緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第10話:炎の咆哮、母の呪縛

荒野に吹き荒れるのは、ナツの炎と、それを掻き消すウェンディの緋色の風。

 

「どけウェンディ!! 俺の用があるのはその後ろの女だ!!」

ナツが炎を纏った拳を突き出す。

しかし、ウェンディは一歩も引かない。

「通しません!! マザーに指一本触れさせない!!」

ドゴォォォォンッ!!

ウェンディが展開した防壁(エンチャント・シールド)が、ナツの炎を完全に遮断する。

以前とは桁違いの硬度。

アイリーンによる強化(バフ)が掛かっているのだ。

 

「ふふっ。頑張りなさい、ウェンディ」

背後でアイリーンが優雅に杖を振るう。

「『高位付加(ハイ・エンチャント)・狂戦士(バーサーカー)』」

 

ズンッ!!

ウェンディの瞳が赤く発光し、全身の筋肉が膨張する。

理性を削り、身体能力を強制的に引き上げる付加術。

通常なら肉体が崩壊するほどの負荷だが、竜化したウェンディの体はそれに耐えてしまう。

 

「あ、が……ッ!!」

ウェンディが苦悶の声を上げる。

痛い。全身が引き裂かれそうだ。

けれど、この痛みこそが「マザーの愛」。罰を受けている証拠。

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!!」

 ウェンディが獣のような咆哮を上げ、ナツに突っ込む。

「『天竜の……砕牙』!!」

 

ガギィィィンッ!!

風の爪がナツの腹を抉る。

「ぐあぁっ!?」

ナツが吹き飛ばされ、岩山に叩きつけられる。

 

「ハァ……ハァ……! やりました、マザー!」

ウェンディが血走った目で振り返り、褒めてほしそうに笑う。

その姿は、あまりにも痛々しい。

 

「ええ。いい子ね」

アイリーンは冷ややかに微笑んだ。

「でも、まだ生きてるわ。……トドメを刺しなさい」

アイリーンが杖を向ける。

その先には、血まみれで立ち上がるナツ。

 

「……了解」

ウェンディが空へ舞い上がる。

大気中の魔力(エーテルナノ)が全て彼女の口元へ吸い込まれていく。

最大出力の滅竜奥義。

 

「ウェンディ……!」

ナツが歯を食いしばる。

(あいつ、体ボロボロじゃねえか……! アイリーンの強化魔法に体が悲鳴を上げてる! このままじゃ自滅するぞ!)

 

「やめろォォォッ!!」

ナツが叫ぶが、ウェンディは止まらない。

彼女にとって、自分の命などマザーへの供物に過ぎないのだ。

 

「消えなさい、ナツ・ドラグニル!!」

 

ドォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 

放たれたのは、山脈一つを消滅させるほどの極太のブレス。

ナツは逃げられない。受けるしかない。

だが、受ければ死ぬ。反撃すればウェンディを殺してしまう。

 

絶体絶命の刹那。

 

キィィィィィィィンッ!!!!

 

一閃。

緋色の軌跡が、ウェンディのブレスを真っ二つに切り裂いた。

 

「な……!?」

ウェンディが驚愕に目を見開く。

ブレスが霧散し、その中心に一人の女剣士が立っていた。

 

赤髪の鎧の戦士。

エルザ・スカーレット。

 

「……間に合ったか」

エルザが剣を下ろす。その手は微かに震えていた。

目の前の光景――ボロボロになりながらもアイリーンを守ろうとするウェンディの姿に、怒りで視界が歪む。

「エルザ!」

ナツが叫ぶ。

「無事だったか!」

「ああ。グレイから聞いた。……まさか、これほど酷いことになっているとはな」

エルザは鋭い視線をアイリーンに向けた。

 

「アイリーン・ベルセリオン……! 貴様、実の娘である私を捨てただけでは飽き足らず、私の妹分まで道具にするか!!」

その言葉に、ウェンディが反応した。

「……妹分? 道具?」

彼女はゆらりとエルザの前に立ち塞がった。

 

「訂正してください、エルザ・スカーレット」

ウェンディの声は低い。

「私は道具ではありません。マザーの愛娘です。……貴女こそ、マザーに捨てられた『失敗作』のくせに、偉そうな口を叩かないで」

 

その言葉は、エルザの心に深々と突き刺さった。

かつて「お姉ちゃんみたい」と慕ってくれた少女が、今は自分を「失敗作」と罵り、自分を捨てた母を崇拝している。

これほど皮肉で、残酷な光景があるだろうか。

 

「……ウェンディ」

エルザは剣を構え直した。

悲しみを押し殺し、決意の瞳で。

 

「目を覚ませとは言わん。……力ずくでも連れ戻す。その歪んだ揺り籠から、お前を引きずり出してやる!」

「やってみなさい!!」

ウェンディが吠える。

 

戦場は四つ巴の様相を呈した。

ナツ・ドラグニル & エルザ・スカーレット

      VS

ウェンディ・ベルセリオン & アイリーン・ベルセリオン

 

偽りの母娘と、本物の家族。

血の繋がりと、魂の繋がり。

全ての因縁が交錯する、最終決戦が幕を開ける。

「ナツ、お前はウェンディを頼む。……私はアイリーンを討つ!」

「おう! 任せろ! 今度こそあいつの目を覚まさせてやる!」

 

「ふふっ。面白いわ」

アイリーンが杖を掲げる。

「さあ、始めましょうか。……愛と絶望のパーティーを」




次回、「第11話:断ち切る剣、繋ぐ炎」
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