緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第21話:継承されし緋色、空への反撃

ドゴォォォォォォンッ!!

 マグノリアの大地が悲鳴を上げる。

 アクノロギアの拳が地面を叩き割るたび、地形が変わるほどの破壊が撒き散らされる。

「ハァ……ッ! ハァ……ッ!」

 ウェンディは宙を舞っていた。

 背中には風の翼。瞳には緋色の魔力光。

 アイリーンから受け継いだ「高位付加(ハイ・エンチャント)」の知識が、彼女の回避能力を極限まで高めていた。

「『物理耐性付加(フィジカル・エンチャント)・鋼鉄の風』!」

 ウェンディが叫ぶ。

 アクノロギアの爪が彼女を捉えた瞬間、空気の密度を鋼鉄以上に硬化させ、衝撃を滑らせる。

「ほう。……小賢しい真似を」

 アクノロギアが鼻で笑う。

 彼の爪は、鋼鉄の空気ごと空間を引き裂いた。

「だが、魔力である以上、我が牙の前では餌に過ぎん」

 バクリ。

 アクノロギアが空間ごとかぶりつく。

 ウェンディの付加術が、一瞬にして喰らい尽くされ、無効化された。

「くっ……!」

 防御が消えたウェンディの身体が、衝撃波で吹き飛ばされる。

 地面を転がり、アイリーンの遺体の前で止まる。

「マザー……!」

 ウェンディはすぐに立ち上がり、再び遺体を背に庇った。

 全身から血が噴き出している。魔力も底をつきかけている。

 それでも、彼女は退かない。

(怖い……足が震える……)

(でも、ここで逃げたら……マザーが生きた証まで消されてしまう!)

 アイリーンは最期に、ウェンディの心を救ってくれた。

 その優しさを、その尊厳を、この黒い竜に踏みにじらせるわけにはいかない。

「まだです……! まだ私は、倒れていません!」

 ウェンディが杖を構える。

 その姿に、アクノロギアは冷酷な宣告を下した。

「飽きた」

 ズオォォォォォォ……ッ。

 アクノロギアの口元に、青白い光が収束する。

 それは、天狼島を消滅させたあの「咆哮」と同じ輝き。

「賢竜の残り香ごと、塵と消えよ」

 回避不可能。防御不可能。

 ウェンディは悟った。これは防げない。

 彼女は杖を捨て、背後のアイリーンの亡骸に覆いかぶさった。

(ごめんなさい、マザー……。せめて、私が盾になります……)

 世界が白く染まる。

 終焉の光が放たれた。

 ――その時。

「『炎竜王の……崩拳ンンンンッ!!!!』」

 ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 横合いから突っ込んできた紅蓮の火の玉が、アクノロギアの顔面を強打した。

 咆哮の軌道がわずかにズレる。

 光の奔流は、ウェンディの真横数メートルを通過し、遥か彼方の山脈を消滅させた。

「な……!?」

 ウェンディが顔を上げる。

 もうもうと立ち込める土煙の中、一人の男が立っていた。

 全身から湯気を上げ、燃え盛る瞳で竜王を睨みつける男。

「ナツ……さん……」

 ナツ・ドラグニルだ。

 彼はウェンディの方を振り返らず、背中で語りかけた。

「よくやった、ウェンディ」

 その声は優しく、力強かった。

「お前が守ったもんは、ちゃんと残ってるぞ」

 ウェンディが見ると、アイリーンの遺体には傷一つついていなかった。

 彼女の必死の抵抗は、無駄ではなかったのだ。

「う……うぅ……っ!」

 ウェンディの目から、安堵の涙が溢れ出した。

「また来たか、羽虫が」

 アクノロギアが顎をさする。ナツの一撃すら、彼には軽い痛痒に過ぎない。

「何度来ようと同じだ。我が前では全ての竜は無力」

「一人じゃな」

 ナツがニカっと笑った。

「だが、俺たちには『数』があるぜ?」

 キィィィィィン!!

 空気を切り裂く音と共に、鉄の杭がアクノロギアの足元に打ち込まれた。

「ギヒッ。待たせたな、サラマンダー」

 影から現れたのは、鉄の滅竜魔導士ガジル・レッドフォックス。

「俺達も混ぜてくださいよ! ナツさん!」

「遅れてすまない!」

 光と影が交差する。

 白竜のスティング、影竜のローグも駆けつけた。

 さらに、遠くから雷鳴が轟き、毒の霧が漂う。

 ラクサスとコブラも接近している気配がある。

「これは……」

 エルザが瓦礫の影から見つめる。

 揃った。

 400年前から計画された、竜王を倒すための唯一の希望。

 7人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちが。

「行くぞ、お前ら!!」

 ナツが拳を合わせる。

「ウェンディ! お前もだ! 立てるか!?」

 ウェンディは涙を拭い、アイリーンの亡骸に小さく頷いた。

 (行ってきます、マザー。……貴女の魔法で、未来を掴んできます)

「はいッ!!」

 ウェンディが立ち上がる。

 その背中には、もう迷いも、恐怖もない。

 緋色の風と、天空の風を纏い、彼女は再び戦場へと舞い戻った。

 対峙するのは、絶望の竜王アクノロギア。

 挑むのは、時代を超えて集いし7人の狩人たち。

 最後の戦い、竜王祭(ドラゴンキング・フェスティバル)の幕が上がる。




次回、「第22話:七つの炎、一つの希望」
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