術式【龍魂珠(アントマ・タン・ゲンド)】   作:大トロろ

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お待たせいたしました。読んでくれてる人達や、描写頑張ってたら遅くなってたわ


解釈

 

 

 

 ――パキン。

 ――ジャリッ。

 

 俺が一歩踏み出すたび、乾いた破裂音のように、ガラスが砕ける。ひび割れたタイルが靴底の下で崩れる。その音は廊下の奥へ、階段へ、空洞になった病室へと反響し、まるで建物そのものが俺の侵入を告げているようだった。

 

 今は正午、太陽は確かに真上にあるはずだ。

それなのに建物の内部は、ひどく暗く感じる。

 

 割れた窓から差し込む陽光は細く、光の中で舞う塵が、やけにゆっくり落ちていく。時間の流れが外と違う気さえ感じる。湿ったカビの臭いが鼻を刺す。古い薬品と、腐った木材と、染み付いた何かの匂い。

 

 受付だったであろうカウンターは斜めに崩れ、カルテ棚は倒れ、湿気を吸った紙束が床に張り付き、黒く変色している。天井の一部は崩れ、配線が内臓のように垂れ下がっていた。

 

 

 前世では、自ら進んで廃墟に入る趣味などなかった。

 

 

 正直に言えば――不気味。

 

 それだけで十分だ。呪霊の気配があるからか。それとも単純に、この空間が生理的に嫌なのか。

 どちらにせよ、落ち着く理由は一つもない。ブラッドウ-2を先頭に、俺は慎重に進む。鋼鉄の馬の蹄が、コツン、と鳴るたび、音がやけに大きく反響する。

 これからの戦闘に備えるため手札を確認し、人気のない廊下を進みながら、俺はカードを実行(プレイ)する。

 

『『妖精 アジサイ-2』、召喚』

 

 カードが淡く輝き、緑と水色の粒子が花びらのように舞い上がる。

 

『ふっ!』

 

 花弁が弾けるように広がり、そこから現れたのは可憐な妖精。

丸い眼鏡、ふわりと広がるピンク色の髪、きらりと光が反射する。――だが、場所が悪かった。

 

 着地した瞬間、足元のタイルが音を立てて崩れる。

 

『あ!! わわっ!!』

 アジサイ-2の体勢が大きく揺れる。左右に揺れながらも必死にバランスを取り戻すが、ジョウロが手からすっぽ抜けた。くるくると回転しながら飛んでいく先には

 

 ブラッドウ-2。

 

 ――バシャッ!

 水が盛大に鎧へとかかる。

 

 

『…あ…わぁぁ………』

 アジサイ-2の表情が青くなる。

 

 

『…………』

 鎧の隙間で揺れる青い焔が、わずかに強くなる。

 

 沈黙。

 廃病院の静寂と重なり、その無言はやけに圧がある。ブラッドウ-2はゆっくりと腕を上げ、親指を立てる。

 

 

――グッ。

 鈍い金属音が小さく鳴る。大丈夫だ、とでも言うようにアジサイ-2に向けてジェスチャーを贈る。見た目の割に、妙に前向きなジェスチャーだった。

 

 

(こいつら、思ったより感情豊かだな……)

俺は小さく咳払いをする。

 

『…アジサイ-2の登場時効果。術式(デッキ)から2枚を見る。

一枚を手札、一枚をマナゾーン(呪力)に』

 

 登場時効果の宣言をし、手札にカードが加わり、

呪力(マナ)に置いた式神の術式が焼き切れ、呪力が増える。腹の奥に、熱が灯るような感覚。血流とは別の、もっと抽象的な“力”が循環し始める。

 

 

 これが俺の呪力(マナ)だ。

 

 手札、術式(デッキ)と言ったゾーンからマナチャージを行うことで自身の呪力を増やすことが出来るのだ。

 代償として呪力(マナ)に置かれた式神は術式が焼き切れ、術式を解除しない限り呪力(マナ)に置いた式神の焼き切れ状態は戻る事はない。これは、呪文も同じだ。

 

 本来、術式の焼き切れとは領域展開の解除後に発生するものであり脳や術式に大きな負担が掛かることで術式が焼き切れ使用が困難となる。機械で言うならばオーバーヒートしている状態だ。

 

 

しかし、この龍魂珠には通常の術式と違う点がある。

 

 術式の焼き切れに種類があることだ。

 分かっているだけでも3種類。

 

呪力(マナ)に変換したことによる式神の焼き切れ。

 

② 式神が"墓地"に送られたことによる焼き切れ。

式神が外的要因、『ササゲール』と言った自身の術式効果で自壊した時や手札入れ替えなどの術式効果によって墓地に送られた式神、呪文の術式が焼き切れる。

 

③ 領域展開使用後の焼き切れ。

 これに関しては特に説明不要だろう。まあ、そもそも『生得領域』を自覚していたとしても『領域展開』が出来るとは限らんがな。少なくとも俺は出来ない。どうやって外郭なんて用意すんだよ、出来ねえぞ栗原。

 

 とりあえず、この三つだ。

基本、焼き切れた式神は使用する事は出来ない。

 

 

 しかし、例外はある。

 

式神、呪文の術式が焼き切れ状態だったとしても他に召喚している式神の術式(踏み倒し)効果によって使用出来る時がある。

 

例としては接続の式神(ディスペクター)《砕慄接続 グレイトフル・ベン》

 

『各ターンに一度、呪力(マナゾーン)から式神(クリーチャー)を召喚出来る。』

 

 この場合は、俺自身に情報として刻まれた、焼き切れている式神を必要な呪力分消費することで術式が焼き切れていようが関係なく実行(プレイ)出来る。だが、このテキストには続きがある。

 

 

『この効果でディスタスを召喚する際、呪力(マナ)を支払わず召喚が出来る。』

 

 この内容通りならば呪力消費無しでディスタスを実行、プレイ出来ることになる。しかし、それは違う。完全に呪力消費がゼロになるわけではない。呪力を使用しなければ術式が使用出来ない。なら、どうなるのか。

 

 ーー正確に言えば

 

 

 

 

『呪力効率を極限まで高め、“限りなくゼロに近い”呪力消費で術式を使用する。』

 

 これがこの術式(踏み倒し)効果の処理だ。

まだ試してはいないが《終末縫合王 ミカドレオ》と言った踏み倒し効果を持つ式神、全てがこの処理で行われると考えている。

 

 シールドの検証をしている時に《邪偽縫合 デスネークニア》の効果を使った時に気付いた。呪力消費に気付かないほどの消費量、擬似六眼である。

 

 

パキン。

 

廊下の奥で、何かを踏んだ音がする。

黒い影が、光の帯を横切った。

 

……来る。

 

理論検証の時間は終わりだ。ここからは…

 

『実戦で証明するか』

 

 背筋を、嫌な汗が伝う。

 俺はやってくる存在が居るであろう方向に視線を向ける。

 

  ――ズ……リ。

 

廊下の奥から、何かを引きずる音。

光の帯の向こう側で、影が歪む。

 

『診"いぃ察"ぅ"うぅテ"ェ"え"すゥ"う"ぅぅ』

 耳の奥を引っ掻くような、濁った声。言葉の形をしているのに、発音がイカれている。

 

 影が、ぬるりと光の中へ踏み込んだ。全身が真紫のその呪霊には顔は、ない。本来なら顔があるはずの位置には、皮膚を無理やり縫い合わせたような歪んだ頭部。目と鼻というパーツの代わりと言わんばかりに、一本。無理やり押し込まれたように、巨大な注射器が突き刺さっている。

 

ドス黒い薬液が、筒の中でゆっくりと脈打っている。全長は二メートルを優に超えており、針だけで俺の腕ほどの長さがある。針先から、ぽたり、と黒い液が落ちる。床に触れた瞬間、―ジュゥゥゥ……と、音を立ててタイルが溶ける。

 

『……へぇ』

俺は冷や汗を垂らしながらも呪霊に向かって問いを投げる。

 

『最近の診察ってのは、そんなデケェお注射を使うのか?』

健康優良児なんでね。分からねぇんだわ、と俺は付け足して言葉に出す。

 

返事はない。

代わりに、首がぐるりと回る。

あり得ない角度で、呪霊はこちらを向く。

 

そして

 

『オ"タ"イ"シ"ニ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"!!!』

声量が跳ね上がる。と、同時に呪霊は俺に狙いを定めて全力疾走。一歩踏み出すだけで廊下が抉れる速度で迫り来る。俺の先頭にいるブラッドウ-2には眼中にないらしい。しかし、まあーー

 

(意外と早えな!)

『ブラッドウ-2!!【ブロック】だ!』

 俺の声が廊下に響く。

次の瞬間、鋼鉄の馬が地を蹴った。

 

――ガァンッ!!

 巨大な注射針と、黒鉄の槍が正面衝突。

俺を貫く筈だった注射針は寸前でブラッドウ-2の槍が阻んだ。衝撃波で床のタイルがめくれ上がり、ブラッドウ-2は俺を守るために呪霊と押し合いになるがーー

 

 突如、蒸発音のような異様な音を立てる。

ジュゥゥゥゥ……と、音を立ててブラッドウ-2の槍の先端が、じわり、と腐食する。呪霊の注射器の先端から出る黒い液体が槍を腐食し溶かしているのだ。更に、ブラッドウ-2の蹄が床を削りながら後退する。

 鎧の隙間で揺れる青い焔が、一瞬だけ強く燃え上がる。

 

(押されているな…いや、当然か。)

ブラッドウ-2の実力は呪霊で言うなら三級程度、二級呪霊が相手となれば流石に厳しい。足止めをしてくれているが、破壊されるのも時間の問題。

 

 なら、どうするか。答えは簡単だ。

 

 

 

『アジサイ-2の『ササゲール』を発動。』

 その言葉に反応しアジサイ-2はその場で祈るように手を組み、その身を捧げる。自身を薄紫色の光に変えて一本の光り輝く柱となる。

 

 

式神(ディスペクター)を呼ぶために

 

 

 

 『"時空"』 『"覚醒"』 『"最後の嵐"』

 

 

 術式の精度を上げるため呪詞でカバーする。

そして、式神本来の大きさよりもスペックを維持し、その身体を小さく落とし込む。約5メートル。この廃墟の廊下で扱えるサイズまで。

 そうすれば、呪力が枯渇してぶっ倒れることもなければ、呪力消費量も大幅に抑えられる。

 

 やる事はいつもと変わらない。二枚のカードを一つに繋ぎ合わせる。

 

一枚は、火・水・自然・光・闇文明の全てを力を、その身に取り込んだことで覚醒した最凶の悪魔

   《最凶の覚醒者 デビル・ディアボロス(ゼータ)

 

もう一枚は最凶の悪魔に対抗するために超覚醒の力を手にし、三日三晩戦い続け、未来を紡いだ。

     《超覚醒 ラスト・ストームXX(ダブルクロス)

 

 

 

 

   《最凶の覚醒者 デビル・ディアボロス(ゼータ)

            ×

     《超覚醒 ラスト・ストームXX(ダブルクロス)

 

         【術式連結】

 

 

 

覚醒の象徴が今、一つとなる

 

 

 

『《覚醒連結 X X(ダブルクロス)DD(ディーディー)(ゼータ)を召喚!!』

 

 

光の中から現れた姿はラスト・ストームX X(ダブルクロス)

 

 だが、その胴体にあるはずのない異物が食い込んでいる。上半身のみ、両腕を欠いた最凶の悪魔《デビル・ディアボロス(ゼータ)》が、胸部から無理矢理ジッパーで縫い付けられている。

 

 最凶の悪魔の背後にいた左右にうねる四つの龍の首もラスト・ストームX X(ダブルクロス)の白と赤の侍鎧にジッパーで連結されている。サムライが未来へ紡ぐために振るわれた剣は、悪魔の力を帯びた黒鉄と、サムライの誇りを宿す白刃が、歪に噛み合う刀身となっている。

 

サムライの誇りも悪魔としての矜持も踏み躙られる。

 

 

 《覚醒連結 X X(ダブルクロス)DD(ディーディー)(ゼータ)

 

『オオオオオオォッ!!!』

 

 

『召喚時!!DD(ディーディー)(ゼータ)のEXライフ!!』

 

DD(ディーディー)(ゼータ)の第二の魂が俺の元に飛来し弾ける。と、同時に俺の身体を包むように、赤い光の膜が形成される。

 

 

『行け!DD(ディーディー)(ゼータ)!!攻撃!』

 命令と同時に、五メートルの巨体がブラッドウ-2と交戦している注射器の呪霊に向かって床を砕かず滑るように加速し、呪霊の懐へ一瞬で潜り込む。

 ブラッドウ-2と交戦していた注射器の呪霊が振り向く。針先が不気味に光り、DD(ディーディー)(ゼータ)へ狙いを定める。だが――遅い。

 

 

 既に剣は振り翳されている。

 

 

 信念のない剣が呪霊に向けて振るわれる。

未来のためでも、破壊のためでもない。

 

 

『オオオアアアアッ!!』

 歪な刀身が唸りを上げ、呪霊を真一文字に斬り裂いた。

空間ごと斬り裂くかの如く斬撃が走る。

 

 ザフッ――

 

 呪霊が祓われる音と共に、注射器の呪霊が両断され、霧のように霧散する。だが――

 

(…………おかしい。)

 確かに祓った。

 呪いは消えたはずだ。

 

 それでも。まだ、感じる。この廃墟の奥から滲み出る、粘つくような気配。

(まだいるのか……?)

 

 俺は呪いを感じる方向へ視線を向ける。廊下の突き当たり、半開きの扉。かすかに漏れる、今まで感じたことのない呪力。

 

 その先――元病室。暗闇の中、ベッドの上で蠢く影。膨れ上がった呪胎が、今まさに産声を上げようとしていた。

 

 低い鼓動音。

 

 

 

 本当の勝負は、ここから始まる。

 





次回、繋求死す!デュエルスタンバイ!
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