蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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十一話 始まりの地に

 こちらの世界に来て約二年、キヴォトスのいろんな場所を巡ってみたいが、直接的に幻想郷に関わるような情報は何一つ見つけることはできなかった。

 キヴォトスはとても広い。寿命なんてものがない私は、時間を気にせず色んな地を調べて回ることができる。けれど、今回ばかしは私にもあまり時間は残されていない。

 稗田阿求、あいつの最期を看取る約束がある。阿求曰く、寿命は三十前後で、天寿を全うするまで少なく見積もっても十五年だ。そしてその十五年の内二年をこちらで過ごしてしまった。

 三十年程度を生き、百年程地獄で奉仕をする。そして、転生をすれば前世の記憶をすべて失ってしまう彼女にとって、前世の自身を覚えている妖怪や私の様な不老不死の存在は大きな存在なのだから。

 だから、私はとにかく幻想郷へと帰るための手段を模索する。そして、今日、この世界に初めて降り立った地を探索することにする。

 隙間野郎が何を思ってこの世界に落としたのかはわからない。それでも隙間野郎でも、自身の目的の場所からかけ離れた地に、私を放置することはないだろう。だからこそ、アビドス砂漠と呼ばれる地に、隙間野郎が求めている何かがあるのかもしれない。隙間野郎が求めているものさえわかれば、すぐに帰れるかもしれない。

 

 私は移動式屋台を引き、シャーレへと来た。

 

「よぉ、先生。ちょっといいか?」

 

 屋台はシャーレの庭の邪魔にならない場所に置き、炭やタレなど外にずっと放置しておくのはヤバいモノは手にしたまま、先生の居る部屋と来ていた。

 

”?どうしたんだい”

 

 持っていた荷物を近くに在った机の上に置く。

 

「実はな、少しの間アビドス地区で調べものをしたいんだ。そのうえで一つ頼みたいことがあるんだが」

”……察するに、荷物を預かってもらいたいのかな?”

「ああ、実を言うと私って家なしでな。これ置いておく場所がないんだよ」

”それくらいなら構わないよ。正直、部屋を持て余しているからね”

「ああ、助かるよ」

 

 先生が快く引き受けてくれたおかげで、屋台の備品全てを安全な場所に置いておくことができる。

 

「流石に砂漠じゃ屋台を持っていけなかったからな。商売もできなさそうだし」

”預かるのはいいけれど、アビドスで何かするのかい?”

「私的な調べ事だよ。もっともそこに答えがあるかはわからないけれど」

”そうなんだ。私にできることがあったら言ってね”

「はは、随分とお人よしだな」

”それが取り柄だからね”

「あんた、早死にするよ」

 

 この世界でそんな性格だと本当に早死にをしそうで心配になる。それでも、私には先生がどんなことをやろうとしても、止める筋合いがない。だから、こうして口で言ってやる程度しかできない。

 

「ひとまず、礼を言うよ。今度、純米大吟醸でも持ってくるよ」

”騒ぎにならないようにね”

「だから、私のほうがずっと年上だよ」

 

 持っていけない私物を置いていけると分かれば、私はすぐにアビドスへと向かった。

 約二年ぶりに訪れるアビドス地区、初めて来た時は右も左もわからず、太陽を頼りに移動していた。今となっては、空にある変な模様のおかげで凡その位置もわかるうえ、最悪空を飛んで移動して目的地に向かうこともできるようになった。

 幻想郷には存在しない、砂漠地帯。土や石の地面とは違う砂の地面はやはり歩きにくい。一歩一歩深く足が沈み、沼地を歩くかのように足に纏わりつき重たくなる。

 日差しを遮るものは何一つなく、とにかく暑い。

 

「ふぅ」

 

 普段から炎に触れる私であっても、それはあくまで戦闘中などであり、常日頃から炎に触れているわけではない。何より、熱いと暑いじゃ全然意味が違う。

 

「笠なんていつぶりだ?」

 

 以前百鬼夜行に寄った際売られていた笠、これなら使い慣れていて、両手が開く。日差しの強い砂漠地帯で活動するのならば、とてもちょうどよかった。

 水筒を開け、口に一口水を含ませると周囲を見渡す。

 

「やっぱり、ここは単純な砂漠ってわけじゃねぇんだな」

 

 どこまでも続いている砂漠のように見えるが、少し目を凝らしてみれば幾つもの廃墟となった人工物が沢山ある。

 こちらの世界に来て初めて知ったが、砂漠地帯は時間が経てば拡大したり縮小したりするらしい。そして、ここアビドス砂漠はずっと前から拡大を続けている。その証拠に、昔の地図を見てみれば、ここにも人は住んでいたが、今となっては全てが砂漠の砂に埋もれてしまっている。

 

「これは……思って以上に厳しいかもな」

 

 廃墟となった建物の一つに入り、中を物色していく。

 こちらの世界に二年ほど経ったとは言え、未だにこの世界のことはわからないことのほうが圧倒的に多い。

 本来ならば、紅魔館や守屋が立てているどの建物よりも高い建物だったのだろうが、根本から倒れて斜めになってしまっている。

 中に入ってみれば、建物が斜めになっているせいで、部屋中の家具は地面に近いほうの壁に一纏めになっている。

 

「あ~、これを漁るのか?」

 

 とりあえず目の前にある色々な物が山となったそれを一つ一つ漁り、何か手掛かりになりそうなものがないかを探す。

 

「?なんだこの箱?」

 

 全く使い方がわからないものや、壊れたもの、本当にこれはなんだっていうものや、壊れた椅子と机、収納棚等色々出てくる。

 いろいろと漁っていき、最初に漁り始めてから数日、太陽が沈みもはや寒くなってきたころ。

 

「……わかるかぁ!!」

 

 私は遂に漁っていた山に思いっきり蹴りを入れる。

 元々貴族の生まれで、受けてきた教養も和歌や書道に楽器、こうしたことを考えるような教養なんてものは何一つなく、そもそも千年以上生きていれば受けてきた教養なんて忘れる。そして、私が生きていく中で必要だったのは、とにかく戦う技術であり、こうした物事をとにかく考える能力なんか鍛えられていない。

 

「あ~、やり方を変えるか」

 

 いくら死なないためぶっ通しで作業をして居られるといえど、明らかに効率が悪すぎる。それに、本当にここに隙間野郎が求めている答えがあるかもわからない。

 

「というか、よくよく考えてみればこんなところを探していてもだよな」

 

 時間を置いて考えてみれば、こんなところに答えがあるのならば、あの隙間野郎が私をこっちの世界に連れてくるわけがない。

 隙間野郎が求めている答えはもっと別のところ……今、ここアビドスで動いている何かに答えがあるのなろう。

 

「取り合えず、一回準備しなおそう」

 

 近くにまだ人が住んでいる地域があったはず。一度そこに戻り、準備をし直そう。

 バキバキになった腰を伸ばし、廃墟の建物を後にする。

 

「……んあ?」

 

 人が居ると言えど、殆ど過疎地域。一日で数人会えれば良い方な地域であるのだが、そんな場所でまさかの相手と出会った。

 

”ああ、妹紅”

「何でここにいるんだよ、先生」

 

 何故かアビドス地区に先生の姿があった。この間荷物を頼んだ時、机にかなりの量の書類の山があったが、普段の慧音と阿求の仕事量から考えて、あれはかなりの量だと思える。到底まだ終わっているとは考えにくいのだが。

 

”ちょっとアビドスの子達に救援を頼まれてね”

「助けを乞われたからって……」

 

 あれだけの仕事量を抱えたままであるのに、新しく面倒ごとを引き受けていると知りもはや呆れてしまう。

 

"そうだ。少し相談に乗って貰ってもいいかな?"

「別に構わないが」

 

こんな私に相談したい事なんて一体なんなんだと身構えつつ、立ち話もなんなので、適当に座れる場所、近くに甘味処なんて洒落たものはないので公園のベンチで話す。

 

"妹紅さんはコーヒー飲めるかな?"

「ああ、いける口だよ」

 

先生の奢りで自動販売機の缶コーヒーを二つ買い、片方を貰う。

 

「で、話ってのは?」

 

まどろっこしい話は苦手であるため、雑談等は抜きにして本題に入る。

 

"実は今救援の頼まれている学園の生徒に嫌われちゃっててね"

「はぁ、そりゃまた、何人位に?」

"五人の学園の内一人にね、どうも相当嫌われちゃっているみたいでね"

「とりあえず、相談する相手を間違えているとだけは先に言っておく」

 

 こちとら、何処に行ったか分からない輝夜相手に復讐をするために、一人で生きていた間の殆どを輝夜を探すために旅をしていたんだ。一期一会の出会い以外で交流を築いたのなど、幻想郷に定住するようになってからだ。そんな私に嫌われている相手にどうしたらいいかなんかわかるわけがない。

 

「私は一人旅してる期間の方が圧倒的に長いんだ、そんな私で良ければ話に乗るよ」

”ちょっと気になることがあったけど、お願いしてもいいかな?”

「まず質問だが、なんでわざわざ自分達で助けを呼んで置いて、先生の事を嫌っているんだ?」

 

 何故先生が嫌われているのか、これがわからなければ私としても助言を何一ついうことができないのだ。それに、わざわざ自分達が呼んだのに、わざわざ嫌っているのかも私にはわからない。

 

”アビドス高校廃校対策委員会って言う組織があってね、そこの子の一人から救援要請の手紙を貰って、補給物資とか色々を持ってきたんだ”

「限界集落っぽそうだからな、物が不足していたことは予想付くが、貰うもの貰ってなのか?」

 

 人気が殆どなく、活気も感じられないこの場所、形は違えど旅の最中に見てきた限界集落に近しいものを感じる。そうなれば、碌な物も集まってなく、職人技や専門的な知識が要るような物は自給自足するのは無理な話だ。だから、先生にそうした物を先生に用意してもらったのだろうけれど。

 

”今回の救援要請とは別件だからね”

「別件?」

 

 どうも、この先生救援以外の事に首を突っ込んでいるようだ。

 

”あまり詳細に関しては言えないのだけれど、アビドス高校が抱えている大きな問題、それの解決の手助けができればって提案したんだけど”

「その提案をしたところで、明確に拒絶されたと?」

”そうだね”

 

 大体察することができた。恐らく補給物資の一件も彼女達の中では苦肉の策だったと伺える。それなのに、これ以上自分達の事に関わられる事を良しとはしていない。それは、旅する中でよく見てきた光景だ。

 

「少なからず、そういう考えを持つが居るのはおかしな話じゃないな」

”そうなの?”

「良くも悪くも仲間意識が働いてるんだよ。部外者とかなんとかって言われたりしなかったか?」

”……似たようなことは言われたね”

 

 どの集落でも部外者を嫌う奴は一定数いる。そして、その心理も理解できる。何せ集落に部外者が来る場面は何度も見てきた。尤も、その部外者はほぼ私だったのだが。

 集落に部外者が現れれば、その部外者がどんな面倒事を持ってくるのか分かったものではない。これまでどうにか明日を迎えてきた者達にとって、部外者という異物は自分達の明日を奪う存在になりかねないのだから。

 私も昔はボロボロな衣服を身に着けて、妖怪と殴り合い殺し合いをしていた。おまけに、死んでも何度でも復活するだなんて、もはや恐怖の対象でしかない。そんなのが集落に訪れれば嫌われるのは当たり前であるが。

 

「そいつもそいつなりに自分達の居場所を守ろうとしているんだ、嫌われるのは仕方の無いことだ」

”そうだね、それは理解しているつもりだよ”

「他の四人から先生はどう思われているんだ?」

”比較的好意的に受け入れられてると思うよ”

「はあ、それはそれは」

 

 先生の人当たりは悪くない。この人格の持ち主に嫌悪感を抱く人物は少ないだろうから、先生の言葉にはある程度信用が持てる。少なくとも表面的には好意的に受け入れられているのだろう。

 

「私から言えるのは、先生としてやれることをやっていくしかないだろうな」

”何か特別な事をやらなくていいのかい?”

「逆だ。今だからこそ、下手に特別な事をやる必要なんてないんだ。誠実に目の前の問題解決に取り組む。それだけでいいんだよ」

 

 下手にあれこれやって空回りしてしまったら面倒なことになる。

 

「目の前の問題を解決して、自分の力を見せつけてやれ。それでまだ嫌ってくるような相手ならばそこまでだ」

”随分あっさりしているんだね”

「一々他人の事を気にしてたらやってられねぇよ」

 

 人間の寿命なんて精々三十から四十年程度、不老不死の私にとってあっという間に尽きてしまう寿命だ。そんな人間一人一人の関係を一々気にしていられない。

 

「尤も、先生の事だ、その生徒の事を心配しているだろ」

”まぁね。皆の前でああしたことを言ってしまった手前、私が来る前の様に皆と一緒に居られるか”

「難しいだろうな」

 

 先生が危惧している事はわかる。そいつは周りの皆とは他の意見を述べてしまった以上、先生を巡って対立する関係になってしまった。これから先、しばらくの間先生はその学校に関わることになる以上、その対立は維持されたままになる。

 

「自分が去れば解決するなんて思ってないだろうな?」

”それは”

「そうしたら、折角部外者が手を貸してくれるってのに、たった一人の意見でその手を払い除けることになる。寧ろ、悪化するだけだよ」

”そうだね”

「関わった以上は引き返せない。だから言っただろ、誠実に目の前の問題解決に取り組めって」

 

 初めから引き返せる所なんて存在しない、だから、やり切れるところまでやるしかないのだ。

 

”ありがとう、相談に乗ってくれて”

「交流関係が致命的な私の経験則と持論なんかが役に経ったとはおもわねぇけどな」

 

 先生は飲み終わった缶コーヒーを近くのごみ箱へと捨てに行った。

 

”私は今アビドス高校にいるから、何かあったらそこに来るといいよ”

「おお、そうか」

 

 先生はそう言い残して廃れた街の中を進んでいった。

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