小太りの貴族が両手に持った剣が宙を舞い。細剣を首筋に突き立てると同時に燕尾服を着た執事が一言叫ぶ。
執事「そこまで。勝者、ランドール伯爵。…これで100勝目ですか、決闘代理人Ms.エンゲルハルト。にしてもまた不殺ですとは…。」
「…決闘は互いの主張を通すためのもの、命を賭けてもいない今回の訴えであれば、トドメまでは必要ありませんから。依頼主の伯爵も、殺す必要はないとの依頼ですから。」
不思議そうに言う執事に軽くそう言ってから細剣を鞘へと納刀すると、貴族に背を向ける。
伯爵「ふむ、羽根の剣士の異名は伊達ではないな。これは今回の報酬だ、ミューリアデス殿。また世話にならないことを祈るよ…」
細身の優男である伯爵が、頼りなさげなアンダースローで金貨入りの袋を投げたのをキャッチすると、広場を離れ、雪が降る中を居候先の宿屋へ向かう 。
女店主「おや、ミューちゃんじゃないかい、おかえり、今日もアンタが傷モノになってなくて良かったよ。」
宿屋に入り、手袋を外して両手を擦り合わせ、手を温めていると、この宿屋の名物、年老いた女店主の心配したような声が受付から聞こえる。
「…それ毎日言うのかいおばあさん、私はそう言うの気にしないからって昨日も言ったよ」
いつも通りの女店主に軽く言い返してから、年単位で貸し切っている部屋へ向かおうとすると、ドアに手紙が挟まっているのに気づく。
女店主「その手紙はね、少し前に近衛の男の人が置いていったよ、羽根の剣士さんにってね。ミューちゃんアンタ、相当有名人らしいね。」
何故近衛騎士団が手紙など送ってくるのかと訝しげに手紙を引き抜き、部屋に入ってから読んでみると、どうやら今話題の極北遠征に際しての、有志連合への勧誘らしく、文末には騎士団長の印付きで「貴公の剣の才能は素晴らしいものだ。是非我が帝国のために力を貸してほしい。明日騎士団の屯所にて、答えを聞きたい。 レギン・シュナイド近衛騎士団長」と添えられていた。目的を果たす好機である、そう確信した私は、明日の為、鎧と剣を一際磨きあげると、食事を済ませて早々に床に就いた。
…………
凍てつく大地、雪雲の下で、追い剥ぎの男はエンデュミニアを目指して、雪嵐の中を歩いていた。視界不良の中、遠くから光が見える。ランタン、では無い。火とは違う、青い光だ。直後、魔力塊が高速で耳を掠める。
分厚いグローブで手探りに、ベルトの直剣に手をかける。魔力塊がもうひとつ、飛んでくるのが見えた。剣を振るい、鞘のついたままの剣で、弾き返す。「...その顔、拝ませてもらうぞ魔術師っ...!」左手で短剣を纏めて投擲、逃げ道と走る時間を稼ぐ。
焦げた鞘を投げ捨て両手で剣を構え、走り込んで右足を軸に、踏み込んですくい上げるように斬撃する。木が折れる音、魔力塊が消え去る音と共に、風圧で目の前の雪が晴れる。魔術師は、フードを着込んだ小柄な女だったようだ。
「とっととその鞄の中身を寄越しな。そうすりゃ悪いようにはしねえよ」剣を首に突きつけ、 言い放つ
「わたしじゃなきゃ、聞いてたかもねぇ?」
「何言ってやがる、お前は終わりさ。杖も折れちまって、この距離まで詰められた魔術師に何が...」
「...あー、あれは確かに杖だねぇ。」男の腹を魔術の剣が貫く。
「ただし、そこら辺に穴に落ちない為の、だけどね〜?」
雪が深紅に染り、男の視界が狭まっていく。
「最後に、そっくりそのまま返すけどぉ、アナタのカバン、エンデュミニアまでの補給に、ありかたぁく、貰ってくねぇ。」魔術師の姿が遠ざかり、男は、吹雪の中にひっそりと消えていった。