波動砲艦隊はこれより艦隊の指揮に入る 作:前衛武装航宙艦アマテラス
「艦長、本輸送船団はラバウル泊地に13時00分到着予定です。」
「分かった。引き続き警戒を厳とせよ。」
オーストラリア沖の洋上。ここでは、日本へと運ばれる物資を満載した輸送船が日々行き交っていた。以前までは、異形艦や深海棲艦によってシーレーンが破壊され、物資の輸送も困難を極めていた。しかし、峯岸たちの活躍によって周辺海域の安全が確保され、現在では輸送船団の運航も徐々に回復しつつある。今回、日本へ向かっている第27輸送船団も、その一つだった。
「しかし、もう少し上もこちらに戦力を回してくれてもいいと思うんだがな。いくら護衛艦がいるとはいえ、こっちは旧式のはつゆき型が2隻だけだぞ?」
「まあまあ、上も色々と大変なんですよ。それに今回は、艦娘だけじゃなくオーストラリア空軍の護衛まで付いているじゃないですか。それにラバウルからは日本まで付近で作戦行動中のフリーゲート、アランタまで来てくれるそうじゃないですか。」
「まあ、それもそうだな。オーストラリアの連中も、例の一件に躍起になっているんだろ。」
「そうですね。」
オーストラリアから日本へ向かう輸送船団の航路は、大きく二つに分かれていた。一つはフィリピンを経由する航路。そしてもう一つが、ラバウル泊地を経由して日本へ直行する航路である。輸送船団の護衛には、オーストラリア海軍をはじめ、ラバウル泊地に駐留する日本海軍と海上自衛隊が当たっていた。
今回の第27輸送船団は、はつゆき型護衛艦2隻、ラバウル泊地、そしてオーストラリア側の艦娘が2人ずつの計6隻の護衛艦艇によって編成されている。それに加えて、上空にはオーストラリア空軍のF/A-18Fが護衛機として2機、展開していた。
なぜ空軍まで護衛に参加しているのか。それには理由があった。ここ最近、輸送船団の行方不明事件が相次いでいたのだ。それも、異形艦や深海棲艦による襲撃とは考えにくいものだった。
行方不明となった船団の周辺には、敵艦艇の姿が一切確認されていない。しかし、唯一共通していたものがあった。
それは――嵐だった。
行方不明となった輸送船団には、毎回のように嵐が接近していた。船団が嵐に巻き込まれた直後、通信が途絶。その後、船団は消息を絶つ。それが何度も繰り返されていた。
普通なら船団は嵐を回避する筈。しかし何故か嵐に巻き込まれる。この事からも嵐と輸送船団の失踪に、何らかの関係があることは明らかだった。だが、それが自然現象によるものなのか、それとも何者かが意図的に引き起こしているものなのか――現時点では何も分かっていない。
そのためオーストラリア軍は、この不可解な事件の原因究明に総力を挙げていた。
〈ん〜、やっぱり日本と違って南方の海は気持ちいいね〜〉
〈そう?大して日本と変わらないと思うけれど……〉
〈え〜、野分は分かってないな〜。そう思うだろ?しもゆきのおっちゃん?〉
〈谷風、任務中だぞ。私語は慎め。それに、護衛艦の艦長である俺を「おっちゃん」呼ばわりするな。〉
〈ちぇっ、それぐらい答えてくれたっていいだろ? こんなに広い海の上じゃ、暇なんだからさ。〉
〈分からんでもないが、輸送船団の護衛も重要な任務だ。まあ、俺は日本の方がいいな。こっちは蒸し暑くてたまったもんじゃない。〉
〈なんだよ。しもゆきのおっちゃんも分かってないな〜。〉
〈そうですよ。谷風さんの言う通り、こちらの海の方が穏やかで気持ちいいですよ?〉
〈まあ、パースさんが言うなら、こっちの方が気持ちいいのかも?〉
〈なんだ、野分までそっち側か? 大して海はどこも変わらんだろ? おい、ホバート。お前はどっち側だ?〉
〈そうですね……私としては、やはり先輩のパースさんと同じでしょうか?〉
〈流石ホバートちゃん!〉
そんな艦娘たちのやり取りを聞きながら、きりゆきの艦長は、規律のためにも注意するべきか、それとも微笑ましい光景として見守るべきか悩んでいた。
「無線を勝手に使いやがって……。それに、しもゆきの艦長も何乗っかってるんだよ。」
「まあまあ、楽しそうだからいいじゃないですか。」
「それもそうだが、万が一ということもあるだろ? それに、規律がな……。」
「少しくらい大目に見てあげましょうよ。確かに規律も大切かもしれませんが、輸送船団の護衛と言えば、これぐらいしか娯楽がないんですから。」
「まあ……そうだな。今回は注意だけにしておくか。」
そう言って艦長は通信機を手に取る。
〈旗艦きりゆきより各艦。無線の私語も程々にしておけよ。〉
〈ちぇ、はーい。〉
〈すいません。〉
〈……申し訳ありません。〉
〈分かりました。〉
〈了解です。〉
返ってくる返事を聞きながら、きりゆきの艦長は小さくため息を吐いた。
「それにしても、本当に嵐なんて来るのかね? こんな晴天の大海原じゃ、雲一つないが……。」
「さあ? やはり、何者かが人工的に発生させているのでしょうか?」
「かもな……。もし本当に嵐が来て、この船団が巻き込まれたら……これで、はつゆき型は残すは3隻か。」
「そんな不吉なこと言わないでくださいよ。」
深海棲艦、そして異形艦との戦争が始まって以来、すでに旧式となっていたはつゆき型は、護衛艦の中でも特に高い損耗率を記録していた。戦争初期には15隻が存在していたはつゆき型だったが、すでに10隻が撃沈され、残るはしもゆき、きりゆきを含む5隻のみとなっていた。
はつゆき型は旧式艦であることから、比較的新しい艦艇を温存する方針のもと、危険度の高い任務にも数多く投入されてきた。それが、損耗率の高さにつながっていたのである。
しかし、残存する5隻もすべてが稼働できるわけではなかった。他の艦艇の修理や戦力回復が優先された結果、5隻のうち2隻は修理待ちとなっており、現在実際に稼働できるのは、しもゆき、きりゆきを含む3隻だけだった。
そして、この第27輸送船団の護衛に就いているのも、その貴重な3隻のうち2隻だった。
「それに対してなんだ? 発展型のあさぎり型は、残る4隻全艦が大規模改修でアスロックをVLSに換装する工事を受けたそうじゃないか。それなら、はつゆき型にもそれくらいしてくれたっていいじゃないか。」
「今の日本は、いくらシーレーンが回復したとはいえ、物資には限りがありますから。そうした事情を考えると、なかなか難しいのでしょう。」
「そうだがな……。まあ、旧式で言えば特にあぶくま型は大変だな。」
「そうですよ。今では大湊の2隻だけですからね。」
「そうだな。今では無くなったが昔のあぶくま型も悲惨だったな。あれに巻き込まれるのは、正直ごめんだな……。」
「あれは悲惨でしたからね。あぶくま型も以前は輸送船団の護衛に駆り出されていましたが、あの一件以来、全艦が再度、地方配備に変更されましたから。」
「輸送船団の護衛中、護衛についていたアメリカの艦娘に至近距離から砲撃されて艦橋に直撃。なんとか他の艦娘に助けられて曳航され、帰港したが……。」
「帰港した時の姿は衝撃的でしたよね。艦橋が丸ごと吹き飛ばされていましたから……。」
「あの一件」とは、以前スキャンプがコロラド率いるハワイ守備隊に対して怒りを露わにしていた原因にも繋がっていた。
異形艦が現れるより以前、日本とアメリカの間では「第3回日米連合艦隊合同演習」と呼ばれる大規模な演習が行われていた。各国の練度向上を目的としてハワイ近海で実施されたこの演習には、艦娘だけでなく日本から海上自衛隊も参加していた。
当然、演習であるため砲弾などには演習弾が使用される予定だった。しかし、参加艦艇の複数隻が何らかの理由で実弾を発射。これをきっかけに事態は急速に悪化し、最終的には十数隻が轟沈する史上最悪の事件へと発展した。
両国は総力を挙げて原因の究明に努めたものの、当初は明確な原因を突き止めることができなかった。
それからしばらくして、艦娘の一部が誤って実弾を発射していたことが判明した。しかし、時すでに遅く、轟沈した艦の大半はアメリカ側の艦艇だった。その中には、当時スキャンプと同じ部隊に所属し、親しい間柄だった駆逐艦サミュエルなどの艦娘も含まれていた。
さらに、その後流れた噂によって事態はより複雑になった。
なぜか当時の演習に参加していなかったあぶくま型が実弾を発射したという噂が一人歩きし、恨みを持っていた一部のアメリカ艦娘たちはそれを信じてしまった。そして、事件への復讐として輸送船団などに紛れ込み、あぶくま型を攻撃するという事件が相次いだ。
その結果、あぶくま型は護衛艦の中でも特に悲惨な結末を辿ることになった。
これが誰かによって仕組まれたものだったのか、それとも本当にただの事故だったのか――今なお、その真相は分かっていない。
「まあ……あぶくま型の奴らにも、それを襲撃したアメリカ艦の奴らにも、ある意味では同情するよ。」
「いきなり親しかった仲間を失ったんですからね。それも何も心配が要らない演習で。」
「ああ。それと、あの時はアメリカとの関係もかなり不安定だったが、今となってはそれも無くなって良かったよ。今じゃ、アメリカの艦娘に助けられてばかりだからな。」
「そうですね。あの時のことは、ほとんどの艦娘がもう気にしていないようですから。一部を除いて、ですが。」
「そう言えばラバウルからはアトランタ達が入れ替わりで護衛に来るのか。なんだかなぁ.....」
「分かりました。アトランタさんに艦長が何か文句ある様ですって言っときますね。」
「じょっ、冗談だよ。」
そんな会話を交わしている間にも、輸送船団から遠く離れた海域では、黒く染まった雲がゆっくりと広がり始めていた。
〈こちらクオッカ1。上空援護終了。これより帰投する。〉
〈こちらきりゆき、了解。援護感謝する。〉
上空では、援護についていたF/A-18Fが基地へと戻っていった。
「なんだよ。ラバウルまで護衛してくれたっていいのにな。」
「しょうがないじゃない。別任務に投入中だったのを無理をして近かったこの2機を援護に向かわせてくれたんだから。それにラバウルならもう直ぐよ?」
「もうそんなところまで来てたのか?」
野分が言うように、船団はラバウルまで僅かな距離のところまで来ていた。
「なぁ、野分……あれって……」
「ん?どうしたの、谷風?」
すると先程まで元気だった谷風が急に顔色を変え、輸送船団の遥か彼方を指差す。その方向を見ると、先程まで晴天で雲一つなかった海の一部が、徐々に黒くなり始めていた。
〈野分よりきりゆき。船団前方に雲を確認。嵐と思われます。〉
〈こちらきりゆき。こちらでも確認した。各艦、警戒を厳とせよ。〉
「まっ、まさか……あの嵐じゃないよな?」
「分からないよ。でも……もしかしたら、本当に……」
谷風たちがそう話している間にも、天候はみるみるうちに悪化していった。先ほどまで晴天だった空は急速に雲で覆われ、その黒い雲はまるで船団を狙うかのように、どんどんと距離を縮めてくる。
「今まであんなに晴れていたのに……」
「艦長、天候はさらに悪化しています。このままの進路では、嵐に巻き込まれる可能性が高いかと。」
「ああ。各艦に進路変更を伝えてくれ。航海長、面舵40度!」
「了解!面舵40度!」
船団は嵐を避けるため、急速に進路を変更していく。しかし、いくら進路を変えても嵐はまるで意思を持っているかのように船団との距離を縮めてきた。
「艦長、このままでは嵐に確実に巻き込まれます!」
「……航海長、最大速力なら振り切れるか?」
「厳しいかと思います。ですが、可能な限り速力を上げます!」
「分かった。通信士、オーストラリア軍とラバウル泊地に例の嵐に接触した可能性があると伝えてくれ!そして付近を航行中のフリーゲート、アランタにも応援要請をしろ!」
「了解しました!」
「空軍のF-18は呼び戻さないんですか?」
「援護に来たところで嵐に突っ込むのは自殺行為だ。確かに火力支援になるかも知れないが嵐ではそれ自体が上手く出来る可能性が低い。機体が不安定になり最悪の場合、墜落する可能性がある。」
「分かりました。」
船団は速力を上げ、なんとか嵐から逃れようとする。だが、嵐はそれを嘲笑うかのように凄まじい勢いで迫ってきた。そして、ついに船団の目前まで迫ったその時だった。
[こちらCIC!レーダー探知!本艦9時方向!数1、距離およそ1万!]
「なんだと⁉︎何故今まで気づかなかった!」
[分かりません!レーダーに突然映り出しました!]
「それに9時方向は……嵐の方角じゃないか!」
艦長が窓の外へ視線を向ける。
「まさか……本当に、この嵐は……!全艦、対水上戦闘用意!」
艦長の号令と同時に、艦内に戦闘アラームが鳴り響く。艦内の乗員たちは一斉に持ち場へと駆け出し、艦長自身もCICへと向かった。
そして、きりゆきから戦闘配置の下令を受けた谷風たちも、すぐさま戦闘態勢へと移行する。
「くそっ……! 本当にこの嵐が、例の奴なのかよ!」
〈きりゆきより野分。船団を二分する。谷風、ホバートは輸送船と共に現在海域から離脱。残る艦は輸送船団の退避を援護する。〉
「いや!この谷風も戦うぜ!」
「谷風、今は命令を聞いて。輸送船と一緒に離脱して。」
「で、でもよ!そうしたら野分たちは……!」
「私は大丈夫だから。それに、谷風がいなくなったら誰が輸送船を守るの?」
「…………。」
「ここは大人しく命令を聞いて。輸送船と一緒に離脱して。」
「……分かったよ。野分……頼んだよ。」
「うん。任せて。」
そうして谷風はホバートと共に、輸送船団を護衛しながら海域から離脱していく。
「…………。」
「野分ちゃん、大丈夫?」
「えっ? あっ、はい。大丈夫です……。そう言うパースさんこそ、大丈夫なんですか?」
そう答えながらも、野分の主砲を握る手はわずかに震えていた。いくら多くの戦いを経験してきた野分でも、心の奥底には恐怖がある。それはパースも同じだった。
「私は大丈夫よ!……って言うのは、ちょっと無理があるかな。」
パースは苦笑する。
「でも、まだまだやり残したことがたくさんあるからね。絶対に生きて帰るつもりよ。」
「……ふふっ。流石、パースさんですね。」
「きっと大丈夫よ。きりゆきの方々も付いてる。それに……」
パースは迫り来る嵐を見据える。
「オーストラリアの艦として、負けるわけにはいかないわ!」
「そうですね。この野分も、みんなのために全力でいきます!」
一方、その頃きりゆきでは戦闘準備が着々と進められていた。
「不明艦の正体は分かったか?」
「いえ。データベース上には存在しない艦です。異形艦でも深海棲艦でもありません。ただ……艦娘との類似点が確認されています。」
「艦娘と?まさか……例のαじゃないだろうな?」
「その可能性は低いかと。」
「分かった。砲雷長、対水上・対空警戒を厳とせよ。」
「はっ!」
「艦長、警告はしないのですか?」
「したところで、奴が例の存在である可能性は高い。それに、警告している間に攻撃される可能性もある。たたし、こちらからは手を出すな。ただし、攻撃を受けた場合は即座に反撃する。」
「了解しました。」
「全火器システムオールクリア。CIWS AUTO スタンバイ。」
そうしている間にも、艦隊はきりゆきを先頭に単縦陣を形成していく。やがてきりゆきたちは、嵐と輸送船団の間に立ちはだかるように陣形を整えた。
「⁉︎レーダー探知!不明目標、飛翔体を発射!速度約マッハ0.8、対艦ミサイルと思われる!」
「仕掛けてきたか!数は?」
「数7!本艦隊への到達まで約35秒!目標は本艦としもゆき、本艦に4発、しもゆきに3発です!」
「ECM始め!」
艦長は、ジャマーにより敵ミサイルの誘導を撹乱しようとする。だが敵ミサイルはそれを無視して直進してくる。
「ECM効果無し、目標以前として本艦へと向かって来ます!」
「対空戦闘!トラックナンバーA0001からA004!短SAM迎撃始めっ!」
「トラックナンバーA0001からA0004。発射弾数4!短SAM発射用意……撃てッ!」
砲雷長の号令と共に、きりゆき後部に備えられた短SAMから、迎撃ミサイルが勢いよく飛翔していく。しもゆきも同様に迎撃を開始したようだ。
「ミサイル正常に飛翔中。マークインターセプトまで15秒。」
レーダーには、こちらへ真っ直ぐ飛来する対艦ミサイルが映し出されている。これを一発でも受ければ、ひとたまりもないだろう。
「インターセプトまで5秒前、スタンバイ……マークインターセプト、ターゲットキル。」
「よしっ!」
「喜ぶのはまだだ。しもゆきは?」
「同様に撃墜した様です。」
「奴は何をして来るか分からん。こちらから仕掛けて短期戦に持ち込む!対水上戦闘、ハープーン……」
「新たな目標探知!対艦ミサイルと思われる!数6!目標はパースと野分の模様!到達まで約31秒!」
「クソッ!次から次へと!トラックナンバーA0005からA0007!短SAM迎撃始め!」
「トラックナンバーA0005からA0007!短SAM迎撃用意……撃てッ!」
号令と共に、きりゆきとしもゆきは再び迎撃ミサイルを発射する。この迎撃によって、きりゆきの短SAMは残り1発、しもゆきは残り2発となった。このままでは近接防空兵器に頼らざるを得なくなり、防空能力は大幅に低下してしまう。もし、きりゆきとしもゆきが撃沈されれば、野分とパースの帰還は絶望的となるだろう。
「マークインターセプトまで11秒。」
今回も撃墜できると思っていた矢先、予想外の事態が発生する。
「インターセプトまで5秒前、スタンバイ……?! ターゲットサバイブ!……いえ、ターゲット、ロストコンタクト!」
「何⁉︎」
「魚雷音聴知!数6!目標は野分とパースの模様!」
「やられた!対潜戦闘!アスロック1番から3番!攻撃始めっ!」
「対潜戦闘!アスロック攻撃始めっ!撃てッ!」
先程まで飛翔していたはずのミサイルは、艦隊の手前で次々と着水する。そして魚雷へと変わり、迎撃されることなく野分とパースへ向かっていく。それに呼応して、きりゆきも対潜戦闘を開始する。前部に備えられたアスロックが次々と発射され、迫り来る魚雷へと向かっていく。
「命中まで5秒!……全弾目標に命中!」
「良くやった!なんとかギリギリのところでやれたな……」
魚雷はパース達の目前で撃破された。だが、これが第二波、第三波と続けば、いつまでも防ぎきれるとは限らない。
「このままでは駄目だ。反撃に出る!対水上戦闘!ハープーン、発射弾数4!攻撃始めっ!」
「対水上戦闘!ハープーン、発射弾数4!攻撃始めっ!撃てッ!」
砲雷長の号令と共に、きりゆき中央部の発射管からハープーンが発射される。それに呼応するように、しもゆきもハープーンを4発発射する。計8発のミサイルが敵艦へ向かって飛翔していく。
「敵を撹乱する。パース達に攻撃を始めさせろ!」
「はっ!」
これを受け、パース達も遂に攻撃を開始する。
「やっと出番ね!主砲全砲門一斉射!よーく狙って……撃てッ!」
「やってやります。てっー!」
野分とパースから放たれた砲弾が、敵艦へ向かって着実に飛翔していった。
「ミサイル正常に飛翔中、目標到達まで約30秒!」
[艦橋よりCIC、パース及び野分の砲弾着弾! 目標に爆炎を確認!]
「初弾でか?なかなかやるな。目標はどうだ?」
「目標は依然として健在。速度も変わらず、こちらとの距離を一定に保っています。」
「流石に数発では落ちてくれんか……」
「ハープーン到達まで10秒前!……5、4、3、2、1、目標に全弾命中!」
「全弾か?確かか?」
「はい。全弾命中です。」
この時、きりゆきの艦長は違和感を感じていた。
パース達が放った砲弾は初弾から命中した。相当な練度なのだろうと考えていた。しかし、その後に放たれた8発の対艦ミサイルも、全弾が命中した。それも、1発も迎撃されることなく。
普通なら、対艦ミサイルを1発受けただけでも致命傷になるはずだ。それも、相手が艦娘と酷似した存在ならなおさらである。
だが、この敵艦は迎撃すらしなかった。
そう考えると、敵はパース達の砲撃を避けることができたにもかかわらず、あえて避けなかったのではないか。もしかすると、対艦ミサイルすら耐えられると判断し、あえて迎撃しなかった可能性もある。
そして、その予感は的中することになる。
「もっ、目標健在!速度も落ちていません!」
「なんだと⁉︎それじゃ、まるで何も効いていない様じゃないか!再度、ハープーンによる攻撃を仕掛ける!ハープーン発射弾数4発!攻撃始めッ!」
これで最後の4発を撃ち切ることになる。これを撃ち切れば、残る武装は速射砲のみ。これで敵艦を撃沈できなければ、今度はこちらがやられてしまう。
(なんとか……なってくれ……)
誰もがそう願っていた、その時だった。
この艦隊にとって、悪夢のような事態が襲いかかる。
[艦橋よりCIC、敵艦に多数の発光を確認……]
艦橋からCICへ報告が入った、次の瞬間だった。きりゆきの船体が激しく揺れ、その衝撃でCICにいた乗組員が椅子から投げ出される。
「なんだ⁉︎ 敵からの攻撃か?探知は出来なかったのか!」
「いえ、レーダーには何も映っていません!」
「しもゆき、速度低下している模様です。」
「何⁉︎被害状況を報告しろ!」
[艦橋よりCIC……]
その時、再び艦橋から報告が入る。だが、先程とは明らかに様子が違っていた。声には、何が起きたのか信じられないという動揺が混じっている。
[しもゆきが……しもゆきが燃えています……]
「被害は?」
[撃沈です……船体中央から二つに折れて沈んでいます……]
その言葉に、きりゆきの艦長は言葉を失った。
しもゆきが、撃沈された?
まさか……冗談だろう。
そう思いながらも、船体に取り付けられたカメラから送られてきた映像には、大破炎上し、船体中央から二つに折れて沈み始めているしもゆきの姿が映し出されていた。
敵からの攻撃はレーダーで探知できなかった。
これが、いままで数々の輸送船団を葬ってきた、嵐の正体なのか……。
その惨状を目の当たりにした乗組員たちは、誰一人として言葉を発することができなかった。
「……艦橋、敵の攻撃は確認できたか?」
[よく分かりませんでしたが、青い光線の様な物でしもゆきを貫いていました。]
「一体なんなんだ……もう、この船じゃ駄目だ……」
「落ち着け!まだ諦めるな!スモーク及びチャフ展開!続けて、回避行動!」
艦長の号令と共にきりゆきの周りにはスモークとチャフが撃ち出される。それと同時に船体は大きく揺れながら回避行動を始めた。
「再度、攻撃を仕掛ける!ハープーン発射弾数4、攻撃始めッ!」
「っ、ハープーン発射弾数4!攻撃始めッ!」
きりゆきが攻撃を仕掛ける一方、しもゆきの後方にいたパース達は、燃え上がるしもゆきを見つめていた。
「しもゆきが……」
「ほらっ……野分ちゃん!早く動かないと的になるだけだよ!」
「でも、今助けないとしもゆきの乗組員達が……」
「そう言ってる場合じゃ無いでしょう!そうしたら貴方が沈むだけよ!ここは戦場よ!早くっ!」
「…………」
パースに促され、野分は進み始める。
しもゆきの横を通り過ぎる際、燃え上がる船体からは、艦外へと逃げる乗組員たちの姿が見えた。その周囲からは、絶え間なく悲鳴が聞こえてくる。
助けたい……。
だが、今は目の前の戦闘に集中しなければ、自分自身まで危険に晒すことになる。
野分はそう自分に言い聞かせながら、前へと進んでいった。
「レーダー探知!対艦ミサイルです!数6!全弾、本艦です!到達まで約30秒!」
「クソッ、仕留めに来たか!トラックナンバーA0008は短SAMで対応。トラックナンバーA0009からA0014は主砲及びCIWSで対応!」
「トラックナンバーA0008、短SAM攻撃始め!」
そうして、きりゆきから最後の対空ミサイルが発射された。これで残りの5発は、主砲とCIWSに頼るしかなくなった。これを落とせなければ、確実にしもゆきの後を追うことになるだろう。
そして迎撃を開始したのと同時に、先に発射していた対艦ミサイルも敵へ向かって飛翔していた。
「ハープーン到達まで10秒前!……5、4、3、2、1、全弾命中!」
「……敵艦速力、僅かに低下。ですが、依然として健在です。」
その報告を聞いた艦長は、思わず机を叩きつける。
これで撃つ手はなくなった。後はパース達の主砲が頼りだ。だが、先程の攻撃を見ても分かるように、敵にはほとんど攻撃が通っていない。万が一、攻撃が通ったとしても、撃沈にまで至るとは思えなかった。
「インターセプトまで5秒前、スタンバイ……マークインターセプト、ターゲットキル。」
「残り5発、依然として直進して来ます!」
「主砲で迎撃!」
「主砲、撃ち方始めッ!」
砲雷長の号令と共に、速射砲がミサイルを叩き落とすため、猛烈な勢いで射撃を開始する。だが、命中率は決して高くない。弾幕をすり抜けたミサイルは、次々ときりゆきへ向かって接近してくる。
「ミサイル2発を撃墜!残り3発の迎撃に失敗!命中まで残り15秒!」
「CIWS迎撃始めッ!」
残り15秒まで迫った時、艦橋後部に備えられたCIWSが、残り3発を撃墜するために唸りながら猛烈な射撃を開始する。CICにも、艦外から連続する爆発音が響いてくる。
「2発撃墜!残り1発が突っ込んで来る!」
「総員、衝撃に備えッ!」
その言葉を言い終えた直後、船体が凄まじい衝撃と共に大きく揺れる。
CICにいた乗組員達は衝撃によって身体を宙へ投げ出され、そのまま床へ叩きつけられた。
「くっ……各部、被害報告!」
「格納庫にミサイルが直撃!火災が発生しています!負傷者多数、現在集計中です!戦闘、航行共に支障ありません!」
「分かった。直ぐに消化班を向かわせろ!」
きりゆきは最後の一発の迎撃に失敗し、格納庫に直撃。火災が発生してしまった。
幸いにも戦闘、航行共に支障はなく、それに安堵する者もいたが、直撃を受けた格納庫は凄惨な状況になっていることは容易に想像できた。
そして今の迎撃で短SAMは全弾撃ち切り、残る防空兵器はCIWSと主砲のみとなった。
その様子を見ていた野分は、怒りに満ちた表情を浮かべる。
「きりゆきが……くっ!好き勝手にやりやがって!」
野分は怒りのあまり、がむしゃらに主砲を放つ。しかし、怒りに身を任せた砲撃が敵に当たるはずもなかった。
「さっきからまるで当たらない……それに、攻撃が効いている様に見えない……」
初弾で砲弾を命中させていたパースも、それ以降はほとんど命中しなくなっていた。
そして、たとえ命中したとしても――到底、攻撃が通っているようには見えなかった。
〈きりゆきより各艦。野分とパースは即座に元海域より離脱。その後、谷風と合流せよ。〉
無線が終わると同時に、先程まで炎上していたきりゆきが煙幕を展開しながら進路を変え、敵艦へと接近していく。そして、主砲の射撃音が響き渡る。野分達を逃がすために、自ら盾になるつもりなのだろう。
「嘘……きりゆきを置いて逃げろって言うんですか?そんなの無理です!私も一緒に!」
「野分ちゃん!今ここで全滅してしまっては意味が無いわ!私達が沈んでしまったら、その後はどうするの!」
パースは、きりゆきの後を追おうとする野分を必死に止める。だが、野分はその手を振り解こうとする。
「きりゆきも守れなかったら一体何が残るんですか!彼らに無駄死にしろって言うんですか!離してください!」
「良い?彼らは私達を逃がそうとしている。決して無駄死にじゃ無いわ!確かに私たちは艦娘で、人を守るのが仕事。野分ちゃんの言うことも十分理解できるわ。でも、その行動は彼らの思いも踏みにじる行為よ!よく考えなさい!」
「…………くっ。こちら野分、了解。これより元海域を……離脱する。」
野分は迷った末、撤退を了承した。悔しさのあまり唇を噛み締めていたのか、口元から血が滲んでいる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何度も謝りながら、野分はパースと共に撤退を開始する。
そして、しばらくして野分の後方から爆発音が響いた。
振り向くと、船体を光線に貫かれ、炎上しながら大きく傾いていくきりゆきの姿が見えた。
その後も、きりゆきは主砲による射撃を続けていた。しかし、やがてその射撃音も聞こえなくなった。
きりゆきが時間を稼いでくれたこともあり、野分達はなんとか撤退することができた。しばらく進んだところで、前方に谷風達の輸送船団が遠くに見えてくる。
「なんとか逃げ切れたみたいね。でも、まだ安心はできないわ。少しでも早くここを離れないと……」
「はい……」
〈こちら谷風。聞こえるか?〉
「ええ、聞こえるわ。」
〈その様子だと……きりゆき達は……〉
「残念だけれど……。」
〈そうか……。でも、パースさん達が無事で良かった。早く合流しようぜ。〉
そう話している間も、野分は暗い表情を浮かべていた。
艦娘としての使命を果たせなかったという思い。そして、長い間ともに輸送船団を守ってきた仲間を失い、助けることができなかったという悔しさ。その両方が、野分の心に重くのしかかっているのだろう。
その様子を見かねたパースは、そっと野分の肩へ手を置いた。
「今回のことは……残念だったわね。でも、野分はよくやったわ。」
「ありがとうございます……。分かっているんです。これが戦争だから、仕方のないことだって。でも……あの人達は、普段から私達艦娘にもよくしてくれて……まるで家族みたいな、掛け替えのない存在だったんです……。」
「そう……。その気持ち、よく分かるわ……。私にも、同じようなことがあったから。」
「……すみません。迷惑を掛けてしまって。」
「迷惑だなんて……そんなことないわ。」
そう話していると、後方から雷鳴が響いてきた。
二人が振り返ると、そこには、先ほどまで見えていなかったはずの黒い雲が広がっていた。
「もう、こんなところまで……!? いくらなんでも早すぎるわよ!」
パース達は速力を上げ、なんとか嵐を振り切ろうとする。
しかし、嵐はまるで逃がすつもりがないかのように、どんどんと距離を縮めてくる。その時、パースは再び、嵐の中から発光するものを目にした。
「危ないっ!」
パースは反射的に野分の身体を押し飛ばす。
その直後、パースの身体を光線が貫き、そのまま海面へと叩きつけられた。
押し飛ばされた野分も海面へ叩きつけられ、その衝撃に耐えながら身体を起こす。すると、すぐ近くに力なく倒れているパースの姿が目に入った。
「パースさん!しっかりしてください!」
野分が近づいて声を掛けるが、パースからの反応はない。
その間にも、光線に貫かれた腹部から血が流れ出し、周囲の海面を赤く染めていく。
「そんな......」
野分はパースを担ぎ上げ、なんとか嵐から逃げようとする。
しかし、パースを担いだことで速力は大きく低下してしまう。その間にも、嵐は容赦なく距離を縮めていた。
「.....なに......してるの......。早く.......逃げて......」
「嫌です! 私はもう、誰も失いたくないんです!」
「私は.....もう駄目......だから.....言うことを....聞いて......」
パースは自分を担いで逃げようとする野分に、自分を置いて逃げるよう促す。
しかし、野分は頑なに拒み、必死にパースを担いだまま逃げようとする。
その間にも、パースの身体から徐々に力が抜けていく。それを野分も感じ取っていた。
「パースさん!死なないでください!」
その光景を見ていた谷風は、すぐに野分のもとへ向かおうとする。
しかし、その直前――。
まるでそれを嘲笑うかのように、嵐の奥から再び青い光が見えた。
「嘘だろ……野分! 避けろっ!」
「えっ?」
谷風の叫び声と同時に、青い光線が野分の身体を貫いた。
野分はゆっくりと腹部へ手を当てる。すると、手は赤く染まっていた。それと同時に、遅れて激しい痛みが襲ってくる。
このままでは、パースを助けられない。
怖い。痛い。ここで死んでしまう。
そんな感情を必死に押し殺しながら、野分は力の入らない身体を懸命に動かし、前へ進もうとする。
しかし、その努力も虚しく、野分はパースを背負ったまま海面へと倒れ込んだ。
「野分!」
谷風はすぐに野分の元へ駆け寄ろうとする。しかし、ホバートが谷風の腕を掴んで止める。
「谷風さん! 行ったら貴方まで死んでしまいます!」
「そうしなきゃ野分は死んじまうんだぞ! お前はそれを見捨てろって言うのか! 今、目の前で助けられる命を!」
「谷風さん! 前を見てください!」
「っ……」
ホバートに言われ、谷風は野分達の後方へ視線を向ける。
その瞬間、恐怖で身体が固まった。
嵐の中には、憎しみや憎悪そのものが渦巻いているように見えた。それが今にも巨大な波となって、こちらへ押し寄せてくるような錯覚すら覚える。
今、野分達を助けに行けば、自分の命と引き換えに救えるかもしれない。
だが、ここで行けばホバートを残したまま全滅する可能性もある。
そうなれば、輸送船団まで壊滅してしまう。
野分は谷風と同じ陽炎型。それも、大切な妹だ。
見捨てれば、後悔するのは分かっている。
だが、今ここで逃げなければ、船団全体が危険に晒される。
長い葛藤の末、谷風は震える手でホバートの手を取った。
「あああああああああ!」
悲痛な叫びを上げながら、谷風はホバートを連れて振り返らずに船団へ戻っていった。
ホバートが横を見ると、谷風の目からは涙が溢れていた。
それを見たホバートは、自分の言葉は本当に正しかったのかと疑問を抱く。しかし、それを口にすることはできなかった。
だが、そんな二人の思いを踏みにじるかのように、後方から嵐が迫ってくる。
谷風自身が逃げ切れたとしても、輸送船の速度では到底逃げ切れない。
どうする.....一体、どうすれば......
そう考えていた、その時だった。
谷風達の頭上を、轟音と共に高速で何かが通り過ぎていった。
「な、なんだ!?」
それはミサイルだった。
ミサイルはそのまま敵艦へ向かって飛翔し、直後、轟音と共に敵艦へ命中して爆発した。
谷風が前方へ目を向けると、遠方からこちらへ向かってくる艦影が見えた。
きりゆきが増援を要請していたオーストラリア海軍のアイザック級フリゲート、アランタだった。
さらに、その後方にはもう一隻の艦影が見える。
どうやら、ぎりぎりのところで援軍が間に合ったようだ。
〈こちらオーストラリア海軍、アイザック級フリゲート、アランタ及びバララット。これより貴艦の援護を行う。〉
そうして再び、アランタから対艦ミサイルが発射される。
ミサイルは敵艦を捉えると、そのまま命中し、轟音と共に爆発した。
すると、先ほどまで何発ものミサイルを受けても微動だにしなかった敵艦が、突然その動きを止めた。
「なんだ……?足を止めた?」
谷風達が不思議そうに見つめていると、敵艦は突然進路を変え、谷風達から遠ざかっていく。
すると、それまで黒い雲に覆われていた空が徐々に明るくなっていった。
やがて空は、敵艦が現れる前の晴天へと戻っていく。
まるで、何事もなかったかのように波も穏やかになり、敵艦はいつの間にか姿を消していた。
〈こちらアランタ、これより救助活動を開始する。〉
それと同時に、谷風達の上空をF/A-18Fが谷風達の頭上を通過していく。
その後、アランタによる救助活動の際、F/A-18Fによる周辺海域の捜索が行われたが敵艦も、あれほどの嵐も発見されることはなかった。
今回も読んで頂きありがとうございました!次回はこの嵐について峯岸達が追求していく話となります。では次回もお会いしましょう!
(後良ければ誰か小説を作るにあたってのアドバイス等お願いします。)