波動砲艦隊はこれより艦隊の指揮に入る 作:前衛武装航宙艦アマテラス
「あっついなぁ……よくこんな場所で働けるもんだな?」
「ふふ、慣れれば気にならなくなりますよ?」
峯岸は、今回日本から離れ、とある場所を訪れていた。ラバウル泊地だ。
アマテラスを降りると峯岸を春雨が出迎えてくれた。春雨の案内に従いその後をついて行く。
ある件でここを訪れることになった峯岸だったが、到着して早々、驚きを隠せなかった。
アマテラスを降りた瞬間、猛烈な暑さが峯岸を襲ったのだ。それも、日本の夏とは比べ物にならないほどの暑さだ。
すぐに身体中から汗が吹き出し、さらに湿度も高い。峯岸にとって、この環境で働くのは到底難しいことだった。
「……ここで毎日仕事してるのか?」
「そうですよ。もう慣れましたけどね。」
そんな峯岸を見ながら、春雨が苦笑する。
横を見ると下には南洋の魚などが沢山泳いでいた。奥を見るとあさぎり型護衛艦が一隻だけポツンと停泊していた。その様子に、峯岸は違和感を覚える。
ここは日本とオーストラリアを繋ぐ輸送網を担う重要な場所だ。いくら艦娘がいるとはいえ、護衛艦が一隻だけというのは流石に少なすぎる。
疑問に思った峯岸は、春雨へ尋ねる。
「どうやら護衛艦が一隻しかいないようだが、他は出払っているのか?」
すると、春雨は突然足を止めた。
しかし、すぐに何事もなかったかのように歩き始める。
「……藤井提督から、何も聞いていないんですか?」
「ああ、全くな。突然ラバウル泊地に向かってほしいと言われただけで、理由は何も聞かされていない。ただ、嵐が関係しているってこと以外はな。」
「そうですか……。今は、あきづき型護衛艦一隻とむらさめ型護衛艦一隻が日本から派遣されたようですから、もうすぐ3隻になりますよ。」
「そうか。それで、その嵐についてだが……何か知らないか?」
「それについては、後々お伝えされると思います。」
「ああ、分かった。」
峯岸はそれ以上聞くことはせず、春雨の後を歩き続けた。しかし、先ほどの春雨の反応がどうしても気になっていた。
少し歩くと建物が見えて来る。流石に中は涼しいだろうと思いながら入ると峯岸はつい口にしてしまう。
「あっつ!なんだ⁉︎ここはクーラーすら効いてないのか?」
「驚かれるのも無理はありませんよ。何せここの提督が随分とケチな人ですからまともに修理すらしてくれないんですよ。」
「そっそうなのか。」
周りを見ると他の艦娘達は皆、手持ち扇風機などを持ち歩いている。春雨の言う通り本当に提督がケチなのだろう。それにしても先程の発言の際、物凄い殺意を感じられたがやはり慣れたと言ってもクーラーが無くては厳しいのだろう。つい『修理ぐらいしてやれよ』とついツッコミたくなってしまった。そして少し歩くと執務室が見えて来た。
「春雨です。峯岸艦長を連れて来ました。」
「入って〜」
そうして中に入ると提督?らしき人物が見えた。机に前のめりに倒れ溶けている。何を言っていると思うかも知れないが溶けている。それになんだか酒臭く無いか?
「これが提督ですか?」
「ええ、残念ながら。」
「ちょっと、聞こえてますよ!」
会話が聞こえていたのか直ぐに体を起こしツッコミを入れて来る。そうしてうちわで仰ぎながら自己紹介を始める。本当に軍人なのだろうかと疑ってしまう程だ。
「えーと、峯岸さんですよね?初めまして。私はラバウル泊地で提督を務めている内田智美と言います。」
「はい、私は地球連邦防衛軍、第六艦隊の旗艦アマテラスの艦長を務めます峯岸達海と言います。この度は宜しくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ。では本題に入るので椅子にお掛け下さい。」
内田提督に言われ椅子に深く腰を掛ける。
「どうです?ここに来るまで暑かったでしょう?」
「ちょっと、その前に良いですか?」
「えぇ、なんでしょう?」
「ここに来て思ったのですが、クーラーが壊れているそうですが直さないんですか? 幾ら何でもこの暑さでは、貴方だけではなく艦娘達も大変かと思いますが?」
「あっ、ああ、その事ですか……。実は恥ずかしながら今、手持ちにお金が無くてですね……直せないんですよ。」
「はい? 提督でしたら、失礼ながら給料の方は良いと思いますが?」
「まあ、諸事情で……。そ、そんな事は置いておいて、本題に移りましょう!」
話を逸らしたな?と思いながら、峯岸は耳を傾ける。
「今日から一週間程前……」
そこから内田提督による説明が始まった。今から一週間程前、オーストラリアからラバウル経由の輸送船団が出発した。第27輸送船団だ。その輸送船団には護衛としてラバウル泊地所属の護衛艦と艦娘、そしてオーストラリアから派遣された艦娘が付いていた。
だが道中、突如として敵艦の攻撃を受け、護衛艦2隻が轟沈。さらにオーストラリア海軍の艦娘とラバウル泊地の艦娘が大破するという被害を受けた。その後、高速修復材などを使用して、ラバウル泊地の艦娘1人はなんとか一命を取り留めたものの、現在も意識不明のまま。もう1人のオーストラリア海軍の艦娘は、決死の救助も虚しく亡くなってしまった。
そして、その敵艦はオーストラリア海軍の応援が到着した直後、姿を消したという。
「峯岸さん、藤井提督から、嵐が今回の件に関係していると聞いていませんか?」
「ええ、聞いています。」
「それが今回の敵なんです。」
「どういう事でしょうか?」
その敵は、直前になるまで姿を現さず、必ず嵐と共に現れる。先程まで穏やかだった海が突然荒れ始め、突如として嵐が発生する。そして、その嵐と同時に敵も出現するという。それがどういうカラクリなのかは分からない。だが、嵐と共に現れるということだけは分かっていた。
「なるほど……つまり、その敵を我々に対処してほしいという事ですね?」
「はい。今の我々には、あの敵に対処できるだけの能力がありません。このままでは、このラバウルも含めて奴らに奪われてしまうでしょう。そうなれば、オーストラリアとの輸送網は再び振り出しに戻ります。今のままでは、これまで散っていった仲間達に顔向けできません。どうか、この件を引き受けてもらえないでしょうか?」
そう言う内田提督の顔には、先程までとは打って変わって怒りが満ちていた。その表情を見た峯岸は少し考え込むと、やがて答えを出す。
「……分かりました。その件、お受け致しましょう。」
「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」
そう言うと、内田提督は目の前まで勢いよく飛んできて峯岸の手を握りしめ、そのまま思いっきり上下に振り回す。あまりの激しさに腕が痛くなったが、それでもなかなか止まることはなかった。
「それでは失礼します。またご用があればお呼び下さい。」
「はーい。」
その後、敵などについて一通り情報を聞いた峯岸は、執務室を後にした。
「どうでした? 内田提督は?」
「なんと言うか、テンションについていけず振り回されてばっかだったよ。」
「ふふっ、そうでしょう。」
「まあ、テンションが高いことは良いんだが……仲間を失いかけたのによく明るくいられるよな?」
先の戦闘では、仲間である野分を失いかけ、一歩間違えれば轟沈していた可能性もあった。辛うじて助かったが、今回のことは奇跡としか言いようがない。峯岸にとって、仲間達に顔向けできないと言っていた内田提督だったが、先ほどの様子を見ると、それが本心なのかと疑ってしまうほどだった。
「…………」
それを聞いた春雨は、黙って俯いてしまう。峯岸はまずかったかと思い、何か別の話題に変えようとしていると、春雨が静かに口を開いた。
「……峯岸さん、執務室に入って何か思いませんでした?」
「えっ? あっ、あぁ……酒臭かったことか?」
「内田提督は、元はお酒の好きな方ではなかったんです。でも、あの嵐が現れてから……変わってしまったんです。」
内田提督は着任してから間もなく、その積極的な性格から艦娘達に受け入れられていった。行事には積極的に参加して場を盛り上げ、困ったことがあるとすぐに助けてくれる。そして艦娘が傷ついて帰ってくると、真っ先に駆け寄って抱きつき、泣いてしまうこともあった。それほど仲間思いだった内田提督は、艦娘達からも好かれる存在だった。
だが、嵐が現れてからというもの、輸送船団は頻繁に襲撃を受け、次々と壊滅していった。輸送船団を護衛していた艦娘はもちろん、ラバウルに所属していた艦娘もその多くが犠牲になった。最初は笑顔で任務へと出ていった艦娘達が、二度と帰ってくることはなかった。
内田提督は、なんとか自分にできる限りのことをして、艦娘達が生きて帰ってこられるよう努力した。装備、医療費、施設費など、少しでも助けになるのならと、なけなしの金まで崩してまで支援を続けた。
だが、その努力を嘲笑うかのように、艦娘達は次々と帰らぬ者となっていった。
それからというもの、内田提督は毎晩のように自室で泣いていた。
自分の責任だ……自分のせいで帰ってこられなかった……
そう自分を責め続ける内田提督を、艦娘達が何度も慰めた。しかし、その苦しみが収まることはなかった。
そして、内田提督が行き着いたのが酒だった。
毎晩のように酒に溺れ、その寂しさや悲しみを紛らわせようとした。普段から吸っていた煙草も、次第に吸う量が増えていったという。
「そうだったのか……」
峯岸は、心の中で今まで考えていたことを深く後悔していた。事情も知らずに、なんであんなことを言ってしまったのかと。
「仲間の仇を討つことができるのなら、以前のような内田提督を取り戻すことができるのなら、私はどんなことでもするつもりです。何か手伝えることがあれば、なんでも言ってください。囮でもなんでも引き受けます。」
「ありがとう。その気持ちだけでも十分ありがたいよ。ここからは我々に任せてくれ。」
その後、峯岸は作戦を立てるため、春雨と別れ、アマテラスへと戻ることになった。その道中、内田提督以外にも話を聞く為、輸送船団を護衛していた野分、谷風が居るであろう医務室を訪れたが立ち入り禁止の張り紙が貼られていた為、素直に引き下がる事にした。その時、ふと声を掛けられ振り向くと1人の艦娘が立っていた。
「君は……?」
「谷風だよ。」
「内田提督が話していた輸送船団の子か……今回のことは気の毒だった。少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「ああ、私も話したいことがあるんだ。私を連れて行ってくれないか? 野分の仇を討ちたいんだ。私は野分を前にして、何もすることができなかった。撃つことも、助けることもできたのに、撃たれる野分を見ることしかできなかった。大切な妹なのに……」
「それは、輸送船団を守る任務があったからだろう?」
「違う……怖かったんだ。艦娘なのにだよ!艦娘はいつ沈んだっておかしくない。戦いの中で命を落とすことだって、覚悟している。だけど私は、あいつを前にして怖くなったんだ!沈んだら、もう皆に会えないかもしれない。楽しく話すことも、遊ぶことも……。ああ、そんなの言い訳だって分かってる。だけど、そう思っちまったんだよ! ラバウルで唯一の妹を前にしてだよ?おかしいだろ?」
「……」
「野分はもう1週間も目を覚ましてない。このまま目を開けることもないかもしれない。パースさんも野分も、実質私が見殺しにしたようなもんだ。だから……戦わせてくれ……」
「……それで死んで責任を取るつもりか?」
「ああ! そうだよ! 最後ぐらい私が決めたって、誰も文句は言いやしないよ!」
「死んで取れる責任などない! 谷風、生きろ。生きて恥をかけ。俺達は弱い。間違える。それがどうした? 俺達は戦争の道具じゃないはずだ! 生きて、生きて、生き尽くせ! 野分はまだ死んじゃいない! 希望はまだある! 野分が助けてくれた命、それを無駄にするな!」
「……でも!」
「俺だってそうだ。こうして今、生きているのも部下や他の奴のお陰だ。谷風の言うように、俺が殺したようなもんさ。だがな、死んだらそれで終わりだ。それで死んだ奴が報われるのか? 違うだろ? 生きていれば、いつか同じような境遇の奴に会うかもしれない。その時のために生きろ。」
そう言うと、谷風は峯岸にしがみつき、泣き出した。峯岸は何も言わず、静かにそれを見守った。しばらくして、谷風は泣き止んだのか、ゆっくりと峯岸から離れる。
「ありがとう……なんだかスッキリしたよ。」
「それは良かった。さっきの言葉のほとんどは、今は亡き艦長の言葉を借りたものだったが……怒られるかな?死んで取れる責任はない……生きろ。いつか、こんなことを言える艦長になってみたいもんだ。」
「危うく野分を一人ぼっちにしてしまうところだったよ。お陰でそれに気付かされたよ。本当にありがとう。」
「ああ。さて、気持ちも随分とスッキリしたようだし、その嵐について詳しく聞いていいかな?」
「任せてくれ!それで奴を倒せるなら!」
ーーーー
数時間が過ぎ、峯岸がアマテラスへと戻ると、副長が出迎えてくれた。
「艦長、お疲れ様でした。何か情報は得られましたか?」
「ああ。今回の件は随分と厄介そうだ。今から作戦を立てる。各艦の艦長を連れて、ブリーフィングルームに来てくれ。」
「了解しました。」
そうして峯岸の指示のもと、各艦の艦長がブリーフィングルームへと呼び寄せられた。間もなくして峯岸がブリーフィングルームへ向かうと、すでに各艦の艦長が勢揃いしていた。
「集まったようだな。今から内田提督達から得られた情報を共有する。」
内田提督から得られた輸送船団の被害、そして毎回現れる嵐の真実。通常兵器が通用しないことなど、その他の情報も含め、峯岸は淡々とパネルに映しながら説明していく。しばらくして説明が終わると、艦長達は神妙な顔をしていた。
「峯岸司令、その敵はつまり、我々と同じ陽電子砲を搭載した艦ということですね?」
「ああ。先ほどの映像を見れば分かるように、撃沈されたきりゆきに搭載されていたカメラにも、船団に向かって放たれた青い光線が確認されている。威力については詳細なことは分からないが、艦娘や護衛艦を一撃で葬ることができる威力だ。」
「αの可能性は?」
「その可能性は低い。撃沈されたきりゆきの艦長に聞いたところ、αとはデータが一致しなかったらしい。つまり、新たな地球連邦防衛軍の艦艇という可能性が高い。」
「新たな艦艇ですか……。」
「なぜ、また新たな地球連邦防衛軍の艦艇がこちらに来たのかは分からない。だが、この艦艇が地球連邦防衛軍の意思に反した行動をしているのは事実だ。この艦はなんとしてでも無力化しなければならない。そうすれば、原因究明のための手掛かりになるはずだ。」
「しかし、陽電子砲と言えども、艦種までは断定できていないんですか?」
「ああ。初めは谷風達の証言から、射撃速度が衝撃波砲塔よりも遅いことを考慮して、第一世代の金剛改型や村雨改型、あるいは護衛艦などを考えた。だが、こちらに来た際に機関の不調でエネルギーがうまく主砲へ伝達できていない可能性もある。」
「そうですか。それで、作戦はどうするつもりですか?」
「それが今回の一番厄介な点なんだが……。」
峯岸が最も懸念しているのは、相手が地球連邦防衛軍の艦艇だということだった。単に相手を撃滅する作戦なら、相手に気づかれてもまだいい。だが今回は同じ地球連邦防衛軍の艦艇だ。こちらの動きを察知されれば、以降は姿を現さなくなる可能性がある。つまり、輸送船団を護衛することも、事前に待ち伏せることも難しい。
異形艦達なら潜航して待ち伏せ、接近してきたところを叩くこともできる。しかし今回は、そう簡単にいく話ではなかった。
「何か案がある奴は居ないか?」
「……でしたら、一か八かの賭けですが、あるにはあります。」
「ほう、なんだ?教えてくれ。」
「まず、ベラトリクスのコスモファルコンMk.XIVeを使います。」
コスモファルコンMk.XIVe。一般的なコスモファルコンとは違い、ステルス機として改造された機体だ。武装は機関砲のみだが、滑らかな機体形状によって空気抵抗も減り、既存の艦艇ですら捉えることが難しい機体となっている。
「それを使ってどうする?」
「それは……」
そうして説明が終わると、周りの艦長達は険しい顔をしていた。
「本当の一か八かの作戦だな。」
「はい。もし失敗したら船団は壊滅。今後、その敵が現れる可能性も低くなるでしょう。」
「……。」
「今、考えられる策の中では、一番可能性があると思います。」
「そうだな……それで行こう。明石にはまた世話になることになるが、作戦開始までになんとか間に合わせてもらうか……。よしっ、何か反論はあるか?」
峯岸が周囲を見渡すが、反対の声は上がらない。
「……なさそうだな。では、これで作戦会議を終了する。また作戦の日程等については後々共有する。それでは解散。」
そうして各艦の艦長達は、それぞれの艦へと戻って行った。
「艦長、この作戦、成功すると思いますか?」
「分からん。だが、少しでも可能性があるなら賭けてみるものだろ?なんだ?他に案でもあったか?」
「いえ、そういう訳では。」
「副長の言いたいことは分かる。だが現状、αよりはこの作戦の方が成功する確率が高い。それに、これが成功すれば今後の行動の幅が大きく広がる。そのためにも、この作戦は成功させなければならない。」
「そうですね……やれるだけやりましょう。」
「ああ。」