各々泳げるポケモンや飛べるポケモンの力を借りたり、己が身1つで浜辺より出発するのであった。
「はぁ……はぁ……」
「危なかったー……」
沖島の浜辺に辿り着くリコは、隣り合うビワと息を整えていた。
長潮ということで穏やかな潮流であったはずのうずまき島境界ラインの海面がにわかに不穏さを増し、自力で泳ぐ組のいくらかは危険予測の観点から引き返す選択をした。
リコたち強引に突っ切る選択をした者は、どうにか不意に発生した渦潮に呑まれずに済んだのだ。
「大したもんだな。如何に長潮だからってアサギシティからここまで自力で泳いで来るのがこんなにいるとは。しかも半分くらい塾生でもないじゃん」
リコたち自力で泳いで来た組に歩み寄るのは丸坊主に鍛え抜かれた筋肉美の浅黒い肌をした、いわゆる『イキのいい海パン野郎』だ。
「あの……?」
「あぁごめん。俺はオサム。この沖島に住んでるアサギ塾の教官さ。ついてきなよ。先に着いた奴らも待ってる」
「はい」
オサムの先導を受けてホタル、ミコにリコが続く。他はボタンやマリルリに捕まって先行したオルティガを除いたスター団のメンバーに、ちらほらと無茶をして見せた生徒たちも着いていくよりなかった。
「らららら……!」
「あぁ! そのまま見回り頼むぞランターン!」
海面から触覚のライトを照らしながら胸ビレを振ってくるランターンにオサムは手を振り返しながら先導を続けた。
生まれ故郷は勝手知ったる地。合同合宿の生徒以外にも長潮に合わせて船を出す釣り人たちが多くいる。そんな彼らのライフセーバー的な役回りをオサムのランターンは日課としてこなしていた。
「教官って言っても島の周りで塾生が特訓する際の臨時要員なんだけどね」
オサムが語りながら先導した先には、既に到着していた先行組が洞窟ダンジョンの入り口にて待機していた。
セキガクは自力組のリコ、ホタル、ミコ以外全員辿り着いており、エク学からはアメジオ、ジル、コニアの3人。
オレンジアカデミーはボタン以下6人と幾らかの生徒、チャバ農はムラエリが根性で泳ぎ着いている。
トキワ台はビークインのミツハニー使役能力を活かして先行したミサキにガマゲロゲのゲコ太を泳がせたミコトが追いつき、タマ大はボスゴドラを泳がせたカオルの他に多数生徒が合流していた。
後はウルト他、アサギ塾の塾生たちに加えて別の学校の生徒たちもちらほらといるにはいるが、リコからして面識を持てていないので割愛をする。
合同合宿とはいうものの、アサギ塾の練習メニューがあまりにも辛すぎて皆とてもではないが交流どころではないのだ。
「だいたい30人くらいか。ま、サバイバルにはちょうどいいかな」
「サバイバル?」
「題してアサギ塾名物『ぎんいろのはね争奪サバイバル』!」
「な、なんかまた悪い予感がしてきたのう」
オサムの説明が始まった段階でタイオが呟く。アサギ塾において、この手の催し物でロクな目にあった試しがないのだ。
「このうずまき島は伝説のポケモンルギアにとっての休息ポイントであり、子育て中の場合はまとまった期間逗留することもある。ここ沖島にあるこの出入り口はそんなルギアが滞在中居を構える海底洞窟へと繋がっている1つだ。変な気を起こす前に言っておくけど、現在洞窟内にルギアはいないからな」
サムズアップの形で親指を入り口に向けながらオサムは説明を続ける。
「現在14時5分前。洞窟内は完全に潮が引いていて、歩いての侵入と移動が可能になっている。きみたちにはこの海底洞窟内でこいつを探してもらう」
ウェストポーチからオサムが取り出すのは銀色に輝く不思議な羽だった。
「まさか、それは『ぎんいろのはね』!?」
「知ってるのアメジオ?」
「ルギアの体から抜け落ちた羽毛で、持ち主の清らかな心と共鳴することでルギアが姿を見せるという代物だ」
ロイにアメジオが説明をする。
リコは、この2人の距離感がまたぞろ縮まっているような気がしていた。
「この辺りで売られてるレプリカ品だけどね。コレと同じのをきみたちが来るってモヒヒゲのおやっさんから連絡を受けてから4枚、海底洞窟内に置いて来た」
「その4枚のぎんいろのはねを奪い合えってことね」
不敵な笑みをミコトは浮かべた。のぞむところだ、とテンションを上げる。
「制限時間は14時ちょうどになってから4時間。それ以降は潮が満ちて来て洞窟内が海水で埋まるからそれまでに帰って来るんだ。もちろん、はねを持ち帰って来た4人には素敵な特典がある」
「素敵な特典?」
「塾長が直々に率いているアサギ塾1軍メンバーとの練習試合さ。ぎんいろのはねを手に入れて来た4人で混成チームを組んでもらう形になる」
オサムが言い終わるや否や場の空気が一変した。皆みるみるうちに目の色を変えていた。
「アサギ塾の1軍といえば、正真正銘去年の全国覇者! 全国を控える拙者たちにとって手合わせしていただけるは願ってもない話!」
「フッ……他校の連中には悪いがこのサバイバル、俺が勝たせてもらうさ」
シュウメイの言は他校組の総意であり、モモのような塾生たちにとっては別の意味でこのサバイバルは美味しい話であった。
アサギ塾において1軍メンバーは全ての面で優遇を受ける羨望の的であるが、それだけにその座を維持し続けるのもまた茨の道である。何せいかなる条件下においても塾生同士のバトルに負ければその時点でレギュラー剥奪となり、負かした相手がそのまま新たな1軍として迎えられる厳しい交代制度が採用されているからだ。
「3号生と試合してレギュラーを奪うのはオレ様たちだ! いくぞヤミラミ!!」
「やんみ〜!!」
我先にと海底洞窟へと足を踏み入れたのはウルト。その侵入が合図だった。
「うお〜! ぎんいろのはねを探せ〜!!」
集まった生徒たちが一斉に洞窟内へと侵入してゆく。
「頑張れよ、みんな」
オサムは、飛び出していった背中の数々を穏やかな笑みで見送った。
「本当に大丈夫なのかシンイチロウ?」
「案ずるな! このアサギ塾の人間コンピュータと言われている俺を信じろ! きっとこの辺りにぎんいろのはねはあるはずじゃ」
「猛烈に悪い予感がしてきたのう」
目星を付けた大広間北部を塾生たちが隈なく探す中、
「こき!」
「ぎょえーッ!!」
飛び出すクラブのハサミによりタイオ自慢のモガヘアーはズタズタに切り裂かれてしまう。
「「あっ」」
狭まった小部屋のようなエリアに落ちていたぎんいろのはねを見つけ、手を伸ばすのはミコトとミサキ。両者同時のタイミングだ。
「ミコトさん。ここは部長命令ということで穏便に手を引いてくれたりは……」
「ないわね」
「やっぱり」
ミサキは肩をすくめて見せる。返答としては分かり切っていた。一応言ってみただけの話だ。
互いにバッ! と後方に飛び跳ね、即席のバトルスペースを作る。
「タイマン方式、倒れた方が負けってことでいいわね!」
「いいでしょう!」
「ピカチュウ!!」
「ぴっかぁ!!」
「スピアー!!」
「ぶーん!!」
ミコトの肩から相棒ピカチュウが飛び、ミサキはスピアーを繰り出す。
思いがけないところからトキワ台の2大巨頭……『エース』と『クイーン』が衝突を始めた。
「出てきなよ。コレ、欲しいんだろ?」
大広間の南西、マフィンが手に持つぎんいろのはねをぴらぴらと弄んで見せれば、物陰から出て来るのはナギとカオルだった。
「あれ、兄妹仲直りしたんだ」
「そいつは誤解だぜマフィン。オレたち兄妹は元々仲良しこよしなんだからな」
「別にそんなことない」
カラカラ笑うナギとは対照的にカオルはブスッとする。たまたま同じ方向に進んだ結果、マフィンに先を越されている形になっただけなのだ。
「で、どっちから先に仕掛けて来るんだい? なんなら2人がかりとか?」
「おっ、そいつはグッドアイデア。じゃあお言葉に甘えさせていただいて……」
「マフィン部長! タマ大附属の2年、カオルから参ります!」
2人がかり、という話にその気になるナギを遮りカオルがボールを投入する。
「ごっどぅあああああ!!」
ボスゴドラが繰り出され、カオルのニュートラルポジションにズシリと降り立つ。
「おいおいカオル……」
「兄貴は手出し無用!」
双子の兄妹タッグを拒むカオルに対して、ナギが言葉をかけたポイントは既にそこにはなかった。
カオルのボスゴドラの影にゲンガーが入り込んだのが見えたからだ。
既にこの場のイニシアチブは、マフィンに握られていたのだ。
「にゃひぁぁぁぁッ!!」
ニャヒートのほのおのキバがパワージェムを突き破り、ヤミラミにヒットする。
「やるじゃねェか!」
「そっちこそ!」
大広間と滝のエリアの間にあったぎんいろのはねを巡る戦いをしているのはウルトとムラエリ。
ニャヒートとヤミラミが一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ニトロチャージ!」
「にゃひあ!」
ヤミラミの周囲を走り回るニャヒートの動きが加速していく。
ニトロチャージにより体内のほのおエネルギーが活性化し、全身の筋肉細胞と共鳴することでスピードアップを重ねているのだ。
「このままじゃジリ貧だな。ヤミラミ! 本来のスピードでやるぞ!」
「やんみ!」
周囲を走り回るニャヒートに包囲され、突撃の繰り返しに対して直撃を避けながらヤミラミは背中に力を入れる。
「やみぃッ!!」
「……!? ニャヒート!!」
ヤミラミの背中から勢いよく排出される物体を前にムラエリはニャヒートに一旦距離を取らせた。
ヤミラミの背中、その体表に浮き出ていた鉱石は、排出されれば瞬く間に重力に身を任せ、ゴトン! と音を立てて落ちる。
「オレ様とヤミラミはここからが本番だぜ!! シャドークロー!!」
「やぁぁぁみゃああああ!!」
両手の爪をより先鋭化させたヤミラミがあっという間にニャヒートとの距離を詰める。
ムラエリは、先程ヤミラミが排出した鉱石は拘束具代わりであったと思い知らされた。
洞窟最深部に程近く、滝の流れ落ちる音が絶え間ないエリアでリコはぎんいろのはねを発見。
直後に出会したジル、コニアの2人と交戦に入っていた。
「サイドン! ストーンエッジ!!」
「さいどりゃあ!!」
サイドンが周囲の地面を掘り起こし、鋭い岩弾をニャローテ目掛けて発射する。
身軽さがウリなニャローテだがかわすにかわせなかった。
「ごわぁ……!」
回避する先を追撃する気満々のゴルダックが控えていたからだ。
「ニャローテ、マジカルリーフ・シールド!!」
「にゃろあああ!!」
かわせないならば防ぐより他に術はない。判断から素早くリコは指示を飛ばす。
「なにッ!?」
ニャローテは豊富なくさエネルギーを活用して左手に楕円形の盾を形成して持ち、ストーンエッジをやり過ごした。
「マジカルリーフを盾にした!? だけどコレで隙ありよ!!」
パワー自慢を自負しているジルのサイドンの攻撃を防いで見せるニャローテに目を丸くするもコニアの方針は何ら変わらない。
数的有利を取っている以上、どちらかが動きを止められたならばもう片方が叩きに行くのが上策だ。
「くぅぅぅわッ!!」
盾を構え、サイドンと正対していたニャローテの背後をゴルダックに取らせた。
「ニャローテ!」
「にゃあッ!」
ニャローテの手首からピンク蕾のつるが伸び、ゴルダックの体に巻きついてゆく。
「ごくわ!?」
「嘘ッ!?」
「そのままサイドンへ!」
「にゃあああッ!!」
後ろへ振り上げた右手を前方へ振り下ろすようにニャローテはゴルダックを投げ付ける。
「受け止めてやれサイドン!!」
「どっさい!!」
頭上めがけて降りかかる形のゴルダックをサイドンは自慢のパワーで受け止めキャッチをする。
そこでジルもサイドンも完全にニャローテから視線を外してしまった。
「ジルッ!!」
「決めるよニャローテ! マジカルリーフ・シールドブーメラン!!」
コニアに呼び掛けられ、ニャローテへ視線を戻した時にはもう遅かった。
「にゃあああろ、あッ!!」
ニャローテが投擲したマジカルリーフの盾が直撃し、サイドンとゴルダックにまとめてくさタイプのダメージを叩き付けたのだ。
「し、しまったぁッ!」
「よしッ……いい感じだよニャローテ!」
「にゃろ」
くさタイプの技はサイドンにもゴルダックにも効果抜群。たまらず2体ともダウンしたのでリコは小さくガッツポーズを作る。
「……!?」
思いがけず変則的な2vs1を切り抜けた高揚から五感が研ぎ澄まされていたのか、何か投げ入れられる感覚にリコが反応しては見事にキャッチ。
左手に握られていたのは、瑞々しいオボンのみ……。
「そいつを食べさせれば今のバトルで消耗した分のニャローテの体力は回復するだろう」
リコとジル、コニアのバトルを見届けてから近寄るその気配は、洞窟内のじめじめとした特有の空気を打ち消すほどに爽やかであった。
「アメジオ……!」
「「アメジオ様!!」」
「ぎんいろのはねは俺が持ち帰らせてもらう。アサギ塾の1軍相手に実力を試すビッグチャンスは見逃したくないからな」
アメジオからの挑戦状、リコとしては願ってもない展開であった。
『オサム』
35歳。アサギ塾非常勤教官。
鍛え抜かれたイキのイイ海パン野郎でうずまき島にて生まれ育った青年。
かつてルギアの親子と心を通わし、共に遊んだ清く正しい心の持ち主だ。