蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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十話 酒の肴

 夜も更け、そろそろ日付が変わる頃。この時間になれば、主な客である学生の殆どは寝に入ってしまう。これ以上営業をしていても大した稼ぎにはならない。

 

「ふぅ、そろそろ店じまいするか」

 

 私はあの後、公園の一角で焼き鳥の屋台をやっていた。思いの外、客足はあったため、今日の仕込みにかかった費用分は回収することができた。尤も、利益は出せなかったため、結果的には赤字とほとんど変わらないのだが。

 提げていた暖簾を下ろし、炭を水が張られた壺の中に放り込む。設置していた椅子もすべて回収し、重ねて縄で縛り一纏めにして屋台の側面に提げておく。

 他にも用意していたものたちを片付けていき、屋台を移動させることができる状態にする。

 私は屋台を引き、昼頃に訪れていた建物の前へと来た。建物のほとんどの階の明かりは消えているが、一つの階だけ明かりが灯されている。

 引いてきた屋台を邪魔にならない所、良い感じの庭があるのでそこに置き、建物の中へと入り、明かりが灯されていた階へと向かっていく。

 

「邪魔するぞ」

 

 その階の扉を開け中へ入り、更に奥の部屋へと進んでいくと、昼頃に会った大人が大量の書類と格闘している最中だった。

 

「よぉ、大丈夫そうか?」

”あまり、大丈夫ではないかな?”

「まぁ、その書類の山を見ればやばいことは伝わってくるよ」

 

 私は見るからに疲れている先生の首根っこを掴む。

 

”え、ちょっと!?”

「普通の人間がそんなに働いてたら、死ぬぞ?少しくらいは休め」

 

 軽い先生を持ち上げると、そのまま部屋から連れ出して、庭まで運ぶ。

 

”これは……君の屋台?”

「ああ、そうだよ。ちょっと準備するから待ってろ」

 

 提灯の明かりは……別にここは明るいからいいか、暖簾は出してたら営業中だって思われて他の奴らが来るかもだし。

 慣れた手つきで椅子やら炭を出して、道具の準備を終えればそのまま火を起こす。

 

”この金属の棒と炭、そしてタレ、鰻屋?”

「焼き鳥屋だ」

”ああ、そっちか”

「鰻の方がよかったか?」

”鰻も好きだけれど、焼き鳥も好きだよ”

「そうかい」

 

 炭全体に火が渡るまで少し時間がある。だから、棚にこっそりと置いていた一升の瓶、それを取り出し、先生に見せる。

 

「どうだい?」

”……君、未成年のように見えるけど?”

「小童が、私のほうがずぅっと年上だよ」

”見えないね”

「若い見た目くらいしか取り柄がないもんでね」

 

 私は徳利に酒を注ぎ、それをお猪口とともに先生の前に置く。

 

「ほんとだったら、燗したいところだが、あいにく屋台じゃそんな便利な物はないからな。冷酒で我慢してくれ」

”それじゃあ、頂いて”

 

 先生が徳利の酒をお猪口に注いで呑む。その間に、炭全体に火を回らせ終わり、残っていた串を火にかけていく。ある程度火が通ったところで、一度火からおろしてタレを付け、火にかける。

 

”いいにおい”

 

 油とタレが焼かれる匂いがこの場を支配する。それでも私は匂いには気を取られず、すぐに火力の差で焼けている串と焼けていない串を入れ替え、焼き加減を調整する。コゲが付くくらいになった頃にもう一度タレをつけて、今度は軽く炙る程度に火にかける。

 

「ほらよ」

”これは?”

「皮にぼんじり、ももだよ」

”なるほど”

 

 私も椅子に座り、コップに酒を注ぎ、焼きあがったばかりの焼き鳥を手にして食べる。

 

「随分と大変な仕事を引き受けたもんだな」

”そうだね。でも、みんなが私を必要としているのならば、その大変な事であっても苦労にはならないよ”

「はぁ、こりゃまた変わってるねぇ」

 

私は新しい徳利に酒を注ぎ、先生の前に出す。

 

"未来ある子供達のためだからね"

「一人は皆のためにか」

"それに、人は誰かに支えて貰わないと生きていけないからね。私もみんなも、君も、でしょ?"

「さぁ、私はどうだろうな」

 

 不老不死である私は誰の手を借りなくても生きていける。

 

「私がいなくても夜は来て、朝も来る。これまでも、これからもな」

 

 元々この世界に私は居なかった。今更この世界に私が増えて、消えたところで何も変わらない。

 

”自分がいない明日が来てもいいのかい?”

「誰しもがいつの日にか生まれ、いつの日にか死ぬ。それは先生であるあんたも例外じゃないだろ?」

 

 尤も、死ぬことができない私には、自分がいなくなった明日なんて到底想像することなんてできないのだが。

 新しい串を火にかけていく。

 

”確かに、私もいつの日にか死んでしまうかもしれない。でも、それは今日だとも明日だとも思っていないよ”

「へぇ、こんな銃撃戦が激しい場所だってのに?見たところ、たった一発でも死にかけるってのに」

”そうだね。でも、だからって怖気づいてなんていられないよ”

 

 随分と自信家なのか、それとも理想論者なのか、もしくは現実が見えていない馬鹿なのか。まぁ、この銃撃が絶えないこの世界で生身の人間がこうしてくるのならば、いずれかであることは確定か。

 

「そうかい。まぁ、お互い脆い肉体を持ったもの同志、これからしばらく長い付き合いになるからよろしく頼むよ」

 

 売れ残った焼き鳥であるが、私と先生が酒を交えつつ談笑するにはこれくらいで丁度いい。

 少しの間、酒を呑みつつ、焼き鳥を摘まんでいけば。

 

”zzz”

「あらら」

 

 昼のあれからずっと仕事をしていたと考えれば、先生が途中で寝落ちしてしまうのは当たり前の話だった。

 私は寝てしまった先生を担ぎ上げ、建物の中へと連れて行くと、布団を見つけてそこに寝かせる。私は屋台を片付け、適当に雨風を防げる場所に座り眠った。

 

「え、ホームレス?」

 

 後日、エンジェル24時のバイトの子が私のことを見つけて驚いたらしい。

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