世界が反転した。
マグノリアの荒野も、空も、大地も消え失せた。
そこは、無重力の空間。
七色の結晶が不規則に浮かび、過去と未来が混濁する「時の狭間」。
「う……ここ、どこだ……?」
ナツが目を覚ます。
体が軽い。いや、重さがない。
周囲を見渡すと、ガジル、ウェンディ、スティング、ローグ、ラクサス、コブラも同じように漂っていた。
「……時の狭間だ」
冷徹な声が響く。
空間の歪みから、人の姿をしたアクノロギアが現れた。
アースランド(現実世界)には肉体である竜を残し、ここでは精神体として君臨しているのだ。
「貴様らの肉体は向こうにある。……ここは精神だけの世界。魔力の源(エーテルナノ)も存在しない、完全なる無だ」
アクノロギアが手を振るう。
それだけで、強烈な圧力が7人を襲った。
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
「ちっ……! 魔力が……練れねえ!」
ラクサスが焦る。
魔導士にとって、魔力のない空間は酸素のない水中と同じ。
呼吸ができず、力が入らない。
「終わりだ、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。……時の中に溶けて消えろ」
アクノロギアが笑う。
7人の体が透け始め、結晶化していく。
存在そのものが「時」に飲み込まれようとしていた。
だが。
「……消させません」
透き通りかけた腕で、ウェンディが杖を握りしめた。
彼女の体だけは、淡い緋色の光に包まれていた。
「ウェンディ……?」
ナツが目を見開く。
「ここは『時』の世界。……マザーが教えてくれました。時とは流れであり、位置であり、概念であると」
ウェンディの瞳が輝く。
「付加術(エンチャント)とは、世界に新たな概念を付け加えること。……魔力がないなら、私が作ります! 私たちの『絆』を魔力に変えて!」
ウェンディが杖を掲げる。
アイリーンから受け継いだ膨大な知識。それは単なる攻撃魔法ではなく、世界の理(ルール)に干渉する賢竜の叡智。
「『高位付加(ハイ・エンチャント)・七竜連鎖(セブン・ドラゴン・リンク)』!!」
カッッッ!!!!
緋色の光が弾けた。
その光はナツたち6人を結び、一つの巨大な魔法陣を描き出した。
消えかけていた身体が実体を取り戻し、失われたはずの魔力が──いや、それ以上に熱い「想いの力」が全身に漲る。
「力が……戻ってきた!」
スティングが拳を握る。
「いや、前よりすげえぞ! これは……!」
ガジルがニヤリと笑う。
「みんなの心を繋げました!」
ウェンディが叫ぶ。
「ナツさんの炎、ガジルさんの鉄、私の風……全部を共有して、増幅させています! これなら……!」
「……小賢しい真似を!」
アクノロギアが激昂する。
想定外だ。
時の狭間でさえも、アイリーンの魔術とウェンディの意志が凌駕したのだ。
「行くぞお前ら!!」
ナツが先陣を切る。
「おう!!」
7人の滅竜魔導士が同時に突っ込む。
ナツの炎にラクサスの雷が纏い、ガジルの鉄にコブラの毒が乗る。
スティングとローグの光と影が、ウェンディの風に乗って加速する。
ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!
7人の連携攻撃が、アクノロギアを吹き飛ばした。
「ぐぅぅッ……!?」
無敵の竜王が、時の結晶に叩きつけられる。
一方、アースランド(現実世界)。
マグノリア上空では、精神を切り離されたアクノロギアの肉体(ドラゴン)が暴走していた。
理性なき破壊の化身。
街を、海を、全てを破壊し尽くそうとしていた。
「くっ……! ナツたちが戻るまで、何としても持ちこたえろ!」
エルザが叫ぶ。
グレイ、ルーシィ、ジュビア、ミラジェーン……残された魔導士たちが総力戦を挑む。
目的は一つ。
暴走する竜を、「妖精の球(フェアリー・スフィア)」に閉じ込めること。
「信じるのよ! ナツたちを!」
ルーシィが魔力を振り絞る。
「あいつらは必ず勝つ! 私たちは私たちの戦いをするの!」
地上の願いと、時の狭間の戦い。
二つの世界がリンクし、物語は最終局面へ。
時の狭間。
吹き飛ばされたアクノロギアが、怒りの形相で立ち上がる。
「認めぬ……! 我は竜の王! 全てを破壊する者!」
彼の魔力が膨れ上がる。
時の狭間そのものを食らい尽くし、世界を崩壊させるほどの力。
「ナツさん!」
ウェンディが叫ぶ。
「もう維持できません! ……みんなの力を、一つに!」
「ああ! わかってる!」
ナツが右腕を掲げる。
ガジル、ウェンディ、スティング、ローグ、ラクサス、コブラ。
6人の魔力が、想いが、全てナツへと託される。
七色の炎が燃え上がる。
これが最後の魔法。これが狩人の答え。
「アクノロギアァァァァァッ!!!」
「来いィィィィィッ! 滅竜魔導士ィィィッ!!!」
終焉と希望が激突する。
次回、「第24話:七炎竜の鉄拳、緋色の空へ」