影の本体が現れた夜。
境内は黒い霧に包まれ、空気は重く沈んでいた。
湊は棒を握りしめ、霊夢の背中を見つめる。
霊夢は札を構え、影の本体を睨む。
「湊。
あれは……普通の妖怪じゃない。
私の術が吸われるなんて……初めてよ」
湊は震える声で答える。
「霊夢さん……僕たちで……弱点を探しましょう」
霊夢は湊を振り返り、静かに頷いた。
「ええ。
あなたとなら……できるわ」
◆
影の本体は黒い触手を伸ばし、地面を這うように迫ってくる。
「……返せ……
お前が捨てた……痛みを……」
湊の胸がざわつく。
霊夢は湊の手を掴み、強く言った。
「湊、影の声に引きずられないで。
あなたの心は……私が守る」
湊は深く頷き、霊夢の手を握り返す。
その瞬間――
二人の“気”が重なった。
霊夢の静かな気と、湊の澄んだ気が混ざり合い、境内に淡い光が広がる。
◆
影の本体が光に反応し、形を揺らす。
霊夢が気づく。
「湊……!
あなたの気が影を“照らしてる”!」
湊は驚きながらも、影を見つめる。
「僕の……気が……?」
影の本体は苦しむように呻く。
「……やめろ……
その光は……俺を……消す……」
霊夢は湊の手を握ったまま、声を強める。
「湊!
あなたの気は“影の弱点”よ!」
湊の胸が熱くなる。
――僕の気が……影を弱らせている。
霊夢は湊の背に手を添え、気を流すように言う。
「湊。
私の気をあなたに重ねる。
あなたはそれを……影に向けて」
湊は深呼吸し、霊夢の気を受け取る。
温かく、揺れない光。
湊はその光を胸に集め、影へ向けて放つ。
◆
影の本体が悲鳴を上げ、黒い霧が裂ける。
その奥に――
小さな光の欠片が見えた。
湊は息を呑む。
「……あれ……僕の……?」
霊夢が目を細める。
「湊。
あれは……あなたの“心の欠片”よ」
影の本体は苦しみながら叫ぶ。
「……返せ……
それは……俺の……
俺が……抱えていた……絶望……」
湊は影を見つめ、静かに言った。
「違う……
それは……僕の“過去”だ。
でも……もう僕のものじゃない」
影の本体が激しく揺れる。
霊夢は湊の肩に手を置き、強く言った。
「湊。
あなたが“心の欠片”を取り戻せば……
影は弱る。
それが……影の弱点よ」
湊は頷き、影の本体へ一歩踏み出す。
◆
影の本体が触手を伸ばし、湊を阻もうとする。
霊夢が札を投げ、光の壁を作る。
「湊!
今よ!」
湊は走り出し、影の中心にある光の欠片へ手を伸ばす。
影の本体が叫ぶ。
「やめろ……!
それを取れば……俺は……消える……!」
湊は震える声で答える。
「僕は……前へ進む。
あなたに……縛られない」
湊の指先が光の欠片に触れた瞬間――
影の本体が大きく崩れた。
黒い霧が吹き飛び、境内に静寂が戻る。
◆
湊は膝をつき、光の欠片を胸に抱く。
霊夢が駆け寄り、湊を支える。
「湊……!
大丈夫?」
湊は息を整えながら頷く。
「霊夢さん……
僕……影の弱点を……見つけました……」
霊夢は湊の手を握り、優しく微笑む。
「ええ。
あなたの“心の光”が……影を弱らせるの」
湊は胸の光を見つめ、静かに言った。
「僕は……もう逃げません。
影が何であっても……
霊夢さんと一緒に……前へ進みます」
霊夢は湊の肩に手を置き、そっと寄り添った。
「湊。
あなたはもう……影に負けないわ」