蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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十三話 一杯

「なぁ」

 

 私は金髪の少女、どこぞのメイド長と同じ苗字を持つ少女、十六夜ノノミに腕を引かれ、地面には足跡ではなく引きずられた跡を残している。

 

「どうして私は引っ張られているんだ?」

 

 ほんの三十分程度前、今日もアビドス地区の昔の建物について調べようとしていた所、まるで待ち伏せしていたかのように、ばったりと出会ったノノミに腕を掴まれてこうして引っ張られているのだ。

 一応自決すれば、魂だけになって体という物理的な束縛は受けなくなるが……わざわざ自決するのも無駄に疲れるうえ、無駄に痛い思いするのは嫌なのだ。それに、自決して魂が離れる際、魂が離れた体は勝手に燃え出し、その体を掴んでいるノノミを炎に触れさせることになってしまう。

 そこらの下手な妖怪よりも無駄に力強いノノミ腕力相手では、一応身体能力はそこらの人間と変わらない私には振りほどくことはできない。

 

「ちょっと、これからお昼を食べに行きますので、この前お世話になったお礼もかねてです」

「お礼されるようなことをした覚えはないんだがな」

 

 この前の事は、あの人攫いの一件なのだろう。私は人攫いの場面を見ただけだと言っただけで、お礼をされるような事をしては居ないのだが。お礼というのは建前で、謝罪という意味の方が強いのかもしれない。

 だったら、無理矢理連れて行こうとするな。

 アビドス地区でもまだ人が居る通りへと連れていかれると、先生を含めたアビドス校の生徒達が一つの店の前で集まっていた。

 

「あ、みなさ~ん☆妹紅さんを連れてきましたよ」

「ん、待った」

”妹紅、ごめんね。止められなかった”

「わかっていたのなら、止めてくれ」

 

 尤も先生にこいつらを止めれるとは思っていないが。

 さて、一体私を何処に連れてきたのか、暖簾を確認すれば柴関ラーメンと書かれている。ラーメンって食べ物がどんなのかわからないが、店内から漏れ出ている香りはおいしそうなものだった。

 暖簾をくぐり店内に入ってみれば、大きな鍋を複数置き火にかけていて、店主の姿とこの前さらわれていた少女の姿があった。

 

「ラーメンってのはうどんやそば的なやつか?」

「あれ、もしかして妹紅さんってラーメンってご存じないのです?」

「知らないな」

 

 おかれている麺を見る限り、冷や麦よりも麺は太そうだ。汁も油が強そうで、蕎麦のように軽い食べ物ではなさそうに見える。

 

「ん、紫関ラーメンはキヴォトス一のラーメン」

「おお、シロコちゃんうれしいことを言ってくれるね」

 

 攫われていた少女がここで働いているとなれば、店主とアビドス高校の少女達は仲がいいことがうかがえる。

 先生と私も含めれば六人いるため、流石にこの人数ともなれば奥のテーブル席へと案内される。さて、私はどこに座ったものかと思っている間に、生徒達は我先に座っていった。

 

「ん、先生こっちが空いてる」

「先生☆私の隣があいてますよ」

”アハハ、妹紅お先にどうぞ”

「てめぇ、後で殴るぞ」

 

 二人の少女が、あからさまに私の隣に座ってくださいと先生に言っているのに対して、先生は面倒なことを私に押し付けやがった。とはいえ、私がどっちに座るのかは初めから決まっている。あからさまに不機嫌になっているアヤネがいるため、そんな彼女とは隣の席にならないシロコの隣に座る。

 

「言っとくが、私は金欠だぞ?」

 

 お品書きを見れば、どの料理もかなりの値段をしている。これくらいの値段だと、だいたいかけ蕎麦二杯程度はいけるぞ。私の今の懐事情じゃ、焼鳥屋の商売も考えるとあまり出費は重ねたくない。

 

「私が誘ったのですから、妹紅さんの分は私がお支払いしますよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えるぞ」

 

 ノノミが奢ると言うのならば、ここで何も食べない訳にはいかない。適当にお品書きに目を通していく。中華蕎麦って書かれているのが気になるが、流石に小麦で作った麺がメインの所で、そば粉の麺を食べるわけにはいかないか。

 

「この味噌ラーメンってやつをもらおうか」

 

 塩に醤油、味噌と聞きなじみのある調味料の名が書かれているが、ラーメンという料理ではどの味がいいのかはわからない。味噌ならば味も強く、そう下手なものにはならないだろうと思い選択した。

 その後も、ホシノ達と先生も自分達の注文をした。

 厨房のほうを見てみれば、大将は注文を受けてから、置かれていた麺の束を手にして、お湯の中に入れる。やっぱり、うどんやそばと茹で方は同じそうだな。

 麺がゆで終わるまでの間に、器を用意して出汁やらかえしらしきものを器の中へと入れていき、それぞれの料理に合わせて汁を注ぐ。そして、茹で終わった麺を湯切りをして、それを器へと移す。最後には幾つかの具材を乗せて、完成のようだ。

 

「で……なんなんだこの何とも言えない空気は」

 

 さっきからふくれっ面のアヤネとそれをあやすようにホシノとノノミがしゃべっている。

 

”実はさっき、アヤネを怒らせちゃってね”

「あ~、それで不機嫌なんだな」

「怒ってません」

 

 何故そんな状態のまま私と一緒に飯にしようとしたのか。そんなことを考えている間に私達の前にラーメンというものが運ばれてきた。

 

「うどんを蕎麦みたいに細くしたのか……」

 

 備え付けの割り箸を一膳取り、割ってから麺をすくい上げる。そして、勢いよく音を立てながら啜る。

 

「ん、こりゃうまいな」

 

 小麦の味を感じるが、それ以上に麺に纏わりついた汁の味を強く感じる。どうやら、うどんとそばと比べて、このラーメンというのは麵よりも汁への比重が高そうだ。

 

「ここのチャーシューもおいしいよぉ。あ、アヤネちゃんチャーシューあげるから機嫌直してよぉ」

「だから怒っていません」

「アヤネちゃん、ほっぺにスープが付いちゃってますよ☆」

「あかちゃんじゃありません」

 

 ホシノは自分の分のチャーシューをアヤネの器へと移し、ノノミはアヤネの頬についた汁を拭き取る。相変わらずアヤネはふくれっ面のままであり、シロコは周りを気にせず目の前のラーメンを食べ進めている。

 

「はぁ、こりゃ飲みの〆によさそうだな」

”わかるよ。餃子とビールで一杯やりたいんだけど”

「ああ、あの麦の奴か。私はやっぱり米の酒が一番だよ」

「悪いけど、うちではお酒扱ってないからね?」

 

 私と先生が酒の話をすると、セリカが酒はないと酷いことを言ってくれる。

 

「はぁ、なぁ、先生、どうしてここは酒が売っている所が少ないんだ」

”ここは学園都市だからね。生徒達がお酒を間違っても飲まないようにするためだよ”

「別に売っててくれてもいいと思うんだけどなぁ」

 

 子供に酒を飲ませていけない理屈はまだわかるが、子供に酒を買わせないようにすればいいんじゃないのかと思う。

 

「あれ?妹紅さんってお酒飲めるんですか?」

「ああ、飲めるよ。あと言っとくが私は先生よりも年上だ」

「「「「え?」」」」

 

 アヤネ、ノノミ、ホシノ、近くにいたセリカは私の言葉に驚いて、一斉に私のほうを見る。シロコも驚いたようで、箸の動きが止まった。

 

「え、その見た目で?」

「見たところ、16か17だと思っていたのですが」

「見た目が若いくらいしか取り柄がないからね」

「一体何歳なのよ」

「百歳超えた辺りから数えるのは止めた」

 

 実際に私の年齢っていくつになるのだろうか。もうあの日から一体どれだけの年を越えたのかはわからない以上、私のはっきりとした年はわからない。ただ、一つ言えることはある。幻想郷じゃ、私よりも年上の奴が大多数居る。

 

「流石にその見た目で百歳越えは無理があるよ」

「冗談を言うならもっと信じやすいやつにしましょうよ☆」

「おじさんよりも年上かもしれないけど、流石にねぇ」

 

 誰一人とし信じようとしていない。まぁ、十代の見た目で老けなくなってしまった以上、彼女達に感性では私を百歳どころか千歳位は超えているのを信じるのは無理か。

 それからも、私とアビドスの彼女達と雑談をする。その会話の内容には何の実りの無い、くだらないようなものばかりである。

 何気ない日常の会話をしていると、ホシノ達は何処かに興味を示したのか、皆同じところを見ている。

 

「どうした?」

「いや、さっき来たお客なんだけど」

 

 さっき来た客?店である以上誰かが来るのは当たり前だとして、ラーメンを食べることと雑談に集中していたせいで、いつの間に新しい客が来ていたことに気が付かなかった。

 皆が見ているほうを見てみれば、四人の少女達がテーブル席に座り話している。雰囲気から察するに、ゲヘナ学園の生徒だろうか。そこまで離れた所の生徒ではないが、わざわざこんな砂漠に一体何の用があって彼女達はここに来ているのだろうか。

 ホシノ達にとって年の近い相手が珍しいのか、それともこんな所に来ていることに疑問を覚えているのか。ホシノは後者だな。

 

「ん?ちょっとまて?」

 

 ふと大将の方を見てみれば、何をどうすればそんな山盛りの料理が出来上がるのかと言いたいラーメンがあった。軽く十人前は超えていそうな大盛りのそれ。一体どうするつもりなのかと思っていれば、それをセリカが運び先程ホシノ達が注目していた少女達の元へと持って行ったのだ。

 当たり前ではあるが、あれだけの量の料理をいきなり目の前に出されれば、少女達は驚いていた。耳を澄ませば、彼女たちはセリカと大将に対して確認を取っているが、セリカも大将も何もミスだと言い張っていた。

 

「はぁ……私でもあそこまでサービスはしないぞ」

 

 材料費やら燃料費がどの程度のものなのかわからないが、店名が入っている料理が580円、薄利多売で儲けを出しているのは明らかだ。大方、一杯で百円前後の利益しかない。それなのに十人前を超えるだけの量をサービスしてしまったら、赤字分を相殺するのにどれだけの量を売ればいいのか。

 大将のサービス精神に、一応商売をやっている身としては呆れてしまう。

 少女達は出されたラーメンを四人で分け合い……ん?分け合うのそれを?それに、ホシノ達がその少女達の元へと向かってしまい、私と先生は二人でテーブルに残されてしまった。

 

「……酒が欲しいな」

”そうだね”

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