緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第7話:凍てつく炎、燃え上がる氷

世界再編魔法(ユニバースワン)によって極寒の吹雪が吹き荒れる大地。

ナツとグレイは、スプリガン12の一人、「冬将軍」インベル・ユラと対峙していた。

 

「……思考が停止していますね、貴方たちは」

インベルが眼鏡の位置を直し、冷徹に見下ろす。

「仲間? 絆? そのような不確定要素で、我が皇帝ゼレフ陛下に勝てると思っているのですか」

「うるせえ! ここを通してゼレフの所へ行かせろ!」

ナツが炎を纏って殴りかかるが、インベルの絶対零度の冷気がそれを阻む。

炎すら凍る寒さ。ナツの身体に霜が降りる。

「無駄です。……貴方たちには、同士討ちをしていただきましょう」

インベルが手をかざす。

「『アイスロック』」

 

ジャラッ!!

氷の鎖がナツとグレイの首を繋いだ。

「な、なんだこれ……!?」

「身体が……勝手に……!」

二人の意思とは裏腹に、拳が動き出す。

ドガッ! バキッ!

ナツがグレイを殴り、グレイがナツを蹴る。

「やめろ……! 動くな俺の体ァ!」

「意識が……操られてやがる……!」

インベルは冷ややかに告げた。

「その鎖は、どちらかが死ぬまで解けません。さあ、殺し合いなさい。友の命を奪い、絶望の中で死ぬのです」

 

殴り合う二人。流れる血。

もはやこれまでかと思われた、その時だった。

ヒュオオオオオオオッ……。

猛吹雪を切り裂き、上空から「緋色の影」が舞い降りた。

ドォンッ!!

地面を砕いて着地したのは、半身を黒い鱗に覆われたウェンディだった。

 

「……見苦しいですね」

ウェンディは、血まみれで殴り合う二人を無感情に見下ろした。

「仲間同士で殺し合いですか? 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の結束など、所詮はその程度ということですね」

「ウェンディ……!」

グレイが苦悶の表情で名を呼ぶ。

「逃げろ……! 俺たちに近づくな……!」

しかし、ウェンディは杖を構えた。

助けに来たのではない。

彼女の竜の瞳が、二人をまとめて「標的」としてロックオンしたのだ。

 

「手間が省けました。……インベル、下がっていなさい。私がまとめて掃除します」

「ほう。緋色の姫竜か。……手出しは無用と言いたいところですが、貴女の力なら確実でしょう」

インベルが一歩下がる。

ウェンディの口元に、冷酷な光が集束する。

鎖で繋がれ、回避不能な二人へのトドメ。

 

「『天竜の……咆哮』」

 

放たれようとする死の風。

ナツは鎖に抗おうと藻掻くが、身体が動かない。

死ぬ。二人とも、ウェンディの手によって。

それはウェンディに「兄殺し」の業を背負わせる最悪の結末。

 

(……させるかよ)

 

グレイの瞳が、漆黒に染まった。

右半身に黒い紋様が浮かび上がる。

父から受け継ぎ、冥府の門で手に入れた、悪魔を狩る力。

 

(ナツも殺させねえ。……そしてウェンディ、お前もだ!)

(お前のその腐った竜の血、俺が冷ましてやる!)

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!!」

グレイの咆哮と共に、世界が黒く染まった。

『氷魔零ノ太刀(ひょうまゼロのたち)』。

 

パキィィィィィンッ!!!!

 

一瞬だった。

ウェンディが放った咆哮が、空中で凍りつき、砕け散った。

それだけではない。

二人を繋いでいた「アイスロック」の鎖すらも、黒い氷に侵食され、粉々に砕け散ったのだ。

「なっ……!?」

インベルが驚愕に目を見開く。

「私の氷を凍らせた……だと!?」

ウェンディもまた、動きを止めていた。

黒い氷の余波が、彼女の右半身――竜の鱗を直撃していたからだ。

 

「あ……が……ぁ……?」

ウェンディが鱗を押さえて後ずさる。

痛い。熱い。いや、冷たい。

滅悪魔法(デビルスレイヤー)の特異な魔力が、竜化した細胞に拒絶反応を起こさせている。

絶対的な防御力を誇った鱗に、ヒビが入っていく。

 

「そんな……私の鱗が……マザーの力が……!」

ウェンディの顔に、初めて「動揺」が走った。

無敵だと思っていた力が通じない。

恐怖。1年前に忘れたはずの、人間らしい恐怖が蘇る。

 

「ウェンディ!!」

黒い氷を纏ったグレイが、鬼の形相で叫ぶ。

「目を覚ませ! その鱗はお前を守る鎧じゃねえ! お前を閉じ込める檻だ!」

 

「ひっ……!?」

ウェンディは怯えたように翼を広げた。

目の前の男(グレイ)が、悪魔のように恐ろしく見えた。

今の彼女は、アイリーンの庇護がなければ戦えない精神状態。

想定外の反撃に、心が折れかけた。

 

「……撤退。撤退します」

ウェンディは震える声で呟き、空へと舞い上がった。

「待てェッ!!」

ナツが叫ぶが、ウェンディは逃げるように吹雪の向こうへと消えていった。

 

残されたのは、驚愕するインベルと、魔力を解放しきったグレイ、そして自由になったナツ。

 

「……へっ。逃げ足の速いこって」

グレイが荒い息を吐きながら、ナツの方を向いた。

「ナツ、行け。ウェンディを追え。……あいつ、かなり動揺してた。今なら言葉が届くかもしれねえ」

「グレイ、お前……」

「こいつ(インベル)は俺がやる。……あいつの目を覚まさせてやれんのは、お前しかいねえだろ」

ナツはニカっと笑った。

「ああ! 任せとけ! 後で合流な!」

ナツがウェンディの消えた方角へ走り出す。

 

グレイはインベルに向き直り、拳を鳴らした。

「さて、冬将軍さんよ。……ここからはサシの勝負だ。たっぷり礼をさせてもらうぜ」

吹雪の中、氷と氷の激突が始まる。

そしてナツは、逃げ去った緋色の姫竜を追い、決戦の地へとひた走る。

 




次回、「第8話:二人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)」
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