2週間前、ゲルム帝国とアルデリス大公国の国境付近、イール城砦攻略戦。傭兵団「陽光の軍」を率い、城砦を根城にする反大公派閥の拠点に攻め入った。
肩をかすめる、血に濡れた斧槍。振り下ろしたそれを持ち上げる間に、大剣をしっかりと握り、すかさず踏み込んで切り上げのカウンタ一を目の前の鉄に覆われた巨躯に叩き込む。 金属のぶつかる鈍い音と共に1歩反動でよろめく。鎧を着たその巨躯は、後ずさりする様子もない。
「...良い、一撃だったぞ........傭兵......!」再び斧槍が振り下ろされる。タイミングよく身を低くし、懐に潜り込む。狙うは、首元。正確に大剣を突き立て、刺し貫く。金属の裂ける感触、しかし肉の手応えがない。
「...これは、1本、と言ったところだな、かの有名なヘルグとは、ここまでの物か…。」「そりゃどうもだな、首無しの巨人さんよ?」首元から、スパークと煙が吹き出し、鎧を着た巨躯は崩れ落ちるように、膝立ちの状態になる。
「...今回は負けを認めるとしよう、さらばだ、 傭兵の長、ヘルグ。次相見える時は、この我、大鎧のレヴィルがお前に引導を渡そう。」空洞の首元の奥底から、男とも女とも言えない、金属のような声が響く。
「またなんて... あるのかよ…ええ!?」次の瞬間、魔術由来の強い光が周りに広がる、それに思わず目がくらむ。光と、空気を裂くような轟音、耳鳴りが消えた後には、大鎧の姿はなかった。
時は変わって現在、「陽光の軍」、団長のヘルグは、とある目的でゲルム帝国の首都、エンデュミアに軍勢と共に訪れ、大きな酒場を貸切としていた。
「この度の遠征、あの大鎧も来ると聞きました、ヤツにリベンジを果たすいい機会ですね。」
団員のひとりがそう呟く。
「あぁ、そうだなぁ…それにお前ら、この遠征には各国の強者共が山ほどやってくる。久しぶりに本気の戦になるぞ…。」
大きな木製ジョッキの酒を飲みながら、2枚の計画書を見つめ、ヘルグが呟く。
「…魔獣を狩りながら北進するという話では?」
「あ?オメェ、今回のクライアントの依頼忘れたのかよ?その2枚目見とけ、久しぶりに手応えあるやつらと殺し合えるって事が書いてあっからな。依頼人のマルコムとかいう貴族サマには感謝しかねぇなぁ。」
傭兵たちが酒を飲みながら談笑する。
「…とく斬らまほしくせむかたなき、強者との手合はせはいまだか…?とく外にいだしてえ貰はずや?レギン殿」
酒場の端で、片刃の長剣を携えた少女が妙な訛りで呟く。
「…ったく、メノの嬢ちゃん、全くテメェは何言ってんのか分かんねぇな…!全くおもしれぇ奴だぜ。」
ヘルグは大笑いして、また酒をかっ食らった。
時を同じくして、エンデュミアの端の魔術工房。入口には、「ガイスト工房」の文字が掘られた金属プレートがかかっている。1人の若い郵便屋の少女が入口を訪れ、工房の奥へ呼びかける。
「レヴィルさん!近衛騎士団から手紙が届いています!ここに住んでおられますよね!」
しばらく、沈黙が続く。
「…ゴ主人サ…レヴィル、今、イナイ。カワリニ、受ケ取ル。」
からくりが動くような妙な声とともに、奥の暗がりから、骨組みのようなヒトガタが姿を表す。
「で、では…私はこれでェ…。また届け物があったら来ますね…。ごっごご、ごきげんよぅ…。」
ヒトガタに驚いたのか、オドオドとしながら手紙を渡すと、足早にその場を立ち去る。
郵便屋が立ち去ってしばらくして、工房の奥で、鎧を外したレヴィルがゆっくりと手紙を開ける。中身には、「貴公の戦の才能は、此度の遠征にとって必要なものとなる。是非我が帝国と、人類の進歩のために力を貸してほしい。明日騎士団の屯所にて、答えを聞きたい、また、書簡での返答も認める。 レギン・シュナイド近衛騎士団長」とある。
「…へぇ、最近噂になってる、北部遠征か…まさか近衛騎士団直々にお誘いとは…新戦術と人形のテストにはちょうどいいな…。」
筆を手に取ると、返答の手紙をしたため始めた。