波動砲艦隊はこれより艦隊の指揮に入る 作:前衛武装航宙艦アマテラス
「4号車被弾! 行動不能!」
作戦は順調に進んでいた。だが、その順調さゆえの油断から、敵戦車との戦闘に意識を取られてしまう。そして気づけば、この有様だった。
レ級たった一隻を見失い、いつの間にか背後を取られていたのだ。対応が遅れた一輌は背後から撃破され、異変に気づいた別の一輌も反撃を試みる。しかし砲弾は外れてしまう。
「クソッ! 3号車は距離を取りつつ応戦! 俺たちが行くまで持ち堪えろ!」
〈了解!〉
若山たちは急いでレ級の元へ向かう。あの距離でレ級と戦えば、真正面から装甲を貫かれ撃破されかねない。ならば、一度距離を取り態勢を立て直すべきだ――そう判断したのだ。
しかし、レ級は即座にその意図を見抜き、主砲を放ってくる。
「間に合わない! 衝撃に備えろ!」
放たれた砲弾は74式戦車を捉え、鈍い音と共に命中した。
――だが、いつまで経っても撃破された様子がない。
車体を確認すると、被弾箇所の装甲が大きく凹んでいるだけで、貫通はしていなかった。どうやら奇跡的に跳弾したらしい。それはまさに幸運としか言いようがなかった。
その様子を見たレ級は、悔しげに顔を歪める。
「ちょっ、跳弾したようです!」
「奇跡的に助かったのか……。それよりレ級は!?」
「レ級、本車から離れていきます!」
――なら良かった。
そう思うだろうか?
なぜレ級は、撃破できるはずの戦車を見捨てて離脱するのか。
そもそも、レ級の目的は戦車部隊そのものなのか?
否。
狙いは藤井提督たちだ。
戦況はすでに深海棲艦側にとって厳しい。制空権は奪われ、地上部隊もほとんど壊滅状態。ここからレ級一隻で戦況を覆すのは困難だろう。
ならば、狙うべきはどこか。
当然、指揮官である。
部隊を率いる人物を倒せば、指揮系統は乱れ、士気も崩壊する。そうなれば部隊は満足に戦えなくなる。
レ級は、その一撃によって戦況を覆そうとしていたのだ。
「ここでヤツを仕留める! 次弾装填!」
若山たちは、レ級を藤井提督たちの元へ向かわせまいと、急いで徹甲弾を装填し始める。何としてでも、ここで撃破するつもりだった。
「次弾装填完了!」
「撃てッ!」
二輌から放たれた砲弾は、吸い込まれるようにレ級へと向かっていく。この砲弾は、さすがのレ級でも無傷では済まないはずだった。
――だが、相手はそう簡単に倒される存在ではない。
レ級は尻尾に取り付けられた装甲を巧みに操り、砲弾の一発を跳弾させてみせた。
しかし、もう一発は見事に命中する。
だが、それでも致命傷には至らなかったのか、レ級はすぐに態勢を立て直し、そのまま走り出す。
若山たちは再び次弾を装填し始める。だが、その間にもレ級との距離は徐々に開いていった。
このままでは間に合わない――そう感じた若山は、すぐさま無線を取る。
「こちらタンク1よりアタッカー1。現在、レ級と交戦中。再度、近接航空支援を要請する。オクレ!」
〈こちらアタッカー1。ロケット弾の残弾なし。繰り返す、ロケット弾の残弾なし。オクレ〉
「こちらタンク1、了解……オワリ。クソッ!」
若山は焦りを感じていた。
コブラによるCASを要請できない以上、レ級は誰からも有効な攻撃を受けないまま、藤井提督たちの元へ辿り着いてしまうかもしれない。
誰か……誰かいないのか――。
そう思った瞬間、無線が飛び込んできた。
〈こちら日向。これよりレ級との交戦を開始する〉
無線の主は日向だった。
元々、日向は万が一に備え、藤井提督の護衛として待機していたのだ。
確かに日向は戦艦級の火力を持ち、他の艦娘たちよりもレ級に対抗できる力を備えている。
だが、若山は素直に安心することができなかった。
なにせ、日向は実の娘なのだ。
実戦経験を積んでいるとはいえ、相手はあのレ級。そんな相手と日向が戦うことを思うと、気が気ではなかった。
しかし、今は違う。
すでに頼れる存在は、日向しかいない。
ならば信じるしかなかった。
「……任せたぞ! 日向!」
〈ああ!〉
「俺たちは援護に――」
若山たちは万が一に備え、日向の元へ向かおうとする。だが、生き残っていた深海棲艦数体が攻撃を仕掛けてきた。
若山は舌打ちし、援護を断念する。
「クソッ、こんな時に……! 3号車は4号車の救助を! 2号車は本車と共に、目の前の深海棲艦を速やかに殲滅するぞ!」
ーーーー日向 side
レ級は、立ちはだかる日向を前に足を止めた。
まるで、「お前に何ができる」とでも言いたげな表情だった。
「お前をここから先へ通すわけにはいかないな」
「タッタイッセキデ、オレヲトメルツモリカ? オモシロイヤツダ。イマナラ、ミノガシテヤッテモイイゾ?」
「言いたいことはそれだけか? なら、こちらから行くぞ!」
「オ?」
その瞬間、日向はレ級に隙を与えまいと先手を取って攻撃を開始する。
35.6cm主砲から放たれた八発の砲弾は、完全にレ級を捉えていた。回避する暇すら与えず、全弾が命中する。
爆風と共に煙が立ち上る。
この至近距離でこの火力を受ければ、普通の深海棲艦ならまず生き残れない。
――だが。
「やはりか……」
煙が晴れると、そこには装甲を大きく凹ませながらも立ち続けるレ級の姿があった。
「イイカリョクダ。ダガ、ヤマトガタホドデハナイナ?」
「まだまだ、これからだ!」
すると今度は、こちらの番だと言わんばかりにレ級が攻撃を開始する。
日向も再び主砲を放とうとするが、まだ装填が終わっていない。咄嗟に副砲で反撃を行う。
しかし、両者とも陸上では機動力が落ちている。結果として、互いに被弾する形となった。
「グッ……!」
レ級は辛うじて直撃を避けたものの、日向は砲撃を受けてしまう。
レ級の火力は長門型をも上回る。そんな攻撃を受けて無傷で済むはずがない。
見ると、被弾した日向は主砲の一部が破損していた。
「オッ? ゴジマンノシュホウガ、コワレタヨウダナ?」
レ級は、自分が撃破される可能性がある状況にもかかわらず、不気味な笑みを浮かべ続けていた。
「これぐらい、まだ序の口だ!」
それから数十分。
日向とレ級の激しい戦闘は続いていく。
だが、次第に日向は追い詰められていった。
最初から分かっていたことだ。レ級一体だけでも、艦娘たちにとっては極めて大きな脅威となる存在だということを。
これまでの戦闘でも、レ級一隻によって何十隻もの艦娘が沈められてきた。
そんな相手に、いくら実戦経験のある日向とはいえ、一隻で対抗するのは厳しい。
だが、ここを突破されれば次に狙われるのは藤井提督たちだ。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。
他の艦娘たちが戦えない以上、自分が止めるしかない。
そう自らに言い聞かせ、日向は戦い続けた。
しかし、被弾は徐々に増えていき――。
日向はついに、絶望的な状況へ追い込まれていくのだった。
「モウオワリカ?」
徐々に追い詰められていく日向の姿を見て、レ級は笑みを浮かべる。
「いや、まだだ! まだ戦える!」
日向は満身創痍になりながらも、自らを奮い立たせ、残る力を振り絞る。
だが、体は思うように動かない。
――もう、ここで終わりなのか。
そう思った、その時だった。
一通の無線が入る。
「……何? 本当に可能なのか? ……ああ、分かった」
その内容は、とても信じられるものではなかった。
だが、もし本当に実行可能なら――このレ級を撃破できるかもしれない。
このまま戦い続けても勝ち目は薄い。ならば、その策に賭けるしかない。
日向はそう決断した。
「ナニヲヒトリデブツブツイッテイル? ヤラレスギテ、アタマデモオカシクナッタノカ? ……マア、イイ。ココデラクニシテヤルヨ」
レ級はそう言うと、最後の止めを刺すかのように主砲を日向へ向ける。
だが、それを見ても日向は終始冷静だった。
「やれるものなら、やってみろ!」
「マダアキラメテイナイノカ。マアイイ……ソレナラ、モットタノシマセテクレ!」
日向はレ級から徐々に距離を取っていく。
その間にも、残された砲で反撃を続ける。だが、その砲撃はまるで当たらない。
その様子を見たレ級は、愉快そうに笑みを浮かべる。
「ドウシタ? ゼンゼンアタッテイナイゾ?」
レ級は、この状況そのものを楽しんでいるかのようだった。
そして、ゆっくりと日向との距離を詰めていく。
――だが、それこそが日向達の狙いだった。
自分が、レ級を倒すための罠へと誘い込まれていることに、レ級はまだ気づいて居なかった。
ーーーーワイオミングsaid
「は? レ級を三式弾で撃破しろと?」
日向たちがレ級との激戦を繰り広げる中、洋上では別の動きが始まっていた。
神州丸たちの逃走を阻止するため待機していた地球防衛軍艦隊。その中の一隻であるD級戦艦ワイオミングは、峯岸からある要請を受けていた。
――三式弾によるレ級の撃破。
確かに三式弾は、レ級クラスの敵に対して極めて有効な兵器だ。現在、地上部隊だけではレ級への対処が困難な以上、この兵器に賭ける価値は十分にあった。
〈ああ。現在、地上部隊だけではレ級への対処が困難な状況だ。そこで、お前たちの出番というわけだ〉
「なるほど……。しかし、ここからではレ級を直接狙撃するのは難しいかと……」
〈そのための三式弾だ。実体弾なら曲射ができるだろう?〉
ワイオミングがいるのは洋上。
一方、第105警備基地は小高い丘の上に位置しており、その背後は崖になっている。当然、通常の砲撃で直接レ級を狙うのは困難だった。
そこで三式弾の出番である。
陽電子砲とは違い、三式弾は実体弾だ。そのため放物線軌道による曲射が可能となる。
つまり、障害物越しでもレ級を攻撃できるというわけだ。
「なるほど……。ですが、いくら最新鋭のシステムを搭載したD級とはいえ、外す可能性も――」
〈いいか? 時間がないんだ。ここで議論している余裕はない〉
「……分かりました。やりましょう!」
〈よし。レ級の位置については、ヴァンパイアを通じて座標を送る。……では、幸運を祈る〉
そうして、ワイオミングは行動を開始した。
「さあ、始めるぞ! 総員戦闘配置!」
ワイオミング艦長の号令の下、艦内は一気に緊張感に包まれる。乗員たちは慌ただしく持ち場へ走り、攻撃準備へと移行していった。
その頃もなお、日向はレ級をキルゾーンへ誘い込むため、必死に時間を稼いでいた。
そして――。
偵察機ヴァンパイアから、ついに目標座標が送られてくる。
「艦長! ヴァンパイアより座標、到着しました!」
「よし! 主砲一番、二番、射撃用意! 三式弾装填! 目標、レ級!」
ワイオミングに搭載された30.5cm衝撃波砲塔が、レ級を撃破するべくゆっくりと旋回を始める。
やがて、照準が定まった。
「三式弾装填完了! いつでも撃てます!」
「二番砲は予備として温存する。……一撃で決めるぞ!」
「はっ!」
艦橋の空気が張り詰める。
そして――。
「よし……撃ち方、始めッ!」
次の瞬間。
凄まじい轟音と共に艦体が激しく震え、主砲から三式弾が撃ち出された。
放たれた砲弾は大きな放物線を描きながら夜空を切り裂き、レ級へ向かって飛翔していくのだった。
ーーーー日向said
「ドコマデニゲルンダ? モウクルシイダロウ?」
「ッ……!」
それからというもの、レ級は逃げ続ける日向に対し、致命傷にならない程度の攻撃を加え続けていた。
日向を援護するため、他の艦娘たちもレ級へ攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃はほとんど効果を成さない。
それどころか、レ級の反撃によって逆に大きな損害を受けてしまっていた。
「……もう、ここで決着をつけよう」
「ナンダ? モウアキラメタノカ?」
日向は突然足を止め、レ級の方へ向き直る。
しかし今の日向には、まともに反撃できるだけの力は残されていなかった。
「マアイイ。コチラトシテモコウツゴウダ。クルシマズニシナセテヤルヨ」
レ級は日向へ主砲を向ける。
だが、その瞬間――日向は不敵な笑みを浮かべた。
「ドウシタ? ナニガソンナニ――」
言葉を言い終える前に、突如としてレ級の左脚が吹き飛んだ。
「ッ!?」
何が起きた――?
レ級は状況を理解できず、その場で大きく体勢を崩す。
砲撃が飛来した方向を見ると、そこには74式戦車の姿があった。
〈遅くなってすまない〉
「いや……いいタイミングだ。助かったよ」
〈……そうか。それと、日向……よくやった〉
そう言い残し、無線は途切れる。
だが、レ級にはそんなやり取りなど耳に入っていなかった。
自分が追い詰められたという事実に、激しい怒りを覚えていたのだ。
「コレデオレヲタオシタツモリカ!? コロシテヤル!」
「油断したな。自分が罠に誘い込まれていたことにも気づかずに」
「……ナニ?」
そう言うと、日向は素早くレ級から距離を取る。
そして、その直後だった。
遠くの空から、何かが高速で落下してくるような音が聞こえてくる。
「……マサカ!」
逃げようとするレ級だったが、脚を吹き飛ばされたことで思うように動けない。
「クソッ! クソガァァァァァァッ!!」
次の瞬間――。
上空から飛来した三式弾が、凄まじい勢いでレ級へと直撃する。
轟音と共に炸裂した砲弾は、その体を貫き、ついにレ級を撃破した。
爆炎の中、レ級の身体はゆっくりと崩れ落ちていく。
長きにわたる激戦の末、ようやく最大の脅威を倒すことができたのだ。
日向たちは、その事実にようやく安堵の息を漏らした。
ーーーー峯岸said
「なんとかなりましたね……。日向たちがいなければ、今頃どうなっていたことか……」
「藤井提督。お分かりだとは思いますが、安堵している暇はありません」
「……分かっています。しかし、これほどの被害が出るとは……」
提督である藤井は、艦娘たちにここまでの被害が及んだことに、強い衝撃を受けているようだった。
やはり、艦娘を陸上で運用する以上、本来の機動力や戦闘能力に大きな制限がかかる。今回の損害は、その影響が大きかったと言えるだろう。
「やはり、艦娘を陸上で運用するのは適していませんね。……ですが、ここからが本作戦の本番です」
「ええ。では、始めましょう」
「各部隊に通達する。これより最終フェーズへ移行する」
そう告げると、峯岸は各部隊への通達を開始した。
ーーーー保安部said
横須賀鎮守府――ベラトリクスの上部甲板では、峯岸の通達により、ついに保安部と陸上自衛隊による突入作戦が開始されようとしていた。
「各員に達する。地上戦闘は先ほど終結した。これより作戦は最終フェーズへ移行する。本作戦の目標は、響の救出、そして神州丸の確保だ。道中で敵と接触し、抵抗があった場合は射殺を許可する」
「……神州丸が抵抗した場合も、ですか?」
「ああ。例外はない」
その場の空気が一瞬張り詰める。
「そして今回は、陸上自衛隊普通科連隊との共同作戦となる。我々はコスモシーガルを用いて艦娘と共に地上から突入。普通科連隊は屋上から制圧を行う予定だ。……何か質問はあるか?」
誰も口を開かなかった。
「無いようだな。では各員、搭乗しろ」
保安部隊員と艦娘たちは、次々とコスモシーガルへ乗り込んでいく。
やがて機体はベラトリクスの甲板を離れ、第105警備基地へ向けて飛び立った。
――飛行開始から数分後。
前方に、第105警備基地の姿が見えてくる。
基地内の至る所から黒煙と炎が立ち上っていた。地上には深海棲艦の残骸や、撃破された陸上自衛隊車両が散乱している。
「……酷い有様だな」
そう呟いたのは長門だった。
「それにしても、これは重いな……」
長門は装備を見下ろす。
今回、長門たちが装備している艦装は、通常のものとは大きく異なっていた。
対人戦闘に特化した特殊装備――それが今回の装備だった。
これは藤井提督が明石に依頼し、開発させたものだ。
現在の日本は、軍内部の情勢が極めて不安定な状態にある。
もし万が一、艦娘が人間との戦闘を余儀なくされた場合、通常装備では威力が過剰になりかねない。そこで、人間相手の制圧戦闘に適した兵装が必要だと判断されたのだ。
そうして開発されたのが、重厚な防弾盾や、艦娘用兵装をベースに改良された専用火器などの装備だった。
「でも、これ……私たちの艦装とほとんど同じ感覚で使えますね。すごく扱いやすいです……」
吹雪たちに支給された兵装は、長門の装備する重盾とは異なり、銃器に近い外見をした火器だった。
艦娘用に調整されているため非常に扱いやすく、まるで最初から自分の装備だったかのように手に馴染む。
「そうか……。それにしても、暁たちがここへ来られなかったのは残念だな……」
「そうですね……。だからこそ、私たちが何としてでも響ちゃんを助け出しましょう!」
この場に集められているのは、藤井提督が選抜した艦娘たちの精鋭、そして峯岸が選び抜いた保安部隊員十二名だった。
たとえ暁たちが響を助けたいと願っていたとしても、戦闘で負傷している以上、前線では足手まといになりかねない。
そんな会話をしていると、パイロットから着陸直前の合図が入る。
「皆さん! 間もなく着陸します! 準備してください!」
コスモシーガルは徐々に高度を下げ、第105警備基地へと接近していく。
そしてついに、機体は着陸した。
ハッチが開放されると、中にいた隊員たちは素早く飛び出し、基地正門前へ展開する。
その上空では、陸上自衛隊のUH-1が基地屋上付近でホバリングを行っていた。
機体からロープが垂らされ、そこから普通科連隊の隊員たちが次々と降下していく。
「よし……」
保安部隊員の一人が閃光弾を取り出す。
隊員は慎重に扉を開き、隙間から閃光弾を内部へ投げ込んだ。
次の瞬間――。
激しい炸裂音と閃光が建物内部を包み込む。
それと同時に、突入部隊は一斉に内部への突入を開始した。
「クリア!」
建物内部へ突入すると、窓には厚いカーテンが掛けられており、昼間にもかかわらず室内は薄暗かった。
「二手に分かれる。半数は右通路へ。残りは俺に続け。戦闘は長門と金剛に任せる」
「Hey! この金剛に任せてくださいネー!」
隊長の指揮の下、部隊は二手に分かれ、各部屋を制圧しながら前進していく。
しばらく進むと、長門率いる部隊は「会議室」と書かれたプレートの掛かった部屋へ辿り着いた。
扉の前で耳を澄ませると、中から物音が聞こえてくる。
どうやら誰かがいるようだ。
「よし、私が先頭に立つ。閃光弾を」
「はい!」
後方の隊員が静かに扉をわずかに開き、室内へ閃光弾を投げ込む。
次の瞬間、激しい炸裂音と閃光が室内を包み込んだ。
「突入!」
爆発と同時に、長門が先頭で部屋へ飛び込む。
「動くな!」
しかし室内には数名の憲兵が立てこもっており、制止を無視して長門たちへ一斉射撃を開始した。
だが、放たれた弾丸は長門の構える防弾盾に次々と弾かれ、ほとんど効果を与えられない。
「撃てッ!」
その号令と共に、後方の保安部隊員や吹雪たちが一斉射撃を開始する。
憲兵たちは一人、また一人と倒れていき、最後には長門たちへほとんど損害を与えられないまま制圧された。
特に保安部隊の動きは洗練されていた。
まるで特殊部隊のような無駄のない連携と制圧速度に、長門たちも思わず圧倒される。
「クリア!」
「了解。……それにしても、地球連邦防衛軍の保安部は相当な練度だな。さすがと言うべきか」
「いえ。日頃の訓練の成果ですよ」
その時、無線が入る。
〈こちらアルファ1。右通路の制圧を完了した。そちらは?〉
「こちらアルファ2。こちらも制圧完了しました」
〈了解。続いて二階を制圧する〉
「了解」
さらに別の隊員が報告を入れる。
「隊長、陸上自衛隊部隊も三階の制圧を完了したようです。ですが、神州丸たちの姿は確認できなかったとのことです」
「分かった。……となると、残るは二階か」
そうして二手に分かれていた部隊は再び合流し、二階制圧のため階段を上がっていった。
階段を上がると、長い廊下が続いていた。
長門たちは周囲を警戒しながら、ゆっくりと前進していく。
一部屋ずつ慎重に確認していくが、どの部屋にも人影はない。
一階と三階でかなりの人数を制圧した。残った者たちは、どこかに集まっているのかもしれない。
そうして探索を進め、ついに残る部屋は中央の執務室だけとなった。
その時――。
廊下の奥から足音が聞こえてくる。
「止まれ……」
隊長の指示で全員がその場に静止し、一斉に銃口を足音の方向へ向けた。
緊張が走る。
やがて姿を現したのは、屋上から突入してきた陸上自衛隊の隊員たちだった。
「撃つな、味方だ」
その言葉に、隊員たちはゆっくりと銃口を下ろす。
そして全員が、最後の部屋――執務室の前へ集結した。
「金剛、長門。任せたぞ」
「任せろ」
「任せてくださいネ!」
二人は防弾盾を構え、両開きの扉の前で突入態勢を取る。
「行きます。……3、2、1――」
陸上自衛隊の隊員が閃光弾を室内へ投げ込む。
炸裂音と閃光が響いた瞬間、長門たちは一気に室内へ突入した。
すると、ソファーの陰に隠れていた憲兵二名が発砲してくる。
だが、その抵抗も一瞬だった。
陸上自衛隊と保安部隊員による正確な射撃によって、二人は即座に制圧される。
そして――。
部屋の奥に、ついに神州丸と響の姿があった。
「神州丸ッ!」
吹雪は怒りのあまり銃を神州丸へ向ける。
だが、その瞬間。
「吹雪! 待てッ!」
長門が鋭く制止した。
神州丸は、椅子に縛り付けた響の背後に立ち、その頭へ銃を突きつけていたのだ。
もしこちらが軽率に動けば、響に危害が及ぶ可能性がある。
それだけは、絶対に避けなければならなかった。
それ以上近づいたら、響を殺す!」
神州丸の目は本気だった。これ以上近づけば、本当に響に危害を加えるつもりなのだろう。それを見た長門は、静かに説得を始める。
「神州丸、一度落ち着け。ここで響を傷つけたところで、何が変わるんだ。まだ間に合う。響を解放しろ。」
「まだ間に合う? そんな言葉、誰が信じるっていうんですか。今まで私がしてきたことを見ても、まだそんなことが言えるんですか?」
「確かに、お前がしてきたことは許されるものじゃない。だが、今の日本の状況を考えてみろ。軍内部は混乱し、陸軍と海軍も対立している。その中で、お前もまた上層部に振り回されてきた一人なんだ。」
「振り回されていた? 違う! これは私自身が選んだことだ!」
「お前は追い詰められているだけだ! 一度冷静になれ!」
「分かったような口を聞くな!」
神州丸は極限まで追い込まれ、冷静な判断を失っていた。長門の言葉を否定しながらも、握る銃は小さく震えている。
しばらく沈黙した後、神州丸がかすれた声で呟いた。
「私は……ただ、誰かに認めてほしかっただけなんです……」
その言葉に、長門は静かに頷く。
「私も同じだった。建造されたばかりの頃は、誰かに認められたくて、どんな姿になっても戦い続けた。だが、戦いだけでは何も得られないと気づいたんだ。お前も、本当は分かっているはずだ。」
「…………」
神州丸は何も答えなかった。しかし、その表情には迷いが浮かんでいた。
長門はさらに言葉を続ける。
「だから、もう終わりにしろ。響を解放してくれ。」
その言葉に、神州丸はゆっくりと銃口を下ろした。
場の空気がわずかに緩む。
――だが、その瞬間だった。
神州丸の視線が長門に向いている隙に、周囲で待機していた部隊が慎重に距離を詰めていたことに、彼女が気づいてしまったのだ。
「……動くな!」
神州丸は反射的に銃を構え直す。吹雪たちも緊張した表情で身構えた。
「違う、落ち着け! 話を――」
「もう誰も信じない!」
混乱した神州丸の声が響く。
その直後、背後の窓ガラスが激しく割れ、神州丸はその場に崩れ落ちた。
それと同時に無線が入る。
〈こちら狙撃班。対象の狙撃に成功。〉
そう、万が一の為に、陸上自衛隊が用意していたのだ。
弾丸は特殊弾を使い、艦娘であろうと貫通が可能。それは神州丸の首を貫いていた。
長門はすぐに駆け寄る。
「神州丸! しっかりしろ!誰か止血を!」
神州丸は薄く目を開き、長門の腕を弱々しく掴む。
辺りは血に染まりもう助からない無いのだろう。
「……もう、いいんです……きっと天罰が降ったんです…」
「諦めるな! まだ――」
「こんな私を…最後まで……ありがとう……」
その言葉を最後に、神州丸は静かに目を閉じた。
「……なんで、あんな奴を……」
吹雪は納得できない様子だった。仲間を危険にさらされたにもかかわらず、なぜ長門が神州丸を助けようとしていたのか理解できなかったのだ。
しかし長門は、何も言い返さなかった。
その頃、保安部の隊員が峯岸へ報告を行っていた。
「対象の確保に成功しました。本人は無事です。しかし神州丸については死亡しました。」
〈分かった。周囲を警戒しつつ帰還せよ。〉
「了解。」
通信が切れる。
その直後、吹雪は響の元へ駆け寄った。
「響ちゃん!」
「吹雪……」
「みんな、すごく心配してたんだから!」
救出できたことが本当に嬉しかったのだろう。吹雪は勢いよく響に抱きつく。
突然のことに一瞬驚いた響だったが、すぐに優しく抱き返した。
その後ろでは、陸上自衛隊の隊員が長門に声を掛けていた。
「これから現場の処理に移りますが、深海棲艦や艦娘に関する残骸については、どのように対応しましょうか?」
「それはこちらで回収する。後で明石が回収するだろう。」
「了解しました。では、我々は引き続き周辺警戒に当たります。」
隊員たちは敬礼すると、部屋を後にした。
それを見届けた長門が、小さく息を吐く。
「……では、私たちも戻るとしよう。」
「そうだね。」
こうして長門たちは、救出した響を連れてコスモシーガルへと戻っていった。
全員が乗り込むと、コスモシーガルは横須賀鎮守府へ向けて飛行を開始した。
こうして、数十時間に及ぶ激戦はようやく終結を迎え、長門達はついに響の救出に成功した。
しかし機内には、作戦成功の安堵だけではない、戦闘の緊張や疲労、そして失われたものへの複雑な思いが重く漂っていた。
その為か、誰一人として口を開かず、機内は静まり返っていた。
今回も読んで頂き有難う御座います!いやーそれにしても前回に引き続き長い作品となってしまいました。次回からは地球連邦防衛軍メインで書いて行くつもりですのでご期待を。ではまたお会いしましょう!
次回の小説は?
-
地球連邦防衛軍による戦闘!
-
戦闘はまた今度!日常会!