『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』 作:can'tPayPay
アナスタシアが持ち込んだ「最新ファッション」に身を包んだアルヴは、鏡の前で少し照れくさそうに笑っていました。その姿は、ハーフエルフ特有の神秘的な美しさに、少年らしい爽やかさが加わった、まさに「人誑し」の原石。
「いやぁ、マジでお前、そのツラは反則だわ。エミリアたんの弟じゃなきゃ、俺が嫉妬でハンカチ噛んでるところだぞ」
スバルが横から肩を組み、ニカッと笑います。アルヴとスバルは、屋敷の中でも特に仲が良いコンビでした。エミリアやパックの過保護に時々息が詰まるアルヴにとって、スバルの「対等で、少し抜けた兄貴分」のような接し方は、とても居心地が良いのです。
「スバルだって、そのジャージ……似合ってるよ。たぶん」
「『たぶん』は余計だ! まぁいい。それで、アナスタシアさん。アルヴに頼みたい『お願い』ってのは何なんだ? まさか変なことに巻き込もうってんじゃねーだろうな」
スバルが少し警戒してアナスタシアを睨むと、彼女は扇子で口元を隠して「うちを人聞き悪く言わんといて」と笑いました。
「実はな、王都の市場でちょっとした『トラブル』があってん。うちの商会の荷物が、不運にも迷子になってしもうてな。……ただ、これを取りに行くんが、屈強な騎士様やと相手が怖がって逃げてしまう。そこで、アルヴ君の出番や」
「僕が……?」
「せや。その愛くるしい顔で、困った顔して『荷物を探してるんです』って言うてみ? 王都の連中、みんなメロメロになって協力してくれるはずや。これはアルヴ君にしかできへん、高度な『人たらし作戦』やねん」
「……アナスタシアさん。アルヴをそんな、おとりみたいに使うのは、お姉ちゃんとして許せませ――」
エミリアが割って入ろうとした瞬間、アルヴは彼女の手を優しく握りました。
「姉さん。僕、やってみたいんだ。いつも姉さんやパックに守られてばかりじゃなくて、自分の力で誰かの役に立ちたい。……スバルも、一緒に行ってくれるんだよね?」
アルヴが少し上目遣いで、困ったように微笑む。これこそが、無自覚に発揮されるアルヴの「人誑し」スキル。
「……う。そ、そんな顔で頼まれたら、お姉ちゃん……断れないじゃない。……わかったわ。でも、スバル! アルヴに何かあったら、わかってるわね?」
「ああ、わかってるって。俺の命に変えても、この『可愛い弟分』は守り抜いてやるよ!」
こうして、エミリアとパックの心配を背に、アルヴとスバルは王都の市場へと繰り出しました。
「よーしアルヴ、まずはあそこの強面な露天商から情報を引き出そうぜ。……いいか、お前はただ『困ってます』って顔をしてればいいからな」
「うん、やってみる」
アルヴが露店に近づき、少しだけ眉を下げて店主を見上げました。
「あの……すみません。アナスタシアさんの商会の荷物を探しているんです。何か、見かけませんでしたか……?」
「……あ? ああ、あのアナスタシアの……って、おいおい、そんな綺麗な顔して泣きそうな顔すんじゃねぇよ! 荷物か? 確かさっき、路地裏の方へ運ばれていくのを見たぞ! ほら、これ持っていけ。元気出せよ!」
なんと、店主は情報だけでなく、売り物のリンガ(林檎のような果物)までアルヴに握らせました。
「……すげぇな、お前。才能の塊かよ」
スバルが呆れ顔で呟く中、アルヴはその後も行く先々で、果物を貰ったり、お菓子を貰ったり、挙句の果てには「うちの娘の婿に来ないか」と勧誘されたりしながら、着実に荷物の行方を追っていきます。
「アルヴ、お前……自覚ないかもしれないけど、それ、姉さんの比じゃないくらい危険な力だぞ」
「え? 僕はただ、みんなが親切にしてくれるから、お礼を言ってるだけだよ」
ふんわりと笑うアルヴの背後には、彼に魅了された人々が、まるでパレードのようにゾロゾロと付いてきていました。
本人は全く無自覚なまま、アルヴの「人誑し」は王都中にその名を広めようとしていたのです。
一方、屋敷では。
「……パック。胸騒ぎが止まらないの。アルヴが、誰か知らない人に連れ去られちゃうような、そんな気がして……」
「落ち着いてリア。ボクもさっきから、アルヴに悪い虫が大量に付いてる気がして、毛並みが逆立ってるんだ。……ちょっと様子、見に行ってこようか?」
結局、我慢できなくなった「パパ」と「お姉ちゃん」が、王都へ向けて密かに出撃準備を始めるのでした。