世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第17話:心の底に沈んだ声は、青年を呼び戻す

 夜の博麗神社。

湊は境内の中央に立ち、深く息を吸った。

 

 霊夢は少し離れた場所で見守っている。

 

「湊。

今日は……あなたの“心”と向き合う修行よ」

 

 湊は頷く。

 

「……影が僕の心を映すなら、

僕が自分の心を知らないと……勝てませんよね」

 

 霊夢は静かに微笑む。

 

「ええ。

でも、無理はしないで。

あなたの心は……まだ傷ついているんだから」

 

 湊は胸に手を当て、目を閉じた。

 

――影は、僕の絶望の残滓。

 

 紫の言葉が胸に刺さる。

 

 霊夢の声が、湊の意識を支えるように響いた。

 

「湊。

私がここにいる。

だから……安心して」

 

 湊は深く頷き、心の奥へと沈んでいった。

 

 

 

◆

 

 気が沈むと同時に、景色が変わった。

 

 灰色の空。

音のない街。

人影はあるのに、誰も湊を見ない。

 

――ここは、外の世界。

 

 湊は震える声で呟く。

 

「……僕の……記憶……」

 

 足元には、濡れたアスファルト。

雨の匂い。

そして――

 

 ひとりの青年が、うずくまっていた。

 

 湊自身だ。

 

 過去の湊は、顔を伏せ、震えている。

 

「……もう、無理だ……

誰も……僕を見てくれない……」

 

 湊は息を呑む。

 

――これは、僕が最後に外の世界で感じていた絶望。

 

 影が湊の心を模倣した理由が、痛いほど分かる。

 

 

 

◆

 

 湊はゆっくりと過去の自分に近づく。

 

「……僕……」

 

 過去の湊は顔を上げる。

その瞳は濁り、光を失っていた。

 

「……誰……?」

 

 湊は膝をつき、過去の自分と目を合わせる。

 

「僕だよ。

未来の……いや、今の僕」

 

 過去の湊は首を振る。

 

「……嘘だ……

僕は……もう終わったんだ……

誰にも必要とされない……

生きてる意味なんて……」

 

 湊の胸が締めつけられる。

 

「違う……違うんだ……!」

 

 湊は震える声で叫ぶ。

 

「僕は……今、誰かに必要とされてる!

霊夢さんが……僕を助けてくれた!

僕は……生きてていいって……言ってくれた!」

 

 過去の湊は目を見開く。

 

「……そんな人……いるわけ……」

 

 湊は強く頷く。

 

「いるんだよ。

僕を見捨てなかった人が……

僕の心を守ってくれる人が……!」

 

 過去の湊の瞳に、わずかに光が戻る。

 

 

 

◆

 

 そのとき――

過去の湊の背後に、黒い影が立ち上がった。

 

 湊の形をした影。

しかし、先ほどよりも濃く、重い。

 

 影は湊の声で囁く。

 

「……守れない……

どうせまた……失う……」

 

 湊は震えながらも、影を睨む。

 

「違う……

僕はもう逃げない……!」

 

 影は湊の胸に手を伸ばす。

 

「……お前は弱い……

また絶望する……

また壊れる……」

 

 湊は胸に手を当て、霊夢の言葉を思い出す。

 

――あなたの心は、私が守る。

 

 湊は影に向かって叫んだ。

 

「僕は……ひとりじゃない!

霊夢さんが……僕を見てくれてる!

僕は……もう壊れない!」

 

 影が揺らぎ、形を崩し始める。

 

 

 

◆

 

 過去の湊は震えながら、現在の湊を見つめる。

 

「……本当に……

僕は……誰かに……」

 

 湊は優しく微笑む。

 

「うん。

霊夢さんは……僕を救ってくれた。

だから……君も救われていいんだ」

 

 過去の湊は涙を流し、ゆっくりと消えていった。

 

 影も同時に霧散する。

 

 湊は静かに目を閉じた。

 

 

 

◆

 

 湊が目を開けると、霊夢が目の前にいた。

霊夢は湊の頬に手を当て、心配そうに見つめる。

 

「湊……!

大丈夫?

急に気が乱れて……」

 

 湊は霊夢の手を握り、涙をこぼした。

 

「霊夢さん……

僕……過去の自分と……向き合えました……」

 

 霊夢は湊を抱きしめ、静かに言った。

 

「湊……よく頑張ったわ。

あなたはもう……影に飲まれたりしない」

 

 湊は霊夢の肩に顔を埋め、震える声で答える。

 

「霊夢さんが……いてくれたから……

僕は……前に進めます……」

 

 霊夢は湊の背中を優しく撫でた。

 

「ええ。

これからも一緒に進みましょう」

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