世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第3話:境界の外で、湯気の立つ日常

 博麗神社の朝は、驚くほど静かだった。

湊は縁側に座り、湯呑を両手で包みながら、境内をぼんやり眺めていた。

 

 霊夢が淹れたお茶は、外の世界のものよりも香りが強い。

それだけで、ここが“別の世界”なのだと実感させられる。

 

 霊夢が掃除用の箒を肩に担いで現れた。

 

 霊夢は境内の掃き掃除を始めた。

湊はその姿を眺めながら、ふと口を開く。

 

「……手伝いましょうか」

 

 霊夢は箒を止め、湊を振り返る。

 

「珍しいわね。外来人が自分から言うなんて」

 

「何もしないのは、落ち着かなくて」

 

 霊夢は少し考え、もう一本の箒を渡した。

 

「じゃあ、そっちの端からお願い。

掃除くらいなら妖怪にも襲われないわ」

 

 湊は苦笑しながら箒を握り、霊夢の隣で掃き始めた。

 

 最初はぎこちなかったが、霊夢が淡々と作業を続ける姿に合わせているうちに、自然とリズムが生まれる。

 

「……こういうの、久しぶりです」

 

「掃除?」

 

「誰かと一緒に、何かをすること」

 

 霊夢は手を止めず、しかし声の調子だけが少し柔らかくなった。

 

「外の世界って、忙しいんでしょうね。

みんな余裕がないって、紫から聞いたことがあるわ」

 

 湊は答えず、ただ静かに掃き続けた。

霊夢はそれ以上追及しない。

 

 その“踏み込みすぎない距離感”が、湊には心地よかった。

 

 

 

 

 掃除を終えると、霊夢は湊にお茶と団子を差し出した。

 

「働いたんだから、これくらいはね」

 

「ありがとうございます」

 

 湊が団子を口に運ぶと、霊夢が横目でちらりと見てくる。

 

「どう?」

 

「……美味しいです。外の世界のより、味が濃い気がします」

 

「そうでしょ。幻想郷の食べ物は、素材の味が強いのよ」

 

 霊夢は満足げに頷き、湊の隣に腰を下ろした。

 

 しばらく、風の音だけが流れる。

 

 湊はふと、霊夢の横顔を見た。

巫女としての厳しさよりも、年相応の柔らかさがそこにある。

 

「……霊夢さんは、外来人に慣れているんですか」

 

「まあね。紫が勝手に連れてくるから。

でも、あなたみたいに“自分から動く”タイプは珍しいわ」

 

「自分から……?」

 

 霊夢は湊の手元を指差す。

 

「掃除もそうだし、ちゃんと話そうとするでしょ。

外来人って、最初は怯えてるか、逆に開き直ってるかのどっちかが多いのよ」

 

 湊は少し考え、静かに答えた。

 

「……ここに来て、初めて“何かをしてもいい”気がしたんです」

 

 霊夢は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに表情を和らげた。

 

「そう。なら、よかったわ」

 

 その言葉は、湊の胸にじんわりと染み込んだ。

 

 

 

 

 日が傾き始めた頃、霊夢は湊に声をかけた。

 

「ねえ、湊。

あなた、しばらくここにいていいわよ」

 

 湊は思わず霊夢を見る。

 

「……迷惑じゃないんですか」

 

「迷惑なら最初から拾わないわよ。

それに――」

 

 霊夢は少しだけ視線を逸らし、照れ隠しのように言った。

 

「あなた、なんか放っておけないし」

 

 湊の胸が、わずかに熱くなる。

 

 霊夢はすぐにいつもの調子に戻り、手をひらひらと振った。

 

「まあ、あんまり気負わないで。

ここは神社なんだから、悩みの一つや二つくらい置いていってもいいのよ」

 

 湊は小さく笑った。

 

「……ありがとうございます。

少しだけ、ここに甘えさせてください」

 

 霊夢は満足げに頷いた。

 

「いいわよ。

外来人の面倒を見るのも、巫女の仕事みたいなものだしね」

 

 夕暮れの光が二人を照らす。

その距離は、朝よりも確かに近くなっていた。

 

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