世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第4話:風の止まる神社で、予兆は静かに落ちる

 博麗神社の午後は、いつもより風が弱かった。

木々のざわめきが消えると、世界が一瞬だけ息を潜めたように感じられる。

 

 湊は境内の掃除を終え、縁側で霊夢と並んで座っていた。

湯呑から立ち上る湯気が、まっすぐ空へ昇っていく。

 

「今日は静かですね」

 

 湊がそう言うと、霊夢は湯呑を口に運びながら、少しだけ眉を寄せた。

 

「……静かすぎるのよ」

 

 その声は、いつもの淡々とした調子とは違っていた。

湊は霊夢の横顔を見つめる。

 

「何か、あるんですか」

 

 霊夢は答えず、境内の鳥居のほうへ視線を向けた。

その目は、遠くの何かを探るように細められている。

 

「湊。あなた、最近よく眠れてる?」

 

 突然の問いに、湊は少し驚いた。

 

「ええ……霊夢さんのおかげで」

 

 霊夢は小さく頷いたが、表情はどこか曇っていた。

 

「ならいいわ。

でもね、外来人って、時々“気づく”のよ。

私たちよりも早く、世界の変化に」

 

 湊は息を呑む。

 

「……僕が、何か感じてるってことですか」

 

 霊夢は湊のほうを向き、真っ直ぐに言った。

 

「あなた、最近……妙な夢を見てない?」

 

 湊の心臓が跳ねた。

昨夜、湊は夢を見ていた。

 

――境界が揺れる夢。

――紫の瞳が、何かを告げようとしている夢。

――そして、霊夢の神社に“影”が落ちる夢。

 

 だが湊は、それを言葉にできなかった。

夢の内容があまりに曖昧で、しかし妙に胸に残っていたから。

 

「……夢、というほどはっきりしていませんが……

何か、落ち着かない感じはあります」

 

 霊夢は湊の答えに、ほんのわずかだけ目を細めた。

 

「やっぱりね。

外来人は、境界の揺れに敏感なのよ。

あなたがここに来た理由も、それと無関係じゃない」

 

 湊は息を呑む。

 

 霊夢は湯呑を置き、立ち上がった。

 

「湊。

もし何か“変だ”と思ったら、すぐに言いなさい。

どんな小さなことでもいい」

 

 その声は、巫女としての厳しさと、湊を気遣う優しさが混ざっていた。

 

 湊は立ち上がり、霊夢の背中を見つめる。

 

「霊夢さん……何か起きるんですか」

 

 霊夢は振り返らず、ただ静かに答えた。

 

「まだ分からない。

でも、風が止まるときは、何かが動き出す前触れよ」

 

 その言葉が、湊の胸に深く沈んだ。

 

 

 

 

 その夜、湊は眠りの中で、また“境界の揺れ”を感じた。

 

 紫の声が、遠くから響く。

 

――「あなたは、まだ知らないだけよ」

――「でも、選ぶことになるわ。必ず」

 

 そして、霊夢の神社に落ちる影が、昨日よりも濃くなっていた。

 

 湊は目を覚まし、胸に手を当てる。

 

「……霊夢さんに、言うべきだろうか」

 

 迷いが胸に渦巻く。

しかしその迷いこそが、事件の始まりを告げていた。

 

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