世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第15話:影は心を映し、青年の形を奪い始める

 夜の博麗神社は、月明かりだけが境内を照らしていた。

湊は霊夢との深い修行を終え、縁側で静かに呼吸を整えていた。

 

――心を守る。

――影に飲まれない。

 

 霊夢の言葉が胸の奥で反響している。

 

 そのときだった。

 

 空気が、沈む。

 

 湊は反射的に顔を上げた。

 

「……まただ」

 

 前回よりも、さらに重い。

まるで“何かがこちらを覗いている”ような圧迫感。

 

 湊は棒を握りしめ、境内へ出る。

 

 霊夢はまだ本殿にいる。

呼べば来てくれる。

でも――

 

 湊は呼ばなかった。

 

「……僕は、逃げない」

 

 そう呟いた瞬間、鳥居の影が揺れた。

 

 

 

◆

 

 鳥居の向こうから、黒い影が滲み出る。

しかし今回は違う。

 

 影はゆっくりと形を変え――

湊の輪郭を模倣し始めた。

 

 細い腕。

震える肩。

俯きがちな姿勢。

 

 湊は息を呑む。

 

「……僕……?」

 

 影は湊の声を真似るように、かすれた音を漏らした。

 

「……こわい……」

 

 湊の背筋が凍る。

 

 影はさらに形を整え、湊の顔に似た“空洞”を作る。

 

「……まもれない……」

 

 湊の胸が締めつけられる。

 

――これは、僕の心の声だ。

 

 影は湊の弱さ、恐怖、孤独をそのまま形にしていた。

 

 

 

◆

 

 影は湊に向かって歩み寄る。

 

 湊は棒を構えるが、手が震える。

 

「……違う……僕は……守れる……!」

 

 影は湊の言葉を嘲笑うように、同じ声で繰り返す。

 

「……まもれない……」

 

 湊の心が揺れる。

 

 影は湊の“揺れ”に反応し、さらに形を濃くしていく。

 

 湊の顔。

 湊の声。

 湊の弱さ。

 

 影は湊そのものになろうとしていた。

 

「やめろ……!」

 

 湊は棒を振り下ろすが、影は霧のように避ける。

 

 影は湊の耳元で囁く。

 

「……にげたい……」

 

 湊の膝が崩れそうになる。

 

――これは、僕の心の奥底にある言葉だ。

 

 影は湊の心を映し、揺らし、飲み込もうとしている。

 

 

 

◆

 

 その瞬間、強い風が吹き抜けた。

 

「湊!」

 

 霊夢が札を構えて駆け込んでくる。

 

 影は霊夢を見ると、湊の声で呟いた。

 

「……まもれない……」

 

 霊夢の表情が険しくなる。

 

「湊。

影に心を乱されないで!」

 

 湊は震える声で答える。

 

「霊夢さん……僕……

影が……僕の心を……」

 

 霊夢は湊の手を掴み、強く握った。

 

「湊。

あなたの心は、影なんかに奪わせない。

私がいる。

あなたは一人じゃない」

 

 湊の胸に温かさが広がる。

 

 影が湊の揺れを失い、形を崩し始める。

 

 

 

◆

 

 霊夢は湊の手を握ったまま、静かに言う。

 

「湊。

私と気を合わせて。

影に飲まれないように」

 

 湊は深呼吸し、霊夢の気を感じる。

 

 静かで、揺れない気。

湊の心を包み込むような温度。

 

 影は湊の心の揺れを探すが――

霊夢の気が湊を守り、揺れを消していく。

 

 影は苦しむように形を歪める。

 

 霊夢が札を構える。

 

「湊。

あなたの心は、あなたのものよ。

影なんかに渡さない」

 

 湊は頷き、棒を構える。

 

「……僕は、逃げない。

霊夢さんと一緒に……前へ進む」

 

 霊夢が札を投げ、湊が棒を振り下ろす。

 

 光と影がぶつかり――

影は悲鳴を上げて霧散した。

 

 

 

◆

 

 湊は膝をつき、霊夢に支えられる。

 

 霊夢は湊の背中に手を当て、静かに言った。

 

「湊。

影はあなたの心を映しただけ。

でも……あなたは負けなかった」

 

 湊は震える声で答える。

 

「霊夢さんが……いてくれたからです」

 

 霊夢は湊の手を握り、優しく微笑んだ。

 

「これからも……あなたの心は私が守る。

だから湊。

あなたも、自分を信じて」

 

 湊は深く頷いた。

 

「はい……霊夢さんと一緒なら……大丈夫です」

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