シロコ達と便利屋68が風紀委員会と呼ばれていた組織は、更に増援を送り出して来たが、その結果は語るも無駄な戦いと結末となった。
戦場と成ったこの場には、気を失った少女達がそこらじゅうで倒れている。数は数えていないが、そのうちの半分は私一人でやったものであり、残りの半分はシロコ達と便利屋68の彼女達がやったものである。
あまりシロコ達の戦闘能力には期待していなかったが、しっかりと戦いを見てみれば、案外彼女達はこの世界では上澄みの方なのかもしれない。
『な、どうしてこんなことが』
アコは更に追加の増員を用意していたらしいが、それすらも私が叩きのめした。たとえ雑魚でも数さえそろえれば、強敵相手でも打ち勝てるとでも考えていたのだろうが、それならば質があまりにも悪すぎだ。
「さて、私としてはようやく体が温まってきたところなんだが、いつになったら本体が現れるんだ?まさかこれだけやっておいて、自分は出てこないなんて腰抜けなことは言わないよな?」
『言ってくれますね』
見るからに額に筋を立てているが、その言葉に対してこいつは一行に姿を見せようとはしない。原理はわからないが、こいつは式とかそういった類で話しているにすぎず、本体は遠く離れた場所にいて、来ようにも来れないのが現実なのだろう。
「オタクらの大敗だ。さぁて、私はここで失礼させてもらうよ」
『なっ!』
”あ、妹紅私としても君とは話が”
私がこの場を離れようとしたとき、何やら聞きなれない音が聞こえてきた。
『アコ』
新しい人の声、また誰かが乱入してきたのかと思い、ため息をもらそうとする。
『ヒ、ヒナ委員長!?』
アコの声は驚きと、困惑だった。様子からして知り合いが話しかけてきたと言ったところだが、何かがおかしい。
「何があったんだ?」
「おそらく、アコ行政官相手にヒナ委員長、察するに風紀委員会のトップから通話が掛かってきてその応対をしているのでしょうが」
「あんたから見ても様子がおかしいと」
「はい」
通話ってのはあれだよな、スマホとかいう小っちゃい機械を使って遠くにいる相手と会話するって奴。
『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか?私は…そ、その…えっと…げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを』
「思いっきり嘘じゃん!」
「だな」
アコの言葉は明らかに嘘であることは私でもわかる。彼女が何故態々うそを吐いているのか、私にはそれがわからない。
「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね……」
「ああ、なるほどね」
ノノミの言葉で何故うそを吐いていたのかは分かった。そういえば、昔も部下が勝手に行動して困っている組織の頭の話はよく聞いたことがある。今回もそういうことなのだろ。だからと言ってなんだな話であることに変わりはないのだが。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは…?」
『さっき帰ってきた』
『そ、そうでしたか…!その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして…後ほどまたご連絡いたします!い、今はちょっと立て込んでいまして…』
あからさまに慌てている。本当に無断の独断行動だったのだろう。それが今現在進行形でばれそうになっているうえ、こちらの状況が伝わりかねないから慌てているのか。
『立て込んでる…?パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』
『え?そ、その…それは…』
アコは言葉を詰まらせているが、それはもう無駄なのだろう。この場には似つかわしくない気配が近づいてきている。
「なぁ、その相手ってあいつのことか?」
私はそいつのほうを指さして確認する。
「「「「”『え?』”」」」」
全員が私が指さした方を見る。そこには長髪で白い髪に蝙蝠を思わせるような大きな翼を携えた小柄な少女の姿があった。
「ほかの学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?」
アコの表情がどんどん青くなっていくのがよくわかる。ただ、それ以上にこの場に新しく表れた少女から放たれる苛立ちと殺気にこの場に居る皆にあてられていた。
シロコ達は銃を握りしめる力を強めて、便利屋68の子達はまるで霧の如く消えていき、私が振り返ったころには何処にも姿がなかった。あの少女が天敵なのかあいつら。
シロコ達が警戒の色を見せている一方で、私はあの少女から放たれている雰囲気は、単純に寝不足故に目つきがきつくなっているだけなのではと考える程度には余裕はあった。
少女はアコの方へと近づいていき、睨みつけるように見る。
「…アコ。この状況、きちんと説明してもらう」
『そ、その…これは、素行の悪い生徒達を捕まえようと…』
アコがヒナに問い詰められている間に、アヤネはタブレットを操作していき何かを確認すると、目の前に居る少女が確かに空崎ヒナであることは間違いないと告げた。
「便利屋68のこと?どこにいるの?今はシャーレとアビドスと、噂に聞く炎の喧嘩屋と対峙しているように見えるけど」
「お前も私のことをそういうのかよ」
私の通り名とか二つ名が炎の喧嘩屋ということに不満を漏らしてしまった。もう少しさカッコいいものとか、可憐さがあるようなものとなかったのかな。
『え、便利屋ならそこに……』
アコは確認して、ようやく彼女たちが何処にもいないことに気が付いたようだった。その彼女達は先程どこかに行ってしまっていたが、わざわざ教える義理はないので私は何も答えない。それは、シロコ達も同様のようだった。
『い、いつの間に逃げたのですか!?さ、さっきまでそこにいたはず……』
アコはより周囲を細かく見渡して、隠れているであろう彼女達を探そうとする。一方で、ヒナはため息を漏らしていた。
『え、えっと……委員長、すべて説明いたします』
「いや、もういい。大体把握した」
アコがどうにか弁明をしようと言葉を取り繕うとしたが、それはヒナによってバッサリと切り捨てられてしまった。
「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういった政治的な活動の一環ってところね」
便利屋ってやつらにそれだけのことをするだけの価値があるのかはわからないが、白と黒の髪が混じっていた奴が先生を狙っているんじゃ的なことを言っていたから、それは先生に対してなのだろうか。
「大変だな先生も」
”私としては、そこまで狙われる理由がわからないんだけどね”
「だな」
先生に対して同情はしつつも、私はヒナの方へと歩み寄る。
「なぁ、身内同士で話をするのは構わないけどさ、こっちはそっちの内情なんか知ったことじゃないんだよ」
「何かしら?」
「そっちが何を考えて攻撃をしたのかも、目的をもって行動したのかも私からしたらどうでもいい」
ヒナは私のほうを一瞥するように見る。
「今回の一件、私からしたらやられたからやり返したそれだけだ。大方あっちの少女達も同じようなところだが、これ以上私に余計な手間と時間をかけさせるな。おまけに一応こっちは医者に診てもらいたい奴を抱えてる状態なんだよ」
「それは」
「悪いが私は話し合いとかでの解決は知らないし、力こそが全てで実力主義かつ全ては自己責任の所から来ているんだ、やるか?」
私は片足を後ろに引き、腰を落として片方の手は握り、もう片方の手で挑発をする。
「……いいえ、そんな面倒な事はしないわ」
「へぇ?」
思いの外、ヒナは私と戦う選択を取らなかった。
「事前通告なしでの他校自治区における無断兵力運用、及び他行生徒たちとの衝突。それに加えて、一般市民への加害行為。前者だけならばいくらかゴネようがあったけれど」
ヒナは地面に屈している少女達を見る。
「なぁんだ、あっちじゃこれくらいやっても斬りかかってくる庭師だっているのに」
「流石に、これだけの事をやるような相手に高圧な手は打てないわ。あと、何よその庭師」
ヒナが私と戦うつもりがないのであれば、構えを解き戦闘によって強張った体を伸ばしてほぐす。
「二年前と何一つ変わっていないようね」
「二年程度じゃ私にとっては刹那の時だよ。というか私お前と会ったことあったか?」
あの口ぶりだと二年ぶりのどこかしらで会ったことになるが、まったくどこで会ったのかは覚えていない。
「ええ、一年の時に諜報部の先輩達に絡まれていたところを、助けてくれたのがあなただったわ」
「はぁ、私がそんなことを」
「よく覚えているわ。良い意味でも悪い意味でもどちらでも」
いろいろ戦ってきたから、どのことを言っているのか全く分からない。
「今思えば、あれが炎の喧嘩屋としての始まりはあれだったのかもしれないか」
「お前も私のことをそういうのか」
「ええ、むしろそう総称するしかないわ。当時からあなたの話題がいくら上がって名前をいくら調べても出てこなかったのだから」
「……藤原妹紅だ」
そういえば、喧嘩するときわざわざ私の名前を名乗った覚えが殆どなかったわ。そりゃあ、二つ名とか通り名の方が浸透するわな。
「妹紅ね。わかったわ」
「うへ~、こいつはまた何があったんだが……」
ヒナと話していると、不意に気の抜けた声が聞こえてきた。
「本当に何があったのこれ?」
素で状況が理解できていないホシノがそこにはいた。