蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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十二話 進先に異変あり

 資料館と呼ばれる場所で情報を漁っていたが、閉館時間を理由に叩き出された私は、近くに公園があることを思い出し、そこのベンチで寝ようと思って歩いていた。

 

「んあ?」

 

 欠伸をしながら歩いていると、こんな夜中であるにも拘わらず数人の人だかりがあることに気が付いた。

 またヘルメットなんて面倒なものを付けている少女達が居るなと思いつつ、そんな彼女たちを横目に通り過ぎようとした。

 

「ん?」

 

 今、一瞬変なものが見えたような気がする。

 数人がかりで何か大きなものを持ち上げている様子だったが、わずかに見えたのは誰かの足のようにも見えた。そして、それをトラックの荷台へと放り投げ、少女たちはトラックに乗り込みどこかへと行ってしまった。

 

「……もしかして、今の人攫いの場面だった?」

 

 もしかして、私結構やばい場面に遭遇しちゃったんじゃないかなと思いつつも、今の私にできるようなことは何もない。あのトラックを追いかけようにも、この暗がりの中追跡するのは難しい話だ。

 

「はぁ、先生に一応話しておくか」

 

 私は当初の予定通り、近くの公園へと向かい、ベンチで一夜を明かした。

 日が昇るのを合図に最悪な目覚めをしつつ、凝り固まった体を柔軟体操をして解す。ここ数日飯を食べずに過ごしてきているが、数日飯を抜いた程度で人は死なないことは身をもって知っているので、朝食は抜いていく。

 今日も資料館に行って何か使えそうな情報がないか調べに行くかとも思ったが、昨夜の一件を思い出して、アビドス高校という学校を目指して歩き出した。

 廃れた町並みを進んでいき、看板や地図を頼りに進んでいけば、廃墟一歩手前の大きな建物を見つけることができた。表札を見てみれば「アビドス高等学校」と名が記されているため、ここが目的の建物であることには間違いない。間違いないのだが。

 

「気配がないな」

 

 人の気配が限りなく薄い。直近で人が居た形跡は確認できるものの、本当に人の気配を感じない。

 敷地に入り、建物の中へと入れば、外から確認した時よりは人の気配を感じる。そして、その人の気配をより強く感じる方へと進んでいけば、明かりの灯された一つの部屋へと来た。

 私は何の躊躇いもなくその扉を開ける。

 

「先生居るか?」

 

 扉を開けた私の目の前にあったのは、誰かの足が迫ってきている。

 私はその足を掴み、半歩程横へと移動して蹴ってきた相手を確認する。灰色の毛並みの獣耳に髪、マフラーを身に着けている少女だった。

 

「随分な挨拶だな」

 

 そのまま足を引っ張り、少女を私の方へと引き寄せると、服を掴み壁に叩きつける。

 

「よぉ、先生」

”妹紅、君が来るのはちょっと意外かな?”

 

 部屋の隅の方に居る先生に挨拶をしつつ、他の人を確認する。先生の隣には黒髪の赤い眼鏡を付けた少女に、金髪のごてごてとした銃を両手で持ち上げている少女、中央にピンク髪の気の抜けた少女三人の姿が確認できた。

 

「まぁ、私も初めは来るつもりはなかったからな」

”一先ず、シロコの事を放してもらっていいかな?”

「ああ、行き成りな挨拶だったからな」

 

 手を離して、壁に叩きつけていた少女を自由にしてから、ズカズカと部屋の中に入っていく。

 

「そう警戒するなって、ちょっと先生に伝えたいことがあるから来ただけだからな」

”伝えたいこと?”

「いやなぁ、夜中、多分人攫いらしき場面に出くわしてさ、どうした「それ本当ですか!?」うお!?」

 

 私が話している途中に、黒髪の少女が割って入ってきた。おまけに他の少女たちも、私を見る目が変わったような気が……

 

”妹紅、その話詳しく聞かせてもらってもいいかな?”

「あれ?もしかして、身内がさらわれた口?」

 

 話を聞けば、どうやら朝方からアビドスの数少ない生徒の一人と連絡が取れなくなったようで、その行方を探している最中だったようだ。そこで、私が現れて、人攫いの現場を目撃したと言う訳だ。そりゃ私を見る目が変わるわけだわ。

 そして、私が人攫いの現場を見た場所と時間、彼女達が掴んでいた情報から、身内が誘拐された事はほぼ確定された。

 

「なんか、随分大事になってきたな」

 

 適当に人攫いの事を先生に話して、人攫いの一件は先生に丸投げしようと思っていたのだが、完全に抜け出すタイミングを失ってしまった。人攫いだと確定した時点で、先生はタブレットを操作して何かを探し始めるし、何故だか私はこの場から帰してもらえないし。そのまま先生がセリカと言う少女の居場所を突き止めると、私も一緒に車に乗せられてその場に向かうことになってしまった。

 

「いやぁ、それにしても、お姉さんが来てくれたお陰で直ぐにセリカちゃんが誘拐されたって気がつくことができたよ」

「私は別に何もしてないって、ただその場面に出くわしただけだ。あと、そろそろ解放してくれないか?」

 

 扉を開けて飛び降りようにも、私は中央の席に押し込まれてしまっている。どの扉から飛び降りようにも、運転席の扉から出るのは論外として、先生の所からは飛び出せば先生に怪我をさせかねない。右の方から出ようと思えば、金髪の少女が行く手を阻む。腕力も異様に強いため、扉の所まで到達できない。左の方は小柄なピンク髪の少女だが、こっちはこっちで的確に私の行く手を阻んでくる以上扉まで到達できない。

 後ろには荷台に立つ灰色の少女が居るため、少女を巻き込んで飛び降りることになる。

 

「はぁ」

 

 何故ここまで私を逃がそうとしないのか。まぁ、その理由には察しが付く。私の事をその誘拐した賊の一人とでも思っているのだろう。下手に情報を流されるよりも、自分達の目が届く範囲に押さえつけて置けば、下手なことはできない。そんな考えなのだろうが……私、本当に何一つ関係のない無関係な人間なんだけど。

 

「それにしても、まさかまた会うことになるなんてねぇ」

「え?ホシノ先輩、この人とお会いしたことがあるんですか?」

「んぁ?私はこんな小童と会った覚えなんてないぞ?」

 

 髪色が奇抜なのは幻想郷で慣れたうえ、こちらの世界にも変わった髪色の奴は多い。ピンク髪なんかでは私の記憶に残るわけもなく。

 

「いやだなぁ、私が砂漠で遭難してた所を助けてくれたじゃない」

 

 砂漠で遭難していたこいつを助けた?そんなことあったっけか?こっちの世界に来てから毎日が忙しかったし、何かしらはやっていたから。

 

「全く記憶にないな」

 

 少し間を置いて考えはしたが、まったく思い出せない。その言葉にピンク髪の少女はガクッと体を動かした。

 

「酷いなぁ、まぁおじさんもあの時とはだいぶ変わったけどさぁ」

「本当にわからないって」

「ほら、これくらい髪が短かったころにさ」

 

 腰まで伸びている自身の髪を掴み、肩よりも少し上くらいのところにもう片方の手を当てる。

 

「一々一期一会で出会った他人の事なんて覚えてないぞ」

「遭難していた所を助けたことを覚えていないってことあります?」

 

 千年以上も生きてたら、他人を助けることなんてよくある話だし。迷いの竹林で遭難している人を助けることなんてほぼ毎週のようにやっていたのだ。私にとって忘れない記憶の切っ掛けにはならない。

 

「まぁ、大体二年位前にこの辺りには来ていたから、どっかしらでは会ってはいたんだろ、多分」

「うへぇ、おじさん忘れられちゃっててちょっとショックだよ」

 

 露骨に残念がるが、わからないものは本当にわからないのだ。

 私はこの場から逃げ出す事はあきらめて、流れに身を任せることにしよう。人攫いであれど、すでに場所は割れているのならば、一日程度、それ以上の時間がかかろうものならば、私一人で攫った奴らを叩きのめせば良いだけの話だ。

 そして、しばらくの間揺られていると、前方のほうで何かが動いているのが見えた。

 

「あれです!!」

「ほほ~、あれがセリカちゃんを攫った奴らのトラックかぁ」

「あ~、昨晩私が見たやつに似てるな」

 

 はっきりとは覚えていないが、昨晩見た乗り物はあんな作りだったような気がする。そんなことを思っていると、後ろのほうから叩く音が聞こえてきた。

 

「どうしたんですか、シロコちゃん」

「ん、先制攻撃を仕掛ける」

「おお~いいねぇ、アヤネちゃん、シロコちゃんの射程まで一気に近づいて」

「わかりました!!」

 

 直後、体に掛かる負荷が大きくなった。砂漠のせいで周囲の景色の変化は乏しいが、どうやら速度を上げたようで、目の前のトラックへと一気に近づき始める。

 それからは、まぁ、大分早かった。三人とも戦い慣れをしているのか、自分達の武器を手にトラックに奇襲を仕掛けたのを合図に、近くにいた戦車やらいろんな乗物からわらわらとヘルメットを被った奴らが出てきた。けれど、そうした有象無象程度の奴らでは、私にとってはそこらの妖精を相手にするのと変わらないのだろう、瞬く間にそいつらは倒されていく。

 

「弾薬を補給します」

”ノノミ、二時の方向に掃射!!”

 

 私の隣で赤の眼鏡をした少女と先生は、三人とトラックの中から出てきた攫われていた少女も含めて後方支援をしている。

 私?何もすることがないのでただ見届けてるよ。とはいえ、一つ見ていて気になることがあった。

 

「妙に戦い慣れしてるな、あいつら」

 

 こちらの世界に来て、ここの奴らが戦っている様子は何度も見てきた。けれど、あの四人の戦い方は少しこの世界でも異質のように感じた。

 

”元々五人でこれまで戦ってたみたいだからね”

「私が入学する前は、三人で、その前はホシノ先輩一人で戦っていたと聞いてます」

「へぇ」

 

 明らかに個々の質が他の奴らと比べて高い。こんな環境で、少人数で戦ってきたから自然と身についたとしても、元からの素養が戦ったようにも思える。

 けれど、私が感じた異質な点は強さではない。もっと別の、他の何かなのだ。

 

「うへぇ~、どうにかなったよぉ」

 

 私が考え事をしている間に終わったようで、彼女達がつい先ほどまで戦っていた場所には炎上しているトラックと大破/中波した戦車、荷台がぼこぼことなりタイヤがパンクしたトラック、その周囲には気絶したヘルメットを付けたままの少女が転がっている。

 

「……死んでないだけましか」

 

 流石に死なれてたら、この暑さだ、すぐに異臭騒ぎになるし、片付けも面倒なことになる。死んでいないのならば、あとは勝手に自分達で起きて片付けてくれるだろう。

 私が戦った後を見ている間、先生と攫われていた生徒とやらが感動的?な再会をしている。完全に空気となっている私はどうすればいいのだろうか。それに、結局私がここまで連れてこられた意味ってあるのか?

 

「はぁ」

 

 私がため息を漏らしたところで、視線を感じ、視線の先を確認する。

 

「なんだ?」

 

 視線の先に居たのは、攫われていた奴。一体何の用だと身構えつつ問う。

 

「いや、あの、あんただれ?」

「もぉ、セリカちゃん。この人は……誰だっけ?」

「ホシノ先輩、何やってるんですか☆この人は……」

「ん、誰だっけ」

「そういえば、私達誰も名前、聞いてませんでしたね」

「それを言ったら、私、お前達の名前ちゃんと聞いてないぞ?」

”ハハハ”

 

 苦笑いをする先生。あんたがどうにか収拾をつけてくれ。

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