う。

 

だが、ウェンディは避けることすらしなかった。

彼女は右腕――黒い竜鱗に覆われた腕を無造作に振るっただけ。

 

ガガガガガガッ!!

金属音が響き渡り、エルザの剣が全て砕け散った。

「なっ……!?」

「硬度が足りません。……ナツ・ドラグニル同様、貴女の攻撃は軽すぎます」

 

ウェンディが懐に飛び込む。

風を纏った蹴り。

「ぐはっ……!」

エルザはとっさに『金剛の鎧』で防御したが、衝撃を殺しきれず、城壁まで吹き飛ばされた。

 

「強すぎる……。これが今のウェンディなのか……」

 

エルザが瓦礫から立ち上がる。

魔力の質が違う。竜の力と、高位付加術(ハイ・エンチャント)による自己強化。

今の彼女は、スプリガン12の上位陣に匹敵する怪物だ。

 

「終わりです、エルザ・スカーレット」

ウェンディが右手をかざす。

掌に収束するのは、漆黒の風。

 

「『滅竜奥義・照破・黒天穿(しょうは・こくてんせん)』」

 

放たれようとする必殺の風。

エルザが覚悟を決めて剣を握り直した、その時。

 

「――そこまでよ、ウェンディ」

 

凛とした声が、戦場に響いた。

ウェンディの動きがピタリと止まる。殺気が霧散し、忠実な下僕の顔に戻る。

「……マザー」

城壁の上に、一人の女性が立っていた。

緋色の髪。巨大な杖。

圧倒的な存在感を放つ、「緋色の絶望」アイリーン・ベルセリオン。

 

「よくやったわ。……相変わらず、良い手際ね」

アイリーンは微笑みながら、ゆっくりと空を歩いて降りてくる。

そして、エルザの前に立った。

「久しぶりね、エルザ」

「……貴様が、アイリーンか」

エルザは警戒心を露わにする。

「なぜ私の名を知っている? なぜウェンディをあんな姿にした?」

 

「ふふっ。質問が多いわね」

アイリーンはクスクスと笑い、そして残酷な事実を口にした。

「私の名を知っているのでしょう? ……私はお前の母親よ」

 

ドクン。

 エルザの思考が停止した。

「……は?」

「正確には、お前を産み落とし、そして捨てた女。……どう? 感動の再会でしょう?」

アイリーンの口調には、娘への愛情など微塵もなかった。あるのは、壊れた玩具を見るような冷たい興味だけ。

「そしてウェンディ……この子は、お前の代わりよ」

アイリーンはウェンディの肩を抱き寄せた。

ウェンディはうっとりと瞳を細め、アイリーンの腰にすり寄る。

 

「お前には『竜の素質』がなかった。だから捨てた。……でも、この子は違う。素晴らしい器だわ。私の付加術を受け入れ、見事に『竜』へと進化してくれた」

アイリーンはウェンディの鱗を指先でなぞる。

「ナツ・ドラグニルの父親を殺した罪悪感。……その心の隙間に、私の愛を注ぎ込んだ。今やこの子は、私のためだけに生き、私のためだけに殺す、最高の娘(ドーター)よ」

 

エルザの全身が震えた。

怒りで。

自分を捨てたことへの怒りではない。

ウェンディを……純粋で優しかった少女を、自分の代用品として、都合の良い人形に作り変えたことへの、激しい憤怒。

 

「……貴様ッ!!」

エルザが吼える。

「ウェンディは物じゃない! 家族だ! お前のエゴで、あの子の人生を狂わせるな!」

エルザが剣を振り上げる。

だが、その剣はアイリーンに届かなかった。

 

ガギィィィンッ!!

 

ウェンディが割って入ったのだ。

エルザの剣を、素手で受け止めている。

その瞳は、怒りに燃えていた。

「……マザーを愚弄するな、エルザ・スカーレット」

ウェンディの声は、地を這うように低かった。

そこには、かつての「妹分」の面影はなかった。

「貴女に何がわかる? 私の絶望を。孤独を。……マザーだけが私を救ってくれた。私に生きる意味をくれた!」

 

ウェンディの魔力が爆発する。

彼女は、本気でエルザを殺そうとしていた。

実の母を殺そうとする、かつての姉弟子を。

 

「消えろォォォォォッ!!」

 

ドゴォォォォォンッ!!

ウェンディの咆哮と共に、至近距離からの風圧がエルザを吹き飛ばす。

エルザは城壁を突き破り、遥か彼方へと弾き飛ばされた。

「……ふふっ。良い子ね、ウェンディ」

アイリーンは満足げに頷いた。

 

「さあ、行きましょう。……本当の『竜王祭』はこれからよ」

二人の緋色の影が、城の中へと消えていく。

エルザは遠く離れた瓦礫の中で、意識を失う直前に誓った。

(……必ず、救い出す。……あの毒婦から、私の妹分(ウェンディ)を……!)

 

因縁は深まり、戦いは激化する。

次にナツたちがこの城へたどり着く時、それが最後の決戦となる。

 




次回、「第7話:凍てつく炎、燃え上がる氷」
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