世界に拒まれた青年は、静かな場所で生き直す   作:肩幅ひろし

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第9話:影が落ちる瞬間、青年は初めて前へ出る

 夕暮れの博麗神社は、橙色の光に包まれていた。

湊は棒を握り、霊夢の指示に従って構えの練習をしていた。

 

「そう。

昨日よりずっと自然よ。

湊、あなた本当に上達してるわ」

 

 霊夢の言葉に、湊の胸が温かくなる。

 

――霊夢さんに褒められると、こんなにも嬉しいんだ。

 

 そんなことを思いながら、湊はもう一度深呼吸した。

 

 そのときだった。

 

 空気が、沈んだ

 

 風が止まり、鳥居の影がわずかに揺れる。

 

 湊は反射的に顔を上げた。

 

「……霊夢さん。

また……来ます」

 

 霊夢は湊の表情を見て、すぐに札を構えた。

 

「湊、後ろに下がって」

 

 しかし湊は動かなかった。

 

 鳥居の向こうから、黒い影が滲み出るように姿を現す。

前回よりも濃く、形もはっきりしている。

 

 霊夢が一歩前へ出ようとした瞬間――

 

 湊がその腕を掴んだ。

 

「霊夢さん……僕が前に出ます」

 

 霊夢は驚いたように目を見開く。

 

「湊、危ないわ。あなたはまだ――」

 

「分かってます。

でも……霊夢さんにばかり守られてるの、嫌なんです。

僕だって……霊夢さんを守りたい」

 

 霊夢の表情が揺れた。

 

 湊は棒を握り直し、影の妖怪と向き合う。

 

 足は震えている。

心臓は喉までせり上がっている。

それでも――逃げなかった。

 

 影が低い唸り声を上げ、湊へ向かって飛びかかる。

 

 湊は霊夢に教わった通り、風の流れを読む。

影が動く瞬間、空気がわずかに沈む。

 

「……来る!」

 

 湊は横へ飛び、影の突進を避けた。

棒を振り下ろすと、影は煙のように揺らぎ、形を崩す。

 

 霊夢が後ろから声を飛ばす。

 

「湊、いいわ!

そのまま気配を感じて!」

 

 湊は影の動きを追い、再び構える。

 

 影が形を変え、背後へ回り込もうとした瞬間――

湊は振り返り、棒を横に払った。

 

「……そこだ!」

 

 棒が影を捉え、影は大きく揺らいだ。

 

 霊夢が札を構え、湊の横に並ぶ。

 

「湊、下がって。

ここからは私が仕留める」

 

 湊は息を切らしながら頷き、霊夢の後ろへ下がる。

 

 霊夢は札を影に向かって投げ、鋭く叫んだ。

 

「退けッ!」

 

 札が光を放ち、影は悲鳴のような音を残して霧散した。

 

 境内に静寂が戻る。

 

 

 

 

 霊夢は湊のほうへ振り返り、ゆっくりと歩み寄った。

 

「湊……」

 

 湊は不安そうに霊夢を見る。

 

「ご、ごめんなさい……勝手に前に出て……」

 

 霊夢は首を横に振り、湊の肩に手を置いた。

 

「違うわ。

湊、あなた……すごかった」

 

 湊は息を呑む。

 

 霊夢は真剣な目で続けた。

 

「怖かったはずなのに、ちゃんと気配を読んで動けてた。

それに……私を守ろうとしてくれた」

 

 霊夢は少しだけ視線を逸らし、照れたように言った。

 

「……ありがとう。

本当に、嬉しかった」

 

 湊の胸が熱くなる。

 

「霊夢さん……僕……

もっと強くなりたいです。

霊夢さんの隣に立てるくらいに」

 

 霊夢は微笑んだ。

 

「ええ。

湊なら、きっとなれるわ」

 

 夕暮れの光が二人を照らし、影が寄り添うように伸びていた。

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