蓬莱人のキヴォトス生活   作:御神梓

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四話 道がわからない

ゲヘナと呼ばれている場所をぬけ、私は今ミレニアムと呼ばれる場所へ来ていた。

 

「すっごいなぁ」

 

もう色々ありすぎてそんな言葉しか出てこない。私が生まれた時代は、まだ占星術が政治の中心だった頃だ。武家の時代にはとっくに無くなっていたが、明治にはもう幻想郷居た身、科学には疎い。

立ち並ぶ高層建築の数々に目を奪われつつ、歩き進んでいく。

見るからにこの場所は科学が発展している、そうなれば幻想郷との繋がりは極端に薄くなるだろう。

幻想郷は忘れ去られたもの達の楽園。私達の存在を否定し、全ての事象を解明するような所とは相容れない真逆の存在だ。

ここを調べても私が求めているような情報は手に入らないだろう。さっさとこの場所をぬけて、他に怪しい所を調べよう。

 

「……どこだここ」

 

単純に道に迷ってしまった。地図を持っていてなぜ迷うのかと思うが、幻想郷で地図を使うことはほとんど無く、迷いの竹林も長年の経験で道を覚えているだけだ。おまけにここまで精巧な地図を使うこともなく、街並みはどこを見ても同じ様なもの。これで迷わない方が無理がある。

 

「太陽は遮られておおよその位置しか分からないし、山も見えねぇ」

 

古典的な方法ではあるが、とにかく大きなものを基準として、移動した距離や方角を測ろうにも、周囲に大きな建物が多く基準となる物が見えなくなる。

地図とにらめっこしながら歩いていると。

 

 

「お姉さん大丈夫?道に迷っているように見えるけど」

 

背後から1人の少女が話しかけてきた。

 

「ああ、大丈夫ではないかな。ここがどこだか全く分からないし」

「迷子ってことね」

 

少し背のある眼鏡をかけた少女。

 

「何処に向かおうとしていたの?」

「ああ、この百鬼夜行?って所に向かおうとしたんだが、似たような景色ばっかりでここが何処だかさっぱりだ」

「百鬼夜行って、ミレニアムから結構離れた場所に行きたいのね。それなら電車を使った方が早いはずよ」

「すまん、電車ってなんだ?」

 

私の純粋な疑問に少女はポカーンとした。

 

「えっと、電車は電車だけど」

「その電車がなんなのかわかんないな」

 

 少女は信じられないと言った表情でこちらを見る。

 

「いや、今の時代田舎でも電車の一つや二つ通っているはずじゃ」

「あ~、私が住んでたところ水車が現役だから」

 

 まじめな話、その水車ですら妖怪の山の河童達程度の話だ。守矢の奴らがエネルギー革命だとか言って……核融合だったかをやっている話を聞くが、人里には関係のない話だ。

 

「どれだけ田舎な所から来たのよ」

「夜には蠟燭の明かりを頼りにする程度には田舎だな」

「さっきから、想像を超えてくるのをやめてくれる?」

 

 もっとも、私が都に住んでいたころは夜の明りを灯すのも贅沢な話だったが。

 

「まぁ、わかったわ。様子と話の流れ的にあなた、スマホも持っていないでしょ?」

「あ~、知り合いが持っていた光る板みたいな奴か?」

「今の時代スマホをそういう人がいるなんてね……」

 

 初対面の相手に思いっきり呆れられているな、私。

 

「スマホの地図アプリを使えれば楽だけど……その地図帳貸してもらって良いかしら?」

「ああ、かまわないぞ」

 

 持っていた地図帳を少女に差し出すと、少女はパラパラとページを捲っていき、どうやら行き過ぎたようで少しページを戻した所を私に見せてくる。

 

「今私達が居る場所がここで、ここに駅があるから、そこでキヴォトス快速電車東回りに乗れば百鬼夜行の駅に着くわ」

「はぁ、なるほど……で、その電車ってどんなのだ?」

 

 結局電車というものがわからなかったため、どんなものなのかと聞いてみたのだが、少女は頭を抱えた。

 

「ねぇ、それ冗談で言ってる?」

「折角道が聞ける状況でわざわざ相手の機嫌を損ねるようなことはしねぇよ」

「えーとね」

 

 少女はスマホを操作して、私に見せる。

 

「こういうの見たことない?」

「ん?あ~、これって何処かで……」

 

 そこには何処かで見たことがあるような四角いものがあった。確か、最後にこれを見たのは、完全憑依の頃で……

 

「あ、隙間野郎がものすっごい勢いで私を轢いた奴だ」

「え?あなたこれに轢かれたの?」

「轢かれたどころか、これが爆発して吹き飛ばされた挙句一回死んだ」

「……」

「ああ、そっかぁ、これが電車ってやつなのか。初めて知ったわ」

 

 少女の顔が何とも言えない表情をしてきた。私何かそこまでおかしなことを言っちまったか?

 

「チーちゃん、どうしたのですか?」

 

 ふと、こちらに歩いて来る二人の人影が見えた。全身を黒で統一した少女と、対となる全身が真っ白な少女であった。

 

「ああ、リオにヒマリ」

「待ち合わせの場所に来ないから心配したわよ」

「ごめんごめん、ちょっと道に迷っていた人がいたから道案内をしていたのだけれど……これがちょっと面倒なことになって」

「面倒で済まないな」

 

 どうやら、私と話していたチーちゃんと呼ばれる少女の友人のようだ。そして、私は待ち合わせしていた彼女たちの邪魔をしてしまったようで。

 

「はて、道案内で面倒なことになるようなものでしょうか?」

「地図アプリや道案内アプリがあるはずでしょ?そこまで難しいような話ではないはずだけれど」

「それが、この人スマホを持っていないのよ」

「「……え?」」

 

 董子に前聞いた話では、外の世界ではスマホは九割以上の人が持っているのは過言じゃないらしく。それはこの異界でも同じようで、持っていない私は相当異端な部類のようだ。

 

「い、今の時代にスマホを持っていない方がいるのですね」

「そんな非合理的な……」

 

 二人の少女も私のことをあり得ないといった目で見てくる。幻想郷では必要がないものだったから、持ってないんだよ。

 

「とりあえず、その電車ってやつに乗ればいいってことはわかったんだけどさ……それってやっぱり金がかかるよな?」

「当たり前でしょ」

「……これ使えるか?」

 

 単位が銭の通貨を彼女達に見せる。

 

「……本気で言ってる?」

「本気も何も、今の私が持ってる金ってこれだけというか、全財産だぞ」

 

 今度はものすごい同情の目を彼女たちに向けられる。幻想郷でも別に金が要る生活はしてなかったし、酒を買う時も竹林の筍を採って売ったり、人里で手伝いをして対価としてお金を少しもらってから買ってたんだから。

 

「少なくとも、円のお金じゃありませんから、使えませんね」

 

 電車に乗るのって少なく見積もっても百銭以上はかかるってことなのか、高すぎて乗れたものじゃねぇな。

 

「これじゃあ、歩いていくしかないけど……無一文で行くとなれば途中でまともな食事もとれないし。行くのはお勧めできないのだけれど……」

「あ~、大丈夫大丈夫。私飯なんか食わなくても平気だからな」

「そういう問題じゃないと思うのですが……」

 

 やることがなさ過ぎてあの手この手で死にまくっていた時期があるので、自分がどれくらいの日数何も飲まず食わずで死ぬのかはわかっている。仮に死んだとしても、すぐに復活するので別に食事をとる必要性もないのだから。

 

「とりあえず、どっちの方角に行けば百鬼夜行に行けるのかだけでも教えてくれないか?」

「それは、北があっちだからこっちの方角に進んでいけばいずれ百鬼夜行へ着くことはできるけれど」

「そうか、それさえわかれば助かるよ。ありがとな」

 

 私は三人に礼を言って、教えてもらった方角へと歩いて行こうとしたが。

 

「そういえば、ちょっと気になったんだが、そっちの白いの」

「?この超天才清楚系美少女ハッカーの私がどうかしましたか?」

「足、悪いのか?」

「……よく気が付きましたね」

 

 今でこそ立ててはいるものの、走るのは難しそうだ。腕に太さを考えれば、足回りはもう少し太くてもいいはず。全身の力が抜けていき、皮と骨だけになっていく人を何度も見てきた。ああなってしまえば、自力で生きていくのは不可能。ただ死を待つだけの存在へとなってしまう。彼女も、そう遠くないうちに自力で立つのは無理になるのではないのだろうか。

 

「こっちの術は私の領分じゃなくて不得意だが、道案内の礼にこれをやるよ」

 

 懐から取り出した数枚の札を白い少女へと渡す。そしてそのうちの一枚をそいつの足へと張り付ける。

 

「熱!?」

 

 少女は飛び跳ね、お札を張られた場所を見るが、もうそこにお札は残されていない。

 

「い、今何をしたのですか?」

「ちょっと体が健康になる術を使っただけだよ、それじゃあな」

 

 私は今度こそ百鬼夜行と呼ばれる場所を目指して歩き出した。

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