世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第2話:博麗神社の朝、異邦人の目覚め

 柔らかな風が頬を撫でた。

土と草の匂いが混ざった、どこか懐かしい空気。

 

 佐伯湊はゆっくりと目を開けた。

 

 視界に広がったのは、木造の天井。

古い建物特有の、乾いた木の香りが鼻をくすぐる。

 

「……ここは?」

 

 起き上がると、畳の部屋だった。

見覚えのない空間。

だが、妙に落ち着く。

 

 そのとき、襖がガラリと開いた。

 

「起きたのね。外来人」

 

 湊は息を呑んだ。

 

 そこに立っていたのは――

白と赤の巫女服をまとい、黒髪を揺らす少女。

 

 博麗霊夢

 

 湊の混乱をよそに、霊夢は湯呑を片手に部屋へ入ってくる。

 

「八雲紫が連れてきたって聞いたわ。あの妖怪、また勝手なことして……」

 

 霊夢はため息をつき、湯呑を湊の前に置いた。

 

「まあ、事情はあとで聞くとして。まずはお茶でも飲みなさい」

 

 湊は戸惑いながら湯呑を手に取る。

温かさが指先に伝わり、少しだけ現実感が戻ってきた。

 

「……ここは、どこなんですか」

 

 霊夢は湊をじっと見つめ、簡潔に答える。

 

幻想郷

あなたの世界から隔離された、妖怪と人間が共存する場所よ」

 

 湊の頭が一瞬真っ白になる。

だが、霊夢の落ち着いた声が、逆に嘘をついていないことを示していた。

 

「信じられない、って顔ね。まあ普通そうよ」

 

 霊夢は湊の正面に座り、湯呑を口に運ぶ。

 

「でも、あなたは境界を越えてきた。

理由があるはずよ。

紫が“拾った”外来人は、だいたい何か抱えてるもの」

 

 湊は視線を落とした。

胸の奥に沈んでいた絶望が、じわりと浮かび上がる。

 

 霊夢はそれを見て、少しだけ表情を和らげた。

 

「……言いたくないなら、無理に聞かないわ。

ただ、ここに来た以上、あなたはしばらく私の神社で保護することになる」

 

「保護……?」

 

「外来人は妖怪に狙われやすいの。

あなた、匂いで分かるくらい“弱ってる”し」

 

 湊は言葉を失った。

霊夢は淡々としているが、言葉の端々に優しさが滲む。

 

「それに――」

 

 霊夢は湊の目をまっすぐ見た。

 

「あなた、帰りたいの?

それとも、帰りたくないの?」

 

 湊の心臓が跳ねた。

その問いは、彼自身がずっと避けてきたものだった。

 

 答えられない沈黙が流れる。

 

 霊夢は立ち上がり、襖の向こうへ向かう。

 

「いいわ。答えは急がなくていい。

外の世界で何があったか知らないけど、ここでは生きることを考えなさい」

 

 そう言って、霊夢は振り返る。

 

「朝ごはん、食べられる?

食欲があるなら、少しは大丈夫ってことだから」

 

 湊は小さく頷いた。

 

 霊夢は満足げに微笑む。

 

「じゃあ、ついてきなさい。

幻想郷の朝は、案外悪くないわよ」

 

 湊は立ち上がり、霊夢の後ろ姿を追った。

 

 こうして――

絶望の果てにいた青年は、博麗神社で新しい朝を迎えることになった。

 

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