世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第6話:巫女の言葉は、弱さを責めずに前へ導く

 影の妖怪が消えたあとも、湊の胸はしばらく震えていた。

霊夢は湊を縁側に座らせ、湯を沸かしに行った。

湊は膝の上で手を握りしめ、深く息を吐く。

 

――怖かった。

――でも、それ以上に。

 

 霊夢の背中が、あまりにも強くて、美しかった。

 

 湊が思考の迷路に沈みかけた頃、霊夢が湯呑を二つ持って戻ってきた。

 

「飲みなさい。落ち着くから」

 

 湊は震える手で湯呑を受け取り、口に運ぶ。

温かさが喉を通り、胸の奥に広がっていく。

 

 霊夢は湊の隣に腰を下ろし、静かに言った。

 

「湊。

あなた、今日のこと……どう感じた?」

 

 湊は言葉を探し、やっと絞り出す。

 

「……怖かったです。

でも……霊夢さんがいてくれて……助かった、って……」

 

 霊夢は湊の言葉を遮らず、ただ聞いていた。

その沈黙が、湊には救いだった。

 

 やがて霊夢は湯呑を置き、湊のほうへ向き直る。

 

「湊。

あなたを守るのは私の仕事よ。

でもね――」

 

 霊夢の目が、真剣な光を宿す。

 

「あなた自身にも、少しは“身を守る力”をつけてほしいの」

 

 湊は驚いて霊夢を見る。

 

「……僕に、ですか?」

 

「そう。

妖怪と戦えって言ってるんじゃないわ。

でも、逃げる力とか、気配を読む力とか……

あなたが“生き残るための力”は必要よ」

 

 霊夢は湊の目をまっすぐ見つめる。

 

「湊。

あなたは弱い。でも、それは悪いことじゃない。

弱いままでもいいから――

せめて、死なないための力は持ってほしいの」

 

 湊の胸が熱くなる。

 

 霊夢は湊を責めていない。

弱さを否定していない。

ただ、“生きてほしい”と言っている。

 

 湊は小さく頷いた。

 

「……僕、強くなりたいです。

霊夢さんの足を引っ張りたくないから」

 

 霊夢は少しだけ目を見開き、そして柔らかく微笑んだ。

 

「そう言ってくれるなら、教えるわ。

明日から、少しずつね」

 

 湊の胸に、初めて“前へ進む意志”が芽生えた。

 

 

 

 

 朝の博麗神社。

霊夢は湊に一本の棒を渡した。

 

「まずはこれ。

武器じゃなくて、身体の使い方を覚えるためのものよ」

 

 湊は棒を握り、戸惑いながら構える。

 

 霊夢は湊の後ろに立ち、そっと手を添えた。

 

「肩に力が入りすぎ。

もっと楽にして。

ほら、こう」

 

 霊夢の手が湊の腕を導く。

その距離の近さに、湊の心臓が跳ねる。

 

「……霊夢さん、近いです……」

 

「気にしないの。

あなた、すぐ変な方向に力が入るんだから」

 

 霊夢は淡々としているが、声はどこか優しい。

 

 湊は深呼吸し、霊夢の指示に従う。

 

「そう。

湊、あなたは考えすぎるから、まずは“感じる”練習をするの」

 

「感じる……?」

 

「そう。

風の流れ、地面の揺れ、気配の変化。

妖怪は論理じゃなくて“空気”で動くのよ」

 

 湊は目を閉じ、風の音に耳を澄ませる。

 

 霊夢は湊の横顔を見つめ、静かに言った。

 

「大丈夫。

あなたはちゃんとできるようになる。

私がついてるから」

 

 その言葉は、湊の胸に深く染み込んだ。

 

 

 

 

 休憩中、霊夢は湊にお茶を渡しながら、ぽつりと呟いた。

 

「……あなたが傷つくの、見たくないのよ」

 

 湊は驚いて霊夢を見る。

 

 霊夢は視線を逸らし、照れ隠しのように続けた。

 

「外来人って、すぐ死ぬんだから。

だから……守りたいの」

 

 湊の胸が熱くなる。

 

 霊夢の言葉は、湊の“生き直す理由”になりつつあった。

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