緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第11話:断ち切る剣、繋ぐ炎

轟音が荒野を揺るがす。

アイリーン・ベルセリオンの杖から放たれた極大魔法を、エルザが「金剛の鎧」で受け止める。

一方で、暴走するウェンディの猛攻を、ナツが炎の壁で防ぎ続けていた。

 

「ナツ! ウェンディを引き剥がせ! 私はアイリーンをやる!」

「おう! 任せろ!」

 

二人は視線を交わし、同時に地面を蹴った。

戦場が分断される。

 

――エルザ vs アイリーン

 

剣と杖が激突し、火花が散る。

アイリーンは余裕の笑みを浮かべたまま、空中に浮遊していた。

「相変わらず無粋ね、エルザ。……私のお腹を痛めて産んだ子とは思えないわ」

「黙れ! 貴様に母親面をされる筋合いはない!」

 

エルザが換装する。「妖刀紅桜」!

魔力を斬り裂く刃がアイリーンを襲うが、彼女は障壁(エンチャント)一つでそれを防いだ。

「ねえ、エルザ。……なぜ私が、お前をゴミのように捨てたか知りたい?」

アイリーンが残酷な問いを投げる。

「興味はない!」

「ふふっ。強がりね。……理由は簡単よ。お前が『不適合』だったから」

 

アイリーンの瞳が、冷酷に光る。

「私はかつて、人と竜の共存を望み、その果てに竜へと変貌してしまった。……私は人間に戻りたかった。だから、お前を産んだのよ」

 

エルザの動きが一瞬止まる。

「どういう……ことだ?」

「『人格付加(エンチャント)』。……私の人格を、新しい器である『娘(おまえ)』に移そうとしたの。けれど、お前の魔力は平凡で、私の強大な竜の力を受け止めきれなかった。……だから捨てたのよ。失敗作のガラクタとしてね」

衝撃の真実。

母の愛など最初からなかった。あったのは、己のエゴと、道具としての利用価値だけ。

 

「でも、ウェンディは違ったわ」

アイリーンは恍惚とした表情で、遠くで戦うウェンディを見やった。

「あの子は素晴らしい。天空の滅竜魔導士としての素質、そして罪悪感で壊れた心。……私の緋色の魔力を注ぎ込めば、スポンジのように吸収し、見事な『竜』へと羽化した」

 

「貴様……ッ!」

エルザの全身から、怒りのオーラが立ち昇る。

「ウェンディはお前の道具じゃない! 器でもない! 傷ついた一人の少女だ!」

「いいえ、あの子は私の最高傑作(ドール)よ。……お前なんかよりも、ずっと愛らしい私の娘」

 

ブチッ。

エルザの中で何かが切れた。

自分を捨てたことは許せる。だが、妹分を「代用品」として弄んだことだけは、絶対に許さない。

「その腐った性根……私が断ち切る!!」

エルザが特攻する。

母への未練など、今この瞬間に全て捨て去った。

 

――ナツ vs ウェンディ

 

一方、ナツは防戦一方だった。

ウェンディの攻撃が激しすぎるのだ。アイリーンの強化魔法(バーサーカー)に加え、ウェンディ自身の「守りたい」という狂気じみた執念が、彼女を鬼神に変えていた。

「ハァッ、ハァッ……! 近づくなッ! マザーの邪魔をするなァッ!!」

ウェンディの右腕が肥大化し、ナツを殴り飛ばす。

岩盤が砕け、ナツは血反吐を吐いて転がる。

 

「くそっ……! ウェンディ、お前……体がボロボロじゃねえか!」

 

ナツには見えていた。

ウェンディの皮膚が裂け、過剰な魔力負荷で血管が破裂しているのを。

彼女は命を削って戦っている。アイリーンの盾になるためだけに。

 

「関係ありません! マザーの役に立てるなら、この命なんて安いものです!」

ウェンディが叫ぶ。

「ナツ・ドラグニル! 貴方のような『持っている人』にはわからない! 罪人の私が、誰かに必要とされる喜びなんて!」

「……わかんねえよ」

ナツがゆらりと立ち上がる。

その瞳に、静かな怒りの炎が灯る。

 

「利用されてるだけだぞ! あいつはお前を愛してなんかねえ! 自分の都合のいい道具にしてるだけだ!」

「それでもいいッ!!」

ウェンディの絶叫が響く。

「道具でもいい! 人形でもいい! ……独りぼっちよりマシだ! 誰にも必要とされないよりマシなんだよォッ!!」

悲痛な叫び。

孤独への恐怖。

それが彼女を「緋色の揺り籠」に縛り付ける鎖の正体。

 

「……そうかよ」

ナツは息を吸い込んだ。

言葉じゃ届かねえ。

なら、熱(ハート)で伝えるしかねえ。

 

ボォォォォォォォォッ!!!!!

ナツの全身から、紅蓮の炎が噴き出した。

 

それは今までとは質の違う、王の威厳を纏った炎。

「だったら、その『道具』ごとぶっ壊してやる。……お前が縋り付いてるその鱗も、翼も、全部だ!」

ナツの右腕に、亡きイグニールの力が宿る。

『モード・炎竜王』。

 

「来いよウェンディ! お前の全部、俺が受け止めてやる!!」

 

「殺してやるぅぅぅぅぅぅッ!!」

ウェンディが突っ込む。

最大加速。音速を超えた「天竜の鉤爪」。

 

ナツもまた、正面から突っ込んだ。

回避などしない。

彼女の痛みも、孤独も、罪も、全てを焼き尽くすために。

 

「『炎竜王の……崩拳ンンンンッ!!』」

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 

拳と蹴りが激突する。

マグノリアの空を、二色の光が染め上げた。

ウェンディの纏う緋色の風と、ナツの燃え盛る希望の炎。

 

バキバキバキッ……!!

何かが砕ける音がした。

 

「あ……が……ぁ……!?」

 

ウェンディの目が見開かれる。

彼女の最強の鎧である、右半身の「竜の鱗」。

それが、ナツの拳の熱量に耐えきれず、粉々に砕け散り始めていた。

 

母から与えられた「竜」の証が、兄の「炎」によって剥がされていく。

その下から現れるのは、傷だらけの、ただの少女の肌だった。

 




次回、「第12話:砕かれた竜鱗、虚ろな人形」
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