マグノリアの荒野に、7つの影が並び立つ。
ナツ、ガジル、ウェンディ、スティング、ローグ。
そして遅れて到着したラクサスと、ジェラールと共に現れたコブラ(エリック)。
時代を超え、場所を超え、この瞬間のために集いし「竜を狩る者」たち。
「壮観だな。……だが、羽虫が増えたところで、王の座は揺るがん」
アクノロギアは、腕を組んだまま冷笑した。
その体から放たれる魔力だけで、大気が悲鳴を上げている。
「減らず口叩いてんじゃねえ! 行くぞォッ!!」
ナツが先陣を切る。
「あいよ! 『鉄竜の……咆哮ォッ!!』」
「『白竜の……咆哮ォッ!!』」
「『影竜の……咆哮ォッ!!』」
全方位からの同時ブレス攻撃。
属性の異なる最強クラスの滅竜魔法が、一点に集中してアクノロギアを襲う。
ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!
爆発的なエネルギーが炸裂する。
しかし、煙が晴れたそこには、傷一つないアクノロギアが立っていた。
いや、立っていただけではない。彼は口元を拭っていた。
「ぬるい。……全て喰らい尽くしたわ」
アクノロギアは、着弾した瞬間に全ての魔法を「食べた」のだ。
「嘘だろ……!? 全属性有効じゃねえのか!?」
スティングが驚愕する。
「魔法にならん。……奴には『魔力』そのものが通じねえ!」
ラクサスが雷を纏いながら歯噛みする。
アクノロギアは魔法を無効化するどころか、糧として吸収してしまう。
魔法で戦う魔導士にとって、それは詰み(チェックメイト)を意味していた。
「ならば、物理で砕くのみ!」
エルザが換装して斬りかかるが、アクノロギアの鋼鉄の皮膚には傷一つつかない。
「硬すぎる……! これが竜の王か……!」
「終わりだ」
アクノロギアが手をかざす。
終焉の光が収束する。
全員が息を呑んだ。防げない。食べられる。そして砕かれる。
その時。
ウェンディが前に進み出た。
「……いいえ。通じます」
彼女の瞳が、緋色に輝いた。
「ウェンディ?」
ナツが見る。
「魔法が食べられるなら……食べられない形に変えればいいんです!」
ウェンディが杖を掲げる。
彼女の脳裏に、アイリーンが遺した膨大な付加術(エンチャント)の知識が駆け巡る。
マザーが教えてくれた。
付加術とは、魔力をぶつけることではない。
魔力を使って、そこに在る「理(ことわり)」を書き換えることだと。
「みんな! 私に魔力を預けてください! ……私が『変換』します!」
「わかった! 任せるぜウェンディ!」
ナツが迷わず魔力を解放する。
他の6人もそれに続く。
ウェンディは、集まった膨大な魔力を受け止め、複雑な術式を編み上げる。
「『高位付加(ハイ・エンチャント)・魔力物理化(マジカル・コンバージョン)』!!」
キィィィィィン!!
ナツたちの拳や武器を覆っていた「魔力の光」が、一瞬にして重く、硬質な「物理エネルギー」へと変質した。
炎の熱さが「衝撃」へ。
鉄の硬さが「質量」へ。
雷の速さが「加速」へ。
「これは……拳が重くなりやがった!」
ガジルがニヤリと笑う。
「マザーの力です。……魔力としての性質を消し、純粋な物理攻撃力として付加しました! これなら食べられません!」
「でかしたウェンディ!!」
ナツが地面を蹴る。
魔力の炎ではなく、圧倒的な質量の赤熱した拳。
「『炎竜王の……崩拳ンンンッ!!!!』」
ドゴッ!!!!!!
鈍い音が響いた。
アクノロギアが、初めて顔を歪めた。
「ぐ……っ!?」
食べられない。吸収できない。
ただただ痛い、物理的な打撃がその頬を打ち抜いたのだ。
「効いたぞ!! 畳み掛けろォッ!!」
ラクサスが突っ込む。コブラが毒の爪を突き立てる。
スティングとローグが連携攻撃を叩き込む。
ドカッ! バキッ! ズドンッ!
7人の怒涛の連撃が、無敵の竜王を後退させる。
「おのれ……! 小賢しい真似を……!」
アクノロギアが口元の血を拭う。
その視線が、後方で杖を掲げる小さな少女──ウェンディに向けられた。
「賢竜の娘か。……死してなお、我が覇道の邪魔をするか、アイリーン!」
「マザーは死んでいません!」
ウェンディが叫び返す。
風が彼女の髪を揺らす。その姿は、かつての「泣き虫」ではない。
緋色の意思を継ぎ、仲間を導く「竜の巫女」の姿だった。
「私の心に……そしてこの魔法の中に、マザーは生きています! だから貴方には負けない!!」
アクノロギアの表情から余裕が消えた。
彼は初めて、目の前の人間たちを「狩るべき敵」として認識した。
「よかろう。……ならば見せてやる。真の絶望を」
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
空間が裂け、時空の歪みが発生する。
「時の狭間」。
すべての魔力が無に帰す、虚無の世界への扉が開かれた。
「貴様ら全員、時の彼方へ葬り去ってやる!!」
最強の竜王が本気を出す。
しかし、7つの炎は消えない。
ウェンディという希望の風を受けて、より激しく燃え上がるのみ。
次回、「第23話:時の狭間、繋がる想い」