百鬼夜行に訪れて、妙に好戦的な少女と戦った日からかなりの年月が経った。
トリニティ、レッドウィンター、山海経、と色々な場所に歩いて廻って行ったが、幻想郷へと帰るための手がかりを見つけることはできなかった。
幻想郷の性質を考えれば、存在を知っているもの達も限られてしまうのだろう。だからこそ、今では探し方を変えて、幻想郷へと帰る手がかりを探すことにした。
何故私がこの異界、キヴォトスと呼ばれるこの世界に誘拐されたのか、私を誘拐した野郎の意図はなんなのか。幻想郷には数多の人に妖怪、妖精が住んでいる。そんな中で何故私一人だけがこうして誘拐されたのか。これは、幻想郷の性質を考えればわかりやすい。
妖精は自然そのものであり、技術改革が進んでいるキヴォトスでは妖精が安定して存在できるような場所ではない。
妖怪も本来はよくわからない存在なのだ。私はあまり詳しくわかっていないが、人知を超えた怪奇現象や非日常的な力を持つ「化物」の総称であり、それが形を持ち存在するのが幻想郷なのだ。つまり、そんな妖怪が幻想郷の外へと言ってしまえば、その姿形を保っていられる保証はどこにもない。
そして、人間。幻想郷でも妖怪や神なんかと戦うことができる人間も少なからず存在している。妖精と妖怪と比較すれば、こちらの世界に来てもその存在を保つことは容易だろうが……命の保証はどこにもない。
常日頃から銃撃が絶えないこの世界、博麗の巫女でもまともに受けてしまえば致命傷になりかねない銃弾の雨が日常なこの世界で、明日の命を保証するのは無理だろう。
「だからこそ、私か」
私は生きてもいなければ死んでもいない。この銃社会の異界であっても、私は問題なく過ごすことができる。
隙間野郎が私を選んだ理由は単純で分かりやすいが、問題は隙間野郎が私をこの世界に誘拐した目的が結局わかっていない。
私に何を成してもらいたいのか、その答えを探すために活動する。
「う~ん」
私は今、DU地区と呼ばれている地区の精肉店で頭を悩ませていた。
「嬢ちゃん、随分悩んでいるね」
「まぁな……大将、これとそれを、あとそれも切り分けて包んでくれ。それと氷も頼む」
「あいよ」
商品棚に置かれていた、生の鶏肉の幾つかを包んでもらい、氷とともに保冷ケースの中に入れる。
精肉店の外に置いていた移動式屋台の棚に保冷ケースを入れて、屋台を引いて歩きだす。
今の私は、こちらの世界で移動式屋台で不定期に焼き鳥の屋台をやっている。どうも、この世界では、仕事をしていない人は妙に肩身が狭い。加えて、幻想郷以上に日々を過ごしていく中で幾らか銭がいる。
幻想郷と比べて、金さえあればある程度のことはどうにかなる。だから、行き詰ったときは自分の考えをまとめるために、焼き鳥を焼いて、接客をして、くだらない話をして考えをまとめる。
「さぁて、今日はあのあたりでやるか」
近くにいい感じに広い公園がある。最初のうちは大変だったが、今では営業許可もしっかりと取って、ある程度好きなように店をやることができる。
屋台の準備をして、先ほど買った鶏肉を一口大の大きさに切り分けていき、串に刺していく。相変わらず地味な作業をちまちまとやっていく。
今日使う分の焼き鳥の仕込みを終えると、自分の手を焼き熱消毒を済ませると、人が多くなる夕方頃に店を始めようか。
仕入れた備長炭を並べ、空気の通り道を作りあとは火を起こすだけの所で気が付いた。
「ん?なんだすっごい騒がしいな」
一体何の騒ぎなのかと思い、野次馬精神で何が起きているのかを見に行った。
絶え間なく聞こえてくる銃声と、何度も聞こえてくる爆発の音。発生源へと近づいていけば、このあたりに住んでいるであろう住民たちが逃げていき、何人もの子供たちが銃を片手に破壊行動をしているところだった。
「はぁ、またか」
正直に言って、こっちの世界は幻想郷と比べて圧倒的に治安が悪い。いま私の目の前に広がっている光景も、似たような光景を数日前に見たばかりだったのだから。
「こりゃあ、ここで今日商売するのは難しいかな」
これだけの騒ぎともなれば、事態の収束にはかなりの時間がかかるだろう。私が今日屋台をやろうとしていた場所も、ここからそれほど離れていないため、客足はほぼないと見てよさそうだ。
私はさっさと屋台に戻って場所を変えようと思ったが、ふと、視界の隅に人の流れとは逆に進んでいく集団が見えた。
「なんだ?ありゃ」
見た限り服装に統一感がない五人の集団。身に着けている装備も、目利きはできないが、この世界で戦う装備にしては不足しているように見られる。そして、その五人は騒ぎの中心へと走って行っているではないか。
「……おもしろそうだ、行ってみるか」
彼女達が何故この騒ぎの中心へと向かって行ってるのか、そして私の直感があの五人には何かがあると言っている。
走っていく彼女達の後を追い、銃弾が飛び交う中を走る。
五人の集団は戦闘をしているのか、何度も足止めを受けていて直ぐに追いつくことができた。
”ユウカ!!前に出てヘイトを買って、ハスミは相手が停止線を越えた所でビル屋上の看板の留め具を破壊して”
五人の中で一人背が高く、この中では一番年上に見える人が指揮をして戦闘をしているようだ。そして、他の四人の少女がその指揮を元に実際に戦っている。
幻想郷ではペアで戦うことはあれど、複数人が一人の指揮に従って戦うところはほとんど見ない。元々ほぼすべての住民が個人主義だから、共に戦うこと自体が珍しい。人形遣いが一応近しいかもしれないが、あれは人形という傀儡を使っているわけだし。天狗も集団で戦うことはあれど意味が違う。
銃による戦闘のセオリーはわからない。けれど、五人の集団は目の前の大勢を相手にして善戦しているようだった。
「……ただ、あれじゃあ無理だな」
いくら善戦しているとは言え、長く人と妖怪の争いを見てきたからわかる。明らかに五人の集団の方は余力が足りていない。この騒動の一件を解決するためには全く足りていないのだ。
彼女達が何のためにここで戦うのか、その理由が気になる。
私は数枚の御札を取り出し、力を籠めれば御札は火元が無くとも発火した。そして、その燃える御札を投げる。
「え!?な、なに」
「火炎瓶、ではなさそうですが」
私が投げた燃えるお札は破壊行為をしていた少女達の一人へと当たる。そして、火は少女の着ていた衣服に引火し、次第に大きな火と成っていく。
引火に気が付いた少女は、叫びつつ体を丸めてその場で転がっていく。とっさではあれど、直ぐに火を消そうとする対応は間違っていない。
私は新しい御札を取り出して、もう一度火を起こして投げる。
「先生!!あちらです」
二回目の投擲で銀髪の少女が私の存在に気が付いた。そして、その言葉に続いて先生と呼ばれた人と他の少女達が一斉にこちらを見る。
「よぉ、お嬢さん達、手貸してやるよ」
「えっと、本当にどちらさまで」
「何、ただの健康マニアの焼き鳥屋だよ」
「助力は感謝しますが、見たところあなたも外のお方、銃弾の一発でも致命傷」
一番身長と胸部がある少女が何かを言っていたが、私は構わずに近くにいたヘルメットを被っていた少女を殴り飛ばす。
「ん?なんだって?」
少女が被っていたヘルメットは、半透明だった部分は粉々となり、他の部分も一応ヘルメットとしての役割を果たして散っていった。
「ヘルメットを素手で破壊した……」
「見たところ、そこまで長期戦できないんだろ?ここは大人しく受け取っとけ」
この場にいる少女たちは、一斉に私を危険な相手だと認識したのか、狙いが私に集中する。そして、大量の弾丸が私に向かって撃ちだされ銃弾の雨が私を襲う。
「早いだけだよ」
弾幕ごっこの弾幕と比べれば確かに早い、けれど、本当にただ早いだけだった。
弾は小さく、単純な軌道、密度も甘く、全ての弾幕が私を狙っている。そんな弾幕等慣れてしまえば、どれだけ撃たれようが当たる方が難しいほどに。
地面を蹴り、姿勢を低くして滑り込み、懐へと入るとみぞおちにパンチを一発入れる。みぞおちを殴られた少女は姿勢を崩し、吐き気とショック症状を引き起こされる。やられ慣れていないのか、たった一撃であっても手にしていた武器を手放してしまい、敵の前で無防備をさらしてしまう。
無防備になった少女の胸倉を掴み、二回、三回とヘルメットの上から顔を殴り、少女が気を失わせる。
二年もこっちの世界にいれば、戦闘事情はある程度はわかってくる。
この世界の住民達はえらく丈夫だ。普通の人間相手にやれば死んでしまうような攻撃であっても、この世界の住民ならば何事もなかったかのように平気でいる。体感としては、そこらにいる名も知らぬ魑魅魍魎の妖怪と相手しているのと変わらない。
気絶した少女を掴み、それを近くにいた他の少女へと放り投げる。弾幕ごっこともこの世界の戦いともかなり異質な戦い方ではあるが、この世界ではこちらの戦い方の方が圧倒的に戦いやすい。
弾幕ごっこは人間や妖怪、妖精が種族の壁を、人間でも神様と同等の強さを発揮できるルールのもと戦っているのだ。それに弾幕も派手さと華麗さ、相手を傷つけるための意図は二の次どころか四の次、言ってしまえば決闘なのだ。
一方で、こっちの世界ではそんな決闘なんてものはない、いわば無法の戦い。そんなところで決闘の流儀を持ってきたところで、何の意味もない。
そして、妙なほどに武芸に長けたものはこちらにはいない。
「な、なんなのあの人は」
この世界の人達は基本的に銃とそれに付随する武器を使って戦う。そして、基本的に距離をとって戦うことが多い彼らには、密接しあうゼロ距離での殴り蹴りの近接は全く心得がない。
「さぁ、私を殺してくれる奴はいるかな?」
私は不敵に笑う。それが彼女達にどう映ったのかはわからないが、明らかに異質な存在を見る目ではあった。