『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』 作:can'tPayPay
翌日、ロズワール邸に王都の商人が注文していた品々を届けにやってきました。
昨日の「邪魔」発言を深く反省(?)したエミリアが、アルヴのためにと用意したのは、動きやすさと質にこだわった新しい服の数々でした。
しかし、ここで一つの問題が浮上します。
エミリアは、自分の服に関してはパックの助言がないと「すごーくダサい」格好を選んでしまうほど、ファッションには無頓着なのです。
「アルヴ、見て! 王都で一番丈夫だって評判の生地を使った服なの。これなら転んでも破れないし、泥んこになっても大丈夫だわ!」
エミリアが自信満々に広げたのは、確かに上質ですが、どこか子供の遊び着のような、あるいは実用性を重視しすぎてデザインが置き去りにされた、なんとも言えない絶妙なセンスの服でした。
「あ、ありがとう姉さん……。でもこれ、ちょっとポケットが多くない?」
「だって、おやつとか、綺麗な石とか、色々入れられたほうが便利でしょう? アルヴ、一人でお外に出る時、何かあったら困るもの。……本当に、一人で着替えられる? お手伝いしましょうか?」
エミリアはアルヴの顔を覗き込み、心底心配そうに眉を下げます。彼女のブラコンっぷりは健在ですが、それは狂気というよりは、迷子を心配する親鳥のような、純粋で真っ直ぐな「放っておけない」という感情でした。
「大丈夫だよ姉さん。もう子供じゃないんだから。……ねえ、パックもそう思うだろ?」
アルヴが助けを求めて、空中に浮いているパックを見やります。
パックは昨日の「パパ」呼びの余韻をまだ引きずっており、アルヴと目が合っただけで、ふにゃふにゃと顔を崩しました。
「ふふ……。そうだね、アルヴ。パパ……じゃなかった、ボクから見れば、アルヴはどんな格好でも世界一かっこいいよ。でもリア、その服は少しだけ、ポケットの数が多すぎる気がするなぁ」
「ええっ!? そうかしら……。アルヴが一人で困らないようにって思ったんだけど……やっぱり、私がついていかないとダメかしら」
「姉さん、心配しすぎ。……あー、その、……**パパ**。パックからも姉さんに言ってよ。僕はもう一人で大丈夫だって」
アルヴが少し気まずそうに、けれど昨日喜んでくれた呼び方を混ぜて頼むと、パックのテンションは再び跳ね上がりました。
「任せといて! アルヴがボクをそう呼んでくれるなら、パパ、何だってしちゃうよ! リア、アルヴは強い子だ。服のポケットが少なくたって、ボクたちが魔法で支えてあげればいいじゃないか」
「パック、それは解決になってないわ! ……でも、そうね。アルヴがそう言うなら、信じなきゃいけないのよね」
エミリアは少しだけ寂しそうに、けれど愛おしそうにアルヴの髪を撫でました。
「でも、本当にお外は危ないんだから、何かあったらすぐ叫ぶのよ? 転びそうになったら地面を凍らせてクッションにするから。……ね、約束よ?」
「……転ぶ前に助けてくれるなら、クッションはいらないと思うけど。わかったよ、姉さん」
そんなやり取りを交わしていると、屋敷の門の方から、聞き覚えのある陽気な声が聞こえてきました。
「おっ、えらい賑やかやね。うちが届けさせた服、気に入ってもらえたかな?」
そこに立っていたのは、アナスタシア・ホーシン。彼女はエミリアの無頓着なチョイスを察して、こっそり自分の商会で流行りの「本当に格好いい服」も混ぜて送り届けていたのです。
「アナスタシアさん! ……あ、この服、あなたが選んでくれたの?」
「せや。エミリア様だけに任せとくと、アルヴ君が『ポケットお化け』になってまいそうやったからな。……どうや、アルヴ君。うちの選んだ服、着てみーへん?」
再び現れた商人の影に、エミリアは「アルヴ、私の選んだ方も着てね!?」と、慌ててアルヴの腕を掴むのでした。
### 次回予告
アナスタシアが持ってきたのは、服だけではなかった。
「実は、アルヴ君にしか頼めへん『お願い』があるんや」
姉様とパパの監視を潜り抜け、アルヴは初めての「単独任務」に挑む。