世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第18話:影の本体は、静かに世界へ滲み出す

 夜の博麗神社。

湊は縁側で霊夢と並んで座り、静かに夜風を感じていた。

 

 霊夢は湊の手を握り、優しく言う。

 

「湊。

今日の修行……本当に頑張ったわ」

 

 湊は照れくさそうに微笑む。

 

「霊夢さんがいてくれたから……

僕、過去と向き合えました」

 

 霊夢は湊の横顔を見つめ、少しだけ頬を染める。

 

「……あなたは強いわ。

自分の心と向き合える人なんて、そういないもの」

 

 湊は胸が熱くなる。

 

――霊夢さんの言葉は、僕を前へ進ませてくれる。

 

 そのときだった。

 

 空気が、沈んだ。

 

 湊は反射的に立ち上がる。

 

「……また……影の気配……?」

 

 霊夢も立ち上がり、札を構える。

 

「違う。

これは……もっと深いところから来てる」

 

 境内の空気が、黒く染まり始めた。

 

 

 

◆

 

 鳥居の向こうの闇が、ゆっくりと揺れた。

 

 影の妖怪とは違う。

もっと重く、もっと深い。

まるで“底なしの井戸”のような気配。

 

 湊の胸が強く脈打つ。

 

「……これ……僕の……」

 

 霊夢が湊の肩を掴む。

 

「湊、落ち着いて。

これは……あなたの心の揺れじゃない」

 

 湊は驚いて霊夢を見る。

 

「じゃあ……何なんですか……?」

 

 霊夢は鳥居の向こうを睨む。

 

「“本体”よ。

影を生み出していた……本当の存在」

 

 湊の背筋が凍る。

 

 影の本体――

紫が言っていた、“心の外側に落ちた絶望の残滓”。

 

 それが、ついに姿を現そうとしている。

 

 

 

◆

 

 鳥居の向こうの闇が、ゆっくりと形を変える。

 

 人の形ではない。

獣でもない。

ただ、黒い“深淵”が立ち上がる。

 

 その中心から――

声がした。

 

 湊の声に似ている。

しかし、もっと低く、もっと冷たい。

 

「……返せ……」

 

 湊は息を呑む。

 

「……僕の……声……?」

 

 影の本体は、再び呟く。

 

「……返せ……

お前が……捨てたものを……」

 

 湊の胸が締めつけられる。

 

 霊夢が湊の前に立つ。

 

「湊、聞いちゃダメ。

あれは……あなたの“絶望”が形になったものよ」

 

 湊は震える声で答える。

 

「僕が……捨てたもの……?」

 

 影の本体は、ゆっくりと湊のほうへ伸びる。

 

「……痛み……孤独……

お前が見ないふりをした……すべて……

ここにある……」

 

 湊の心が揺れる。

 

 霊夢は湊の手を強く握る。

 

「湊。

影はあなたの心の“外側”に落ちた絶望。

でも……それはもう“あなたのもの”じゃない」

 

 影の本体が揺れ、怒りのような気配を放つ。

 

「……否定するな……

お前は……俺だ……」

 

 湊は震えながらも、影を見つめた。

 

「違う……

僕は……もう前に進んでる……

霊夢さんが……僕を救ってくれたから……!」

 

 影の本体が激しく揺れる。

 

 

 

◆

 

 影の本体が地面に触れた瞬間――

境内全体が黒く染まった。

 

 霊夢が叫ぶ。

 

「湊、下がって!」

 

 湊は霊夢の背後に飛び退く。

 

 影の本体は、影の触手のようなものを伸ばし、霊夢に襲いかかる。

 

 霊夢は札を投げ、光の壁を作る。

 

 しかし――

影の本体は光を“飲み込んだ”。

 

 霊夢が驚愕する。

 

「……光を……吸ってる……!?」

 

 湊は震える声で叫ぶ。

 

「霊夢さん……!」

 

 影の本体は湊のほうへ向き直り、低く呟く。

 

「……お前の光を……奪う……

お前が……前へ進むほど……

俺は……消える……」

 

 湊の胸が痛む。

 

――影は、僕の絶望そのもの。

――僕が前へ進むほど、影は存在を失う。

 

 だから、湊を止めようとしている。

 

 

 

◆

 

 霊夢は湊の手を掴み、強く言った。

 

「湊。

影の本体は……あなたの“過去の絶望”が形になったもの。

でも、それはもう“あなた”じゃない」

 

 湊は霊夢の手を握り返す。

 

「霊夢さん……僕……怖いです……

でも……逃げたくない……!」

 

 霊夢は湊の目を見つめ、静かに頷く。

 

「ええ。

あなたはもう逃げない人よ。

だから――

私が隣にいる」

 

 湊の胸に力が戻る。

 

 影の本体が再び襲いかかる。

 

 霊夢は札を構え、湊は棒を握りしめる。

 

 二人は、影の本体と向き合った。

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