世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第3話:境界の外で、湯気の立つ日常

 博麗神社の朝は、驚くほど静かだった。

湊は縁側に座り、湯呑を両手で包みながら、境内をぼんやり眺めていた。

 

 霊夢が淹れたお茶は、外の世界のものよりも香りが強い。

それだけで、ここが“別の世界”なのだと実感させられる。

 

 霊夢が掃除用の箒を肩に担いで現れた。

 

 霊夢は境内の掃き掃除を始めた。

湊はその姿を眺めながら、ふと口を開く。

 

「……手伝いましょうか」

 

 霊夢は箒を止め、湊を振り返る。

 

「珍しいわね。外来人が自分から言うなんて」

 

「何もしないのは、落ち着かなくて」

 

 霊夢は少し考え、もう一本の箒を渡した。

 

「じゃあ、そっちの端からお願い。

掃除くらいなら妖怪にも襲われないわ」

 

 湊は苦笑しながら箒を握り、霊夢の隣で掃き始めた。

 

 最初はぎこちなかったが、霊夢が淡々と作業を続ける姿に合わせているうちに、自然とリズムが生まれる。

 

「……こういうの、久しぶりです」

 

「掃除?」

 

「誰かと一緒に、何かをすること」

 

 霊夢は手を止めず、しかし声の調子だけが少し柔らかくなった。

 

「外の世界って、忙しいんでしょうね。

みんな余裕がないって、紫から聞いたことがあるわ」

 

 湊は答えず、ただ静かに掃き続けた。

霊夢はそれ以上追及しない。

 

 その“踏み込みすぎない距離感”が、湊には心地よかった。

 

 

 

◆

 

 掃除を終えると、霊夢は湊にお茶と団子を差し出した。

 

「働いたんだから、これくらいはね」

 

「ありがとうございます」

 

 湊が団子を口に運ぶと、霊夢が横目でちらりと見てくる。

 

「どう?」

 

「……美味しいです。外の世界のより、味が濃い気がします」

 

「そうでしょ。幻想郷の食べ物は、素材の味が強いのよ」

 

 霊夢は満足げに頷き、湊の隣に腰を下ろした。

 

 しばらく、風の音だけが流れる。

 

 湊はふと、霊夢の横顔を見た。

巫女としての厳しさよりも、年相応の柔らかさがそこにある。

 

「……霊夢さんは、外来人に慣れているんですか」

 

「まあね。紫が勝手に連れてくるから。

でも、あなたみたいに“自分から動く”タイプは珍しいわ」

 

「自分から……?」

 

 霊夢は湊の手元を指差す。

 

「掃除もそうだし、ちゃんと話そうとするでしょ。

外来人って、最初は怯えてるか、逆に開き直ってるかのどっちかが多いのよ」

 

 湊は少し考え、静かに答えた。

 

「……ここに来て、初めて“何かをしてもいい”気がしたんです」

 

 霊夢は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに表情を和らげた。

 

「そう。なら、よかったわ」

 

 その言葉は、湊の胸にじんわりと染み込んだ。

 

 

 

◆

 

 日が傾き始めた頃、霊夢は湊に声をかけた。

 

「ねえ、湊。

あなた、しばらくここにいていいわよ」

 

 湊は思わず霊夢を見る。

 

「……迷惑じゃないんですか」

 

「迷惑なら最初から拾わないわよ。

それに――」

 

 霊夢は少しだけ視線を逸らし、照れ隠しのように言った。

 

「あなた、なんか放っておけないし」

 

 湊の胸が、わずかに熱くなる。

 

 霊夢はすぐにいつもの調子に戻り、手をひらひらと振った。

 

「まあ、あんまり気負わないで。

ここは神社なんだから、悩みの一つや二つくらい置いていってもいいのよ」

 

 湊は小さく笑った。

 

「……ありがとうございます。

少しだけ、ここに甘えさせてください」

 

 霊夢は満足げに頷いた。

 

「いいわよ。

外来人の面倒を見るのも、巫女の仕事みたいなものだしね」

 

 夕暮れの光が二人を照らす。

その距離は、朝よりも確かに近くなっていた。

 

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