時の狭間。
無重力の空間を、七色の炎が焼き尽くしていく。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
ナツの右腕に、全ての滅竜魔法が宿る。
炎、鉄、風、雷、毒、白、影。
7人の魔力が、ウェンディの「高位付加(ハイ・エンチャント)」によって完全に融合し、究極の破壊エネルギーとなっていた。
「ぬかせェェェッ!! 我は竜の王! 全てを喰らい、全てを無に帰す者!!」
アクノロギアが吼える。
彼の手から放たれるのは、魔法ですらない「虚無」の崩壊波。
触れたものを概念ごと消滅させる、終わりの光。
ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!
七色の炎と、虚無の光が激突する。
時の狭間そのものが軋み、結晶が砕け散る。
「ぐっ……! まだだ! まだ足りねえ!」
ナツが歯を食いしばる。
アクノロギアの力は絶大だ。7人の力を束ねてもなお、押し返されそうになる。
「ナツさん! 諦めないで!」
後方で杖を構えるウェンディが叫ぶ。
彼女の体から、鮮血のような緋色の魔力が噴き出していた。
「マザーの力が……アイリーンの知識が言っています! 『絆』こそが最強の付加術だと!」
「ああ! わかってる!」
ナツが踏ん張る。
「ガジル! ラクサス! ウェンディ! みんな! ……もっと寄越せェェェッ!!」
その時。
アースランド(現実世界)の方角から、温かい光が流れ込んできた。
──マグノリア、港町ハルジオン近海。
暴れまわるアクノロギアの肉体(ドラゴン)を、巨大な光の球体が包み込んでいた。
『妖精の球(フェアリー・スフィア)』。
ルーシィが発動し、大陸中の魔導士たちが魔力を送った、絶対防御魔法。
「閉じ込めろォォォォォッ!!」
ルーシィが叫ぶ。
メリディが、ジュビアが、グレイが、エルザが。
全魔導士の想いが繋がる。
カッッッ!!!!
球体が完成した。
最強の防御魔法が、最強の破壊竜を内側に封じ込めた。
アクノロギアの肉体が、完全に動きを止める。
──時の狭間。
「ぬ……!?」
アクノロギアの動きが一瞬、止まった。
肉体の拘束が、精神体にも影響を及ぼしたのだ。
絶対的な力が揺らぐ。
「今だサラマンダァァァッ!!」
ガジルが叫ぶ。
「行けェェェッ!!」
ウェンディが風を送る。
ナツの炎が爆発的に膨れ上がる。
それはもう魔法ではない。
仲間たちの想い、過去からの因縁、未来への意志。
全てを込めた、魂の一撃。
「これが……俺たちの力だァァァァァァッ!!!!」
ナツが突っ込む。
アクノロギアの虚無を突き破り、その胸板めがけて。
「『七炎竜の……鉄拳ンンンンンッ!!!!!』」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!
世界が白く染まった。
ナツの拳が、アクノロギアの体を貫いた──かのように見えた。
実際には、あまりのエネルギー量に、アクノロギアの精神体が崩壊を始めたのだ。
「が……は……ッ!?」
アクノロギアが吹き飛ばされる。
七色の炎が彼の全身を焼き、ヒビ割れていく。
「バカな……。我は……竜の王……。全てを手に入れた……はず……」
アクノロギアが崩れ落ちる。
その体から、光の粒子が溢れ出す。
「お前は何も持ってねえよ」
ナツが、荒い息を吐きながら見下ろした。
その拳はまだ熱を帯びている。
「お前は全てを欲しがったけど、一番大事なもんを捨てちまった。……だから負けたんだ」
「一番大事な……もの……?」
アクノロギアの瞳が揺れる。
脳裏に過(よ)ぎったのは、かつて人間だった頃の記憶か、それとも──。
「……そうか。……我は……」
竜王の言葉は続かなかった。
彼の体は光の粒子となって霧散し、時の狭間の彼方へと消えていった。
400年にわたる竜王祭。その終焉だった。
同時に、時の狭間が崩壊を始める。
ナツたちの体が光に包まれる。
「帰るぞ! みんな!」
「おう!」
7つの光が、アースランドへと降り注ぐ。
──ハルジオン近郊、荒野。
朝日が昇り始めていた。
空から降ってきた7人の滅竜魔導士たちは、瓦礫の上に大の字になって転がっていた。
「……終わった……のか?」
スティングが空を見上げる。
「ああ。……今度こそな」
ローグが息をつく。
ナツがむくりと起き上がると、そこへルーシィやハッピーたちが泣きながら駆けてくるのが見えた。
「ナツぅぅぅぅぅ!!」
「みんな──ーっ!!」
歓喜の声。勝利の抱擁。
世界は救われたのだ。
その喧騒から少し離れた場所で。
ウェンディは一人、静かに空を見上げていた。
朝焼け。
東の空が、鮮やかな「緋色」に染まっている。
「……マザー」
ウェンディは、自分の胸に手を当てた。
そこにはもう、アイリーンがくれた鱗はない。
だが、確かに感じるのだ。
戦いの中で彼女を支えた、温かくて強い魔力の残滓を。
「見てますか……。空が綺麗です」
ウェンディの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではない。
母から受け継いだ命で、未来を勝ち取った誇りの涙。
「私は生きます。……貴女が愛してくれた、この命で。……貴女が守ってくれた、この世界で」
ウェンディが微笑む。
その笑顔は、アイリーンが最期に見た、どんな宝石よりも美しい笑顔だった。
「ウェンディ!」
シェリアとシャルルが走ってくる。
「早く! みんなで写真撮るって!」
「……はい!」
ウェンディは涙を拭い、仲間たちの元へ駆け出した。
その背中を、緋色の空が優しく見守っていた。
次回、「エピローグ:緋色の執着、秘密の祈り」