崖っぷち結束バンド   作:三十路スキー

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でも、私が決めた道だから

 ふぅ、今日のバイトも無事終わり。楽器店もギリギリ空いていて、ギターの弦が買えてよかった。明日からはコールセンターの派遣バイト。前に行ったことがあるところ。こっちも仲良しの娘が就職するって言ってたなぁ。あの子もバンドやってたけど、解散したって。

 友達の中で『好きなことで生きていく』なんて言ってるのは、私だけになっちゃったな。手持無沙汰、友達のイソスタを見る。就職して平日はバリバリ働いて休日は思いっきり遊ぶ姿。素敵な人との結婚、そして子育て。いわゆる『普通の幸せ』で溢れている。バンドで食べていくと決めた私が捨てた、80点の人生。

 

「……思ったより、疲れてるのかな」

 

 ヘンな考えを打ち消す様に、独り呟く。今の私、思ったようにはキラキラしていない。売れないバンドマンは地道で泥臭いことばかり。生活は不安定でいつもお金は無いし、バイトと練習ばっかりで休みらしい休みはなかなか取れない。昔みたいに友達と遊ぶ余裕も無くて、あるのは付き合いの飲み会ばかり。寝不足でお肌のハリも無くなってきた。でも、後悔してるなんて言いたくない。私が決めた道だから。

 

 

 

 

~~♪♪

 

 スマホが鳴る。この着信音は……伊地知先輩。

 

『はい……喜多です』

 

 少し気まずい。

 

『あ、喜多ちゃん! あたし。えっと……この間はごめんね!』

『い、いえ! 私の方こそ……ごめんなさい』

 

 少しだけバツが悪そうな先輩の声。そして私は……あーもー! ひとりちゃんみたいな受け答えになってる。もう少し明るい声で出たかったのに。

 

『あのさ、今日これから暇?』

 

 

 

 

 

 下北沢駅前で伊地知先輩と待ち合わせ。宇都宮餃子がウリの居酒屋へ。最近出来たばかりの店でなかなか繁盛してる。あ、壁のポスターに大槻さんがいる!

 

『飲酒運転なんてロックじゃないでしょ!』

 

 多分あの人が言わないであろう言葉。飲酒運転禁止を呼びかけるメッセージのポスターみたいだ。シデロス、特に大槻さんの人気は抜群で、今じゃ一躍時の人って感じ。伊地知先輩はポスターを見ても『たはは……』とスルー。あまり話題にしたくないみたい。

 

「そんじゃ、お疲れ!」

「カンパーイ!」

 

 ふたりでチンと杯を合わせる。先輩は生中。私はレモンサワー。先輩はいつの間にかビールばかり飲むようになった。私は今でも甘いお酒しか飲めない。

 

「このお店さ、バイト先の人と来たことあんだけど結構オススメだよ」

「私、餃子久しぶりなんですよね。楽しみです!」

 

 先輩とのサシ飲み。もしかしたら初めてかもしれない。結束バンドみんなでなら、ご飯もお酒も沢山行ったけど。篭りがちなひとりちゃんは何度も連れ出したし、リョウ先輩には数えきれないくらい奢ったっけなぁ。

 でも、伊地知先輩と飲むときはいつも他の誰かといる時だった。別に先輩のことが嫌いってわけじゃない。伊地知先輩のこともひとりちゃんやリョウ先輩と同じぐらい大好き。でも、ふたりきりっていうのは、なんかヘンな感じがして。自分でもうまく例えられない気持ち。

 

 

 

 

 

「餃子といえばさ、大山さんって覚えてる?」

「もちろんですよ! 私たちが高校の時、スターリーでバイトしてた後輩の娘ですよね」

「昔3人で大山さんのギター探しに栃木まで行って、結局餃子ばっかり食べて帰ってきた!」

「あはは、そんなこともありましたねぇ。で、大山さんは今じゃ小学校の先生でしたっけ?」

「うん、教員試験1回落ちてからやっと受かったって大はしゃぎだったね」

 

 大山さんか……。バンドの昔話に花を咲かせてると、唐突に懐かしい名前を挙げる先輩。バンドもバイトも、高校生の頃が一番楽しかったなぁ。

 

「それでさ、この間偶然会ったんだよね。先生なりたての頃以来だったかな」

「へぇ……元気そうでした?」

 

 大山さんとは就職祝いの飲み会以来それっきり。でも、思い出の中でのあの娘はいつも元気いっぱい、元気過ぎるくらい元気!

 

「それがさ、今休職中だって」

「……へ? どうしてです?」

 

 思わず餃子を食べる箸が止まる。

 

「うん。詳しく聞いたら、鬱病だって」

「そんな!」

 

 先輩の言葉が、ちょっと信じられない。あの大山さんに限って……。

 

「子供のことは今でも好きらしいけど、残業や上司のパワハラがキツかったって。あとさ、モンペってやつ? ヤバい保護者に結構やられたみたい」

「……」

「まあ、職場への復帰は難しいみたいだけど、意外と元気そうだったよ。新しくやりたいことも見つかったみたいだし」

「そう……ですか」

 

 先輩はスマホを出して、大山さんとのツーショットを見せてくれた。昔に比べて落ち着いた笑顔。身長はふたりとも小柄なままだけど。

 

「大山さんやっぱり可愛いですね。小動物みたいな感じで!」

「何言ってんのよ。あの娘だってもう25よ。大人っぽくなったとか言ってあげなよ」

「えー? 伊地知先輩も可愛いですよ!」

「むぅぅぅん! 先輩を揶揄うなぁ!」

 

 顔を赤らめてこちらを小突いてくる先輩、ますます可愛いんだから。

 

「ごめんなさーい! だってふたりとも可愛すぎるのが悪いんですよぉ」

 

 なんて先輩を揶揄っていると、後ろから声がする。

 

「おーい、アンタたち! なーにイチャついてるのよ?」




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