シロコに姉認定されるシロコ(転生者)   作:フドル

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続いちゃったよ……

久しぶりにルビをふったけど、ルビってこんなに小さかったっけ?


ん、何事にも限度がある

『やっほー☆ 二人とも聞こえてるかな?』

『えぇ、聞こえているわ』

「ん、問題ない」

 

 チロコにお弁当を届けてから元の世界へ帰ってきたクロコは現在、スマホを介してミカ*テラーことミカーとヒナ*テラーことヒナーの二人とビデオ通話をしていた。

 

 これは定期的に行われており、提案したのはミカー。各地に散った自分達ではお茶会なんて滅多に出来ないだろうから、せめて週に一回はスマホを使ってみんなで話し合おうよといったものだ。

 

 先生が色彩の嚮導者になってからアトラ・ハシースに乗り込んでこの世界線に攻め込むまでは何度も似たようなことをしていたのもあり、提案された二人もプレ先勢だから話せることがあるだろうとその提案を受け入れ、今までも何度も行っている。クロコが二人の現在を知っているのもそのためだ。

 

 とはいえ堅苦しい報告会などではなく、やっていることはここ最近あった出来事や小さな愚痴、相談事にただの雑談がメインだ。しかしそれが一番大事と言わんばかりに三人は話を続ける。

 

『そういえば、ヒナちゃんとシロコちゃんって服はどうしているの?』

 

 そんな雑談のなか、ふと思い浮かんだといった様子のミカーから服に関する話題が出てきた。それを聞いたヒナーとクロコは同タイミングで着用しているドレスを見せる。

 

『……えっ? まさかそれを使い回しているの?』

 

 二人の行動に今日はそれを着ているんだ〜とミカーは思ったが、そこから動かない二人へもしかしてと脳裏によぎった問いかけをすると、二人は同時に頷いた。

 

『下着はちゃんと買ってるけど』

 

 瞬間、ミカーは脱力してしまった。ヒナーからの弁明とも取れる言葉なんてこのショックの前には何の役にも立たない。

 

 確かに…確かにテラー化した際に着用していたドレスは通気性が良いのに保温性もバッチリだし、着心地も抜群。雑に扱ってもシワが出来ないし、濡れてもすぐに乾く速乾性もある。不満点なんて何の素材で作られているのか分からないことと、ラベルが付いてないから洗い方がよく分からないぐらい。でも素材なんて身体に影響がないなら気にするだけ無駄だし、二人曰くあのドレスは洗濯機でイけるらしいので、実質不満点なんて無いに等しい。

 だからってそれだけを着るのは……女の子としてどうなの?というのがミカーの本心だ。

 

『ミカ……?』

「もしかして体調悪くなった?」

『決めた……。二人とも、次に時間がある日はいつかな?』

『えっ? えっと……、2日後なら……』

「ん、私もそれぐらい」

 

 俯いてプルプル震えているミカーに二人が心配するなか、ミカーは勢いよく顔を上げると二人の予定を聞き出した。

 

『じゃあその日に集合! みんなで服を買いに行くよ‼︎』

 

 そして画面に指を差し、キョトンとしている二人へ力強く宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 ミカーの宣言のもと、2日後に集合した三人はD.U.にあるそれなりに大きなショッピングモールへ来ていた。

 

「三人で集まるのは久しぶりね」

「ん、楽しみ」

 

 あいも変わらず色彩制作のドレスを身に纏った二人が周囲の目を集めているが、二人は気にせず店内にある服屋を目指して喋りながら進んでいる。その後ろを私服姿のミカーは付いていきながらもこの二人に似合う服を選んで見せると1人気合いを入れていた。

 

「じゃあそれぞれで服を選んで、買い終わったらあそこのベンチに集合ってことで!」

「わかったわ」

「ん、了解」

 

 とはいえ二人にも自分の好みがあるだろうから、見た目に似合うだけの服を押し付けるのは善意といえど二人のファッションセンスがよっぽど終わってない限りは取りたくない手段だ。なのでまずは二人の服の好みを知ろうとミカーは一度各自で自由行動を提案した。

 そのまま二人には好きな服を選んでもらい、買い物を終えたところで購入した服が気になるからなんて言いながら買った服を見せてもらう。そしてこの服ならこれこれやあれあれも合わせたらさらに良くなると思うな〜と勧めていく作戦だ。

 

 買い物宣言から今日までの間に考えたミカーの作戦を知らない二人は足を揃えて服屋の中へ入っていく。それを見送ってからミカーも自分の服を選ぶために店内へ入った。

 

 正直な話、今まではトリニティの格式ばった店で服を選んだり、店員を学園まで呼び寄せてオーダーメイドばかりしていたのでミカーもこういった服屋は初めてなのだ。

 

 流石に二人も服選びには時間がかかるだろうし、せっかくの機会だから私もじっくり服を選ぼうかな。そんな考えでミカーは服を手に取り始める。

 

 しかしミカーは二人の服に対するこだわりの無さを甘く見ていた。

 

 ミカーより先に店内で入った二人は初めての店なのに迷いなく歩き、服を手に取ることなく物色。ヒナーはまだ見た目の好みを探して服を選んでいるが、強いこだわりはないのか深く考えず選んだ服を買い物籠に入れ、クロコなんて黒か白の無地の服が目に入るなり手に取り、サイズを確認すると即座に籠へ投入している。

 

 それを繰り返し、ミカーが手始めにと選んだ自分好みの服を鏡の前で自身の身体に合わせ、これに合うファッションは……と脳内で組み立てている間に二人は服が入った籠を持ってレジへ直行。支払いを済ませていた。

 

「良い買い物をしたわ」

「ん、良かった」

 

「いやいやいや、ちょっと待って?」

 

 本気で良い買い物をしたと思っているのか、ホクホク顔で集合先のベンチに向かう二人。しかしそんな彼女達の肩を掴む者がいた。

 

「二人とも……買った服、見せて?」

 

 その正体は勿論ミカーである。彼女はトリニティ名物である圧のある笑顔で手を差し出し、事前に考えていた作戦を放り投げて二人が持っている紙袋をど直球で渡すように要求する。

 

 何故ミカーがそんな状態になっているのかとヒナーとクロコは不思議そうにお互いの顔を見たが、要求を拒否するつもりはないのか大人しく紙袋をミカーに手渡した。

 

 受け取った紙袋の中身を早速確認するミカー。ヒナーの時点で少し微妙な顔をしていたが、クロコの方を見ると完全に固まってしまった。かと思えば内心で色々考えているのか表情がコロコロと変わり始める。

 

「二人とも……もっと!おしゃれ!しよう‼︎⁉︎」

 

 そして放たれるミカーの魂が篭った叫び。これには一部始終を見ていたレジ係のロボも共感するようにうんうんと頷いている。

 

「ヒナちゃんはいいよ? ちゃんと私服もあるし、パジャマとかも選んでる。でもシロコちゃん‼︎ シャツばっかりじゃん⁉︎ 下のスカートとかは⁉︎」

「ん、外はドレス着るし、部屋着ならシャツだけでいい」

 

 最初に見た時は私服を1着しか買っていないヒナーにも何か言うつもりだったミカーだが、クロコの方を見るとそれも吹き飛んでしまった。

 

 これからもドレスを着続けるつもり満々のクロコにミカーは内心で軽くよろめく。ミカーやヒナーは今回の買い物は私服などを買いに行くためのものと考えていたのだが、クロコだけはドレスを洗濯している間に着る服を買いに来ているのだと悟ってしまったからだ。

 

「うん、決めた……! 今からシロコちゃんのファッションショーをするよ‼︎」

 

 ミカー自身もファッションに詳しいとは言えないが、ダサくない私服を選ぶことは出来る。覚悟を決めたミカーはファッションショーという言葉に首を傾げているクロコの腕を掴み、再び店の中へ連れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、いっぱい買っちゃったね」

「ん……、疲れた」

 

 ミカーのファッションショー宣言からしばらく経ち、三人はフードコートの椅子に座って休憩していた。頼んだ料理を食べながら満足気なミカーとは別にファッションショーをやらされたクロコは疲れたのか机に頬をつけて脱力している。服も購入して即着替えさせられたためドレスではなくなっており、同じくヒナーも買ったばかりの私服に着替えているので先程と違って周囲の視線が集まる様子はない。

 

「……ん」

「あれ? もしかして眠いの?」

「……ごめん。ちゃんと寝たはずなのに」

「大丈夫よ。もし移動するならその時に起こすから、それまでは休みなさい。……休むことは大事だから」

「ありがとう、じゃあちょっとだけ眠るね」

 

 それからしばらくは三人で会話していたが、突然ウトウトし始めたクロコ。耐え難い睡魔なのか頭を軽く振って眠気をどうにかしようとしているクロコの様子に二人は何かを確認するかのように視線を合わせると、優しい表情を浮かべて少し休むことをクロコへ勧めた。

 

 そんな二人の表情を見て迷惑じゃないと判断したのか、クロコは腕を枕にして目を閉じた。そして寝息が聞こえ始め、その数秒後に何事もなく起き上がる。もしここでヘイローを見ることが出来る者がいれば、クロコのヘイローが消えた代わりに守られるように浮かんでいた小さなヘイローが大きくなる瞬間を観測できただろう。

 

「ん、二人ともおはよう」

「おはよう。 久しぶりだね()ロコちゃん」

「最後に会ったのはこのキヴォトスに来る前日だったわね」

 

 雰囲気がガラリと変わったクロコに二人は動じず、なんなら親しげに挨拶を返す。それもそのはずで、二人は目の前にいるクロコとは別の存在を知っている。

 

 その正体は本来の砂狼シロコ当人である。彼女は表に出ていないだけで、クロコとずっと共にあった。

 

「シロコを寝かせてまで出てくるって珍しいわね。何かあったの?」

「ん、アレが食べたくなった」

 

 クロコの事情を知っているヒナーは真剣な表情でシロコに問いかけたが、シロコが指差した期間限定メニューを見ると目をパチクリとさせたあと脱力した。その様子は心配して損したと言いたげだ。対してミカーはシロコらしいと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

「ん、ちびシロコは『私』にベタベタしすぎ。『私』は私のなのに」

 

 食べたかった期間限定メニューを食べているシロコは現在非常に満足気な様子を見せていた。しかし話の内容はクロコがチロコを甘やかしていることに対する不満だった。

 

 ムッスーと頬を膨らませて話すシロコをミカーとヒナーは楽しげな様子で見ていた。シロコの身長は三人の中で一番大きいが、スプーンを咥えてバニタス(ᓀ‸ᓂ)顔で腕を振るったりして全身で不満を表現する姿は可愛いものだ。気分的には小動物の威嚇を見ている気分だろうか。

 

「……それで、まだ声はかけれないの?」

「……うん、きっと壊れちゃう」

 

 そのまましばらくはシロコのチロコに対する嫉妬や不満を聞いてガス抜きをさせ、シロコが満足したタイミングでヒナーはクロコのことをシロコに問いかけるが、その問いにシロコは目を伏せて静かに顔を横へ振った。

 

 シロコがその気になれば、クロコが起きていても声をかけることは出来るし、わざわざクロコを寝かせなくても入れ替わることは可能だ。なのにそれをしないのは、クロコを死なせないため。

 

 今のクロコの魂はシロコが中から無理矢理押さえつけることでなんとか砕けずに形を保っている状態だ。それほどにクロコが自分自身に向ける自責の念は強い。

 

 そんなギリギリの状態なのに、実は本来のシロコがあなたの中に最初からいましたなんて知ればクロコがどうなるかなんて明らかだろう。

 

 とはいえクロコの傷付いた魂は少しずつ治っている。今の状態ならホシノ達と会話をする程度ならなんとかなるだろう。チロコと出会った時は少し魂のヒビが軋んだのでシロコも焦ったが、その後はいつもより早い速度で修復が進んでいるので仕方なく、本当に仕方なくチロコがクロコにベタベタするのをシロコは見逃している。しかしそのポジションにいるべきなのは同じ身体に存在する自分なので、クロコの魂が片割れのシロコの存在を受け止められるところまで修復されれば引き剥がすつもりではある。

 

「でも大丈夫。全然治らなかったあっちとは別でここに来てから少しずつ治っているから。この調子だったら完治までそんなに時間はかからないと思う」

「……うん、わかった。シロコちゃんも合わせて四人でゆっくりお話しする時を楽しみにしているからね」

「ん、ありがとう。食べたいものも食べたからそろそろ『私』と入れ替わるね」

 

 クロコがギリギリの状態なのは相変わらずだが、元いた世界線とは違って希望はあるので暗くなりかけていた二人の雰囲気は明るくなる。そんなタイミングでシロコは自分で頼んだ分を食べ終え、使った数枚のお皿を二人へ分配してからクロコが眠った時と同じ体勢になった。

 

 寝ていたクロコのそばに使用済みのお皿があるのは不自然だから私達にお皿を渡すのは納得するけど、どうして半分こじゃなくて私の方が渡される量が多いのかなぁ〜とミカーが内心で考えている間にシロコと入れ替わったクロコが起床。寝惚け眼で辺りを見渡し、ミカーのそばに積まれた数枚の皿を見てからよく食べたなみたいな表情でミカーを見たのでミカーの口角は少しひくついた。

 

「私、どれくらい寝てた?」

「30分くらいね。眠気はどう?」

「ん、大丈夫」

 

 次にあの子と会ったらやることが出来たね。なんてミカーが考えているとは知らずにクロコは呑気に時間の確認をしていた。中のシロコはミカーのそれを察知して少し慌てているが。

 

「シロコも起きたし、次はどうする? 」

「んー、食後だし散歩でもする?」

「ん、賛成」

 

 クロコが起きたなら残しておく必要がないと少しだけ残していたコーヒーを飲み干したヒナーが二人に問いかけ、ゲームセンターなどはヒナーが好きじゃないことを知っているミカーが無難な提案をしてから大切にとっておいたケーキの最後の一口を口に放り込む。

 

 ミカーの提案にクロコが賛成し、ヒナーも異論はないのか立ち上がって使った食器を片付けてからフードコートを出てショッピングモールの出口へ向かう。しかし出口付近でその歩みは止まることとなった。

 

 三人の視線の先にはショッピングモールの出入口付近でヘルメット団の集団が言い争っている姿がある。赤と青でヘルメットのカラーが分かれていることから二つのグループが揉め事になっているのだとわかるが、いかんせん争っている場所が非常に迷惑である。

 

「はぁ、別の場所に向かうのも面倒だし、私が片付ける。早く終わらせたいから悪いけどシロコも手を貸して」

「ん、要望は?」

「彼女達の周囲を囲むようにお願い」

 

 他にも出入口はあるが遠回りをするのは面倒くさいと結論を出したヒナーは隣にいたクロコに購入したばかりの服を預け、目を鋭くさせながらテラー化した際に増えた一対を合わせて二対四枚の羽を大きく展開させながら銃身全体に黒色のヒビ模様が刻まれた愛銃のデストロイヤーを構えた。

 

 殲滅の準備を済ませたヒナーの少し前の空間にクロコが小さな門を開き、ヒナの要望に応えて互いに銃を構えて銃撃戦を始めようとしているヘルメット団の集団のところにも彼女達を囲むようにして門を多数展開。

 

「……え、何こ──」

 

「時間はかけない。一掃する」

 

 突如として現れた得体の知らないものにヘルメット団の誰かが呟いたが、その言葉が終わる前にヒナーが愛銃の引き金を引いた。

 

 放たれた銃弾はヒナーの前に展開された小さな門を経由してヘルメット団を囲む門から撃ち出される。彼女達からすると謎のモヤみたいなものから滅茶苦茶痛い銃弾が飛んでくるのだから堪ったものじゃないだろう。

 

「わーお、相変わらず凄いね」

「もう少し威力を上げる」

 

 デストロイヤーから吐き出され続ける廃莢と比例してヘルメット団に降り注ぐ銃弾。逃げたくても全方位を囲まれているため逃げ場がないヘルメット団の悲鳴にミカーが思わずと言った様子で呟く。

 

 悲鳴を出す余裕があるならまだ大丈夫だと判断し、力のギアを一段階上げたヒナーによって彼女の愛銃から放たれる電動ノコギリのような銃声が更に強くなり、弾を撃ち出す衝撃でヒナーの髪が靡く。発砲時の反動が強いのか撃つたびにヒナーの身体が僅かに後退していくが、事前に身体を支える目的で床に突き刺しておいた羽のおかげで途中からは後退せずにただひたすらに弾を撃ち出し続けていた。

 

「…掃討完了。じゃあ二人とも改めて行こう」

 

 弾切れによってヒナーが撃つのを止めた頃には立っているヘルメット団は一人もおらず、ヒナーの強さと雰囲気に圧倒されて大人数がいるのに物音一つしない静かな通路を三人は通って散歩に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた血溜まりの跡も、見渡せば必ず見えた建物から立ち上る黒煙も、かつては人の往来が多かった大通りに積み上がる瓦礫も無い平和なキヴォトスの散歩を楽しんだ後日、クロコはチロコの世界線へせっかく買ったのだからと私服に着替えて向かっていた。

 

 あまり派手な服は似合わないだろうとシャツとズボンで簡潔に纏めた私服だが、スカートと違って脚がスースーしないのはクロコからしても好感触だ。しかし色彩ドレスの方が着心地が良いのは複雑な気分である。

 

 やっぱりドレスで良くないかと考えながらクロコはチロコの自宅の前へ転移。インターホンを鳴らして少し待ち、チロコが居ないことを確認したら転移で不法侵入を行う。

 

 既に放課後の時間帯だが、クロコがチロコだった頃は毎回ホシノ達と遊んだりしていたので帰ってくるのはもう少し後だろう。その間、ただ待つだけなのは暇なのでクロコはチロコが後回しにしていた家事を代わりにやって時間を潰す。

 

 しかしクロコの想定よりも早くチロコは帰ってきた。何かあったのだろうかと家事を中断してクロコがリビングから顔を出すと、家の中で物音がすることに警戒を露わにしていたチロコは目を見開き、構えていた銃を下ろして靴を脱いでからクロコに飛び込んできた。

 

「ん、どうしたの?」

「ん‼︎ ノノミにマフラーを洗われた‼︎」

 

 飛びついてきたチロコの頭を撫でながらクロコが問いかけると、クロコのお腹に顔を埋めていたチロコが顔だけをあげて叫ぶ。クロコからでは自分の胸が邪魔でチロコの表情を見ることは出来ないが、怒っているのはなんとなく伝わった。

 

 思い返してみれば、クロコが見ている限りチロコはマフラーを外すことはあれどそれを洗濯したことは一度もなかった。今のチロコの反応からするにクロコと出会う前も洗っていなかった可能性が高い。

 

 頻繁に洗濯するものではないのは確かだが、毎日つけているのに一度も洗わないのは駄目だろう。なんてことをホシノ達が言っていないとは思えないし、毎回自分の服を洗濯しているならチロコも洗濯の大切さはわかっているはず。なら何に対して怒っているのか。

 

「ん! 匂いが消えた‼︎」

 

 そんなクロコの疑問はチロコの解答ですぐに解消された。試しにチロコを抱き上げて近くにまできた彼女のマフラーの匂いを嗅いでみると、ほのかに柔軟剤の香りがする。キツくなく、薄すぎない程よい塩梅。

 

「……何しているの?」

「ん、クロコの匂いをつけてる。クロコの匂いは落ち着くから」

 

 そうやってクロコが匂いを確かめていれば、チロコが自分でマフラーを外して代わりにクロコの頭に巻きつける。しかし匂いなんてそう簡単に移るものではない。

 

 チロコの体温が移ったマフラーの温もりにクロコは目を閉じる。同時にクロコの中で色濃く残っているホシノから初めてマフラーを巻かれた記憶が浮かび上がった。あの時のマフラーの暖かさとホシノの香りはその後の悲劇によって記憶が掠れてしまっても忘れることはない。

 

 そんな大切なマフラーもアビドスを守る日々のどこかで紛失してしまった。気付いてから何日もかけて捜索したが見つかることはなく、今もあの世界線のどこかにあるのだろう。

 

「暖かいでしょ?」

「ん、暖かいよ。とっても…とっても暖かい」

 

 抱き上げていたチロコを下ろし、久しぶりに感じる温もりにクロコは壊れものを扱うかのようにマフラーに両手を添えた。その温もりを確かめた後、目を開いたクロコは少し躊躇してからマフラーを外すと、これはここにあるべきだとチロコの首に巻きつけて微笑んだ。

 

「……クロコ?」

「ん、私は大丈夫。これはシロコのものだから」

 

 匂いを付けたくて巻いたのにとチロコがクロコを見るが、クロコの微笑みの中に潜む何かを懐かしむようで泣きそうな表情に、もう一度クロコに巻こうとして自分に巻かれたマフラーを外そうとしたチロコの手が止まる。

 

 まただ。またそんな顔をする。マフラーに関する何かがあったのかと聞きたいが、どうせ理由を聞いても答えてくれないだろうとチロコは聞き出せない自分に対する悔しさに思わずマフラーを握りしめた。

 

 しかしその直後にチロコはハッと何かに気付くと、にんまりと笑みを浮かべた。

 

「ん、クロコ。勝負するべき」

「……いいよ、何にする?」

「ここから先に玄関のドアを触った方が勝ち! じゃあスタート‼︎」

 

 突然の勝負申請だが、クロコは問題ないと頷いた。するとチロコは早口でルールを説明して即座に反転。玄関に向かって駆け出す。

 

 クロコはチロコにマフラーを巻くために正座に近い体勢になっているのに対してチロコは立ったまま。更に玄関のドアに近いのはチロコの方。不意打ち気味に勝負開始の合図を出したが、クロコが勝負を受け入れた時点で反則ではない。

 

 これは勝った。いくらクロコが強くてもこの状態からチロコを抜かして先にドアをタッチすることは不可能。

 

 勝ったら早速あんな顔をした理由を聞かせてもらう。そんなチロコの思惑は、クロコがチロコの手首を掴んだことで呆気なく砕け散った。

 

「ん⁉︎ それはズルい‼︎」

「相手を掴んだら駄目なんてルールをシロコは決めてない。狙いは良かったけど詰めが甘い」

 

 先程までの表情を引っ込めたクロコは勝負は勝負だからと掴んだチロコを引き寄せ、立ち上がってからチロコのお腹に腕を回して抱っこで捕まえる。そしてそのまま玄関に向かって歩き始めた。

 

「んーーー‼︎ んーーーーー‼︎‼︎」

 

 このままでは負けるとわかっているが、抜け出すことは叶わず。それでも諦めずにチロコは捕まっていることを利用してドアに向かって『>』の字どころか『つ』の字まで身体を曲げることでなんとか触ろうと試みる。

 

 しかしそのワンチャンを狙った行動もチロコを捕まえたからと慢心していなかったクロコが身体の向きを反転させたことで完封された。

 

「ん、タッチ。じゃあいつも通り……ね?」

「んーーーー‼︎‼︎」

 

 玄関のドアをタッチして勝利したクロコはここでチロコが暴れると手足をぶつけると思ったのかチロコを抱っこしたままリビングへ移動してから罰ゲームと言わんばかりにチロコの視界内でこれから擽るぞと片手をわしゃわしゃさせながら近寄らせてくる。

 

 それに対してタッチはNGとチロコは両手でクロコの片手を押さえ付けるが、力負けしているのか徐々にクロコの手は近寄ってくる。諦めるのは駄目だとチロコは頑張ったが、数秒後にはチロコの笑い声が部屋に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 日は沈み、時刻は夜。クロコからの擽り攻撃で一度ダウンしたチロコはクロコが作った夕飯を食べてなんとか復活。今はクロコにお願いして、自身の愛銃である『WHITE FANG 465』の整備方法を教えてもらっていた。

 

 砂が風などで舞うアビドス自治区ではいくら耐久性に自信があっても頻繁に整備をしないと銃器がイカれる可能性が高くなる。しかしホシノやノノミが使っている愛銃とは種類が違うので二人も大雑把な整備方法しか教えることが出来ず、細かいところは本などで覚えるしかなかった。

 

 見るのと実際にやるのとではやはり違いがあって、クロコが食器を洗う音を聞きながらチロコは小難しい顔で整備をしていたのだが、その様子を見ていたクロコのアドバイスに従ってやってみるとすんなり出来てしまったのだ。

 

 そこからクロコがこのタイプの整備方法に詳しいと知り、それならとチロコはクロコに整備方法を教えて欲しいと頼み込んだ。それをクロコは快諾し、食器を洗い終えてから整備の勉強が始まった。

 

 最初は対面で整備を眺めていたチロコだったが、コッチのほうが見やすいからという理由でクロコの背中にしがみついてクロコの後ろから整備を覗き込む体勢になる。どう考えたって邪魔だろうと思うが、他者に説明するのは初めてなクロコは一々対面の相手にここはこうするのだと持っていた部品などを反転させて見せるのも面倒だと感じ始めていたのでその方がやり易いとチロコの行動を許した。

 

「で、この部品は──」

 

 手に持った部品を慣れた手つきで掃除や点検をしながら話すクロコ。他者が見たら自分の愛銃を整備していると思われるほど手際の良い整備を見ながらチロコは説明を聞く。その説明の中には実際に使わないとわからないような内容も多々含まれている。

 

 しかしチロコはクロコがアサルトライフル系統の銃器を使っている姿を見たことがない。基本的にはナックルダスターによる殴打だし、銃器を使う時もアサルトライフルではなく今も彼女の太ももに装着されたホルスターに収まっている拳銃を使っていた。

 

 まぁ、ホシノもサブで拳銃を使う時があるので似たようなものかとチロコは勝手に納得しつつ、クロコのアサルトライフルを使った戦い方は今後の参考にしたいので後で使ってみて欲しいとお願いしようと脳内メモに書き込んでおく。

 

 そしてそれとは別にクロコが明らかにアサルトライフルに手慣れているのに使わないという不思議繋がりで、チロコの視線がクロコの頭上にある獣耳へ向いた。よく罰ゲームでチロコを弱い箇所ばかり撫でたり擽ったりするクロコだが、チロコからすると何も感じない獣耳もよく触ってくる。

 

 チロコからするとクロコが獣耳を触ってくる時は笑わずに呼吸を整えることが出来る休憩時間みたいなものだが、今冷静になって考えると不思議である。

 

 こんなところを触って何の意味があるのか。そうチロコが考えている間に無意識に腕が説明を続けるクロコの頭上へと伸ばされ、無造作に彼女の耳を握りしめた。

 

「んっ!」

 

 瞬間、普段の雰囲気からはかけ離れた艶やかな声がクロコから漏れた。今まで聞いたことがないタイプの声にチロコが目をパチクリとさせてクロコを見ると、頬を赤く染めたクロコと視線が合う。

 

「そこ……弱いから、握らないで」

 

 いつもとは違う弱々しい声でチロコにお願いするクロコ。その言葉を少し遅れて理解したチロコは、ニタァと悪い笑みを浮かべてクロコの獣耳を再び握りしめる。

 

「んっ! シロコ! 駄目、だからぁ‼︎」

「ん‼︎ 嫌なら跪いて許しを請うべき‼︎」

 

 弱いということは弱点ということ。つまりそこを攻めれば勝てる。

 

 自身の頭が弾き出した結論に従ってクロコの身体に脚を絡ませて簡単には離れないようにガッツリとしがみついたチロコはクロコの獣耳を両手で掴んでこねくり回す。当然クロコもチロコを引き剥がそうとするのだが、背後を取られていることに加えて弱点を攻められているからか引き剥がす力はいつもに比べて遥かに弱い。

 

 これなら引き剥がされる心配もないとチロコのテンションは急上昇。いつも自分がされているみたいに動けなくなるまで触り続けてやると言わんばかりにクロコの獣耳を握ってこねくり回すスピードを上げる。

 

 だがそれはクロコの我慢ゲージの限界点を振り切る行為だった。

 

「……ん⁉︎」

 

 このまま言葉ではチロコは止まらないと判断したクロコは目の前にチロコの背後と繋がる門を生成。即座に両腕を突っ込み、チロコを後ろから抱き上げて回収した。チロコからすれば誰かに身体を掴まれたと思えば視界が少し暗転。気付けばクロコの腕の中にいたように感じるだろう。

 

 チロコは知らなかった。クロコの力が弱くなっていたのは、こんな状態だから思わず力を込めすぎてしまってチロコを怪我させないようにと手加減に手加減を重ねていたことを。

 

「……クロコ?」

 

 何故クロコの腕の中にいるかチロコには分からなかったが、このままだとクロコからの反撃がくる。それに身構えたチロコだったが、クロコはあっさりとチロコのことを解放した。

 

 自分の予想が外れたことにチロコは戸惑いながらクロコを見るが、クロコはチロコに視線を向けずに途中だった整備を進めて終わらせる。整備自体が終盤に差し掛かっていたため、数分も経たずにチロコの愛銃は元の姿に組み立てられた。

 

 黙ったままクロコから渡された新品同然となった愛銃を戸惑いながらチロコが受け取ると、クロコは立ち上がって自身の両手にナックルダスターを取り付ける。そしてホルスターから拳銃を抜き取ると、弾薬が装填された弾倉を入れてスライドを引いた。

 

「ん、シロコ」

「な、なに?」

 

 チロコのミスは大きく二つ。一つ目は勝負方法を選ぶ権利を先程使ってしまったこと。なので今はクロコが次の勝負方法を決める権利を持っている。

 

 二つ目はまぁ……単純にやりすぎた。勝負に負けた罰ゲームならクロコも仕方ないと納得して我慢していたが、今回は勝負ではないことに加えて何度もクロコはやめてと言っている。それでも続けるのだからクロコが怒るのは当然とも言える。

 

「今からそのマフラーを賭けて勝負しよう。ルールは何でもありのガチンコ勝負。降参はあり。はいスタート」

 

 ミカー監修の圧のある笑みでクロコから伝えられた勝負の内容。それを理解したチロコが出来たことは愛銃を床に落とし、近寄ってくるクロコから守るように両手でマフラーを握りしめてイヤイヤと涙目で顔を横に振ることだけだった。




オリ主

 愛銃の『BLACK FANG 465』は三つ巴の戦いの最中にミカーからの殴打を躱せず何とか銃身で受けて逸らそうと試みた際に拳を受けた銃身の中心部分が大破。修復不可能だったので現在は二代目を使っている。しかしチロコの世界線には自分は物語に関わらない表明として持ち込んでいない。

 門を使えば距離は関係ないので本当ならナックルダスターだけでいいのだが、門を見せたくない奴らもいるため遠距離手段として拳銃を持ち歩いており、今回もクロコの存在を知ったホシノを狙っているどこぞの悪い大人組織がよこしたであろうドローンがコソコソと様子を探ってきたので事前に撃ち落としている。出しゃばって来るなら直接脅す予定。

 獣耳が弱い(迫真)。前世で存在しない部位だったので興味があって暇さえあればこねくり回していたら敏感になってしまった。ある意味自業自得。戦闘中は意識が集中するのか反応が鈍くなるが、獣耳の奥は一番敏感なので戦闘中でも触られるとやっぱり反応する。しかし戦闘中にそこを触る者なんてまずいないのでオリ主自身もそのことを知らない。

 チロコの教育のために今回は怒ったが、内心はそこまで怒っていない。しっかり反省して謝れば許す。


シロコ(クロコの片割れ)

 始まりからずっとオリ主の中にいた。思考は共有していないのでオリ主が何を考えているかわからないが、ホシノ達を失ったことを何度も後悔していることは知っている。オリ主はシロコの存在に気付いていないが、色彩に接触された際に無意識にシロコの魂を庇ったためシロコは通常のまま。

 オリ主がテラー化してから入れ替わることや会話が可能だと気付いたが、その頃にはオリ主が精神的に死にかけていたのでサポートにまわる。いつかキチンと話したい。

 ミカーとヒナーの二人には片割れがシロコと名乗ってしまっているので、自分はクロコと名乗っている。なのにチロコ世界線では片割れがクロコと名乗っちゃったからややこしいことになってしまった。

 昔は自分が姉ポジションだと思っていたが、庇われてからはオリ主を姉ポジションに据えている。なので妹ポジションを取るチロコを警戒している。


チロコ(小さなシロコ)

 ちゃんと謝った。オリ主は許したけど本当に許されたのか不安でしばらく近くを付き纏う。何事にも限度があることを知った。


先生(あまねく奇跡在住)

 ミカーに向かって彼女の中では禁句である『お姫様』を言ってしまって好感度大ダウン。少しづつ打ち解けてきていた時にやっちまったので反省中。

 三人の中で比較的マシなだけで仲良くなるにはミカーも普通に難易度が高いことに気付いた。


テラー勢(ミカー、ヒナー、クロコ)

 現在の状態では地雷ワードが沢山ある。踏み抜けばミカーとヒナーからは好感度が大幅ダウン。クロコは最悪魂が砕けて廃人になる。頑張れ先生。プレ先生から託されただろ。








 ニセコみたいにもう少しギャグ風味を入れたいけどクロコの背景が重くて入れにくいね。

 それと…なんか公式から臨戦のユズとエイミが実装される匂わせがきてるのですが……。石3000個しかないけどいけるか……?

 ちなみにオリ主は最終編から先を知りません。なので地下生活者はしばらく好き勝手出来ます。まぁバレたらテラー勢に囲まれて原作より酷い目に遭いますが。

 あとスピキが人気で笑った。やっぱりみんなチョワヨーが好きってはっきりわかんだね!

 あと結局入れませんでしたが、ドアタッチ勝負にチロコが負けたタイミングで勝手にマフラーを洗ったノノミが謝罪のためにチロコの家に来たけど、インターホンを鳴らそうとしたタイミングでドア越しからチロコの「んっ!駄目っ!やめっ!」的な声を聞いてしまってシロコちゃん…?ってなるシーンを思い付いたのですが、筆者の内なるコハルがエ駄死したので没になりました。
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