世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第12話:影は形を得て、青年の前に立ちはだかる

 夜の博麗神社は、いつもより静かだった。

風が止まり、虫の声すら聞こえない。

湊は縁側で深呼吸をしながら、霊夢に教わった“気の流れ”を整えていた。

 

――心を静かに。

――気を巡らせる。

 

 霊夢の声が胸の奥に残っている。

 

「湊。

あなたなら、きっとできるわ」

 

 その言葉を思い出すたび、湊の心は少しだけ強くなれた。

 

 だが――

その静けさは、突然破られる。

 

 空気が、沈んだ。

 

 湊は反射的に顔を上げる。

 

「……まただ」

 

 前回よりも、ずっと重い。

まるで空気そのものが黒く染まるような圧迫感。

 

 湊は立ち上がり、鳥居のほうを睨む。

 

 影が――揺れている。

 

 

 

◆

 

 鳥居の向こうから、黒い影が滲み出る。

しかし前回とは違う。

 

 影は形を持ち始めていた。

人の輪郭に近い。

腕のようなものが伸び、足のようなものが地面を踏む。

 

 湊の背筋が凍る。

 

「……形を、持ってる……」

 

 影は低い唸り声を上げ、湊のほうへ向かってくる。

 

 湊は棒を握りしめ、構えを取る。

 

「霊夢さん……!」

 

 叫ぼうとした瞬間――

影が湊に飛びかかった。

 

 湊は横へ飛び、地面を転がる。

 

 影の腕が地面を抉り、土が舞い上がる。

 

「っ……!」

 

 前回とは比べ物にならない速度と力。

 

 湊は震える手で棒を構え直す。

 

――怖い。

――でも、逃げない。

 

 湊は自分に言い聞かせる。

 

「霊夢さんを……守るんだ……!」

 

 

 

◆

 

 影が再び襲いかかる。

 

 湊は霊夢に教わった通り、風の流れを読む。

影が動く直前、空気がわずかに沈む。

 

「……来る!」

 

 湊は棒を横に払う。

影の腕が棒にぶつかり、火花のような黒い粒が散る。

 

 影は後退し、形を揺らす。

 

 湊は息を切らしながらも、影を睨む。

 

「前より……読める……!」

 

 影が形を変え、背後へ回り込もうとする。

 

 湊は振り返り、棒を突き出す。

 

 影が弾かれ、地面に叩きつけられる。

 

 湊は驚きながらも、確かな手応えを感じた。

 

「僕……できてる……!」

 

 

 

◆

 

 その瞬間、霊夢が境内に飛び込んできた。

 

「湊!」

 

 湊は振り返る。

 

「霊夢さん……!」

 

 霊夢は湊の前に立ち、札を構える。

 

「湊、下がって。

これは……前よりずっと危険よ」

 

 湊は首を振る。

 

「霊夢さん……僕、逃げません。

あなたの隣に立つって……決めたから」

 

 霊夢は一瞬だけ目を見開き、そして静かに微笑んだ。

 

「……分かった。

じゃあ、私の隣にいなさい」

 

 湊は棒を握り直し、霊夢の横に立つ。

 

 影の妖怪が形を歪め、二人に向かって吠える。

 

 

 

◆

 

 影が飛びかかる。

 

 霊夢が札を投げ、光の壁を作る。

影が弾かれ、形を崩す。

 

 湊はその隙を逃さず、棒を振り下ろす。

 

 影が悲鳴のような音を上げ、後退する。

 

 霊夢が湊に声を飛ばす。

 

「湊、気を乱されないで!

影はあなたの恐怖に反応する!」

 

 湊は深呼吸し、気を整える。

 

「……大丈夫。

霊夢さんが隣にいるから……怖くない」

 

 霊夢は横目で湊を見て、わずかに頬を染めた。

 

「……そんなこと言わないで。

集中しなさい」

 

 影が再び形を整え、突進してくる。

 

 霊夢が札を投げ、湊が棒で追撃する。

 

 光と影がぶつかり合い、境内に衝撃が走る。

 

 

 

◆

 

 影は耐えきれず、形を崩し始める。

 

 霊夢が最後の札を構える。

 

「湊、下がって!」

 

 湊は頷き、霊夢の後ろへ下がる。

 

 霊夢は札を投げ、鋭く叫ぶ。

 

「――退けッ!」

 

 札が光を放ち、影は悲鳴を上げながら霧散した。

 

 境内に静寂が戻る。

 

 

 

◆

 

 湊は膝をつき、息を荒げる。

 

 霊夢が駆け寄り、湊の肩を支える。

 

「湊、大丈夫?」

 

 湊は頷く。

 

「はい……

霊夢さんが……隣にいてくれたから」

 

霊夢は湊の顔を見つめ、静かに言った。

 

「湊。

あなた、本当に強くなったわ」

 

 湊の胸が熱くなる。

 

 霊夢は湊の手をそっと握った。

 

「これからも……一緒に戦いましょう」

 

 湊は強く頷いた。

 

「はい。

霊夢さんと一緒に……前へ進みます」

 

 夜風が吹き、二人の影が寄り添うように揺れた。

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