世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第12話:影は形を得て、青年の前に立ちはだかる

 夜の博麗神社は、いつもより静かだった。

風が止まり、虫の声すら聞こえない。

湊は縁側で深呼吸をしながら、霊夢に教わった“気の流れ”を整えていた。

 

――心を静かに。

――気を巡らせる。

 

 霊夢の声が胸の奥に残っている。

 

「湊。

あなたなら、きっとできるわ」

 

 その言葉を思い出すたび、湊の心は少しだけ強くなれた。

 

 だが――

その静けさは、突然破られる。

 

 空気が、沈んだ

 

 湊は反射的に顔を上げる。

 

「……まただ」

 

 前回よりも、ずっと重い。

まるで空気そのものが黒く染まるような圧迫感。

 

 湊は立ち上がり、鳥居のほうを睨む。

 

 影が――揺れている。

 

 

 

 

 鳥居の向こうから、黒い影が滲み出る。

しかし前回とは違う。

 

 影は形を持ち始めていた。

人の輪郭に近い。

腕のようなものが伸び、足のようなものが地面を踏む。

 

 湊の背筋が凍る。

 

「……形を、持ってる……」

 

 影は低い唸り声を上げ、湊のほうへ向かってくる。

 

 湊は棒を握りしめ、構えを取る。

 

「霊夢さん……!」

 

 叫ぼうとした瞬間――

影が湊に飛びかかった。

 

 湊は横へ飛び、地面を転がる。

 

 影の腕が地面を抉り、土が舞い上がる。

 

「っ……!」

 

 前回とは比べ物にならない速度と力。

 

 湊は震える手で棒を構え直す。

 

――怖い。

――でも、逃げない。

 

 湊は自分に言い聞かせる。

 

「霊夢さんを……守るんだ……!」

 

 

 

 

 影が再び襲いかかる。

 

 湊は霊夢に教わった通り、風の流れを読む。

影が動く直前、空気がわずかに沈む。

 

「……来る!」

 

 湊は棒を横に払う。

影の腕が棒にぶつかり、火花のような黒い粒が散る。

 

 影は後退し、形を揺らす。

 

 湊は息を切らしながらも、影を睨む。

 

「前より……読める……!」

 

 影が形を変え、背後へ回り込もうとする。

 

 湊は振り返り、棒を突き出す。

 

 影が弾かれ、地面に叩きつけられる。

 

 湊は驚きながらも、確かな手応えを感じた。

 

「僕……できてる……!」

 

 

 

 

 その瞬間、霊夢が境内に飛び込んできた。

 

「湊!」

 

 湊は振り返る。

 

「霊夢さん……!」

 

 霊夢は湊の前に立ち、札を構える。

 

「湊、下がって。

これは……前よりずっと危険よ」

 

 湊は首を振る。

 

「霊夢さん……僕、逃げません。

あなたの隣に立つって……決めたから」

 

 霊夢は一瞬だけ目を見開き、そして静かに微笑んだ。

 

「……分かった。

じゃあ、私の隣にいなさい」

 

 湊は棒を握り直し、霊夢の横に立つ。

 

 影の妖怪が形を歪め、二人に向かって吠える。

 

 

 

 

 影が飛びかかる。

 

 霊夢が札を投げ、光の壁を作る。

影が弾かれ、形を崩す。

 

 湊はその隙を逃さず、棒を振り下ろす。

 

 影が悲鳴のような音を上げ、後退する。

 

 霊夢が湊に声を飛ばす。

 

「湊、気を乱されないで!

影はあなたの恐怖に反応する!」

 

 湊は深呼吸し、気を整える。

 

「……大丈夫。

霊夢さんが隣にいるから……怖くない」

 

 霊夢は横目で湊を見て、わずかに頬を染めた。

 

「……そんなこと言わないで。

集中しなさい」

 

 影が再び形を整え、突進してくる。

 

 霊夢が札を投げ、湊が棒で追撃する。

 

 光と影がぶつかり合い、境内に衝撃が走る。

 

 

 

 

 影は耐えきれず、形を崩し始める。

 

 霊夢が最後の札を構える。

 

「湊、下がって!」

 

 湊は頷き、霊夢の後ろへ下がる。

 

 霊夢は札を投げ、鋭く叫ぶ。

 

「――退けッ!」

 

 札が光を放ち、影は悲鳴を上げながら霧散した。

 

 境内に静寂が戻る。

 

 

 

 

 湊は膝をつき、息を荒げる。

 

 霊夢が駆け寄り、湊の肩を支える。

 

「湊、大丈夫?」

 

 湊は頷く。

 

「はい……

霊夢さんが……隣にいてくれたから」

 

霊夢は湊の顔を見つめ、静かに言った。

 

「湊。

あなた、本当に強くなったわ」

 

 湊の胸が熱くなる。

 

 霊夢は湊の手をそっと握った。

 

「これからも……一緒に戦いましょう」

 

 湊は強く頷いた。

 

「はい。

霊夢さんと一緒に……前へ進みます」

 

 夜風が吹き、二人の影が寄り添うように揺れた。

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