蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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三話 喧嘩上等なんだけど?

「最悪だ……」

 

 私の手にはそこらに落ちている小銭を拾い集め、小さな店で購入した地図帳が一冊握られている。

 

「真面目にどこなんだここは……」

 

 私が外の世界に居た頃は、おおよその距離と人の話によって大まかな位置関係と距離を記したものが地図の主流だった。その時代からかなりの年月が経っているため、地図の精度は私が想像する以上の物になっていた。ここまでならば、覚えのある地形や地名を見つけて、そこから位置を割り出しさえすれば、幻想郷がある大凡の位置までは移動できると思っていた。それなのに。

 

「私が知っている地形が何一つない」

 

 前に菫子に見せてもらった日本地図、そこにあった日本の地形と一致するような場所はどこにもない。ページが違うのかと、他のページも漁ってみてみるが、結局一致する地形は見つけられなかった。

 

「考えられるのは、ここは幻想郷でも外の世界でもない、異界ってことだな」

 

 幻想郷は異界へとよく繋がっている。わかりやすいのは冥界と地獄、どちらも死後の世界として知られている場所だ。幻想郷は地続きというか、空間の繋がりを持っているため、異界へと繋がっていることは珍しいことではない。

 

「まいったな、そうなると本当に帰る術がわからないぞ?」

 

 ここが外の世界であるのならば菫子に頼ればよかった。けれど、ここが異界ならば頼みの綱であった菫子はいない。一番手っ取り早い、私をここに攫ってきた隙間野郎がそう簡単に戻してくれるとは到底考えにくい以上、自力で帰る術を模索しなければ行けないのだ。

 

「はぁ、ま、長く生きてりゃこんなこともあるか」

 

 私はすぐに気持ちを切り替えて歩き出すことにした。この場で立ち止まっていても何も変わらない、変わらないから歩き続けなければいけない。それは、これまでの経験からよくわかっている。

 空腹で腹の虫が鳴りつつも、歩き続ける。足が悲鳴を上げても歩き続ける。意識を失ってその場で倒れることがあっても歩き続ける。

 そんな風にこの異界を歩き続けて数日が経った頃、私はアビドス地区を抜けて、ゲヘナ地区の一角を歩いていた。

 

「はぁ……よくわからないところだな」

 

 外の世界に行ったとき、無駄に高い建物たちを見た。ここゲヘナではそれほど高い建物はないものの、幻想郷では平屋が多く、二階建てでも珍しかったところに住んでいた身としては、十分に高い建物が立ち並んでいる。

 さて、何かいい感じに情報を得られそうなところはないだろうか。そう思いながら再び歩こうとした。

 

「……ん?」

 

 何か変な音が聞こえたような気がする。いや、直感的に音が異質なものであると思えた。

 

「ちょっと行ってみるか」

 

 直感というものは、長年の経験によって導き出される経験則のようなもの。無駄に長生きしている私の直感ともなれば、大凡それは当たっている。

 そして、その読みは当たっていて、音の方へと近づいていけばその音はだんだんはっきりと聞こえてくる。路地裏という人の目が入りにくい場所でそれは起きていた。

 

「なぁ、何あんた?」

「一年の癖になに調子に乗ってるわけ?」」

「……」

 

 路地裏で四人の少女を見つけた。咄嗟に物陰に隠れて様子を伺いつつ状況を見る。砂漠の少女と話したときにわかったが、この異界では私が大人だと思う程度の相手でも子供らしい。そして、私の経験則ではあれくらいならば大人に見えるが、子供ということなのだろう。

 そんな四人の少女だが、どうも三人で一人の少女を囲っているように見える。

 

「部長に気に入られてさ、何? 自分仕事できますアピールですかねぇ?」

「あんたが入ってきたせいでさ、空気最悪になったんだよ?」

「一年で後から入ってきたクセになに空気壊してくれちゃってんの?」

「……」

 

 三人に詰め寄られているのに対して、その少女はなんの反応も示さない。それどころか面倒くさそうな表情をしている。

 

「話はそれで終わりかしら。私はこれからやらなくちゃいけないことがあるから失礼させてもらう」

 

 その少女はまるで先の話を聞いていなかったかのように、何事もなかったかのように、そして当たり前のように歩き出してこの場からいなくなろうとする。

 

「おい待てよ、まだ話は終わってねぇんだよ」

 

 けれど、三人はその行く手を阻む。

 

「やっぱり調子乗ってるよなぁ。ちっとは痛い目見ねぇとわからねぇようだし」

「覚悟しな」

 

 三人が黒い何かを取り出した。大方あれは武器であるのだろうが、刃らしいものは見当たらない上、棍として扱うには太く短い。どこかで見たことがあるような気もするが、あれが何なのだろうかと考えている間に、三人の少女たちはその武器らしきものを構えた直後、大きな銃声が鳴り響いた。

 

「あ、あれ砲や火縄銃を改良したやつか」

 

 銃も随分と形を変えたんだなと思いつつも、流石に武器を使って攻撃するのはいただけない。

 

「おいおい、随分とまぁおいたがすぎるんじゃないのか、お前達」

 

 ここでようやく私は彼女達の前に姿を見せる。

 

「あ? 誰だ?」

「おい、ここは人がめったにこねぇ場所だろうがよ」

「滅多にだからたまには来るっての」

「騒いでるところ悪いけどさ、君達のそれは流石に遊びの範疇を超えているよな?」

 

 幻想郷で武器やら魔法やらを使うことはあれど、それはあくまで遊びの範疇にとどめたうえでだ。けれど、先程三人の少女がやったことは、どこからどう見ても遊びの範疇を超えた、相手に危害を加えるための攻撃だった。

 

「何だよ、お前には関係がないことだろ」

「関係はないさ、ただ、そっちの子に少し用があるから、邪魔な君たちにはどいて貰えると嬉しいかな」

「あ、うるせぇ、とっとどっか行きやがりな!!」

 

 一人の少女が私に武器を向け、そして銃声が響き渡る。直後、私の肩に勢いよく弾丸があたり、そこを中心として衝撃が全身へと走り、傷口から血が流れだす。

 

「おいおい、結構痛いじゃねぇかよ。全く、あーこれ骨まで行ってるな、そりゃ痛いわ」

「え? へ? は?」

「え、なんで、今、銃弾が貫通して……血が」

「ん? どうしたお前ら?」

 

 明らかに少女たちには困惑の表情が浮かんでいる。それどころか、先程この場から居なくなろうとしていた少女も困惑していた。相手を殺すための武器を使えば、そりゃ相手の体は傷ついて血が出る。ここまで当たり前なことしか起きていない上、相手もそれをわかっていたはずなのになんで困惑して。

 

「もしかして、今の攻撃外すつもりだったか? 悪いな当たっちまって」

 

 当てるつもりが無かった攻撃が当たってしまい、予定が崩れてしまったのだろう。だったら都合がいい。

 予想外の自体に困惑している三人の懐まで距離を詰め、一人に回し蹴りを叩き込む。

 

「え?」

 

 蹴りが余程予想外だったのか、私以外の誰もがその場で固まるが、そんな事はお構い無しに腕を構え、隣に居る少女を切り裂く。

 

「うわぁ!?」

 

 私が切り裂くと同時に、その手には炎が纏わり切り裂きながら相手を燃やす。

 私の腕が少し焼ける臭いがしても構わず、もう片方の腕で切り裂く。最後に右足に炎を纏わせて蹴りあげる。

 最初に蹴り飛ばされた少女は、どうやら蹴りが肋骨の間に綺麗に入ったようで、その場でうずくまり動けなくなっている。切り裂かれた少女も、僅かとはいえ直接炎に触れた上で切り裂かれたため、見た目以上のダメージ負っていた。

 

「さて、喧嘩を売るなら私はいくらでも買ってやるぞ?」

 

 ここしばらく満足がいくほど体を動かせず、かぐやとも殺し合いができていない。だからこそ、こうした肩慣らし程度の戦いができるのは個人的にうれしいが。

 

「ひ、ひぃぃ~~!!」

 

 残った三人目の少女が、二人の少女を担ぎ上げて走って行ってしまった。

 

「あ~あ、打ち止めしなければよかった」

 

 逃げて行ってしまった少女達、数回殴り蹴った所で打ち止めせず最後まで攻め続ければよかった。とはいえ、逃げられてしまった以上、今から追撃するのも野暮な話だ。

 

「まぁ、仕方がない」

 

 諦めて、つい先ほどまで彼女達にいじめられていたであろう少女の方を見る。つば付きの帽子に白髪、いや少し紫が混じっている髪色。後頭部には特徴的な角を持ち、腰あたりには隠し切れないほど大きな翼を持っている。どこぞの吸血鬼のお嬢様と比べれば大きく、いかつさを覚えるな。

 

「そこのお前大丈夫か?」

「ええ、大丈夫。おかげで助かったわ」

 

 少女は浅くお辞儀をする。

 

「さぁて、助けてやった礼代わりに聞きたいことがあるんだが、答えてくれるよな」

「親切で助けてくれたわけじゃないのね」

「まあな、いくつか聞きたいことがあるが、幻想郷って聞いたことがあるか?もっとも異界についてだが」

「幻想郷?異界?」

 

 少女の反応から既に、この少女が幻想郷についても異界への渡り方を知らないことが分かった。

 

「反応でもうわかった。じゃあ知っていそうなやつに心当たりはあるか?」

「知らないというか、まず、その幻想郷と異界って何なのかしら?」

 

 外の世界でも幻想郷を知る者は少ない場所だ。異界でも幻想郷を知っている者が居る方が珍しいだろう。

 となれば、幻想郷と繋がりがありそうな場所となるが・・・彼岸に冥途、天界、地底に繋がりを持っている幻想郷がどこに繋がりやすいかなんて全くわかったもんじゃない。いっその事、一回死んで冥界に行ったほうが・・・って私死ねないんだったわ。

 

「質問には二つ答えたから、次は私が質問させてもらうわ」

「へぇ、私に質問するんだ」

 

 この少女、先の少女三人が思わず逃げ出していったにも拘わらず、顔色一つ変えていない。それどころか、どこぞのメイドのように面倒ごとが増えた、そんなことを思っていそうな表情をしている。

 

「ええ、というよりも、質問よりも心配ね。あなた、その肩大丈夫なの?」

「ん?」

 

 少女が指さした部位を見てみれば、先ほど銃弾を受けたことにより穴が開き、血があふれ出ている。

 

「ああ、くっそ痛いが?」

「くっそ痛いがって、何平然としているわけ?今救急医学部を呼ぶから」

「これくらい平気だぞ?っても、中に弾残ってるなこれ、流石に残ったままだと気持ち悪いし」

 

 私は手刀で弾がある部分よりも上、肩の付け根辺りから切り落とす。

 

「!?え?ちょ、あなた何をして!?」

 

 私が突然腕を肩の付け根あたりから切り落としたことに少女は驚いた。こいつら、妖怪か妖精の類かと思っていたが違うのか?

 

「何、邪魔だから切り落としただけだよ」

 

 切り落とした腕は適当に放り投げると、それは空中で炎を纏い跡形も燃え尽きる。そして、私の体の肩から炎を起こして、そこから切り落とした腕を復活させる。

 

「ふぅ、部分だけの蘇生なんざ久々にやったな」

「腕が生えた?」

 

 少女は目の前で起きたことがいまだに呑み込めておらず、困惑している。

 これに関しては、まぁ、人里でもあれな部類であるから、そうぽんぽんとやれるようなものではない。

 

「あなた、一体何者なの?」

「藤原妹紅、ただの健康マニアな焼き鳥屋だよ」

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