世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第8話:風の揺らぎに触れたとき、青年は初めて世界を感じた

 朝の博麗神社は、澄んだ空気に満ちていた。

湊は棒を握り、霊夢の指示に従ってゆっくりと構えを取る。

 

「肩の力を抜いて。

ほら、昨日よりずっと自然よ」

 

 霊夢の声は柔らかく、湊の緊張をほどいていく。

 

 湊は深呼吸し、目を閉じた。

霊夢に教わった通り、風の流れ、地面の感触、空気の揺れを“感じよう”と意識を向ける。

 

――何も聞こえない。

――でも、何かがある。

 

 その曖昧な感覚に、湊は眉を寄せた。

 

「焦らないで。

感じようとするんじゃなくて……ただ、そこにあるものを受け取るの」

 

 霊夢がそっと湊の背中に手を添える。

その温度が、湊の意識を静かに落ち着かせた。

 

 湊はもう一度、ゆっくりと息を吸う。

 

 その瞬間――

 

 空気が、わずかに揺れた

 

 風ではない。

音でもない。

ただ、境内の“どこか”が沈んだような、微細な変化。

 

 湊は目を開け、鳥居のほうを見た。

 

「……霊夢さん。

あっち……何か、います」

 

 霊夢は驚いたように目を瞬かせ、湊の視線を追う。

 

 鳥居の影が、ほんのわずかに揺れていた。

 

 霊夢は湊の横に立ち、低く呟く。

 

「……本当に感じ取ったのね」

 

 湊は戸惑いながらも頷く。

 

「はっきりじゃないです。でも……

空気が、少しだけ重くなった気がして」

 

 霊夢は湊の肩に手を置き、優しく微笑んだ。

 

「湊。

あなた、すごいわ」

 

 湊は思わず息を呑む。

 

 霊夢がこんなふうに褒めてくれるのは、初めてだった。

 

「え……すごい、ですか……?」

 

「ええ。

気配を感じるのは、妖怪退治の基本中の基本。

でも、外来人がここまで早くできるなんて滅多にないのよ」

 

 霊夢は湊の目をまっすぐ見つめる。

 

「あなた、本当に“境界の揺れ”に敏感なのね。

紫が言ってたこと……あながち間違いじゃないかも」

 

 湊の胸がざわつく。

 

 紫の言葉――

“あなたはただの外来人じゃない”

“選ぶ時が来る”

 

 その意味が、少しだけ重くなる。

 

 霊夢は湊の表情を読み取り、そっと言った。

 

「大丈夫よ。

紫が何を言おうと、あなたはあなた。

私は、あなたがここで生きていけるように教えるだけ」

 

 湊は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

「……霊夢さん。

僕、もっと頑張ります。

霊夢さんの役に立ちたいから」

 

 霊夢は一瞬だけ目を見開き、そして照れたように視線を逸らした。

 

「……別に、役に立たなくてもいいのよ。

でも……そう言ってくれるなら、嬉しいわ」

 

 湊は棒を握り直し、霊夢のほうを向く。

 

「もう一度、やってみてもいいですか」

 

 霊夢は微笑んだ。

 

「もちろん。

湊、あなたはもう“感じられる人”なんだから」

 

 その言葉は、湊の胸に深く刻まれた。

 

 霊夢のそばで、湊は初めて“自分に価値がある”と感じた。

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