影の最終形態『虚喰』が消滅したあと。
境内には、静寂だけが残っていた。
空には星が戻り、月が優しく光を落としている。
湊は地面に座り込み、胸に手を当てて深く息を吐いた。
霊夢がそっと隣に座る。
「湊……本当に、お疲れさま」
湊は霊夢の横顔を見つめ、微笑む。
「霊夢さん……僕……
やっと……前に進めた気がします」
霊夢は湊の手を取り、静かに頷いた。
「ええ。
あなたは……自分の心と向き合って、乗り越えた。
それは誰にでもできることじゃないわ」
湊は胸の奥が温かくなる。
◆
境内には、まだ戦いの痕跡が残っていた。
しかし、空気はどこか澄んでいる。
湊は空を見上げる。
「……影は、もう戻ってこないんですよね」
霊夢は少しだけ考え、答える。
「影は“絶望の残滓”。
完全に消えたわけじゃないかもしれない。
でも――
あなたが前へ進む限り、影はあなたを縛れない」
湊は静かに頷く。
「僕は……もう逃げません。
未来が怖くても……
霊夢さんが隣にいてくれるなら……」
霊夢は湊の言葉を遮るように、そっと微笑んだ。
「湊。
あなたはもう、一人じゃないわ」
その言葉は、湊の心に深く染み込んだ。
◆
空が少しずつ白み始める。
夜明けの気配が境内を包む。
霊夢は湊の肩に頭を預けるように寄りかかる。
「湊。
あなたが来てから……神社も、私も……
少しだけ変わった気がするの」
湊は驚き、霊夢を見る。
霊夢は照れたように視線を逸らす。
「あなたが……静かに頑張る姿を見てるとね。
私も……誰かを支えたいって思えるのよ」
湊は胸が熱くなる。
「霊夢さん……
僕も……あなたに支えられてばかりで……
でも……これからは……」
霊夢が湊の手を握り、優しく言う。
「ええ。
一緒に歩きましょう。
ゆっくりでいいから」
湊は深く頷いた。
◆
朝日が境内を照らし始める。
湊の胸の光――“心の欠片”が、柔らかく輝いた。
霊夢がその光に触れ、微笑む。
「湊。
これは……あなたが生きようとした証。
これからも大切にして」
湊は光を胸に抱きしめる。
「はい……
僕はもう、影に飲まれません。
未来を……自分の手で掴みます」
霊夢は湊の肩に手を置き、静かに言った。
「湊。
あなたの未来は……きっと明るいわ」
朝日が二人を包み込み、影が長く伸びる。
その影は――
もう、湊を縛るものではなかった。
◆
数日後。
博麗神社には、いつもの穏やかな日常が戻っていた。
湊は縁側でほうきを持ち、霊夢と並んで掃除をしていた。
霊夢がふと湊を見て、微笑む。
「湊。
これからも……よろしくね」
湊は照れながらも、しっかりと頷いた。
「はい。
霊夢さんと一緒に……未来へ」
風が吹き、桜の花びらが舞う。
湊の影は、霊夢の影と寄り添うように揺れていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
物語はここで終わりますが、2人の未来はきっとこの先も静かに続いていきます。
彼らが歩む未来が、どうか優しいものでありますように。