緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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第24話:七炎竜の鉄拳、緋色の空へ

時の狭間。

 無重力の空間を、七色の炎が焼き尽くしていく。

「うおおおおおおおおおおっ!!!!」

 ナツの右腕に、全ての滅竜魔法が宿る。

 炎、鉄、風、雷、毒、白、影。

 7人の魔力が、ウェンディの「高位付加(ハイ・エンチャント)」によって完全に融合し、究極の破壊エネルギーとなっていた。

「ぬかせェェェッ!! 我は竜の王! 全てを喰らい、全てを無に帰す者!!」

 アクノロギアが吼える。

 彼の手から放たれるのは、魔法ですらない「虚無」の崩壊波。

 触れたものを概念ごと消滅させる、終わりの光。

 ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!! 

 七色の炎と、虚無の光が激突する。

 時の狭間そのものが軋み、結晶が砕け散る。

「ぐっ……! まだだ! まだ足りねえ!」

 ナツが歯を食いしばる。

 アクノロギアの力は絶大だ。7人の力を束ねてもなお、押し返されそうになる。

「ナツさん! 諦めないで!」

 後方で杖を構えるウェンディが叫ぶ。

 彼女の体から、鮮血のような緋色の魔力が噴き出していた。

「マザーの力が……アイリーンの知識が言っています! 『絆』こそが最強の付加術だと!」

「ああ! わかってる!」

 ナツが踏ん張る。

「ガジル! ラクサス! ウェンディ! みんな! ……もっと寄越せェェェッ!!」

 その時。

 アースランド(現実世界)の方角から、温かい光が流れ込んできた。

 ──マグノリア、港町ハルジオン近海。

 暴れまわるアクノロギアの肉体(ドラゴン)を、巨大な光の球体が包み込んでいた。

 『妖精の球(フェアリー・スフィア)』。

 ルーシィが発動し、大陸中の魔導士たちが魔力を送った、絶対防御魔法。

「閉じ込めろォォォォォッ!!」

 ルーシィが叫ぶ。

 メリディが、ジュビアが、グレイが、エルザが。

 全魔導士の想いが繋がる。

 カッッッ!!!! 

 球体が完成した。

 最強の防御魔法が、最強の破壊竜を内側に封じ込めた。

 アクノロギアの肉体が、完全に動きを止める。

 ──時の狭間。

 「ぬ……!?」

 アクノロギアの動きが一瞬、止まった。

 肉体の拘束が、精神体にも影響を及ぼしたのだ。

 絶対的な力が揺らぐ。

「今だサラマンダァァァッ!!」

 ガジルが叫ぶ。

「行けェェェッ!!」

 ウェンディが風を送る。

 ナツの炎が爆発的に膨れ上がる。

 それはもう魔法ではない。

 仲間たちの想い、過去からの因縁、未来への意志。

 全てを込めた、魂の一撃。

「これが……俺たちの力だァァァァァァッ!!!!」

 ナツが突っ込む。

 アクノロギアの虚無を突き破り、その胸板めがけて。

「『七炎竜の……鉄拳ンンンンンッ!!!!!』」

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!! 

 世界が白く染まった。

 ナツの拳が、アクノロギアの体を貫いた──かのように見えた。

 実際には、あまりのエネルギー量に、アクノロギアの精神体が崩壊を始めたのだ。

「が……は……ッ!?」

 アクノロギアが吹き飛ばされる。

 七色の炎が彼の全身を焼き、ヒビ割れていく。

「バカな……。我は……竜の王……。全てを手に入れた……はず……」

 アクノロギアが崩れ落ちる。

 その体から、光の粒子が溢れ出す。

「お前は何も持ってねえよ」

 ナツが、荒い息を吐きながら見下ろした。

 その拳はまだ熱を帯びている。

「お前は全てを欲しがったけど、一番大事なもんを捨てちまった。……だから負けたんだ」

「一番大事な……もの……?」

 アクノロギアの瞳が揺れる。

 脳裏に過(よ)ぎったのは、かつて人間だった頃の記憶か、それとも──。

「……そうか。……我は……」

 竜王の言葉は続かなかった。

 彼の体は光の粒子となって霧散し、時の狭間の彼方へと消えていった。

 400年にわたる竜王祭。その終焉だった。

 同時に、時の狭間が崩壊を始める。

 ナツたちの体が光に包まれる。

「帰るぞ! みんな!」

「おう!」

 7つの光が、アースランドへと降り注ぐ。

 ──ハルジオン近郊、荒野。

 朝日が昇り始めていた。

 空から降ってきた7人の滅竜魔導士たちは、瓦礫の上に大の字になって転がっていた。

「……終わった……のか?」

 スティングが空を見上げる。

「ああ。……今度こそな」

 ローグが息をつく。

 ナツがむくりと起き上がると、そこへルーシィやハッピーたちが泣きながら駆けてくるのが見えた。

「ナツぅぅぅぅぅ!!」

「みんな──ーっ!!」

 歓喜の声。勝利の抱擁。

 世界は救われたのだ。

 その喧騒から少し離れた場所で。

 ウェンディは一人、静かに空を見上げていた。

 朝焼け。

 東の空が、鮮やかな「緋色」に染まっている。

「……マザー」

 ウェンディは、自分の胸に手を当てた。

 そこにはもう、アイリーンがくれた鱗はない。

 だが、確かに感じるのだ。

 戦いの中で彼女を支えた、温かくて強い魔力の残滓を。

「見てますか……。空が綺麗です」

 ウェンディの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。

 それは悲しみの涙ではない。

 母から受け継いだ命で、未来を勝ち取った誇りの涙。

「私は生きます。……貴女が愛してくれた、この命で。……貴女が守ってくれた、この世界で」

 ウェンディが微笑む。

 その笑顔は、アイリーンが最期に見た、どんな宝石よりも美しい笑顔だった。

「ウェンディ!」

 シェリアとシャルルが走ってくる。

「早く! みんなで写真撮るって!」

「……はい!」

 ウェンディは涙を拭い、仲間たちの元へ駆け出した。

 その背中を、緋色の空が優しく見守っていた。




次回、「エピローグ:緋色の執着、秘密の祈り」
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