轟音が荒野を揺るがす。
アイリーン・ベルセリオンの杖から放たれた極大魔法を、エルザが「金剛の鎧」で受け止める。
一方で、暴走するウェンディの猛攻を、ナツが炎の壁で防ぎ続けていた。
「ナツ! ウェンディを引き剥がせ! 私はアイリーンをやる!」
「おう! 任せろ!」
二人は視線を交わし、同時に地面を蹴った。
戦場が分断される。
――エルザ vs アイリーン
剣と杖が激突し、火花が散る。
アイリーンは余裕の笑みを浮かべたまま、空中に浮遊していた。
「相変わらず無粋ね、エルザ。……私のお腹を痛めて産んだ子とは思えないわ」
「黙れ! 貴様に母親面をされる筋合いはない!」
エルザが換装する。「妖刀紅桜」!
魔力を斬り裂く刃がアイリーンを襲うが、彼女は障壁(エンチャント)一つでそれを防いだ。
「ねえ、エルザ。……なぜ私が、お前をゴミのように捨てたか知りたい?」
アイリーンが残酷な問いを投げる。
「興味はない!」
「ふふっ。強がりね。……理由は簡単よ。お前が『不適合』だったから」
アイリーンの瞳が、冷酷に光る。
「私はかつて、人と竜の共存を望み、その果てに竜へと変貌してしまった。……私は人間に戻りたかった。だから、お前を産んだのよ」
エルザの動きが一瞬止まる。
「どういう……ことだ?」
「『人格付加(エンチャント)』。……私の人格を、新しい器である『娘(おまえ)』に移そうとしたの。けれど、お前の魔力は平凡で、私の強大な竜の力を受け止めきれなかった。……だから捨てたのよ。失敗作のガラクタとしてね」
衝撃の真実。
母の愛など最初からなかった。あったのは、己のエゴと、道具としての利用価値だけ。
「でも、ウェンディは違ったわ」
アイリーンは恍惚とした表情で、遠くで戦うウェンディを見やった。
「あの子は素晴らしい。天空の滅竜魔導士としての素質、そして罪悪感で壊れた心。……私の緋色の魔力を注ぎ込めば、スポンジのように吸収し、見事な『竜』へと羽化した」
「貴様……ッ!」
エルザの全身から、怒りのオーラが立ち昇る。
「ウェンディはお前の道具じゃない! 器でもない! 傷ついた一人の少女だ!」
「いいえ、あの子は私の最高傑作(ドール)よ。……お前なんかよりも、ずっと愛らしい私の娘」
ブチッ。
エルザの中で何かが切れた。
自分を捨てたことは許せる。だが、妹分を「代用品」として弄んだことだけは、絶対に許さない。
「その腐った性根……私が断ち切る!!」
エルザが特攻する。
母への未練など、今この瞬間に全て捨て去った。
――ナツ vs ウェンディ
一方、ナツは防戦一方だった。
ウェンディの攻撃が激しすぎるのだ。アイリーンの強化魔法(バーサーカー)に加え、ウェンディ自身の「守りたい」という狂気じみた執念が、彼女を鬼神に変えていた。
「ハァッ、ハァッ……! 近づくなッ! マザーの邪魔をするなァッ!!」
ウェンディの右腕が肥大化し、ナツを殴り飛ばす。
岩盤が砕け、ナツは血反吐を吐いて転がる。
「くそっ……! ウェンディ、お前……体がボロボロじゃねえか!」
ナツには見えていた。
ウェンディの皮膚が裂け、過剰な魔力負荷で血管が破裂しているのを。
彼女は命を削って戦っている。アイリーンの盾になるためだけに。
「関係ありません! マザーの役に立てるなら、この命なんて安いものです!」
ウェンディが叫ぶ。
「ナツ・ドラグニル! 貴方のような『持っている人』にはわからない! 罪人の私が、誰かに必要とされる喜びなんて!」
「……わかんねえよ」
ナツがゆらりと立ち上がる。
その瞳に、静かな怒りの炎が灯る。
「利用されてるだけだぞ! あいつはお前を愛してなんかねえ! 自分の都合のいい道具にしてるだけだ!」
「それでもいいッ!!」
ウェンディの絶叫が響く。
「道具でもいい! 人形でもいい! ……独りぼっちよりマシだ! 誰にも必要とされないよりマシなんだよォッ!!」
悲痛な叫び。
孤独への恐怖。
それが彼女を「緋色の揺り籠」に縛り付ける鎖の正体。
「……そうかよ」
ナツは息を吸い込んだ。
言葉じゃ届かねえ。
なら、熱(ハート)で伝えるしかねえ。
ボォォォォォォォォッ!!!!!
ナツの全身から、紅蓮の炎が噴き出した。
それは今までとは質の違う、王の威厳を纏った炎。
「だったら、その『道具』ごとぶっ壊してやる。……お前が縋り付いてるその鱗も、翼も、全部だ!」
ナツの右腕に、亡きイグニールの力が宿る。
『モード・炎竜王』。
「来いよウェンディ! お前の全部、俺が受け止めてやる!!」
「殺してやるぅぅぅぅぅぅッ!!」
ウェンディが突っ込む。
最大加速。音速を超えた「天竜の鉤爪」。
ナツもまた、正面から突っ込んだ。
回避などしない。
彼女の痛みも、孤独も、罪も、全てを焼き尽くすために。
「『炎竜王の……崩拳ンンンンッ!!』」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
拳と蹴りが激突する。
マグノリアの空を、二色の光が染め上げた。
ウェンディの纏う緋色の風と、ナツの燃え盛る希望の炎。
バキバキバキッ……!!
何かが砕ける音がした。
「あ……が……ぁ……!?」
ウェンディの目が見開かれる。
彼女の最強の鎧である、右半身の「竜の鱗」。
それが、ナツの拳の熱量に耐えきれず、粉々に砕け散り始めていた。
母から与えられた「竜」の証が、兄の「炎」によって剥がされていく。
その下から現れるのは、傷だらけの、ただの少女の肌だった。
次回、「第12話:砕かれた竜鱗、虚ろな人形」