朝の博麗神社。
湊は棒を握り、霊夢の指示に従って構えの練習をしていた。
「湊、もっと腰を落として。
そう、重心を下げるの」
霊夢の声はいつも通り落ち着いていて、湊の緊張をほどいていく。
そのとき――
ドォンッ!
境内の空気が爆ぜるような音が響いた。
湊は驚いて振り返る。
「な、なんですか今の……!」
霊夢はため息をつき、鳥居のほうを睨む。
「……来たわね」
次の瞬間、黒い影が空から落ちてきた。
「よっ、霊夢! 遊びに来たぜ!」
霧雨魔理沙が、箒に乗ったまま勢いよく着地した。
湊は呆然とする。
霊夢は眉をひそめる。
「遊びじゃないわよ。今は湊の修行中」
魔理沙は湊を見て、にやりと笑った。
「おっ、こいつが噂の外来人か。
へぇ、思ったより根性ありそうじゃん」
湊は戸惑いながら頭を下げる。
「さ、佐伯湊です……よろしくお願いします」
魔理沙は湊の肩をバンバン叩く。
「よろしくな! あたしは霧雨魔理沙。
霊夢の相棒で、幻想郷一の魔法使いだ!」
霊夢が冷たく言う。
「自称ね」
「おい霊夢、そこは乗ってくれよ!」
◆
魔理沙は湊の棒を見て、興味津々で近づく。
「へぇ、棒術か。
でもそれだけじゃ妖怪相手には心もとないぜ?」
湊は不安そうに霊夢を見る。
霊夢は肩をすくめる。
「魔理沙。湊はまだ基礎の基礎なの。
いきなり変なこと教えないで」
「変なこととは失礼な!
あたしは“実戦的なコツ”を教えてやろうってんだよ」
魔理沙は湊の前に立ち、指をさす。
「湊! 妖怪相手に必要なのはな――
勢いと度胸だ!」
霊夢が即座にツッコむ。
「それはあなた限定の話よ」
魔理沙は気にせず続ける。
「湊、構えろ!」
湊は慌てて棒を構える。
魔理沙はニヤリと笑い、突然湊に向かって飛び込んだ。
「うわっ!? ま、魔理沙さん!?」
「ほらほら、考えるな! 動け!」
湊は反射的に横へ飛び、魔理沙の突進を避ける。
霊夢が驚いたように目を見開く。
「……湊、今の動き、悪くないわ」
湊は息を切らしながら答える。
「ま、魔理沙さんが急に来るから……!」
魔理沙は笑いながら指を立てる。
「それだよ!
妖怪は“急に来る”んだ。
霊夢の修行は丁寧だけど、実戦はもっと雑で、もっと速い!」
霊夢はむっとする。
「雑って言わないで」
◆
魔理沙は湊に向かって手招きする。
「湊、次はお前から来い!」
「えっ、僕から……?」
「そうだ。
守るだけじゃ霊夢を守れないぜ?」
湊の胸が強く脈打つ。
――霊夢さんを守りたい。
その思いが、湊の足を前へ押し出した。
湊は棒を握り、魔理沙に向かって踏み込む。
魔理沙は軽くかわすが、湊の動きに目を細める。
「おっ、いいじゃん!
さっきよりずっと速い!」
霊夢も湊の動きを見て、静かに頷く。
「湊……本当に成長してる」
湊は息を切らしながらも、魔理沙に向かってもう一度踏み込む。
魔理沙は笑いながら受け流す。
「いいねぇ!
その調子で霊夢を守れるくらい強くなれよ!」
湊は顔を赤くしながら答える。
「な、なります……!」
霊夢は少しだけ頬を染め、視線を逸らした。
「……魔理沙、余計なこと言わないで」
◆
休憩中、魔理沙は湊の隣に座り、肩を叩く。
「湊。
お前、思ってたよりずっと根性あるぜ」
湊は照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます……
でも、まだ全然弱いです」
魔理沙は空を見上げて言う。
「弱くていいんだよ。
大事なのは“守りたいものがあるかどうか”だ」
湊は霊夢を見る。
霊夢は湊の視線に気づき、少しだけ微笑んだ。
魔理沙はその様子を見て、にやりと笑う。
「おーおー、いい雰囲気じゃんか」
霊夢が顔を赤くする。
「魔理沙、黙りなさい」