緋に染まる天空   作:暁 蒼空

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「ささかまって美味しいよね」さん、ありがとうございます。

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第7話:王宮の陰謀、凍てつく救出作戦

宴の喧騒が引いた深夜。

クロッカスの宿「ハニーボーン」の一室で、ウェンディは一人、瞑想を行っていた。

あぐらをかき、魔力循環を整える。

アイリーンから叩き込まれた日課。感情を排し、自身を魔導兵器としてメンテナンスする時間だ。

 

(……騒がしいですね)

 

宿の外から、慌ただしい気配が近づいてくるのを感じて目を開けた。

ナツさんたちの匂いだ。だが、数時間前の宴の時の「陽気な匂い」ではない。

焦燥。怒り。そして、深い悲しみの匂い。

 

バンッ!!

扉が荒々しく開かれた。

 

「じっちゃん! 大変だ!」

飛び込んできたのはナツだった。その後ろにはグレイ、エルザ、そしていつになく深刻な顔をしたハッピーとシャルル。

だが、そこに一人だけ、いるはずの仲間の姿がなかった。

 

「……ルーシィさんの反応消失」

ウェンディは立ち上がり、淡々と事実だけを口にした。

「ナツさん。ルーシィさんはどこですか?」

 

事の顛末は、あまりに理不尽なものだった。

宴の後、セイバートゥースを追放されたユキノという星霊魔導士と、王宮の騎士団長アルカディオスが接触してきたこと。

彼らに案内され、「エクリプス計画」という世界を変える扉の存在を知らされたこと。

そして、その扉を開く鍵として、星霊魔導士であるルーシィとユキノが、王国軍によって強制連行されたこと。

 

「あいつら……ルーシィを犯罪者扱いしやがった! 世界を救うためだとか言って、牢屋にぶち込みやがったんだ!」

ナツがテーブルを拳で叩き割る。

破片が飛び散るが、ウェンディは身じろぎもしない。

 

「王国の判断ですね」

ウェンディの声は、氷のように平坦だった。

「世界規模の危機回避と、一人の魔導士の人権。天秤にかければ、国家として後者を見捨てるのは合理的判断(ロジック)です」

 

「てめぇ!」

ナツがウェンディの胸ぐらを掴み上げた。

「ウェンディ! お前、ルーシィが捕まって平気なのかよ! 友達だろ!?」

 

至近距離で睨み合う。

ナツの瞳は怒りの炎で燃えている。

対するウェンディの瞳は、深海のように光がない。

 

(平気なわけ、ないじゃないですか)

 

心の内側では、はらわたが煮えくり返っていた。

ふざけるな。また私の家族を奪うのか。合理的? 知ったことか。

今すぐ王宮に飛び込んで、邪魔する兵士を全員、重力で圧死させてやりたい。

ルーシィさんを泣かせた国なんて、地図から消してしまいたい。

 

――けれど、感情を表に出せば、魔力の精度が落ちる。

――怒りは判断を曇らせる。

 

ウェンディは、掴みかかられたまま、まばたき一つせずに答えた。

 

「……ナツさん。手を離してください。非効率です」

「なっ……」

「私は『平気だ』とは言っていません。『王国の理屈はそうだろう』と分析しただけです」

 

ウェンディは、ナツの手をそっと外し、乱れた襟を直した。

 

「奪われたのなら、奪い返す。……それだけのことでしょう?」

 

その言葉に含まれた、底冷えするほどの「実行力」を感じ取り、ナツはハッとして口を閉ざした。

グレイがため息をついて割って入る。

「……ウェンディの言う通りだ。怒っててもルーシィは戻らねえ。どうやって助け出すかだ」

 

作戦会議が始まった。

指揮を執るのは、初代マスター・メイビス(幽霊)。

 

「明日は大魔闘演武の最終日。ギルドの総力を挙げて戦う必要があります。ですが、ルーシィを救出する部隊も必要です」

メイビスが指を立てる。

「そこで、チームを二つに分けます。闘演武に出場するチームと、王宮へ潜入する救出チーム」

 

「俺は行くぞ! 絶対にルーシィを助け出す!」

 ナツが即座に手を挙げる。

「私も行くわ」とミラジェーン。

そして。

 

「私も、救出チームを志願します」

ウェンディが静かに手を挙げた。

 

「ウェンディ、お主は今日の試合で見せた戦力……本来なら出場チームに残したいところじゃが」

マカロフが渋い顔をする。双竜を完封したウェンディの力は、優勝のために不可欠だ。

だが、ウェンディは首を横に振った。

 

「王宮の警備網(セキュリティ)を突破するには、隠密性と制圧力が求められます。私の付加術(エンチャント)ならば、地形を操作し、敵に感知されずに深部へ侵入可能です」

彼女は、まるで任務の適性審査を受けるかのように淡々と続けた。

「それに、もし戦闘になった場合、城を傷つけずに敵だけを無力化するには、ナツさんの火力よりも私の魔法が適しています」

 

「……一理ありますね」

メイビスが頷いた。

「わかりました。ウェンディは救出チームへ。ナツ、ミラジェーン、ウェンディ、ハッピー、シャルル。このメンバーで王宮へ潜入してください」

 

「了解」

ウェンディは短く答え、即座に装備の点検を始めた。

その横顔には、不安も、気負いもない。

ただ、「障害を排除し、目的を達成する」という冷徹な意志だけがあった。

 

シャルルが、心配そうにウェンディの袖を引く。

「ウェンディ……無理してない?」

「無理? 何の話ですか」

ウェンディはシャルルを見下ろし、首を傾げた。

「ルーシィさんの奪還は、ギルドにとって最優先事項。私はそのための駒として動くだけです」

 

突き放すような物言い。

だが、シャルルは気づいていた。

ウェンディが握りしめている杖の柄に、指が白くなるほど力が込められていることを。

 

(また、一人で背負い込んで……。この子は、いつになったら『泣いて』くれるの?)

 

「行くぞ! 待ってろよルーシィ!」

ナツが窓を開け、夜風を取り込む。

ウェンディもまた、緋色のローブを翻し、夜の闇を見据えた。

 

(待っていてください、ルーシィさん)

心の中だけで、彼女は呼びかける。

 

(誰にも邪魔はさせない。運命だろうが、国だろうが。……私の家族を奪う者は、私が全員、排除します)

 

その瞳に宿るのは、かつての「天空の巫女」の慈愛ではない。

敵対する全てを屠る、「緋色の狩人」の殺意だった。




次回、「第8話:処刑人ごっこ」。
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