緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第22話:七つの炎、一つの希望

 マグノリアの荒野に、7つの影が並び立つ。

 ナツ、ガジル、ウェンディ、スティング、ローグ。

 そして遅れて到着したラクサスと、ジェラールと共に現れたコブラ(エリック)。

 時代を超え、場所を超え、この瞬間のために集いし「竜を狩る者」たち。

「壮観だな。……だが、羽虫が増えたところで、王の座は揺るがん」

 アクノロギアは、腕を組んだまま冷笑した。

 その体から放たれる魔力だけで、大気が悲鳴を上げている。

「減らず口叩いてんじゃねえ! 行くぞォッ!!」

 ナツが先陣を切る。

「あいよ! 『鉄竜の……咆哮ォッ!!』」

「『白竜の……咆哮ォッ!!』」

「『影竜の……咆哮ォッ!!』」

 全方位からの同時ブレス攻撃。

 属性の異なる最強クラスの滅竜魔法が、一点に集中してアクノロギアを襲う。

 ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!! 

 爆発的なエネルギーが炸裂する。

 しかし、煙が晴れたそこには、傷一つないアクノロギアが立っていた。

 いや、立っていただけではない。彼は口元を拭っていた。

「ぬるい。……全て喰らい尽くしたわ」

 アクノロギアは、着弾した瞬間に全ての魔法を「食べた」のだ。

「嘘だろ……!? 全属性有効じゃねえのか!?」

 スティングが驚愕する。

「魔法にならん。……奴には『魔力』そのものが通じねえ!」

 ラクサスが雷を纏いながら歯噛みする。

 アクノロギアは魔法を無効化するどころか、糧として吸収してしまう。

 魔法で戦う魔導士にとって、それは詰み(チェックメイト)を意味していた。

「ならば、物理で砕くのみ!」

 エルザが換装して斬りかかるが、アクノロギアの鋼鉄の皮膚には傷一つつかない。

「硬すぎる……! これが竜の王か……!」

「終わりだ」

 アクノロギアが手をかざす。

 終焉の光が収束する。

 全員が息を呑んだ。防げない。食べられる。そして砕かれる。

 その時。

 ウェンディが前に進み出た。

「……いいえ。通じます」

 彼女の瞳が、緋色に輝いた。

「ウェンディ?」

 ナツが見る。

「魔法が食べられるなら……食べられない形に変えればいいんです!」

 ウェンディが杖を掲げる。

 彼女の脳裏に、アイリーンが遺した膨大な付加術(エンチャント)の知識が駆け巡る。

 マザーが教えてくれた。

 付加術とは、魔力をぶつけることではない。

 魔力を使って、そこに在る「理(ことわり)」を書き換えることだと。

「みんな! 私に魔力を預けてください! ……私が『変換』します!」

「わかった! 任せるぜウェンディ!」

 ナツが迷わず魔力を解放する。

 他の6人もそれに続く。

 ウェンディは、集まった膨大な魔力を受け止め、複雑な術式を編み上げる。

「『高位付加(ハイ・エンチャント)・魔力物理化(マジカル・コンバージョン)』!!」

 キィィィィィン!! 

 ナツたちの拳や武器を覆っていた「魔力の光」が、一瞬にして重く、硬質な「物理エネルギー」へと変質した。

 炎の熱さが「衝撃」へ。

 鉄の硬さが「質量」へ。

 雷の速さが「加速」へ。

「これは……拳が重くなりやがった!」

 ガジルがニヤリと笑う。

「マザーの力です。……魔力としての性質を消し、純粋な物理攻撃力として付加しました! これなら食べられません!」

「でかしたウェンディ!!」

 ナツが地面を蹴る。

 魔力の炎ではなく、圧倒的な質量の赤熱した拳。

「『炎竜王の……崩拳ンンンッ!!!!』」

 ドゴッ!!!!!! 

 鈍い音が響いた。

 アクノロギアが、初めて顔を歪めた。

「ぐ……っ!?」

 食べられない。吸収できない。

 ただただ痛い、物理的な打撃がその頬を打ち抜いたのだ。

「効いたぞ!! 畳み掛けろォッ!!」

 ラクサスが突っ込む。コブラが毒の爪を突き立てる。

 スティングとローグが連携攻撃を叩き込む。

 ドカッ! バキッ! ズドンッ! 

 7人の怒涛の連撃が、無敵の竜王を後退させる。

「おのれ……! 小賢しい真似を……!」

 アクノロギアが口元の血を拭う。

 その視線が、後方で杖を掲げる小さな少女──ウェンディに向けられた。

「賢竜の娘か。……死してなお、我が覇道の邪魔をするか、アイリーン!」

「マザーは死んでいません!」

 ウェンディが叫び返す。

 風が彼女の髪を揺らす。その姿は、かつての「泣き虫」ではない。

 緋色の意思を継ぎ、仲間を導く「竜の巫女」の姿だった。

「私の心に……そしてこの魔法の中に、マザーは生きています! だから貴方には負けない!!」

 アクノロギアの表情から余裕が消えた。

 彼は初めて、目の前の人間たちを「狩るべき敵」として認識した。

「よかろう。……ならば見せてやる。真の絶望を」

 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!! 

 空間が裂け、時空の歪みが発生する。

 「時の狭間」。

 すべての魔力が無に帰す、虚無の世界への扉が開かれた。

「貴様ら全員、時の彼方へ葬り去ってやる!!」

 最強の竜王が本気を出す。

 しかし、7つの炎は消えない。

 ウェンディという希望の風を受けて、より激しく燃え上がるのみ。




次回、「第23話:時の狭間、繋がる想い」
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